2026.09.28
こんにちは!
兜LIVE編集部です。
8月8日(土) 、『日本酒を蔵元トークとテイスティングで楽しむ』を開催しました。
今では国際金融都市といわれる日本橋兜町。
江戸時代には日枝神社の門前町として栄え、酒問屋で賑わっていた「日本酒の聖地」でした。
東京証券取引所において、上場時の5回の鐘撞は、酒の原料である米を含め、五穀豊穣にちなんでいるとのこと。
平日は賑わうこの兜町に、休日にも人が集まってもらいたい。そんな願いから日本各地の蔵元を招き日本酒について学び、味わい、楽しく交流し、その魅力を、兜町の魅力といっしょに広め、お酒が地域と人をつなぐ場所…。そんな場所に発展するように願いを込めて、日本酒セミナーを開催しています。
今回は、島根県安来市で月山を醸す吉田酒造代表取締役の吉田智則さんをお迎えしての開催でした。島根県からは3蔵めの登壇になります。

・創業は文政九年(1826年)だと言われていましたが、その後、広瀬町に関する古い資料が発見され、そこに寛保三年(1743年)に広瀬藩より酒造の許可が下りた事がしるされており、蔵の酒造りは約280年前から行われている事がわかりました。

・一方、吉田酒造の歴史は約150年で、自分は五代目になります。これは、吉田家が当蔵を継ぐ前に、鈴木家が蔵を経営していたことによります。鈴木家は、この地域にあった広瀬藩の家老筋で、「安屋坂店」という名で酒を造っており、その名残として、蔵の煙突には「安を〇で囲んだ家印(いえじるし)」があります。もっとも、廃藩置県でこの地を去ったため、その番頭をしていた吉田家が引き継ぎました。

・蔵の後に有る山が“月山”です。嘗てこの山には月山富田城と呼ばれる山城が建っていました。

・500年前の話で今はこの城は有りませんが、この城のあった山が今でも“月山”と呼ばれています。

・酒銘の“月山”はこの山の名前に由来します。昔は蔵で出来たその年の最も良い酒に“月山”と名前を付け藩主に謙譲していたようです。


・蔵に戻ったのは20年ほど前になります。大学では酒造りと関係のない分野を学び、鳥人間コンテストに出るなどしていました。卒業後は航空機関係の商社に就職しました。 自分は3人兄妹で姉と妹がいるが、2人とも嫁ぎ、蔵を継ぐのは自分しかいないという状況になりました。親は自分に「継いで欲しい」とは言わなかったが、蔵に戻りました。
・継ぐにあたり、酒類総合研究所で行われていた約3か月の清酒講座で学びました。同期には、山口県「五橋」の酒井秀希さん、兵庫県「福寿」の安福武之助さんがいました。研修生で酒を造るのですが、「どんな酒を造っても良い」ということだったので、醪(もろみ)の品温を下げる操作をせず、酵母の発酵熱で品温が上がるのを放置してみました。その結果、5日間で酒になりましたが、美味しくなかった。先生からは「焼酎醪のような味がする」と言われ、低温発酵の重要性を実感する体験でした。

▼良い原料を使うこと
・島根県産の酒造好適米を多く使用しています。産地の多くは当蔵からさらに山奥に入ったエリアの良質の酒米を厳選しています。同じ水系で育ったお米は当蔵の仕込み水と相性が良いと考えるためです。江戸時代に広瀬藩の歴代藩主がこの辺りで一番おいしいと愛飲し「不昧流茶道」で最高の水と言われた名水「お茶の水井戸」を復元して使用しています。
▼良いスタッフで醸すこと
・蔵に戻った当時、当蔵の酒質は「熟成酒」タイプで、濃醇な味でした。自分としては、熟成酒はベテラン向きで、ビギナーには向かないと思っていた。ビギナーがいなければ市場は縮小するので、ビギナーが飲むキッカケになる酒を造ろうと思いました。
・現在、蔵のスタッフの平均年齢は30歳台です。若い感性でより良い酒質を常に追求し続けています。毎年、技術革新や技術研磨の為にタンク3~5本の試験醸造を欠かさずに行っており、醸されたお酒は酒質にもよるが、『イノベーション』シリーズとして出荷し、好評を頂いています。これらの試験醸造を経て誕生したのが、現在高い評価を頂いております、スパークリングクラウド、低アルコールの『美月』、春陽米を用い醸した『春陽』等です。
▼良い設備を導入すること
・蔵に戻ってから、新しい設備を継続的に入れています。これは、自分が戻った時に、蔵に借金が無かったから出来たこと。古い設備は更新が必要になるが、醸造機器は高いものが多い。古い設備のまま引き継がれると、跡取りは大変で、廃業にも繋がりかねない。自分も息子に「継いで欲しい」とは言っていないが、継いだ場合に苦労をしないように設備更新は継続しています。
・当蔵の仕込み水は超軟水ですが、今まで当蔵より軟水で造っている先を聞いたことが無いので、「日本一軟水で造っている蔵」と思っている。灘の宮水のように硬度が高くミネラルが豊富だと、酵母の発酵は旺盛になる。これに対し、軟水ではミネラルが少ないため、時間をかけて発酵させざるを得ない。そのため、低温で酒造りをする必要があります。そこで、重要になるのは冷蔵設備です。長期低温発酵は、いわゆる「吟醸造り」の要素の一つである。当蔵では、そうした造りを全てのお酒について行っているといえます。
・蔵に、戻った時期、当蔵の火入れは、いわゆる「二回火入れ」で、搾ったお酒はタンクで火入れした後、熱によって生じた色やにおいを活性炭で除去し、それを熱酒充填していました。自分はこれを見て、「搾りたてのお酒は美味しく、香りも良い。それを熱酒にすると、香りは飛んでしまうし、熱酒時間の長さにより熟成酒のような味になる。それを活性炭で取るという作業は必要なのか」と思いました。
・そこで、「最初から生酒を瓶に詰めて、栓をしてから火入れすれば良いではないか」と思い、火入れの方法を変えました。これは自分で考えたことですが、後からこうした手法を「瓶燗火入れ」と呼ぶのだと知りました。
・現在は、パストライザーという機械を使用。生酒を詰めて栓をした瓶を入れると、お湯のシャワーで必要な温度まで上げた後、冷水のシャワーで温度を下げて仕上がってくる。
・2022年に瓶詰工場を作り、新しい充填機を入れました。ポイントは、充填時にお酒がなるべく泡立たない仕組みになっていること。充填口が瓶の底まで下りて、瓶内にお酒が充填されるとともに充填口が上がる。瓶の入口から瓶内に注ぎ入れるとお酒が泡立ち、酸化に繋がるが、この充填機だと、そうした影響を抑えることができます。
・熟成酒の充填であればこうした機器は不要と思うが、当蔵のように「フレッシュな酒をフレッシュなまま飲んで欲しい」という場合には、非常に重要な機械となります。この充填機とパストライザーで、当蔵のお酒はガス感が残るようになっています。ガス感があるということは、発酵で生じた炭酸ガスが瓶内まで維持されるということ。これにより、お酒が酸素により酸化することを抑制できます。

▼月山 純米大吟醸
・「濃醇」ではなく「芳醇」な味を目指している。どうしたら「芳醇」になるかというと、お酒の「キレ」が重要と考えている。味はふわっと広がるが、それがキレた時に「芳醇」と感じるのではないかと思う。
▼月山 純米吟醸 直汲中取無濾過原酒
・圧搾機から出てくるお酒は、最初は「荒走り」、次に「中取り」、最後は「責め」と呼ばれる。このお酒は「中取り」という良い部分だけを製品化したもの。通常は生酒で出荷しているが、夏季は品質管理の観点から火入れで出している。
▼月山 春陽 純米70
・タンパク質の一種「グルテリン」の組成比率が相対的に低い春陽というお米を使ったお酒。春陽を使ってお酒を造ると、これまでの酒造りでは出せなかった「4MMP」と呼ばれる香りが出る。ワインでいうとソービニヨンブランに近い香りで、マスカットとかライチの香りと呼ばれる。
では、乾杯!

・恒例の集合写真です。多数の方にご参加いただきました。ありがとうございます!

・吉田さんは、とても明るく、お酒の席では、常に場を盛り上げてくれます。そんな一面に接することが多いのですが、今回の蔵元トークでは、蔵の歴史、造りへの取り組み姿勢などを真摯にご説明いただきました。数回訪問している島根県安来市の吉田酒造ですが、お話を聞いてまた行きたくなりました。吉田さん、ありがとうございました!

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