2018.12.20
清水清三郎商店6代目蔵元・清水慎一郎さん(中央)を囲んで記念撮影
こんにちは。
兜LIVE!編集部です!
一段と冷え込んできた12月8日(土)、東京日本橋にあるFinGATE KAYABAにて『日本酒を蔵元トークとテイスティングで楽しむ』うイベントを開催しました。5回に渡り行われている「日本酒を蔵元トークとテイスティングで楽しむ」は、今回が3回目。ゲストは、三重県鈴鹿市の清水清三郎商店6代目蔵元・清水慎一郎さんです。
鈴鹿に伝わる日本酒の歴史に始まり、未来のお話し、お楽しみの利き酒、試飲と、盛りだくさんの内容だったイベントをレポートいたします!
創業からの歩みを語る清水さん
清水清三郎商店は1869年(明治2年)、三重県鈴鹿市にて創業されました。その後、1952年に個人商店を法人化し清水醸造株式会社に改組。2012年には創業当時の名前を法人として残したいという6代目・慎一郎さんの思いから、清水清三郎商店と社名変更されたそうです。現在は鈴鹿市で唯一の酒造となった清水清三郎商店。2019年には創業150周年を迎えます。
日本一おいしい市販酒を決める利き酒イベント『SAKE COMPETITION』において、2017年は純米酒部門で「作 穂乃智」「作 玄乃智」が史上初の1位、2位を独占。2018年にも純米吟醸部門、大吟醸部門でGOLDを受賞するなど、コンテストでも常連の清水清三郎商店。2016年に開催されたG7伊勢志摩サミットでの乾杯酒に「作 智 純米大吟醸滴取り」が選ばれたりと、国内だけでなく国外からも注目される日本酒を造り続けています。
三重県の歴史を学ぶ
「皆さんは三重県鈴鹿市と聞くと何を思い浮かべますか?サーキット場でしょうか?」自動車関連工場も多く、モータースポーツの聖地というような近代的な印象を持っている方もいらっしゃると思います。
しかしそれは、せいぜい50年ほどのこと。実は鈴鹿の歴史は大変古く、『倭姫命世記(やまとひめのみことせいき)』という、倭姫命(やまとひめ)が天照大御神(あまてらすおおみかみ)の鎮座場所を伊勢神宮に定めるまでの、都から伊勢までの道中を記した古文書の時代にまで遡ります。
その中で、倭姫命が鈴鹿へ立ち寄った際、地元の人が「味酒鈴鹿国(うまさけすずかのくに)」出身だと名乗った、という記述があります。このことから古の時代より鈴鹿は存在し、さらにお酒にゆかりのある土地であることがわかります。
「味酒」という言葉を辞書で引くと「うまい酒」という名詞の意味以外に、「鈴鹿にかかる枕詞としても使われる」とあり、当時から鈴鹿にはおいしい酒があったことがうかがい知れます。また、鈴鹿山脈からの清流、伊勢平野では原料となる米も豊富に手に入ることなど、地理的な利点も関係し酒造りが盛んに行われていたそうです。
今回のトークでは、このような歴史的背景や伝統といった側面から鈴鹿と日本酒を見ていく、ということが大きなテーマでした。そこに、清水さんの「味酒鈴鹿国を過去の遺物としない。これからも味酒の名に恥じない良質な酒を次世代にも伝えていく」という強い想いを感じました。
看板商品の「鈴鹿川」と「作」を紹介
鈴鹿の歴史を学んだ後は清水清三郎商店の代表的なブランド2種類が登場。まずは2004年に立ち上げたブランド「鈴鹿川(すずかがわ)」。地元のスーパーや小売店で販売しているお酒で、鈴鹿市民が「我が町の地酒だ」と自慢してもらえるような、地域密着型のお酒になって欲しいという願いを込めて「鈴鹿川」と名付けたそうです。地元の伝統産業でもある伊勢型紙を使用してデザインしたラベルからも、清水さんの地元愛がうかがえます。
続いて紹介いただいたのはロングセラー商品「作(ざく)」。清水清三郎商店の看板ブランドとして主に東京の専門店を中心に販売。輝かしい受賞歴とともに、清水清三郎商店の名を全国区へと導いたお酒です。「ザク」だけにアニメ『機動戦士ガンダム』ファンの間で注目され各方面でとりあげられた事も人気に火を付ける要因となりました。清水さんご自身はというと、ガンダムを全く知らなかったそうです。
「お酒というものの本当の価値がつくられるのはいつなのかと、あらためて考えた」と清水さんは続けます。「それは今、まさしく、誰かの口に入った瞬間に生まれる。そして、食べている料理、器であったり、シチュエーションであったり、その時々によっても酒の味わいも変わる」。「お酒の価値というものは単に蔵元だけがつくるのではなく、そこに関わっている人たち皆で作りあげていくものなのではないか」と清水さんは語ります。
酒造の造(ぞう)ではなく、お酒の価値を作るという意味を込めて「作(ざく)」と付けたことに、清水さんの哲学とこだわり、熱い想いが伝わってきました。
清水清三郎商店の杜氏・内田智広さんを紹介
「鈴鹿川」「作」のもう一人の生みの親である杜氏・内田智広さんは地元鈴鹿市出身。伝統的な酒造りの手法と精神を受け継ぎながら、新しい手法も積極的に取り入れてきたそうです。
その一つが少量タンクでの生産で、大きなタンクで一度に仕込むよりも手間のかかる作業になってしまいますが、酵母の状態や発酵の温度調整など、きめ細やかに管理できるそうです。「1合飲んで2合飲んで、それでも手が伸びるお酒を二人三脚でこれからも目指していきたい」と清水さんはおっしゃいます。
日本酒のブランディングにとって大切なこととは
「作」の大ヒットにより国内のみならず、海外のコンペティションでも数多く受賞するに至った清水清三郎商店ですが、外からの目線に立つことで日本の酒事情における問題点が見えてきたそうです。
古から続く日本酒の長い歴史と文化を説明しても「それって神話でしょ?宗教でしょ?で片付けられてしまうことが少なくない。決して神道や神話へ繋げたいわけではないが、そのことに踏み込むこと自体がタブーとされてしまっている現実がある」と清水さん。
酒税法にしても、そういった長い歴史や文化を置き去りにしたまま、何が良い酒なのか、日本酒はこうあるべき、ビールとはこうあるべき、といった確固とした意識がなされず机上の数字だけでつくられてしまった、と。海外へ誇れるブランドとして日本のお酒を発信していくため、神事(文化)と歴史も踏まえた上での新たな定義付けが出来ないかこれからも探っていきたいとおっしゃっていました。
日本酒3種飲み比べ
歴史について学んだ後は、いよいよ皆さんお待ちかねの利き酒タイム。これは、名前を伏せたA、B、Cというお酒が用意され、蔵元のヒントを元に当てていく、というものです。今回ご用意してくださったのは「作 穂乃智」「作 玄乃智」「恵乃智」の3種類。
精米は共に60%の純米酒で酵母が異なるそうです。飲み比べてみると、酸味の強さ、香りの質、後味の鋭さなど微妙に異なるのがわかります。「皆さんも一本のお酒をシェアしながら飲むのではなく、お酒を複数用意して飲み比べながら違いを楽しんで欲しい」と清水さんはおっしゃいます。個人的には、ふわっとした甘めの香りとスッキリした後味の「作 恵乃智」が好みでした。ちなみに、「清水さんのおすすめは?」との問いに「それぞれに個性があり、良さがあるので全部おすすめです!」とのことでした。
試飲で振る舞われた7本
こちらのお写真が今回ご用意くださった7本の日本酒。すべて「作」で、写真向かって左から「仕込水」「恵乃智」「穂乃智」「玄乃智」「2018年新酒」「雅乃智」「奏乃智」になります。
純米グラスと、かます、ぶりの串干物
利き酒に続く試飲では「作 2018年新酒」「作 雅乃智」「作 奏乃智」の3種、おつまみとして地元三重県の串干物が登場。おつまみは、純米酒と一緒に食べると食べ応えたっぷり、大吟醸ならば控えめな海塩が魚本来の風味をより強く引き出してくれていました。
お持ち帰り用のさばの串干物
時間の都合でひとつはお土産として帰りにいただきました。こちらも海の恵みたっぷりでお酒とご飯が進む味です。
清水さんのご提案で純米グラスによる試飲も体験。通常のワイングラスよりも少し厚めで幅広なのが特徴です。私は「雅乃智」を試飲しましたが、口に含んだ瞬間一気に駆け抜けていく香りにまず驚かされました。酸味はそれほど強くないのでスッと喉を通っていくのですが、甘い香りはしばらく留まっているため後味もしっかり楽しめます。
満員御礼で始まった本イベント。清水さんのゆったりとした語り口もあって非常に和やかでリラックスした時間となりました。自社ブランドの細かな製造工程を、というよりは鈴鹿の歴史的なバックボーン、世界に対しての日本酒のあり方といったスケールの大きなお話しが中心でした。
講演終了後の質疑応答で「今後、新たなチャレンジは考えていらっしゃいますか?」という問いに対し「時代を意識しつつ、今現在美味しいと思うお酒を一生懸命に作っていくこと」と答えられた清水さん。世界と日本酒業界の今後を見据えつつも、根っこのところではやはり職人気質なのだな、と更に親しみを覚えました。
「お酒の価値というものは単に蔵元だけがつくるのではなく、そこに関わっている人たち皆がつくりあげていく」という現在進行形のお酒「作」。歴史や想いを感じること、意識を少し変えてみるだけで新しい楽しみ方や味わい方を見つけることができる。改めて日本酒の魅力に気がつかされました。
2018年10月から各月で開催されている「日本酒を蔵元トークとテイスティングで楽しむ」。次回は2019年1月26日に岐阜県美濃加茂市で津島屋、御代櫻を醸す御代桜醸造の渡辺社長をお招きします。ご興味ありましたらぜひ参加してみてください。
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