2024.07.04
こんにちは!
兜LIVE!編集部です。
この連載【金庫巡り】では、この日本橋兜町・茅場町周辺にある古い金庫にフォーカスして、その歴史や魅力を発信していきます。
第六回となる今回は、国内最大手の金庫メーカーである「株式会社クマヒラ」を訪れました。「金庫といえばクマヒラ」といわれるほどの知名度と実績を持つ企業の金庫とは、一体どのようなものなのでしょうか。ショールームで実際の金庫扉やセキュリティ設備を見せていただきました。
株式会社クマヒラは、125年を超える歴史を持つトータルセキュリティ企業です。創業は1898(明治31)年。広島県出身の熊平源蔵が始めた「熊平商店」が前身であり、金庫の販売や修理を行っていました。のちに、販売だけでなく金庫の製造も手がけるようになります。
金庫から始まった「人々の財産や情報を守る」という思想は時代を超えて受け継がれ、現在は金庫や貸金庫設備のほか、監視システムやセキュリティゲートなど幅広いセキュリティ製品を取り扱っています。
兜町からも程近い日本橋エリアに長らく本社を置かれてきた同社は、2022年に日本橋本町から日本橋室町に移転されました。日本銀行本店のそばでもあるこの場所には、クマヒラ製のさまざまなセキュリティ製品を実際に見たり体験できたりするショールームが併設されています。
金庫扉は移転前の旧本社に設置されています。現在は一般公開はしていませんが、今回特別に見せていただきました。
今回見せていただいたのは、E3180という金庫扉です。特殊防御材「クマヒラアロイ」が使用された扉は優れた防盗性能を誇り、高い耐火性能や防水性能をも併せ持っているそうです。
ハンドル、かんぬき、分厚く頑丈な扉といった、いかにも「金庫扉」という特徴はそのまま備えつつ、デザインは現代的です。E3180は扉の開閉が電動式のため、手動でハンドル操作する必要がありません。
扉には「タイムロック」と呼ばれる施錠装置が備わっています。こちらで時間を指定すると、セットされた時間になるまで金庫扉が開かないように設定できるとのことです。
金庫室には万が一中に閉じ込められてしまった際に、気密性の高い金庫室内を換気するための非常換気装置が設置されています。また、外部との通話やペットボトルサイズの物資を送り込むことができる補給口なども備わっており、金庫室内に閉じ込められた際のリスク対策が取られています。
日本橋室町の現本社には、クマヒラの新たな情報発信とコミュニケーションの拠点と位置付けられた体験型ショールーム「K-BASE TOKYO」があります。こちらでは貸金庫設備のほか、入退室管理システムや監視システム、セキュリティゲートといった最新のセキュリティシステムが展示されています。
こちらは全自動タイプの貸金庫です。利用者は自身でブース内へ入室し、契約している保護箱の取出しや返却操作を行うことができます。金庫室内の棚から保護箱を取り出し、元の場所に戻すまでの作業はすべて機械が行ってくれるので、利用者は座ったまま快適に利用できます。
セキュリティゲートの展示エリアでは、一般的なオフィスビル向けやデータセンター向けなど、さまざまな製品を見ることができます。実際に体験ができますので、セキュリティレベルの異なるゲートを歩き比べることも可能です。
空港で使われる液体検査装置も展示されています。液体の入ったボトルや瓶を機械に置くと、中身が危険な液体かどうかを瞬時に判断してくれます。
こちらはセキュリティキャビネットです。タイプの異なるユニットを組み合わせられるのが特徴で、通常の保管庫のほかにも、耐火性・防盗性を持った金庫ユニットや鍵管理やトレー管理といったユニットも用意されているそうです。
お話をうかがった方
左・木埜山彩さん(事業戦略本部 経営企画部 広報室)
中・谷真一郎さん(事業戦略本部 経営企画部 経営企画室)
右・水内建雄さん(顧問)
――クマヒラ製品の「強み」を教えてください。
木埜山さん:3つの強みがあります。まず1つ目は、技術と品質です。 クマヒラは防御性能や品質の追求に努めており、過酷な試験を乗り越えた製品を出荷しています。
2つ目は、豊富な実績です。国内で7割を超える金融機関様にクマヒラの金庫設備を導入いただいており、こちらの実績とノウハウを活かして、日々変化するお客様のニーズにお応えしています。
3つ目は、高い施工力です。クマヒラでは一貫して高度な技術継承を続けてまいりました。さまざまな用途や金融機関様の環境に適した、安全で信頼性の高い設備を提供しています。
――機能について、特に力を入れている点や重視している点は何でしょうか?
木埜山さん:お客様に安全にご使用いただくことを重視しています。例えば、金庫室用の非常換気装置など、万が一の際にも安全を確保できる機能をご用意しています。
――特殊防御材「クマヒラアロイ」とはどのようなものでしょうか?
木埜山さん:「クマヒラアロイ」はクマヒラが独自に開発した特殊合金の防御材です。ガスバーナーによる溶断、超硬チップドリルなどによる貫通、ハンマーや爆薬による衝撃にも耐えうる、優れた防御力を持っています。
水内さん:昔は金庫破りがたくさんあったんです。溶断の機械やドリルやハンマーを持ち込んで、時間をかけて扉を破るんですね。これに対抗する合金として、1964年にクマヒラアロイが開発されました。
谷さん:金庫扉にはそれぞれのグレードに合わせたクマヒラアロイが入っていますが、企業秘密となり、実は我々にも知らされていません。
――金庫の性能はどのようにテストしていますか?
木埜山さん:金庫には大きく2種類の性能が求められます。1つは、溶断やこじ開けなどの破壊・攻撃に対する防盗性能ですね。もう1つは、火災時に金庫の内部を一定の温度以下に保つ耐火性能です。
防盗性能については、日本セーフ・ファニチュア協同組合連合会という業界団体が規格を定めているテストがあります。工具による破壊に一定時間耐えるかどうかを確認するものです。また、衝撃落下試験もあります。金庫自体が落下したり、金庫に物が落下したりしたケースを想定したもので、加熱した後に、9mほどの高さから実際に金庫を落下させて金庫の強度を確認します。
耐火性能については、金庫の内部を177度以下に保つテストを行います。177度というのは、資料の文字を判別できるボーダーの温度です。
谷さん:耐火性能については、試験炉に書類の入った金庫を入れて1,000℃程度の高温になるまで加熱し、冷めてから開けてみて、紙の状態がどうなっているかを確認します。
水内さん:広島に製品の開発や製造を担う「熊平製作所」があり、その中に試験設備を作りました。かつては公的機関で試験をしていたんですが、今は自社工場の中で行っていますね。
――競合他社の金庫と、どのように差別化を図っていますか?
木埜山さん:優れた性能を持ち、かつ現代のオフィスに馴染むデザインという点です。今年の1月にはリニューアルを行い、使い勝手の向上に加えて、よりスタイリッシュなデザインに変更しました。「お客様の大切な価値を守る」という本質は変わることなく、現代に求められる形を追求しています。
──金庫扉のメンテナンスは行っているのですか?
谷さん:金庫扉については、企業様の担当者が変わられるタイミングなどでダイヤル錠の番号を変える作業を1年に1〜2回行うことが多いです。そのほか、機構部の点検のほか扉を磨くご依頼をいただくこともあります。
水内さん:昔の銀行ではお客様に見える場所に金庫扉がありましたし、以前は今よりも錆びやすい素材が使われることも多かったので、若い人が毎日油で磨いていたものですが、今では、金庫室はお客様の目に触れないバックヤードに設置されていることが多くなっているので、常にピカピカに磨く必要はあまりないですね。
――使っていない金庫扉が古い建物に残っていることがありますが、リサイクルすることはあるのですか?
水内さん:リサイクルする場合もありますが、工場に持ち込んで全てオーバーホールして再利用となると、新しい扉を買うくらいの費用が掛かってくることもあります。
なお、金庫扉は防御層が入っており、かなりの重量もあるので、建物を解体するときに普通建築のように壊すのは難しいです。ですので、解体工事などをクマヒラで請け負うこともあります。
谷さん:中には金庫扉としての再利用ではなく、モニュメントやオブジェとして活用していらっしゃるケースもありますね。
――トータルセキュリティ企業となった現在、金庫はどのような存在ですか。
木埜山さん:クマヒラにとって、金庫はセキュリティ製品の原点だと思っています。展示会に出展した際には、お客様がクマヒラのロゴを見てお越しいただいたり、「金庫のクマヒラさんですね」とお声がけいただいたりしたことも多々ありました。多くの方に認識いただいているというところで、金庫というのはクマヒラの歴史を象徴する製品だと感じます。
――ペーパーレス化や金庫を自社で持たないなど、時代と共に金庫と人の関係は変化していると思われます。金庫メーカーとして、現在と将来についてどのようにお考えですか?
木埜山さん:時代に沿ったニーズにお答えしていくことがクマヒラの使命と考えています。重厚なものではなく、オフィスに馴染むような製品をラインナップするなど、今後も変化し続けるニーズにお応えできる製品をご提供してまいります。
谷さん:今後、間違いなく資料としての紙は減っていくと思います。ただし、文化財施設の収蔵庫扉やエネルギーインフラ施設の水密扉などのニーズはなかなかなくなることは無いと考えています。
水内さん:今申し上げたような扉やテロ攻撃に耐えるための防護扉などの特殊な用途の扉も、元を辿ればすべて金庫扉のノウハウが活かされています。金庫の製造で培った「脅威から価値を守る」という考え方や、守るための技術が活かされてさまざまな扉に派生してます。
守るものが現物からデータに変わったのなら、次はそういったものを守る製品を作る。クマヒラは、ハッカーからコンピュータの情報を守るようなコンピュータセキュリティは提供していませんが、物理的に守る「フィジカルセキュリティ」は幅広くて取り扱っています。求められれば、開発して製品化していくスタンスです。
データセンターのセキュリティシステムなどは、クマヒラだけではできない部分もあるので、いろいろな企業とコラボレーションしながら全体像を作り上げていく。ただ単に部品を供給するだけじゃなくて、「核」となるものを作っていけたらと思いますね。
――金庫の選び方について、お客様にアドバイスをお願いします。
木埜山さん:大切なものは全て金庫に入れておけばいい、というわけではありません。保管するものによって耐熱温度や想定される脅威は変わります。クマヒラでは豊富なラインナップを取り揃えており、お客様の守りたいものに最も適した金庫のご提案をさせていただきたいと思いますので、お気軽にご相談いただければと思います。
谷さん:正直、クマヒラの金庫は重いですし価格も高いと思います。ですが、とにかく頑丈さには自信があります。泥棒が当社の金庫をみて諦めたという逸話を聞いたことがあるくらいです。とにかく頑丈な金庫をお探しの際は、ぜひクマヒラ製の金庫をお試しください。
明治時代から続く老舗企業のクマヒラは、単なる金庫メーカーではなく、時代を超えて人々の安全と防犯のニーズに応え続けてきたトータルセキュリティ企業です。そのルーツは、大切な財産を守る金庫づくりにありました。
受け継がれてきた技術と、人々の財産や情報を守るという強い使命感のもと、クマヒラは常に新しい価値創造と進化を遂げてきました。金庫製造のノウハウを活かした防犯設備や、最先端のセキュリティシステムの開発など、その取り組みは多岐にわたります。
今回の取材を通じて、あらゆる顧客の安全と安心を守り続けるクマヒラの姿勢を強く感じました。クマヒラは、今後も技術革新と信頼のサービスを通じて、より安全で快適な社会の実現に貢献していくと確信しました。時代とともに変化する社会のニーズに柔軟に対応し、高いセキュリティを追求していくクマヒラに、更なる飛躍を期待しています。
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