2024.12.20
2024年12月1日、年末が近づき慌ただしさを増す金融街・兜町に、美しいJazzの調べが響きました。
Emerging Musicians=「若手の精鋭ミュージシャン」が一堂に会し、この日限りの特別な音楽をお届けするJazzイベント「Jazz EMP(Jazz Emerging Musicians Program) @ Tokyo Financial Street 2024」。
冬の風物詩となった熱狂のイベントをレポートします。
東京証券取引所に代表される金融街「日本橋兜町」に、新たなランドマークとして建設された「KABUTO ONE」。
天井高8メートルを有し、500名以上を収容できる開放感のあるホールが今回の舞台です。
イベントは、精鋭メンバーによるJazzの演奏だけではなく、アート業界のエキスパートが繰り広げるトークセッションも行われます。
開場時間の11:30には、すでに多くの人が会場に詰めかけていました。
ビジネストークセッションの登壇者は下記の通りです(以下敬称略)。
■12:00~ Business Talk Session #1
鈴木優人×有友圭一「アートと金融都市」
■15:05~ Business Talk Session #2
木村大樹×東海林正賢「オルタナティブ投資と音楽」
業界をけん引するアートの第一人者によるビジネストークセッションからは、毎年目からうろこの話が飛び出します。
そして出演アーティストは下記の5組です。
■13:10~ Session #1 平手裕紀カルテット
平手裕紀(Pf.) Patrick Bartley(A.Sax) 宮地遼(Ba.) 小田桐和寛(Drs.)
■14:10~ Session #2 YOSHIHIRO KANEKO Electric Jazz Band
⾦⼦義浩(Ba.) 岡勇希(A.Sax) 豊秀彩華(Pf, Key.) 関根豊明(Drs.)
■15:40~ Session #3 市川 空 CONCEPT BAND
市川空(Pf.) 塙正貴(Sax.) 高橋将(Ba.) 中村海斗(Drs.)
■16:40~ Session #4 中村海斗クインテット
中村海斗(Drs.) 佐瀬悠輔(Tp.) 馬場孝喜(Gt.) 布施音人(Pf.) 高橋陸(Ba.)
■17:40~ Special Performance 池田篤カルテット with 原朋直
池田篤(A.Sax) 原朋直(Tp.) 熊谷ヤスマサ(Pf.) 池尻洋史(Ba.) 濱田省吾(Drs.)
今をときめく若手ミュージシャンの演奏の後、スペシャルパフォーマンスとしてベテラン演奏家によるセッションが行われます。
鈴木優人氏
バッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)首席指揮者、関西フィルハーモニー管弦楽団主席客演指揮者、アンサンブル・ジェネシス音楽監督。
錚々たる経歴の指揮者であり、鍵盤楽器奏者や作曲家でもある鈴木氏。国内外のオーケストラと共演を行いながら、鈴木優人プロデュース・BCJオペラシリーズにてバロックオペラ上演にも取り組んでいます。日本を代表する音楽業界の第一人者です。
有友圭一氏
「Jazz EMP @Tokyo Financial Street」、まさしく本イベントの発起人であり、実行委員会会長の有友氏は、一般社団法人東京国際金融機構(FinCity.Tokyo)の専務理事でもあり、日本金融界の代表者でもあります。
金融と音楽をかけ合わせた未曾有のイベント「Jazz EMP」は、有友氏の音楽に対する熱意がなければ生まれませんでした。
今回のトークセッションのテーマは「アートと金融都市」。
鈴木氏の父・鈴木雅明の経歴にも触れながら、現代のアートのあり方について話が展開されます。
有友氏は、「アートとファイナンスは互いに助け合っている存在である」と口火を切りました。
現代のサラリーマンは引退したあとの生活の仕方がわからないケースが多く、そんな人々が目指すべきモデルケースとして、鈴木氏の父・鈴木雅明氏が紹介されます。
鈴木雅明氏は、神戸松蔭女子学院大学助教授、東京芸術大学音楽学部古楽科助教授や同大学教授を歴任しながら、1990年にバッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)を結成しました。
2010年3月に教授の職を退いたあとも、音楽監督として精力的に活動しています。
鈴木優人氏は、そんな父親のことを「相談者であり、同僚である」と言います。
そんな両氏の経歴を振り返りながら、有友氏は、仕事と生きがいの両立について話を広げます。
有友氏は、生きがいを「The reason to get up in the morning」と訳します。
「仕事が生きがい」という人も多いと思いますが、果たして、人のためになる仕事をし、十分な資金を得、立場を築き、さらにその仕事を心から愛している人がどれほどいるか、有友氏は疑問を呈します。
中でも、仕事においては「LOVE」の部分が難しいと有友氏は言い、鈴木氏も同意します。
そこで今回のJazz EMPの開催意義について話を展開します。
「実力があっても稼ぐことができない若手」や、「成功しているけれど楽しくない玄人」、そういった「生きがい」を感じることが難しい人々の活力として、Jazz EMPが促進力となることができれば、と有友氏は意欲を示します。
トークセッションの最後には、「たとえマネタイズできないことでも、生涯をかけてやり続けられることができること」が「生きがい」と呼べるのでは、と提案されます。
今後も、アートについて考えながら演奏を楽しめるイベントとして、Jazz EMPがさらに発展していく未来を感じさせるセッションとなりました。
トークセッションの後、待ちに待ったJazzセッションが始まります。
1組目は、平手裕紀カルテットの演奏です。
期待に胸を膨らませた観客が固唾をのむ中、静かな旋律が奏でられ始めます。
Patrick Bartleyのアルトサックスの音色がホールに響きわたると、会場がどよめくのが感じられました。
圧倒的な技術に裏打ちされた情緒豊かな調べに、思わず涙腺がゆるみます。
高らかなメロディーが脳を揺さぶり、音楽の中へ自分が溶け込んでいくのがわかります。
会場全体がなかば呆然としながら演奏に聞き入っていましたが、Patrick Bartleyのソロが終わると、割れんばかりの拍手が響き渡りました。
抜きんでた実力のPatrick Bartleyの演奏を固めるベース・ピアノ・ドラムも息を飲む実力派が揃っています。
変則的なリズムも寸分たがわず合わせ、一糸乱れぬパフォーマンスは圧巻の一言でした。
普段はPatrick Bartleyをのぞいたトリオで活動しているそうですが、アルトサックスを含め、彼らの演奏においてはアイコンタクトが最小限に抑えられていました。
技術の高さもさることながら、互いの信頼関係の強さもうかがえます。
演奏後、彼らを称える拍手は長い間途切れることがありませんでした。
YOSHIHIRO KANEKO Electric Jazz Bandは、エレクトリックベースをJazzに組み入れた、金属的で現代的な調べが特徴です。
先進的なメロディーであるにもかかわらず、観客を音楽の中へいざなうような包容力を感じました。
エレクトリックベースの音階は変幻自在で、地面を揺るがすような低音から、空気を張り詰めさせる繊細な高音まで、曲の雰囲気を一変させるメロディーを矢継ぎ早に展開します。
バンドの雰囲気は若くエネルギッシュですが、奏でられる曲はどこか懐かしく、幼少期の原風景が思い起こされました。
従来の音楽になかったものを作ろうとする気概が強く感じられ、新進気鋭のミュージシャンの力を存分に発揮する演奏でした。
ここで2回目のビジネストークセッションが行われます。
木村大樹氏
Keyaki Capital株式会社 代表取締役CEO。
同社は、個人に公開されていない世界中のプライベートアセットへの投資機会を提供しています。野村証券をはじめ数々の金融機関に携わってきた木村氏は、今回のトークセッションで「オルタナティブ投資」を推奨します。
東海林正賢氏
一般社団法人オルタナティブデータ推進協議会を設立し、代表理事に就任(現任)。2年前に独立し、データとアートによるイノベーションを目指してJazzy Buisiness Consulting株式会社を立ち上げました。
また、本イベントJazz EMPの立ち上げ当初より企画や運営に携わっています。
非上場株式やインフラ、農産物や鉱物、不動産等の商品を対象としたオルタナティブ投資は、新たな投資対象を探す個人投資家の間で高い注目を集めています。
オルタナティブ投資の市場は年々増加を続けており、中でも「音楽著作権ファンド」の成長率は見過ごせないといいます。
「音楽著作権ファンド」とは、アーティストが出版した音楽の著作権に投資するファンドをいい、その著作権使用料を収益源とする投資をいいます。
木村氏によれば、音楽著作権への投資は、配信数やファン層の年齢や地域などの属性データからリターンが読みやすいことが特徴だそうです。
レコード会社に資金が集まる仕組みが主流だった音楽業界において、音楽著作権の売却は、アーティストに収入が入りやすい環境を生み出す一因になるといわれています。
市場と同じリターンを上げるためのパッシブ投資に比べ、音楽著作権ファンドは投資の対象が見えやすく、株価変動の実感が湧きやすいのも特徴です。
金融と音楽が融合したファンドは、新たな投資領域として期待されています。
そこで本イベント・Jazz EMPについても話が及び、音楽著作権ファンドはまるで茅場町とJジャズの関係そのものだと両氏は語りました。
音楽業界そのものが本イベントによって発展していくことに思いを馳せつつ、トークセッションは幕を閉じました。
続いてのセッションは、ピアニスト・市川空氏が実力あるミュージシャンを集めて結成したバンドによるスタンダードジャズの演奏でした。
スタンダードジャズといっても、彼らの演奏は極めて現代的です。昔から親しまれてきた有名な楽曲を若々しい感性で再構成し、見事な技術で新しい楽曲として生まれ変わらせていました。
演奏は鳥肌が立つほど緻密です。音符を一つたりとも取りこぼさず、音程を一音たりとも外すことは許されない、とメンバー全員が決意しているような、ヒリヒリとした緊張感が伝わってきました。
どれほど激しいリズムになっても演奏の乱れがなく、理知的な計算によって曲が作られていることを感じられました。技術力の高さは圧倒的で、静かなメロディーの際は、息を吸うことすら許されないような静寂がホールを包みました。
親しみやすい音楽ではなく、「本格的なJAZZ」を届けたいという気迫を感じられる素晴らしい演奏でした。
中村海斗クインテットは、直前の Session #3にも出演したドラムス・中村海斗氏が中心となったバンドです。
Session #3でも迫力のドラムを披露した中村氏は、連続の出演にも拘わらず、疲れを感じさせない余裕のテクニックを見せつけました。
バンドの演奏は、譜面で表現することのできない躍動感、いわゆるスウィングを強く感じさせるものでした。
本格的なジャズを楽しみたい人にはたまらない独特のリズムが大いに表現され、メロディーが静かに胸へ沁み入ります。
それぞれの楽器のソロを引き立てる演奏が抜群に上手く、メンバーが互いの演奏を信頼し、リスペクトしているのが伝わってきました。
彼らにとっては呼吸と同じくらいの容易さで行われているのではと錯覚するほど、精巧なパフォーマンスが事も無げに披露されます。
余裕さを見せつける圧倒的な演奏に、会場は大きく沸き立ちました。
12:00より開場した本イベントも、最後の演奏となります。
池田篤カルテット with 原朋直 は、若手ミュージシャンが目指すべきお手本として、堂々と圧巻の演奏を響かせました。
各パートの安定感が傑出しており、ソロの時はまるで独演を聞いているような感覚に陥ります。時を忘れて聴きいっていると、他のパートの演奏が始まり、これがセッションであることに気づき驚かされる、ということが何回もありました。
各プレイヤーが、彼自身にしか出すことのできない音楽を確立しており、それを自覚したうえでパフォーマンスをしていることが伺えます。
Jazz EMP最後の演奏ということもあり、会場の熱気は最高潮を迎えました。
Special Performanceの後には、これまでの出演者が入れ代わり立ち代わり登壇する即興セッションが行われました。
本イベントでしか聞くことができない刺激的な演奏に、観客は次々に歓声を上げ、拍手は鳴りやむことがありません。
音楽の渦に飲み込まれる感覚に酔いしれながら、6時間半に及ぶ Jazz EMPは幕を閉じました。
ステージ終了後、出演者が一室に集まり打ち上げが行われました。
豪華な料理に舌鼓を打ちつつ、各バンドメンバーが交流を深めます。
そんな中、音楽監督としてJazz EMPの企画運営に参加した原朋直氏に、ミュージシャンとして、更に運営側としての見解を伺いました。
Jazz EMPは開催を重ねるにつれ知名度が上がり、原氏のもとには、多くのミュージシャンから参加志望の声が集まるようになったといいます。
若手ミュージシャンの中には資金面で苦労している者が少なくないため、演奏の機会を与えたり、彼らへの支援を促進したりするイベントが増えることが期待されています。
原氏は、「お金持ちの人が思い切り若手を応援してもらいたい」と気さくに言います。
また、「強制された楽曲ではなく、好きな音楽を演奏するミュージシャンは美しい」とも述べ、若手ミュージシャンにはオリジナリティあふれる音楽を楽しんでほしいと語ります。
大ベテランとして名を馳せる原氏ですが、語り口からは若手に対するリスペクトが感じられました。
Jazz EMPは2018年にスタートしましたが、原氏の意志は変わることなく、次世代のミュージシャンに引き継がれていくことでしょう。
こと始めの街として名高い兜町は、今やイノベーティブな金融都市として世界に存在を発信しています。
Jazz EMPは、金融と音楽の融合という新たな潮流を生み出し、兜町だけでなく、日本経済の未来を象徴する存在といえます。
今後の更なる発展を期待しつつ、新たな若手ミュージシャンの誕生にも思いをはせたいと思います。
兜LIVE!ではこれからも、兜町の最新情報をいち早くお伝えしていきます。お見逃しなく!
(取材・執筆 和香葉)
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