2022.08.15

【蔵元トーク】#46 龍力(兵庫県 本田商店)

こんにちは!
兜LIVE編集部です。


5月28日(土) 、ハイブリッド形式(現地開催&オンライン)で『日本酒を蔵元トークとテイスティングで楽しむ』を開催しました。


今では国際金融都市といわれる日本橋兜町。
江戸時代には日枝神社の門前町として栄え、酒問屋で賑わっていた「日本酒の聖地」でした。
東京証券取引所において初上場時の5回の鐘撞は、酒の原料である五穀豊穣にちなんでいるとのこと。


平日は賑わうこの兜町に、休日にも人が集まってもらいたい。そんな願いから日本各地の蔵元を招き日本酒について学び、味わい、楽しく交流し、その魅力を、兜町の魅力といっしょに広目、お酒が地域と人をつなぐ場所...。そんな場所に発展するように願いを込めて、毎月1回日本酒セミナーを開催しています。


今回は、兵庫県姫路市で「龍力」を醸す本田商店の代表取締役社長であられる本田龍祐さんをお迎えしての開催でした。ハイブリット開催でしたので、リアルでも楽しんでもらえたし、函館、青森、三重などからもオンラインでご参加いただきました。ありがとうございます。


<お話の見出し>
◆会社概要
◆100%全量酒造好適米へ
◆栽培土壌について
◆全国新酒鑑評会
◆テロワール館
◆熟成酒専門店
◆SDGs
◆本日のお酒のご紹介
◆Q&A



◆会社概要

・皆さん、改めまして、兵庫県姫路市で酒造りをしています「龍力」5代目の本田龍祐です。
・まず、皆さまの中で、「龍力」というお酒をご存じのかたはどのくらいいますか?
(ほぼ全員の挙手を受け、)結構、ご存じの方がおられますね。ありがとうございます。

・それでは、まず、「龍力」の蔵元がどのような会社なのかという紹介からはじめます。会社名は株式会社本田商店です。日本酒の蔵元で、「何とか酒造」や「何とか醸造」でなく、「何とか商店」という商号は珍しいのではないかと思います。当店では、主に日本酒と焼酎を製造しています。兵庫県は、酒米である「山田錦」の産地ですから、元々が日本酒の蔵元だということは理解していただけると思います。本田商店の創業は1921年10月、今から100年前になります。私は2021年10月1日に社長に就任いたしましたので、創業101年目からの社長ということになります。100年間で5代目というのは結構なハイペースかも知れませんが、私は、101年目の蔵元として、この時代にあった経営を目指しています。



・本田商店は、山陽本線網干駅の南側、徒歩5分以内の場所にあります。創業時は、創業者の兄が網干から南側に行った場所で「播磨鶴」という日本酒を製造していたため、そのお酒を販売するための小売酒屋として出発しました。当時、網干の西側にある龍野(現在は竜野)の特産品が「揖保乃糸」という手延べ素麵と薄口醬油でしたので、その昔、網干駅には、これら特産品を運搬するための貨物列車が数多く止まっていました。
一方、貨物列車からは、地元向けのお酒が荷下ろしされました。近隣の他の酒小売店は、網干駅にお酒を引き取りにきていましたが、やがて、引き取りの手間を減らすため、本田商店に酒の引き取りを依頼するようになり、本田商店は小売業から卸売業へと業態が変化しました。また、本田商店は、地元の米問屋の倉庫番をしていたこともあり、米問屋から酒造免許と出資を受けて、造り酒屋も始めることになりました。
因みに、蔵元の多くは大地主である兄のもと弟が酒造りを始めたという成り立ちが多いのですが、本田商店の成り立ちはこれとは異なることになります。
なお、本田商店から東京へはJRで3時間半もあれば来ることができます。

・その後、本田商店は、卸売業としてはキリンビールの特約店として、造り酒屋としては灘の蔵元の下請けとしての活動期間が長く続きました。



・本田商店の転機となったのは、4代目となる私の父が東京農業大学で酒造りを学んで戻ってきて、自分の手で大吟醸の酒造りを始めたことです。当時の大吟醸というものは、どこの蔵元も品評会のために作るもので、販売を目的とするものではありませんでした。ところが、私の父は、1979年に大吟醸『米のささやき』の販売を始めました。ちなみに、大吟醸が市販されるようになって以降、温めて飲むのが当たり前であった日本酒について、冷やして飲むという文化が生まれました。巻頭カラーでお酒を冷やして飲むという特集が雑誌に組まれるようになったのは今からわずか30年前のことです。
余談ですが、1979年は私の生まれた年でもあります。そして、1979年は大吟醸『米のささやき』だけでなく、ドラえもん、ガンダムが誕生した記念すべき年でもあります。



・1979年以降、本田商店、そして蔵元「龍力」の方向性が決まり、米の味を感じる酒造りを目指していくことになりました。


◆100%全量酒造好適米へ

・「龍力」は酒造に適したお米を100%用いて日本酒を製造していますが、全量に酒造好適米を使った日本酒は、味が立体構造となり、甘味がありながらも辛口を感じる奥行のある日本酒となります。
因みに、食用米を使用した日本酒は、甘口なら甘いだけ、辛口なら辛いだけの、平版な味になってしまいます。いわゆる「淡麗辛口」という言葉も食用米を使用した日本酒を評価するときに用いられるところから始まっています。

・酒造好適米、酒米の代表が「山田錦」です。「龍力」の基本姿勢は最高の酒米を使って最高の日本酒を造ることです。どの蔵元も「おいしい」日本酒造りを目指していますが、「龍力」の目指す「おいしい」の形は、余韻である「後味のキレの良さ」にあります。これを目指すため「龍力」では、すべての日本酒を低温発酵の吟醸造りで製造しています。また、「龍力」で使用するお米の8割は一番良いとされる「特A」地区のお米です。「龍力」では、減農薬、無農薬米にも取り組んでいますが、無農薬米には手を掛けないだけの品質の低いお米も多いので注意しています。



・ここからは、「神力」というお米を取り上げます。「神力」というお米は、収量が他品種の1.2倍であったことから、明治時代はスター米でした(当初、「器量良」<きりょうよし>と名づけられた)。因みに、「こしひかり」、「五百万石」、「カリフォルニア米」も「神力」の子孫です。なお、山形など東北の寒冷地でも安定生産できる「亀の尾」も明治時代のスター米のひとつでした。



・「龍力」では、1994年から「神力」というお米に取り組み、特に、夏のお酒用として、独特の酸味のある「神力」を使用しています。スッキリし過ぎないお酒、味があるけどスッキリしている、暑苦しいけど爽やか、クーラーではなく扇風機、それが「龍力」の目指す夏酒です。また、「龍力」では、「神力」を使用し、冬のお酒用として、牡蠣に合う甘口タイプの『龍力オイスター』も発売しています。ちなみに、兵庫県は牡蠣の生産量が日本第4位(1位は広島)でありながら、それが知られていないこともあって、『龍力オイスター』と命名しました。

・また、「龍力」では、地元の小学校と協働して、「地域の偉人を知ろう」という授業プログラムとして「神力」米の田植えや稲刈り、甘酒体験などの活動をしています。

・ここからは「山田錦」のお話に戻ります。「龍力」では、これまで「山田錦」を使った大吟醸を徹底的に追及してきました。この『秋津』という銘柄の日本酒は、日本で一番最初に市販価格が1万円を超えた日本酒です。



・『秋津』の発売後、ワインには何十万円もするお酒があることから、もっと高価な日本酒を造れないものかと、ロマネコンティの農園を見学に行きました。ロマネコンティの農園では一本の木に一人の人が張り付くくらい丁寧な葡萄栽培をしていました。日本でもこのくらい丁寧にお米作りをしてくれる人がいれば、日本酒の価値が創造できるのではないかということで、本田商店は、1995年、兵庫県加東郡の東条町秋津(現在は加東市秋津)において、日本で初めて、書面による米の契約栽培を始めることになりました。



・この契約栽培は、これまで収穫した俵数と品質に応じて売り上げが決まっていた、米農家の人々にとって、こだわりの努力の過程も含めて評価されるということで、非常に喜ばれました。

・地域の篤農家から契約栽培を希望する手が次々とあがり、「龍力」は「特A」地区中のお米を次々と手に入れることになりました。その結果として、吟醸酒の味が違ってきました。

・実は「龍力」は1985年の全国新酒鑑評会で金賞を受賞しましたが、その後は、なかなか金賞を受賞することができませんでした。ところが、1996年に吉川町の「特A」地区の米農家との契約栽培が始まった後、1997年から3年連続で金賞を受賞することができました。この金賞受賞はお米の力によるものだと思います。



・本日、会場には、今年(令和3酒造年度)の全国新酒鑑評会金賞受賞酒『大吟醸米のささやきYK35』という銘柄も置いておりますので、後ほど、皆様も味わっていただければと思います。ちなみに、本日2杯目にお出しするお酒は吉川町の「山田錦」から造った精米歩合65%の『テロワール吉川』という銘柄です。また、本日1杯目にお出しした『夏純米』という銘柄は「神力」から造った同じく精米歩合65%のお酒です。1杯目の「神力」と2杯目の「山田錦」との味の違い、つまり、すっきりタイプと甘味のあるタイプとの違いを感じていただければと考えています。


◆栽培土壌について


・それでは、なぜ金賞が受賞できたのか。「龍力」3代目の本田武義が金賞受賞の根拠探しに20年を費やした結果、金賞受賞は栽培土壌によることが大きいことがわかりました。ちなみに、「特A」地区も「特A」でない地区も天候や水質はほぼ同じという結果でした。



・3代目本田武義は3年前に亡くなりましたが、その研究をどのように酒造りに活かしていくかということが私の仕事となっています。その過程で、私は、日本とヨーロッパにおける農業に対する考え方の違いについて、気づくことができました。


・日本では、雨が多く水が豊富なため、どこででも作物が育つことから、農学としては何を育てるかという品種学が重視されてきました。一方、ヨーロッパでは、雨が少なく水が手に入りづらいことから、農学としてはどこで育てるかという土壌学が重視されてきました。考えてみれば、人々がワインを語るときはそのワインの原料となる葡萄が育つ土壌の違いが話題の中心となるのに対し、人々が日本酒を語るときはその日本酒の原料となる品種の違いが話題の中心となっています。

・フランスワインの二大名産地として、ブルゴーニュ地方とボルドー地方がありますが、ブルゴーニュ地方ではボルドー地方で栽培が盛んなカベルネソーヴィニヨン種の葡萄がうまく育ちません。私は、このような事実があることで、フランスではワインの葡萄品種による違いについて話題になることが少ないのではないかと考えています。また、イタリアでも、日本のようにトマトの品種による違いが話題になることが少ないと感じています。

・日本では、これまで、農業においては品種改良が重視されてきましたが、現在は諸外国でも、水道整備やスプリンクラー設置などが進んだことから、水を豊富に使用した農業が始まり、遺伝子組み換え技術などの品種改良も盛んになってきています。このため、私は、今後、日本の農業が、外国の農業に対抗していくためには、土壌に着目することが重要ではないかと考えています。

・一般的に、日本酒を語る場合、例えば、「この日本酒は「山田錦」を無農薬で栽培し、精米歩合50%で、日本醸造協会の9号酵母を使用して醸造しています。」などと説明するように、品種と栽培と醸造の3つで語ることになりますが、土壌については語る必要がありません。一方、ワインを語るときは、品種について語る必要がなく、栽培と醸造と土壌の3つで語ることになります。




・これに対して、「龍力」では、品種と栽培と醸造というこれまでの3つの考え方に、土壌をプラスした新しい考え方「龍力テロワール」のもと、とりわけ、品種と土壌を結び付けることで、オンリーワンの世界をつくりたいと考えています。
・身近な例でいえば、「淡路島の玉ねぎ」、「丹波の黒豆」、「魚沼のこしひかり米」などは、その美味しさで定評がありますが、これらの農産物は品種と土壌が結び付いた結果としてオンリーワンの地位を占めるようになったものと考えられます。

次に、「特A」地区を大きく3つのエリアに分け、社地区、東条地区、吉川地区それぞれの土壌について、説明します。


・社地区は、約3千万年前に大きな川が流れていたため、土中に砂岩や小石が多くみられます。東条地区は長らく大きな沼地でしたので小石が少ないです。そして、吉川地区はずっと地上にありました。

・「龍力」では大きく分けて9か所の土壌を調べています。土壌標本をみると、川筋ごとに土壌に含まれている成分が違うということが分かります。



・そして、3つの「特A」地区の違いは土壌の違いが大きいと考えています。



・3つの「特A」地区のうち、まず、社地区は、川沿いの堆積物とともに古い1億年以上前の火成岩が堆積しています。一般的に火山灰があるところは黒色の粘土質が多いのですが、栄養のある部分は土砂として流れていってしまいます。土壌の上層30センチ程度の部分は農家の方が耕作することでできた土壌ですので、「龍力」では下層の部分に着目しています。社地区は小石が多く水はけの良い土地であることから、稲の根も深くは伸びません。



・この社地区で栽培した「山田錦」は、山田錦の品質の味わいが一番クリアに出てきます。香りが穏やか、味がやわらかく、酒質が軽いというのが、社地区のお米で造った日本酒の特徴です。なお、他地域の蔵元にも社地区の「山田錦」の特徴を活かした酒造りで有名な銘柄があります(『獺祭』、『玉乃光』)。


・次の東条地区は、山と山に囲まれた中央のエリアです。



・東条地区は、先ほどご説明したとおり、大きな沼地でしたので小石が少ない土壌です。

・(次のスライド)東条地区の土壌標本をみると耕作土からなる黒味の強い上層と褐色の下層の境界がはっきりとしています。



・土壌の下層の褐色部分の粘土鉱物に稲の根が侵入するとその部分が酸化されてオレンジ色に変化するのですが、東条地区の土壌標本をみると稲が根を1メートル以上に深く伸ばしていることがわかります。



・この東条地区の土壌は、粘土質で、マグネシウムやカリウムなどの養分が豊富なことから、お米の品種の味に土地の味が加わり、香り、味わい、余韻のバランスの取れた酒質になりやすいです。なお、他の蔵元にも東条地区のお米の特徴である味わいのバランスを活かした有名な銘柄があります(『十四代』、『磯自慢』)。



・最後に吉川地区です。吉川地区では山の上、山の中腹に水田が造成されています。



・吉川地区は約2千万年前の古第三紀の堆積岩から成る地層です。吉川地区の土壌標本をみると表層の黒い耕作土の下は、褐色、灰色の層となっています。



・下層の土の色は、掘ったばかりのときは銀色がかった青色、アルミに近いメタリックブルーをしていますが、掘って時間が経つと酸化して褐色になります。吉川地区の土壌は、マグネシウムやカリウムの量が多いことから、3つの地区の中では最も力価が高く、稲も深く根を伸ばしています。



・吉川地区のような土壌で栽培したお米から日本酒を造るとどうなるかといえば、味わいにミネラル感が非常に多くなります。フランスワインでいえばブルゴーニュ地方のシャブリのようなミネラル感を感じるお酒、酸をしっかりと感じるお酒です。ちなみに酸がアルコールと結びつくと香りの成分になりますので、吉川地区のお米は、香りの高い大吟醸や酸を大切にする「生酛づくり」に向いているのではないかと思います。実際、吉川地区のお米を使用するようになってから、全国新酒鑑評会での金賞受賞率が高くなり、直近10年間では、2017年を除き、9回金賞を受賞しています。



◆全国新酒鑑評会

・近年、全国新酒鑑評会では香りのあるお酒が重視されており、香り系の酵母である日本醸造協会の1801号酵母を使用しないと金賞が受賞できないともいわれています。しかし、今年の全国新酒鑑評会において、「龍力」はクラシックな協会9号酵母を使用して金賞を受賞しました。協会9号酵母を使用して香りを出すには相当な腕が必要ですから、蔵元としてとてもうれしく思いました。

・昔の日本酒造りにおいては、醪の間、つまり発酵している間はすばらしい香りであっても槽で絞ると香りが全くなくなってしまうということが多く、この現象について酒造業界では映画の『風と共に去りぬ』をもじって「粕とともに去りぬ」といっていました。

・酵母が良い香りを出すのは、実は酵母が死にそうなときです。このためクラシックな酵母を用いても、低温で発酵させて、酵母が死ぬか死なないかのギリギリの状況にすることで良い香りを引き出すことができますが、これは非常に難度の高い技術です。ところが近年、香り系の酵母が開発され、簡単に香りを引き出すことができるようになりました(『きょうかい酵母1801号』の頒布は2006年から)。

・一方、香りが高い日本酒は苦くなりがちなため、苦味を抑えるために吟醸酒を甘口に造る蔵元が多くなります。そして、香りの高い日本酒を甘くなりすぎないように軽く造るというのが最近の全国新酒鑑評会の主流となっています。

・「龍力」では、近年も、クラシックな協会9号酵母を使用して、香りの高い日本酒を造ろうと工夫してきましたが、完成した日本酒は全国新酒鑑評会に向けた社内予選会を通過することも難しい状況でした。ところが、今年は、協会9号酵母を使用しながらも香りの高い日本酒を造ることができ、社内予選会を経て、全国新酒鑑評会に出品したところ、見事、金賞を受賞することができました。技術を磨いていくことの大切さは重要ですが、全国新酒鑑評会のような目標があることによって磨かれる技術もあるものと私は感じています。

・皆様に試飲していただいた最後のお酒は、今年の全国新酒鑑評会において金賞を受賞した『大吟醸米のささやきYK35』という銘柄ですが、皆様、顔立ちがはっきりしている日本酒だと感じたのではないでしょうか。この銘柄は、香りがあって味わいがあってキレもある日本酒に、他の銘柄のように香りがあるが甘くて軽いだけの日本酒とは違うお酒に仕上がっているのではないかと思います。

・先日、お客様から、「一般的に、香りがあるが甘くて軽い大吟醸は料理に合わない。しかしながら、この銘柄は料理に合う。」と言っていただきました。このお酒が、つまり香りがあって味わいがあってキレもある日本酒が「龍力」の目指す日本酒のひとつの形ではないかと思います。


◆テロワール館

・「龍力」では、酒造りに際して、お米、栽培、醸造だけでなく、土についても取り組むことで、よりグレードの高いお酒、より形のあるお酒を造ることができるのではないかと考えています。


・そして、これを表象する意味もあって、「龍力」では、2020年10月、コロナ禍で空いた時間を利用して、蔵の下に、土壌標本の展示スペース「テロワール館」をDIYで作りました。ちなみに、ここにある1枚物の板を磨くのには大人2人で4日間かかりました。



・皆様、姫路に来られた際は、是非、「龍力」にお立ち寄りいただければと思っております。


◆熟成酒専門店


・「龍力」では、2021年11月、新しい直営店として、熟成酒専門店をオープンしました。なぜ、熟成酒なのかというと、これから熟成酒というものがひとつのテーマになるのではないかと考えているからです。これまで、日本酒といえば、魚に合わせると美味しいというのが一般的な認識でした。そして、魚に合う日本酒は三角形の味わい、つまり、香り、甘味、酸味があれば足ります。ところが、時代の変化につれて、今では和牛も和食だということになりました。そうなると、三角形の味わいだけでは、日本酒が和食に合わない場面も出てきます。神戸ビーフを食べるならフランスワインを合わせればいいというのでは面白みがありません。そこで、「龍力」では、質感のある日本酒が重要になってくるのではないかと考え、熟成酒に取り組みました。新規オープンした直営店は自分でブレンドして自分好みの熟成酒を造ってもらうという体験型のお店です。私は、熟成酒の未来はブレンドにあると考えています。そして、その延長線上には、さらに、樽で寝かせて香りを磨くという世界があるのではないかと考えます。

・考えてみれば、第二次世界大戦中、欧米人からみれば「日本人は魚を生で食べるような野蛮人」であり、日本人からみれば「欧米人は四つ足の獣を食べるような野蛮人」でした。ところが、今や、お鮨に代表されるように世界中の人が生で魚を食べ、日本人が四つ足の獣を食べる時代になりました。そうなると、日本酒に対する価値観も変わってくるものと思います。こうしたなか、海外で日本酒がだんだんと売れるようになり、赤ワインに対抗する日本酒というものを造る時代がやってきたと考えて、このような熟成酒専門店をオープンした次第ということです。


◆SDGs

・当たり前のことを当たり前に行うことがSDGsの本質だと考えています。また、働き方改革についていえば、「龍力」では、業界慣行となっていた朝5時からの酒造りをやめ、朝8時から夕方17時までの勤務体系に変更しました。「朝8時からでは美味しい日本酒ができなくなるのではないか」という意見もありましたことから、私はなぜ蔵元の多くが朝5時始業なのかについて調べました。すると、電気のなかった江戸時代の農家の暮らし、つまり朝3時に起きて日没まで働くという暮らしに合わせるべく、令和の現在まで、蔵元の多くが朝5時始業となっていることが分かりました。確かに、このような状況では、日本酒が失われゆく文化となってしまいそうだということも理解できます。しかしながら、「龍力」は、時代に合わせ、変えるべき部分は変えていこうという姿勢です。そして、時代に即した原点回帰を掲げながら、「山田錦」、協会9号酵母など、何がいいのかを取捨選択していくことが「龍力」という藏の姿勢となっていくものと考えています。


◆本日のお酒のご紹介


①夏純米

精米歩合65%

使用米:神力  神力米の特徴である独特の酸を活かしさっぱりとした味わい。




② テロワール吉川
 精米歩合65%
 使用米:山田錦 土壌を調査し、吉川産山田錦の特徴であるエッジの効いた味わいを表現。



③ 大吟醸米のささやきYK35
精米歩合35%
使用米:兵庫県特A地区産山田錦 特上米  日本酒を冷やして飲みと言う文化を当たり前にした大吟 醸酒。現代の酒造りのルーツです。


乾杯!


◆Q&A

Q:味のエッジって、どんな意味合いでしょうか
A:乾いた酸味のことをエッジと呼んでいます。


Q:大吟醸は何℃くらいで飲むと美味しいでしょうか。
A:大吟醸は5℃から10℃に冷やして飲むと美味しさを引き出すことができます。これは大吟醸を製造するときに5℃から10℃で発酵させる低温発酵で醸しているからです。一方、燗で美味しい日本酒は発酵温度が15℃となっています。また、発酵温度が15℃を超えると高級アルコールという匂いのきついアルコールが生成されます。昔の芋焼酎が臭かったのは発酵温度が高かったからです。ワインの中にも、チョコレート臭というモタッとした香りを感じるものがありますが、これも発酵温度が高かったことに由来する香りです。


Q:仕込水によって酒質はかわりますか。
A:水は個性に過ぎないと考えています。江戸時代であれば、技術が足りず、低温発酵などもできなかったことから、「灘の宮水」に代表されるように、水の良し悪しが酒造りにおいて重要な地位を占めていました。「灘の宮水」は、硬度150と非常に硬度が高く、「灘の宮水」で仕込んでいる蔵元は、2週間で日本酒を製造することができます。2週間であれば、製造過程における腐造の心配もなく、月に2回醸造することができます。
一方、「龍力」のような硬度50程度の水で仕込んでいる蔵元では、どんなに急いでも日本酒の製造に3週間かかります。
しかしながら、現在のように、いい日本酒を丁寧に造りましょうという時代になってくると、水の良し悪しがそれほど影響するとは思えません。どこの蔵元も、元来、水のいい場所に立地していることを考えれば、水の違いは個性程度の違いということになります。
なお、「灘の宮水」は、燗で飲む日本酒を仕込むのには適していますが、冷やして飲むための日本酒を造るにはあまり適していないと私は考えています。


Q:ワインにはビンテージという概念がありますが、日本酒造りにおいて各年ごとの違いというものはありますか?
A:日本酒造りにおいて、ビンテージはその日本酒の誕生年(バースデーイヤー)という概念になっています。
ちなみに、ワインの製造者に確認したところ、ワインの製造者は、その年の葡萄で製造したワインが長熟に耐える収穫年をビッグビンテージと呼んでいるものの、ビンテージを「美味しい・不味い」の基準とはしていないとのことでした。
「美味しい・不味い」の概念ということであれば、年によってお米の質は違います。しかし、私は、日本酒の製造には技術的な要素が大きく、製造過程の調整でお米の質的な部分のカバーはできるものと考えています。
今後、ビンテージがその年の気候と結びついて結果論の裏付けとなってくることがあるとは思います。ただし、ビンテージのとらえ方も一様ではありません。例えば、昨年は、酒造りのためのお米の質がとても良く、酒造業者にとっては素晴らしい年でありました。しかしながら、農協にとっては、収量が低かったことから、昨年は最悪の年という評価でした。


Q:土壌による日本酒の味の違いについて、より科学的に深められていく可能性はありますか。例えば、どのような土地の米であればどのような酒質の日本酒が製造しやすいなどの判断がつけられるようになるのでしょうか。
A:地域によって酒米の味が違うことについての分布図が本年春の学会で発表されましたが、気候と米の質のバランスが論点になっており、土の成分という概念は取り入れられていませんでした。しかしながら、本場のワインであっても、現段階では土の成分と葡萄の組み合わせによる味の違いについての科学的な分析は行われておらず、感覚頼りになっている状況です。土の成分とお米の質の科学的分析についてはまだまだこれからだと思われます。


◆最後はみんなで集合写真

毎回、恒例の集合写真です。ハイブリッド形式でしたので、現地参加の方とオンライン参加の方、ご一緒に!!



◆まとめ

・龍祐さんのパワー全開といった感じの90分トークでした。参加者の中には「さすが関西芸人!」って冗談を言う方もいましたが、それだけガンガントークだったということでしょう!
また、兜LIVE! にお会いしたいですね!


<番外編1:KABUTO ONEアトリウム展示の神輿・山車と記念撮影!>



<番外編2:KABUTO ONE1階のKNAGで懇親会!>



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