2025.02.19

【兜LIVE!イベント】社会人のための確定申告勉強会2025

2025年2月6日、「社会人のための確定申告勉強会」が日本橋茅場町のCAFE SALVADOR BUSINESS SALONにて開催されました。

おしゃれなカフェの一角で行われた勉強会。兜LIVE!にとっては馴染みの深い場所ですが、何度来ても、ふかふかのソファとおいしいフリードリンクに心が癒されます。
さて、2024年分の確定申告の受付は2月17日から始まります。確定申告の知識に自信がない人にとっては、焦りの気持ちが増してくる時期です。


そんな中、本イベントはオンラインでも勉強会に参加することができ、気軽に税制を学べる機会として大変有意義なものでした。

今回はイベントの模様をレポートし、確定申告の基礎を総ざらいします。



◆講師 中原國尋さんと、イベントの趣旨について


イベントの講師は、中原國尋税理士事務所の中原國尋さんです。
千代田区神田に事務所を構える中原さんは、数々の大学院で教鞭をとりつつコンサルティング会社を設立し、同時に会計事務所を開設されました。
会計に関する著作を多く出版されていることもあり、今回のイベントでも、確定申告初心者に優しい丁寧な解説をして下さいました。


本イベントの資料は、正確性や厳密性よりも、わかりやすさを重視して作成されたそうです。
確定申告は専門知識が必要で面倒くさい、というイメージが強い人も多いと思いますが、そんな方にとって、今回の勉強会は広い間口で参加者を受け入れるものでした。


◆確定申告とは?まずは基本を押さえましょう

イベントは、確定申告の基本の解説から始まります。
確定申告は「申告納税制度」と呼ばれ、納税者の申告に基づいて税を納める制度のことをいいます。

つまり、税務署から「あなたの税額は○○円です」と請求されるのではなく、自分自身の裁量で納税額を算出する、という仕組みです。


日本の納税制度では、申告する人が納税額計算のルールを知り、自らの判断が求められる仕組みになっています。
そのため「確定申告は、定められたルールの中で自分が判断して作成すること」が焦点になってくる、と中原さんは言います。


「自分で判断する」ことが確定申告では重要と言うことでした。判断するためにはルールを知る必要がありますが、難しく考える必要はなく「事業に関連するか否か」が重要と強調されていました。この言葉からは、税制システムの理解に対するハードルを下げ、誰もが学習しやすい機会をつくりたいという中原さんの意欲が感じられました。


さて、確定申告の定義をおさらいしたら、次は税の計算方法を学んでいきます。


◆確定申告の第一歩・所得税の計算方法


確定申告で必須となるのは「所得・所得税」の申告です。
1年の間でどれだけ所得があり、どれだけ税を納めなければならないのかを計算する必要があります。


所得税は、大まかに分けて3段階で計算されます。
① 所得を求める
所得=収入ー費用
② 所得控除
(所得ー所得控除)×税率=(暫定の)所得税
③ 税額控除
(暫定の)所得税ー税額控除=所得税(納税額)


この計算式を見るだけでも、苦手意識がむくむくと湧いてきてしまう人も多いはずです。
しかし、中原さんは丁寧にそれぞれの注意点を説明してくださいました。


◆経費の判断基準とは?

まず考えるべきなのは「どこまで費用(経費)にできるのか?」という点です。
「経費」はざっくり言うと「商売に関係して支出したもの」を指します。
中原さんは、経費の線引きを正しく理解するのと同時に、支払った金額を「安全に経費にする」ことが大切だと述べます。
領収書を保管することはもちろん、お香典のように領収書をもらうことができない場合は、日付と明細を書き留めておくことが必要です。


確定申告は、自分自身のお金の使い道を国に報告する制度といえます。
そのため、日ごろからお金の流れを把握し、正確に申告できるよう記録することが重要である、と中原さんは強調しました。


◆「減価償却」とは何か?


続いて、決算における「減価償却」について解説がされます。
「減価償却」とは、PCや社用車、事務所となる家屋など、高価かつ長期間使用するものを購入した際、経費を一括で計上するのではなく、何年にも亘って計上していく手続きをいいます。
さらに「在庫」や「自宅の経費」に関しても解説がされましたが、これらの計算方法は個人の状況によって異なります。
特に家族経営の際は注意が必要で、決算前に税務署へ届出しなければならないケースもあるそうです。


このように、確定申告に関する知識が不足していると、後々手続きが煩雑になったり、損をしてしまう可能性があります。
改めて、税制について自ら学ぼうとする意識の大切さを実感しました。


◆所得控除を活用して、節税対策


収入から経費を引いて所得を算出したら、次は所得控除を計算します。


主な所得控除は次の通りです。
・社会保険料控除
・小規模企業共済等掛金控除
・寄付金控除
・医療費控除
・生命保険料控除
・基礎控除
・配偶者控除、配偶者特別控除、扶養控除


上記の中で、中原さんが特に詳しく解説したのは「小規模企業共済等掛金控除」です。
小規模企業共済は、簡単にいうと、規模の小さい企業の経営者や役員、個人事業主が利用できる『積立型の退職金制度』です。
共済を利用すると、事業を休んだり退職したりした際のお金が準備できるだけではなく、掛金の全額が所得控除として申請できるので、節税の効果がとても高いそうです。
しかも、掛金を支払いながら資金の借り入れが可能なので、中原さんは「やった方が絶対にいい」と強調します。


また、意外と見落とされがちな寄付金控除、医療費控除についても解説がなされます。
学ぶことの多さに改めて驚かされますが、知ったふりをしたり、わからないことを放置するのは一番避けるべきです。


中原さんは、「それぞれの専門家に聞けば、控除について詳しく教えてくれる」とアドバイスします。
お金を使うタイミングに、きちんとそのお金に関する知識を学ぶ。これが一番効果的な学習法なのかもしれません。


◆iDeCoやNISAの税制上のメリットとは?


続いて中原さんが解説したのは「分離課税」です。


分離課税とは、退職所得や株式などの譲渡所得などにかかる税額を、他の所得と分けて算出する制度をいいます。
株式等については、売買する口座の種類により、確定申告の方法や課税のタイミングが異なる場合があります。こちらもしっかり学ぶことが必要です。


また、株式の話題に関連してiDeCoやNISAにも話が及びます。
これらの制度は令和6年に大きく変更され、掛金が全額控除されたり収益が非課税になったりと、確定申告時に見逃せない利点が加わりました。
日々更新されていく制度をきちんと学習すれば、将来のための貯蓄だけではなく、節税を実現することもできるのです。


この勉強会を機に、投資を勉強し始めようとする人もいるかもしれません。
ここまでが所得控除についての概要です。続いて、確定申告の申告方法について話が進みます。


◆青色申告のススメ


確定申告には「青色申告」と「白色申告」という、2種類の申告方法があります。
大まかにいうと、正確な帳簿作成が必要なのが青色申告。簡易な帳簿作成で済むのが白色申告です。


確定申告の初心者にとっては手続きが容易な白色申告が魅力的に見えますが、中原さんは「帳簿作成の負担が大きくても、青色申告がおすすめ」と言います。


その理由は、多くの税制上のメリットが受けられるからです。
「中でも注目すべきは赤字繰越の制度」と中原さんは言います。
起業時は初期費用がかさみ、経費が利益を上回ることが多くあるでしょう。そんなとき損失を繰り越すことができれば、翌年以降の利益を損失で相殺し、納税額を抑えることができます。


申告時の簡便性をとるか節税をとるか、個人の判断が問われますが、中原さんは青色申告を勧め、かつ、届出の期限を守ることの重要性を強調しました。


◆法人化のメリット・デメリット

続いて「法人化」について話が展開します。
創業補助金を受け取れたり融資を受けやすくなったりと利点は多いですが、ここでも注目されるのは節税効果です。


中原さんは、所得税と法人税の税率についてそれぞれシミュレーションを行い、事業や利益の大きさによっては、数十万円の単位で納税額に差が出ることもあると説明しました。
ただし、個人事業を法人化するには設立費用がかかり、帳簿を作る負担も大きくなります。
中原さんの事務所には、法人化が自分にとってベストな選択肢かどうか問い合わせる人が多いそうです。
メリットとデメリットを学び、自分に合った選択肢を考えることが必要です。


◆インボイス制度と消費税について


続いて消費税について解説がされます。2023年に開始されたインボイス制度によって、多くの人が頭を悩ませたのではないでしょうか。
まず中原さんは、課税事業者と免税事業者の区別、原則課税や簡易課税の比較など、基礎知識の整理から話を進めます。


その上で、「会社などが顧客にいる場合はインボイス対応を検討し、消費税の申告について学ぶ必要がある」とまとめます。
ポイントは、自社の販売商品(サービス)が取引先の費用となるか否かです。
きちんとインボイス制度を理解し、自身にとって適切な対応を考える必要があります。


◆確定申告を快適に!会計ソフトの活用法


続いて中原さんは、実際に確定申告をする際のツールについて解説します。
これまではPCにインストールして使用する会計ソフトが主流でしたが、最近はインターネットサービスとして利用するクラウド会計が台頭してきました。
会計ソフトの大半は数万円程度で購入できますが、クラウド会計は利用料を支払い続けるものがほとんどです。
長期間の利用が前提であれば会計ソフトのほうが安く済みますが、クラウド会計の普及は目覚ましいものがあります。


その大きな理由は、手続きの簡易性です。
取引データの取込や仕分けが自動で行えたり、同じデータを見ながら複数人とコミュニケーションがとれたり、さらにはデータ保存やアップデートの手間が無くなったりと、メリットは数えきれないほどあります。


今はスマートフォンで申告することもでき、確定申告はますます手軽になってきています。

確定申告の手続きが簡略になれば、誰もが税制への関心を持ちやすくなり、税務や金融の知識について語られる場所がより多くなるでしょう。
誰もが手軽に使えるツールを使用することは、将来的に健全な税制に結びつくのかもしれません。


◆確定申告の疑問の解決方法


ここまで、確定申告についてわかりやすく解説してくださった中原さんは、「確定申告についてわからないことがあったら、税理士ではなく、まず税務署に相談してください」と言います。
税務署では、一般的な税務相談について丁寧に対応してもらえるそうです。


講演に使用されたスライドの最後では「確定申告丸投げサービス」が紹介されましたが、中原さんは「自分で税制を理解することが大切だし、お金がかかるので、できるだけ使わないほうがいい」と言います。
歯に衣着せぬコメントに、場内からは笑い声がもれました。


1時間半の講演はあっという間に終わり、最後は質疑応答の時間が設けられました。


Q.中古車の減価償却方法は?

A.新車の耐用年数よりも短い耐用年数により減価償却が計算されるため、取得した原価額について新車より早く費用化することができます。


Q.海外赴任時、国内の持ち家に関する住宅ローン控除は適用できるか?

A.住宅ローンが適用された(住宅を取得した)時期や誰が居住するのかによって異なるので、確認が必要です。条件によっては再び居住したときに残存期間について特別控除の適用を受けられる場合があります。


Q.PayPay等のバーコード決済時に注意すべきことは?

A.領収書などをきちんともらうことが必要です。特に消費税については、インボイス番号がないと仕入税額控除ができません。


など、参加者の疑問はつきません。
自分に足りない知識を自覚して学ぼうとする、参加者の強い意欲が感じられました。


◆まとめ:厳密性よりわかりやすさを大切に、確定申告を学ぶ


本イベントは、確定申告の初心者でも理解しやすいよう構成が工夫され、基礎知識を一気に把握できる充実の内容となっていました。
かしこまった雰囲気ではなく、カフェラウンジでドリンクを飲みながらゆるく税制を学ぶことにより、かえって内容が頭に入りやすかった気がします。
講師の中原さんの気さくな人柄もあいまって、終始なごやかな雰囲気に包まれた勉強会は印象深いイベントとなりました。


2月17日より確定申告の申請がスタートします。中原さんの事務所は大忙しのはずですが、多忙な中、講演を行ってくださったことに感謝の気持ちでいっぱいです。
本イベントをきっかけに、青色申告や法人化、減価償却など、新しい課題について勉強を始める人も多いことでしょう。


兜LIVE!では、これからも金融知識を深めるためのイベントを多く発信していきますので、ぜひ今後の学びのためにもチェックしてくださいね。
(取材・執筆 和香葉)



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