2021.06.16

【渋沢栄一・赤石フェスタ】特別セミナー・渋沢栄一の『論語と算盤』で未来を拓く〜アフターコロナの日本の繁栄の時代へ レポート

こんにちは。

兜LIVE!編集部です。


春らしい陽気となった3月9日(火)、東京日本橋にある「FinGATE KAYABA」とオンラインにて『[渋沢栄一・赤石フェスタ]特別セミナー・渋沢栄一の『論語と算盤』で未来を拓く〜アフターコロナの日本の繁栄の時代へ』が開催されました。ゲストは、渋沢栄一の子孫であり、シブサワ・アンド・カンパニー株式会社代表取締役、コモンズ投信株式会社取締役会長の渋澤健さんです。


名著『論語と算盤』を元に、渋沢栄一が生涯を通じて貫いた「利潤と道徳を合致させる」という経営哲学を、現代社会と照らし合わせながら読み解くことで次の世代への新たな指針となり、アフターコロナを生き抜くヒントになるのではないか。そんなテーマで企画された本勉強会の様子をレポートいたします。


◆渋澤健さんご紹介

特別セミナーの講師としてお迎えした渋澤健さんは渋沢栄一の玄孫(孫の孫)にあたり、お父様の仕事の関係で幼少期をアメリカで過ごされました。テキサスの大学を卒業後、1987年にUCLA大学にてMBAを取得。外資系金融機関で日本国債や為替オプションのディーリング、株式デリバティブのセールズ業務に携わり、アメリカ大手ヘッジファンドの日本代表を務められています。2001年に独立し、シブサワ・アンド・カンパニー株式会社を創業、代表取締役に就任しました。


2007年にはコモンズ株式会社を設立し、2008年に会長に就任。「一人ひとりの未来を信じる力を合わせて、次の時代を共に拓く」をモットーに、経済同友会幹事およびアフリカ開発支援戦略PT副委員長、UNDP(国連開発計画)SDG Impact Streering Group委員、東京大学総長室アドバイザー等、世界を股にかけてご活躍中です。著書も多数出版されていて、今回の勉強会のテーマにもなっている『論語と算盤』の超訳版をはじめ、『渋沢栄一100の訓言』、『SDGs投資』、『渋沢栄一の折れない心をつくる33の教え』などがあります。今回初めて渋澤さんにお会いしてみて、柔和な笑顔と滲み出る紳士的な雰囲気がとても印象に残りました。


◆「Stakeholder Capitalism」と「ESG」



大河ドラマなどでご存知の方も多いとは思いますが、本題に入る前に渋沢栄一について少しご紹介します。渋沢栄一(以後、栄一)は幕末から明治維新、現代日本の激動の時代を生きた実業家です。「日本資本主義の父」とも称され、株式会社組織による企業の創設、育成に力を入れ、生涯に約500もの企業設立に関わりました。また、約600の教育機関、社会公共事業の支援、民間外交にも尽力。2024年に発行される新紙幣の肖像画に採用されたことも記憶に新しいですね。


「栄一は『たくさんの言葉』という税金のかからない財産を遺してくれました」と渋澤健さん。キーワードとなる『論語と算盤』の中で語られる数々の「未来志向の言葉」を応用し実践していけば、この先の時代にもきっと指針となる考え方になっていくのではないか、と語りはじめます。


栄一の言葉を振り返る前に、現在の国際社会において重要とされている二つの事柄についてお話しがありました。


まず、ダボス会議(世界経済フォーラム)でも度々取り上げられる『Stakeholder Capitalism(企業関係者 資本主義)』という概念。これは「株主価値の向上だけでなく、従業員、客、取引先、社会への価値も高めていかなければならない」という考え方です。


第二に、ニュースや経済紙でもよく耳にする『ESG(Environment  Social  Governance)』という概念。直訳すると「環境や社会に対する企業経営のあり方」となります。提唱され始めた2005年頃はまだまだ経営や市場ではマイナーな概念でしたが、現在では中心的な考え方となって、企業を知るための重要な要素として広く認知されています。


◆渋沢栄一の唱えた「合本主義」


次に、渋沢栄一を紐解く上でのキーワードとなる言葉「合本主義」についてお話になりました。


「『資本主義の父』と言われる栄一ですが、彼が生きた時代にはまだ『資本主義』という言葉は存在していませんでした。その代わりに使われていたのが『合本主義』という言葉で『価値をつくる元を合わせ、それにより価値を創造する』という意味合いを持っています。


1873(明治6)年に日本初の銀行となる『第一国立銀行』を設立した栄一は、その存在意義を伝えるために、以下のような例えを使いました。

『銀行は大きな河のようなものだ。銀行に集まってこない金は溝に溜まっている水やポタポタ垂れている滴と一緒だ。せっかく人を利し国を富ませる能力があってもその効果は表れない』。

つまり、資源であるお金が垂れ流しになっているようでは力が生まれてこない。銀行に集まったお金が少しずつ流れ、動きが出ることでいずれ大きな流れになり力を持つということを表しています。


現在では、資本主義という言葉を聞くと、格差社会、ブラック企業、環境破壊、といったマイナスのイメージを持つ人もいますが、当時の栄一が目指していた資本主義とは『今日よりも良い明日を築く為の資金を社会の隅々まで行き渡らせる』というもので、その意味合いはだいぶ異なっています」。


渋澤健さんは、現在では使われていない「合本主義」という言葉を今の言葉に訳すのならば、先に挙げた「Stakeholder Capitalism」という言葉が相応しいのではないか、と考えます。「Stakeholder(企業関係者)」とは企業をつくる元となるもので、それぞれがその役割を果たし、力を合わせることで企業の価値が上がっていく事になります。現在では一般的となっているこの考えに、栄一は約150年前に資本主義が誕生した時すでに辿り着いたことを知って、筆者は大変驚きました。


◆「論語と算盤」の現代的な意義とは

 

今から100年ほど前に出版された『論語と算盤』の中で栄一は、論語(道徳)と算盤(経済)はどちらも欠けることなく同一線上に存在するべきだとする「道徳・経済合一説」を唱えました。『論語と算盤』は、現在も多くの書籍や解説書が出版・解説されていて、現代にも通じる哲学書として幅広い世代に認知されています。


これについて渋澤健さんは「『論語と算盤』を今の時代や環境に合った言葉で表現していくとさらなる広がりを持つのではないか」と話します。


「栄一は『合理的の経営』という項目において『経営者一人が大富豪になっても、そのために社会多数が貧困に陥るようであればその幸福は永続されない』、『正しい道理の富でなければその富は完全に永続することはできない』と言っています。その中で先ず注目すべき点は『正しい道理』という言葉。これは、正しい法律、正しいルール、正しいコンプライアンス、といった現代的な表現でも置き換えが難しいもので、『ルールの無い所、その範囲内であったとしても、何が正しいのか自分でよく考えて行動すべきだ』という考えを表しています。『合理的の経営』の二つの教えにもある『幸福の継続(Well being)』『富の永続』という要素を今風に表現すると、『Sustainability(持続可能性)』という言葉になるのではないでしょうか。算盤勘定だけではどこかでつまずいてしまうし、懐古主義的な側面もある論語だけでも未来志向に向いていかない。よって、論語と算盤を合わせることで持続可能な未来を拓こう、というのが渋沢栄一の考えだったと考えられます。Sustainability(持続可能性)は『論語と算盤』の現代における意義のひとつとして解釈できるのではないでしょうか」。


さらに、考えはもう一歩先にまで及んでいきます。


「もう一つ大切な要素として浮かびあがってくるのが栄一の持つ『inclusion(包括性)』の感覚です。『経営者一人が大富豪になっても、そのために社会多数が貧困に陥るようであればその幸福は永続されない』という言葉からも分かるとおり、『幸福とは1%だけでなく、残り99%の人も包括されるものでなければいけない』と言い換える事ができます。ただしそれは、『全ての人が結果として平等に』という安易なものではなく、『機会が平等』であるべきだ、という『機会平等のInclusion』の考えが元になっています。企業創設の他に、大学を始めとした教育機関、病院、社会福祉施設など600件近い事業の創設に関わったことなどから、社会でどのような立場であってもその個人がきちんと能力を発揮できるような社会が近代的な社会の姿であり、栄一はそれを目指していたのではないかと考察できます」。


◆新しいクリエイションを生み出す「と」の力


「実は、渋沢栄一の思想はたった一文字で表すことができます」と、印象的なフレーズから入る渋澤健さん。


「それは『と』の力。『と』の力を持ちましょうと栄一は言っている」と続けます。確かに、あらためて「論語と算盤」の「と」という文字に注目してみると、そこには相反する二者を成立させてしまうような不思議な力を感じることができます。


同じく大切なものとして「か(or)」の力が比較として言及されました。


「0か1か、白か黒かを区別・選別し物事の効率を高める力で組織運営には不可欠の力ですが、それは存在する状態・状況を比べて進めるだけとも言えます。『か』の力だけでは難しい、新しいクリエイションを生むには『と』の力が必要です。論語『と』算盤の間にも優劣の関係はなく、両立している関係。一見すると矛盾していて明確な答えのないもの、それに対し忍耐強く試行錯誤することで、ある時その枠を打ち破ることができる。そこに新しい創造、クリエイションが生まれるのではないか。現代にも通じる『と』の力を提唱したのが 『論語と算盤』であり、さらなる未来への道筋も示してくれているように感じます。個人であれ企業であれ、そういった未来志向の考え方、イマジネーションの力が今後も大切であり、『と』の力は人間力そのものであると言えるのではないでしょうか」。


内容そのもではなく、『論語と算盤』の接続詞に注目するという渋澤健さんの発想は興味深いですね。しかも、それ自体に何か新しいことを生み出せる力を感じました。

◆俯瞰的視点からみる「常識」


栄一は『論語と算盤』の中で「『智』『情』『意』の三者がバランスを保ちながら平等に発展したものが完全なる常識だ」と述べています。これについて渋澤さんは、「どれに偏ることもなくバランス感覚を保つ」ということと似た考えとして、中国の思想のひとつ「中庸」の概念が例に挙げられました。一般的に想像しがちな「足して2で割る真ん中のところ」というものではなく、「状況を鑑みてベストなポジションに居る」というのが中庸の考え方になるそうです。


とても興味深かったのが、「智」「情」「意」に対する「中庸」の位置というお話しで、下の画像を参照していただくと分かるように、三者でつくられた常識を別の次元(別の見方)から捉えるという発想です。


「『論語と算盤』に照らし合わせた場合、論語の軸が社会、算盤の軸が経済だとして、これを同じ次元で考えるのではなく、違う次元のものとして俯瞰して見ていくことで今まで気が付けなかった新たな発見や着想にも繋がります。」と渋澤健さんは強調します。


企業、組織に限らず、個人であったとしても、常に客観的で俯瞰した視点を持って判断や行動することが大切になのだなと感じました。


 
◆日本の向かう未来について考える

 

講義の最後は、日本の向かう「未来」について話しが及びました。


「経済にはリズム感(周期性)があり、過去のリズム感を見ていくとある程度その流れも見えてきます。近代日本の経済周期を見ていくと約30年周期で破壊と繁栄を繰り返している事が分かります。戦後30年間の高度経済成長を経て1990年のバブル崩壊。以降の『破壊された』30年を経て到達した2020年からすでに新しい時代が始まっているのではないか。それは、今までにないスピード感で、日本全国において世代交代の波がきているのを見て、いよいよ新たな世代へバトンタッチしていく時期に入ったのだ」と渋澤さんは感じたと言います。


「先進諸国の大量消費欲を満たすことで豊かになった『made in japan』という昭和の成功体験。平成に入り他国に生産を委ねる『made by japan』という新たなビジネスの形。もちろんそのどちらも大切ではあるけれども、新しい令和の時代ではこれらに加えて『made with japan』に期待したい」と渋澤さんは言います。


「若い世代の新しい価値観による新しい成功体験が創り出されることで、多くの国に期待される日本になっていくことを望みます」と、未来に向けたメッセージを送ってくださいました。


◆勉強会を終えて

経済の勉強会なのに「道徳の概念とは?」という話に始まり、最初のうちは少々疑問に思っていた筆者でしたが、次第にそれは全て経済や社会につながる話であることがわかっていきました。


渋澤健さんが語られた考え方ひとつひとつが理にかなっていて、私の今後の人生においてもヒントになる哲学がたくさん散りばめられていたように感じます。明治期に資本主義の本質を見抜き、多くの会社設立を成功させた渋沢栄一の叡智に富んだ言葉は、目標が失われつつある現代社会にこそ響くのかもしれません。渋澤さんの知恵とアイディアに満ち溢れた言葉の数々に、未来を生き抜く力と勇気をいただくことができました。


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