2022.07.19
こんにちは!
兜LIVE編集部です。
3月26日(土) 、ハイブリッド形式(現地開催&オンライン)で『日本酒を蔵元トークとテイスティングで楽しむ』を開催しました。
今では国際金融都市といわれる日本橋兜町。
江戸時代には日枝神社の門前町として栄え、酒問屋で賑わっていた「日本酒の聖地」でした。
東京証券取引所において初上場時の5回の鐘撞は、酒の原料である五穀豊穣にちなんでいるとのこと。
平日は賑わうこの兜町に、休日にも人が集まってもらいたい。そんな願いから日本各地の蔵元を招き日本酒について学び、味わい、楽しく交流し、その魅力を、兜町の魅力といっしょに広目、お酒が地域と人をつなぐ場所...。そんな場所に発展するように願いを込めて、毎月1回日本酒セミナーを開催しています。
今回は、埼玉県川越市で「鏡山」を醸す小江戸鏡山酒造の蔵元五十嵐さんをお迎えしての開催でしたが、上槽を「跳ね木式」と「ネジ式」による手作業で行っているなど、小仕込みの蔵ならではの珍しいお話を色々とお聞きすることができました。
ハイブリット開催でしたので、リアルでも楽しんでもらえたし、北は函館、西は山口の方にもオンラインでご参加いただきました。ありがとうございました!
<お話の見出し>
◆「鏡山」の廃業と復活の背景
◆蔵について
◆酒造りの工程について
◆酒粕
◆季節限定商品
◆米作りについて
◆蔵開き、その他商品など
◆本日のお酒のご紹介
◆Q&A
▼歴史
・創業は2007年(平成19年)で、まだ15年の歴史しかない。この酒蔵が何故始まったのかお話したい。そのためには、日本酒業界の現状を知ることが欠かせない。
▼日本酒業界の現状
・まず、酒類別の国内出荷量の推移からみてみたい。直近のデータでも2019年(令和元年)のものとなっている。日本酒のピークは1975年(昭和50年)頃で、そこから右肩下がりとなっている。なお、アルコール全体の出荷量も、飲酒人口の減少により減っている。
・日本酒の酒蔵数は、国税庁の最新のデータをみると、2018年(平成30年)で1371蔵となっている。しかし、この全てが製造を行っている訳ではなく、休眠蔵(免許は保持しているが製造していない蔵)があると思われる。稼働しているのは1100蔵程度ではないかと推測している。
・酒蔵数は、1970年代には3500~3600程度あったので、この間、三分の一程度の蔵数になったことになる。
▼埼玉県の酒蔵について
・埼玉県は、実は酒処である。兜LIVE!蔵元トーク!で二年前に紹介された「文楽」、昨年来場された「菊泉」などは飲まれたのではないか。「花陽浴」、「神亀」なども東京で見かけることもあるかと思う。
・よく「埼玉県で酒を造ってるのか」と良く言われるが、日本酒の製造量でみると、47都道府県で4~5位となっている。そのほか、ビールでは、コエドビールなど16社、ワイナリーが4社、「イチローズモルト」で知られるウイスキー会社もある。
・その背景には、荒川、利根川という二つの大きな河川が江戸に繋がっていたという点がある。
・日本酒課税移出数量ランキングをみると、1位は兵庫県、2位は京都府となっており、共に、都であった京都に近かったという背景がある。埼玉は同様に、江戸に近かったということである。
・なお、愛知県が6位と高順位にあるのは、ソニー創業者盛田氏の実家である、「ねのひ」製造元・盛田株式会社の製造量が大きいからである。埼玉県にも、同様に製造量の大きい蔵があるという理由もある。
▼一人当たりの日本酒消費量
・都道府県別に一人当たりの日本酒消費量をみると、1位新潟、2位秋田、3位山形など、皆さんが「酒処」として思い浮かべる先が多いのではないか。
・首都圏はランキングの下位であり、千葉県が37位、埼玉県が38位、神奈川県が41位である。ランキング下位の県は焼酎が飲まれる先も多いので、首都圏の低迷振りが際立っている
▼全国日本酒蔵数ランキング
・次の資料は、2017年(平成29年)のデータをもとにした「全国日本酒蔵数ランキング」である。約3年前に、2012年(平成24年)のデータをもとに大学で講義をした際に作成したものを今回リバイスしたのだが、結果として、ものすごく減少していた。多いところでは6蔵ぐらい減っている先があった。
・全国の合計でみると、数年だけで、大きく減っていることが分かる。
・ここまでの説明で、日本酒を巡る状況が厳しいことがお分かり頂けると思う。そうした中で、何故、新規に酒蔵を創業したのか。それをお話したい。
▼埼玉県川越市について
・当社があるのは、埼玉県川越市。埼玉県で一番の観光都市である。秩父の方が多いのではないかと思われがちだが、それよりも多く、コロナ前の2019年には年間765万人の観光客が来ていた。
・川越市は「蔵の街」で知られる。江戸に物資を運んでいた商人が、当時の日本橋をモチーフにして作ったと言われている。「時の鐘」というランドマークや、多くの寺社仏閣があり、ユネスコにも登録されている「川越祭」には2日間で100万人が来場する。
▼川越市と当蔵の創業
・川越には最盛期に3つの酒蔵があった。しかし、2000年に、最後に残った「鏡山酒造」が廃業した。
・川越は観光都市であり、商業都市という一面もある。東京にも近い。「鏡山酒造」は優秀なお酒を造っていて、出荷状況も良かった。
・そんな中、「鏡山酒造」が廃業したのは、後継者問題によるものであった。社長が急逝し、後継者がいなかったという事情である。
・その後、「蔵の街川越には酒蔵が必要だ」という話となり、当蔵が創業することになったという流れである。
▼「小江戸蔵里」について
・なお、鏡山酒造の跡地が「小江戸蔵里」である。いわば「道の駅」のような施設である。
・「おみやげ処 明治蔵」では、川越のお土産、食べ物・飲み物が販売されており、当社の「鏡山」もブースを設けて販売している。
・「まかない処 大正蔵」は、川越の料亭が運営しているレストランである。日本酒が飲めるほか、郷土料理や、当蔵の酒粕を使った豚肉の粕漬け、魚の西京漬けなどを提供している。
・「ききざけ処 昭和蔵」では、埼玉県の日本酒を少量づつ楽しむことができる。
・皆さんの中には、新潟の「ぽんしゅ館」に行ったことがある方もおられると思う。あれと同じ仕組みで、自動販売機のような機械で、埼玉県33蔵の日本酒を楽しめる。500円でメダル4枚を手に入れて利き酒できる。
・こうしたお酒好きの人が楽しめる施設があるということを、是非覚えておいて欲しい。
・なお、これらの施設は川越市が保有し、民間に運営を委託している。建物は、旧鏡山酒造のものの骨組みを使いつつ、耐震構造にして作り変えている。休館は正月のみで、あとは無休である。
<参考:「小江戸蔵里 ききざけ処 昭和蔵」について>(公式HP)
(※)「利き酒を、コイン1枚からお楽しみいただけます」との記載あり。
(川越水先案内板「埼玉35蔵の地酒を利き酒!小江戸蔵里 昭和蔵ききざけ処で角打ち(2020.1.10))
(※)「500円硬貨1枚で、メダル4枚と交換可能」、「自販機のお酒は一律メダル1枚」、「2メダル以上必要なお酒は売店で入手可能」と記載されています。
<参考:「ぽんしゅ館」について>
(※)新潟駅、越後湯沢駅、長岡駅にあります。
▼「松本醤油」について
・先日、当蔵に、一般社団法人日本橋兜らいぶ推進協議会の藤枝代表理事が来られたが、「醤油蔵しかない!」と困って、「蔵はどこにあるのか」とお電話を頂いた。実は当蔵は、「松本醤油」という醤油蔵の中にある。
・「松本醤油」は180年の歴史がある。当蔵は、松本醤油の松本社長のご自宅を取り壊して、その跡地に建てている。
・2000年に川越から酒蔵が無くなったあと、「酒蔵を創って欲しい」というお話があり、当蔵が出来たのだが、新しく酒蔵をつくるには幾つもの壁がある。免許の問題、土地の問題など色々あるが、自分としては「水」が最大の問題だと思っていた。
・新しい井戸水を掘って、それが当たるのか外れるのか。水の鉄分が多いと困る。
・現在の蔵は、旧鏡山酒造から約500m。そこにある松本酒造の松本社長が「酒も醤油も同じ醸造なのだから、うちの庭で造ればいい」と言って下さり、ここで造ることになった。
・日本酒にも、大吟醸酒、純米酒などのカテゴリーがあるが、醤油にもカテゴリーがある。濃口醤油、薄口醤油、たまり醤油、再仕込み醤油、白醤油と分類され、松本醤油は再仕込み醤油を造っている。
・再仕込み醤油は、日本酒でいえば貴醸酒、ワインではシェリーのようなもの。醤油を造る際、途中に塩水の代わりに醤油を使用する。再仕込み醤油は、全国の醤油生産量の1%程度だという。
・松本醬油は、マツコ・デラックスさんに気に入られており、「マツコの知らない世界」や「マツコ&有吉 かりそめ天国」で醤油やドレッシングが取り上げられている。
▼五十嵐酒造
・1897年(明治30年)創業で、埼玉県飯能市にある。「天覧山」と「五十嵐」という銘柄のお酒を造っている。自分の実家であり、兄が社長として切り盛りしている。自分は次男である。
・小江戸鏡山酒造にとって、五十嵐酒造は無くてはならない存在である。小江戸鏡山酒造には瓶詰め設備がないためである。一部、当蔵で直汲み等をしているものはあるが、大半のお酒は、造ったあとに五十嵐酒造に持って行って瓶詰めしている。
・お酒の裏ラベルを見ると、「製造者 小江戸鏡山酒造」、「加工者 五十嵐酒造」とある。これは、改正された食品表示法により表示が求められるようになったものである。
▼書籍「日本酒ができるまで」
・先般、「日本酒ができるまで」という本が発売された。恐らく小学生向けの本で、シリーズには「とうふができるまで」、「みそができるまで」などの本がある。
・この本の内容は、小江戸鏡山酒造で取材されたものである。1年以上に亘って取材され、今日ご用意できなかった場面なども含め、40ページにまとめられている。Amazonで購入可能なので、是非ご覧頂きたい。
<参考:「日本酒ができるまで」>
(※)岩崎書店、定価2,420円(本体2,200円+税)。
▼蔵の紹介
・ここで、YouTubeに載せている当蔵の紹介映像をご覧頂きたい(3分39秒)。元々は海外向けに作ったもの。この映像の中で、ご紹介したい点は沢山ある。
<YouTube「鏡山」酒蔵紹介映像>
<YouTube「鏡山」酒蔵紹介映像>(英語)
・蔵のサイズは最小で、テニスコートのサイズ(23.77m×10.97m=260.75㎡)、または、プロレスのリング(一辺6m程度、12m×12m=144㎡)4つ分に相当する。
・「甑が移動式になっている」という点も、映像からご理解頂けたかと思う。上槽シーンもあるが、ヤブタや佐瀬式の槽はない。人力で搾るネジ式と、天秤式(跳ね木式ともいわれる)の槽しかない。麹造りも手造りで、夜な夜な泊まって麹造りをしている。
・スタッフは少人数で未来に向けて頑張っている。皆若く、自分と41歳の杜氏が平均年齢を上げている状況。経営は家族経営である。
・仕込みタンクは6本のみ。全てサーマルタンクである。これは、当蔵が9月のお彼岸明け、9月末頃から仕込みを開始し、造りを終えるのが7月頃となっているためである。
・普通は冬に酒造りをすると思うが、当蔵は狭いので、造っても造っても量が追い付かない。そのために、ほぼ三季醸造となっている。
・「新酒しぼりたて」という酒を11~12月に販売するが、今回用意したお酒は全て「しぼりたて」なので、何をもって新酒というべきか難しい。モノによっては熟成させたものもあり、秋口に「純米原酒」、「生酛原酒」をリリースする。
▼「酒造りは米作りから」
・米作りについては、自社田でやっている訳ではない。9軒の農家さんと米作りをさせて頂いている。品種は「さけ武蔵」。埼玉県唯一の酒米である。
・「さけ武蔵」は、粒が大きい、タンパク質・脂質が少ない、低温で米が溶けやすい、デンプン密度が高い、中心部に細かい隙間(心白)があるといった特徴がある。
・心白は麹造りで重要になる。酵素の力が長持ちする耐久性の高い麹を造るには、突き破精にする必要があるが、そのために心白が必要になる。
・「保水力に優れている 柔らかいが硬い」と資料に記載した。表現が難しいのだが、「さけ武蔵」は蒸し上がりが柔らかく、その後すぐに硬くなるというお米である。
・「さけ武蔵」は「改良八反流」と「若水」を交配して2004年(平成16年)に生まれた品種である。
▼全国新酒鑑評会について
・当蔵は、7年前から、全国新酒鑑評会に「さけ武蔵」を使用したお酒で出品している。こうしたことをしているのは当蔵だけである。
・多くの蔵は出品酒に山田錦を使用する。それがセオリーであるのは重々承知しているが、埼玉ブランドを少しでも向上させたいという思いで「さけ武蔵」を使用している。なお、製造量全体でみた「さけ武蔵」の使用率も、当蔵が一番なのではないかと思う。
・とはいえ、実のところ、「さけ武蔵」は大吟醸造りに向いた米ではない。じゃじゃ馬で難しい。7回チャレンジして入賞が4回、金賞は1回。入賞率は71%だが、金賞を取るのは難しい。
・昨年から、出品酒の使用酵母をM310から1801号に変更した。M310は東日本で良く使われている、茨城県明利酒類さんが開発した酵母。また、種麹は「黒判」から「白夜」に変更した後、今は「吟香」に切り替えている。
<参考:秋田今野商店「特別醪用吟香」>
(※)「ロイシン酸生成力が強く、香りと味の調和のとれた清酒になります。純米酒、本醸造酒等上級酒に適します。」との記載。
▼米洗い
・洗米の水温は常に10度に保っている。当蔵は秋に仕込みを開始し、冬・春を過ぎ、仕込みを終えるのが6~7月となると、水源の水温は変動する。ストップウォッチを使用して1秒単位で吸水したとしても、水温が一定でないと意味がない。
・洗米は、MJPと手洗いを併用している。主に、酒母と麹に使用する米は手洗いしている。掛米はMJPが多い。
・洗米は重要な工程で、10kg単位で行う。洗米後のお米は、吸水が少なめだと12.4kg、多めだと13.3kgになる。そうした違いがあるのは、添えなのか、留なのかによって吸水率を変えているからである。
▼蒸し
・甑は移動式である。他の蔵では、和釜を用いて下から蒸し上げるところもあると思うが、当蔵は狭いので、キャスターの付いた甑を使用して、外で蒸している。キャスターに蒸気管のホースが付いており、移動させることができる。
・当蔵はタンクが小さいので、甑で蒸す最大量も留掛けで200kg強である。それに麹米用が加わったとしても、一回の蒸しで300kg内に収まるレベルである。
・なお、放冷は2パターンある。先ほどの動画では、放冷機を使用して冷却していたが、スライドの写真は、自然放冷している様子を示している。
・蒸米の移動は、全て手運びで行っている。エアシューターを使えると、冷却も出来て良いと思うが、スペースを取るので、狭い当蔵では設置できない。留掛けで210~220kg程度のものを、60回ぐらい階段上り下りして運ぶ。
▼醪タンク
・小さなサーマルタンクが6本あるのみである。仕込は総米600kgか700kg。750kgにするとタンクに入りきらない。小仕込みなので量は出来ないが、品質管理は行いやすい。
・なお、タンクも小さいが、他の道具も連動して小さいものになっている。甑、放冷機、槽など、似た規模感になっている。
▼麹造り
・昔ながらの蓋麹、箱麹で手造りしている。麹室は、当蔵の中で一番広い面積を占めている。蔵全体の四分の一程度を占める。
・種麹は、酵母や米の種類に比べると注目されにくいが、味と香りに影響するものとして重要と考えている。手探りで試行錯誤している。使用している代表的なものとしては、「白夜」、「吟香」、「吟麗」、「黒判」 などがある。
▼発酵
・長期低温発酵を行う。
・使用酵母は多い。当蔵は20種類以上のお酒を造っており、酒によって酵母を使い分けている。具体的には以下の通り。
・なお、埼玉Gは、埼玉県和光市にある理化学研究所が埼玉県と共同して開発した。元々あった埼玉C酵母に「重イオンビーム」を照射して変異させたものである。
▼上槽
・上槽では、天秤式とネジ式を使用する。ネジ式では、人手でネジを回して圧をかける。スライドの左側で自分が搾るのに使用しているのがネジ式。その写真の右側にあって、電柱のようなものが載っているのが天秤式である。
・ヤブタは非常に早く搾ることができ、半日もかからない。酸化を防ぎ、ガス感を保てるので非常に良い。それに対し、当蔵の搾り方では4日間かかる。非常に時間をかけて搾っている。
・ヤブタや佐瀬式は、機械が自動で圧をかけてくれるが、天秤式やネジ式では、常に人手で圧をかける必要がある。四六時中、定期的に圧をかけに行く必要がある。
・袋吊りも行う。スライドでは、醪を酒袋に入れ、一つ一つ吊っているが、今年から方法を変えている。現在は、先に酒袋を槽に吊り、吊ってある袋に醪をホースで注いでいる。
・袋吊りの方法については、どうやら他の蔵はそうした方法に切り替えてきているようで、当蔵は遅れ馳せながら方式を切り替えた次第。
・こうすることにより、上槽にかかる時間を短縮することができる。即ち、「醪を酒袋に入れ、一つ一つ吊っていく」という方式だと、それだけで30分ぐらい掛かってしまう。初めから吊るしてある袋に醪を入れることで、早く上槽し、ムラも減らすことができる。
◆酒粕
・当蔵の酒粕は柔らかいので大変人気がある。人力で圧を掛けているので、酒粕は、他蔵に比べると搾りきれていない可能性がある。当蔵では、粕歩合が50%を切ることがまずない。
・酒粕は、どういう情報源なのか分からないが、北海道から沖縄まで、全国から購入希望がある。「1袋購入」というケースでは、クールの送料が1200~1300円するので、不思議に思っている。
<参考:「鏡山」オンラインショップ「袋しぼり酒粕」>
(※)400gで540円(税込)。
◆季節限定商品
・当蔵では、年間10種類以上の季節限定商品を出している。本当は、毎月何か限定商品を出したいので12種類欲しいのだが、まだそこまでは行っていない。
・今年は、6~8月頃に、新商品として貴醸酒のしぼりたて生原酒を販売予定である。但し、予約受注生産として、限られた酒販店さんで少量の販売になる見込みである。
・貴醸酒は熟成酒として出されるケースが多いが、当蔵では、出来立てのものを出したいと思っている。
◆米作りについて
・9軒の農家さんと協力して米作りをしていることは先ほど説明した。酒造りを行っていない7~9月に米作りに参加している。
・生産者という加工者という関係を越えて、埼玉県、JA、全農さんに入ってもらって、データをもとにした米作りを推進している。
・契約栽培は、蔵元の思いと、農家さんの経験と勘で行われる。経験と勘は大事なのだが、年によって、天候不順、病害虫、日照時間、積算温度などが変わってくる。
・これに対応するため、「さけ武蔵生産組合」を立ち上げて、埼玉県、JA、全農さんの力を借りて、酒造りに適した良い米を作るための取り組みを行っている。
・これが、一昨年の埼玉農業大賞で優秀賞に選ばれた。品質向上のための取り組みとして、データを共有し、何時植えて、刈るのか等について客観的に検討できるようにしてきている。
<参考:令和2年・埼玉農業大賞・優秀賞「JAいるま野(の)さけ武蔵生産組合(むさしせいさんくみあい」>
▼蔵開き
・蔵が狭いので、歩行者天国のように路上を封鎖して使わせて頂いている。今年は出来なかったが、来年は是非やりたい。
・試飲ブースや、食べ物の店舗を用意して開催している。当蔵だけでなくコエドビールさんに協力して頂いたり、酒米の卵かけご飯を提供したりしている。卵かけご飯は結構評判が良い。子豚の丸焼きなども豪快にやっている。
▼その他商品
・酒粕カステラや、酒粕クリームチーズを販売している。酒粕クリームチーズは、酒粕にクリームチーズを漬け込んだもの。非常に美味しく、月に何千個と売れている。
・年末からポークジャーキーを販売している。埼玉県は牛ではなくて豚が特産品。それを熟成練り粕に漬け込んで作っている。
▼ガラスアート
・当蔵のある松本醬油さんの敷地内には、ガラスアートを作る場所がある。吹きガラスを体験できる施設となっている。幼稚園児から体験できて、コップや一輪挿しを、色々な色や形で作ることができる。30分あればマイグラスが作れる。
・先日、週刊ダイヤモンドで連載されている山本洋子さんが取材に来られた際に体験された。
▼醤油蔵の見学
・土曜日曜祝日は、醤油蔵の見学がある。午後1時、2時、3時に開催される。是非お越しいただきたい。
① 鏡山 特別純米無濾過生原酒 雄町
・今月(3月)発売されたばかりのお酒。仕込1本目は既に完売。4月初にもう一回販売するので、関心のある方は探してみて頂きたい。
・「鏡山」は1801号酵母を使用しているものが多い。今、だいぶ冷やして提供頂いているが、少し手で温めて頂くと良いと思う。
・ビールでは「エクストラ・コールド」など、マイナスの温度まで冷やして提供されるものがあるが、日本酒は、低温だと保管には望ましいものの、味わうには苦み・渋みが前面に出やすくなる。
・なお、当蔵は、日本酒度・酸度・アミノ酸度は非公表としている。表示されていると便利と思われることもあるだろうが、表示されることにより、購入の阻害要因になる可能性もあるのではないかと思っている。
・例えば、「日本酒度+10」や「日本酒度-10」のお酒があったとする。「私は日本酒度の高いものが好みだから」という理由で「日本酒度+10」を選ぶ人がいるかもしれず、また、その逆も考えられる。
・そうした理由で選択肢から外れてしまうのは勿体ない。数字ありきで判断するのではなく、まず味わってみて欲しいと考えている。飲食店や酒販店さんから「数値を教えて欲しい」と言われることもあるが、一切公表していない。
②鏡山 純米吟醸 新酒搾りたて
③鏡山 純米大吟醸 隠し酒
・このお酒は、愛飲家の皆さんが造ったお酒である。当蔵は、酒造りの場所を提供し、手出しと口出しはさせて頂いて、毎年、「皆さんで酒を造ろう」といって造って頂いている。
・こうした取り組みをしているのは、酒造りについて、話を聞いたり、YouTubeで動画を見たり、本を読んだりしても、伝わりきらないことがあると考えているからである。五感で酒造りを経験して頂きたいと思う。
・種切り、麹造りから、全てやって頂く。「仕事はどうするのか?」と思うかもしれないが、GWに行っている。連休に、洗米、麹造り、添え仲留の仕込みを行う。上槽は5月末~6月初。直汲みしたりする。
・タンク1本で1200L程度のお酒となる。多いと思うかもしれないが、これを4商品に分ける。一つは直汲み。その場で瓶詰する。次に、滓酒。あとは、生原酒と火入れ原酒にする
(Q)上槽の天秤式とネジ式は、どう使い分けているか。
(A)1タンクで600kg仕込みか700kg仕込みをしているが、醪の量で1800L程度になる。その量は、一つの槽には入らない。
上槽時は、まず天秤式とネジ式の両方が満タンになる。それで同じ程度の圧をかけていくが、最終的にはネジ式の方が高い圧を掛けられる。
そのため、責めの部分は、ネジ式のみで行う。槽では酒袋の積み替えがあるが、その際に、天秤式で搾っていた袋をネジ式の方に移し、最終的にネジ式に纏める形となる。
(Q)酒袋は化学繊維ですか、綿ですか。酒のスペックにより使い分けていますか。
(A)槽搾りでは、耐久性の問題から、化学繊維の袋を使用している。酒袋が圧に耐えられないと、雪崩式に槽の中で崩れてしまう。それで余計な香りがつかないように下処理は行っているので心配はない。
一方、出品酒などの袋吊りでは、綿タイプのものを使用している。毎年新しいものを使う。「たかが袋」ではあり、わずかな香りだが、袋臭がなくなるよう、袋を洗うのに3週間かけて、毎日洗っている。最終的には酒に漬けて処理する。
(Q)醤油蔵見学はGWもできるか。また、醤油づくりは実体験ができるのか。
(A)土日祝日に実施しているのでGWもやっている。正味15分程度で、運が良ければ、醤油粕を食べる経験もできるのではないか。
なお、醤油づくりは2年コースであり、また、危険が多いので、実体験はしていない。
(Q)「鏡山」の復活に五十嵐さんが携わることになった理由は何か。また、酒造免許はどうされたのか。
(A)酒造免許については、新規に発行を受けることはできない。いくらお金があっても無理である。例えば、サクセスストーリーで、何かに成功してワイナリーを持つといったケースがある。日本でもワインなら可能だと思う。
しかし、日本酒は新規免許を発行しない。需給調整と呼ばれ、酒蔵数と飲み手の人口に照らして、新規免許は不要とされていると理解している。ビール、焼酎、ワインなどは、恐らく新規免許が出され得るのではないか。
また、米の発注もなかなか難しい。当蔵でいえば、10か月後の今年の秋に収穫する米を発注している形になる。それを頼りに、4月、5月に田植えが始まる。そうしたバランスも、創業の壁になり得る。
では、当蔵がどのように酒造免許を得たかといえば、「川越で酒蔵を復活させたい」と言ったときに、他県の蔵で「それなら当蔵の免許を使ってくれ」という先があった。その際、対価なしに無償で譲り受けることができた。
なぜ自分が、という点だが、旧鏡山酒造と、実家の五十嵐酒造は、昔から仲良くさせて頂いていたという縁がある。川越は飯能の隣ということもあり、五十嵐家に話を頂いて、今に至るという経緯である。
毎回、恒例の集合写真です。ハイブリッド形式でしたので、現地参加の方とオンライン参加の方、ご一緒に!!
*写真撮影の時のみマスクを外しております
・川越の酒蔵復活劇!素晴らしい物語でしたね。少数精鋭で素晴らしいお酒を造る環境や体制に感動です。これからも楽しみにしたいます!
<番外編:KABUTO ONE1階アトリウム 渋沢栄一が生涯大切にした佐渡の赤石にて!>
*兜LIVE! 蔵元トークのイベント情報はこちら
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