2024.12.17
2024年11月27日(水)、仕事終わりのビジネスマン達が続々と FinGATE KAYABA に集まります。
建物入口の掲げられた看板を見て、足を止めて会場をのぞく人もちらほら。
この度開催された「家計簿の夕べ」は、「夢をかなえ、豊かな暮らし、安心できる家計を実現する道具として家計簿をうまく活用して貰う」ことを目的としたイベントです。
金融経済教育の最前線にいる専門家の方々が「家計簿の役割」を追求する、濃厚な2時間の模様をレポートします。
イベントは、家計簿普及促進委員会代表・株式会社マネーフォワード執行役員 グループCoPA サステナビリティ担当 Fintech研究所長 瀧俊雄氏の挨拶で幕を開けました。
瀧氏は、「このイベントは空前絶後のイベントである」と口を開きます。
そろばんで勘定し、紙に鉛筆で書くのが当たり前だった昔と違い、今や家計簿は、デジタルツールを使って一瞬で作成できるようになりました。
家計を考えることは金融知識を身に着ける第一歩であり、金融リテラシーの低さが問題視される今、家計簿が果たす役割はますます高まっています。
その知識を錚々たる専門家が無料で提供するこのイベントは、まさしく「空前絶後」と言えるでしょう。
これからの時間で一体どれだけの学びを得ることができるのか、参加者の期待が高まります。
いよいよ、金融経済教育推進機構(J-FLEC)普及推進部長 野見山浩平氏の基調講演が行われます。
野見山氏は、まず金融経済教育推進機構(J-FLEC)設立の背景について説明します。
物価高騰が家計を直撃し、成年年齢が18歳に引き下げられる一方で、長寿命化が進み(人生100年時代)、投資詐欺のニュースが世間を騒がせる昨今。金融経済教育の重要性が叫ばれていることは周知の事実です。
しかし、日本国民の中で「金融経済教育を受けた」と答えられる割合は、わずか7%(「金融リテラシー調査」(2022 年)。
この事態を改善すべく、「中立公正な教育を、官民一体で国全体に推進する」ための「金融経済教育推進機構(以下 J-FLEC)」が設立されました。
この「中立公正」というところがポイントです。
例えば、金融教育の担い手が金融機関の人間であった場合、受け手は、ある特定の金融商品を買わされることを危惧します。それは教育の普及を阻む原因として見過ごせません。
そこでJ-FLECは、
・金融商品の組成や販売等を行う金融機関を兼業していない
・上記金融機関から、顧客に対するアドバイスの信頼性等に影響を及ぼしうる報酬を得ていない
・個人向けアドバイスに有益な一定の資格や業務経験を有すること
等の要件を満たす個人を「J-FLEC認定アドバイザー」として認定、公表し、中立公正な金融教育を実現しています。
さて、J-FLECの注目すべき事業内容の一つは、「J-FLECはじめてのマネープラン」です。
金融経済全般に関する質問を受け付ける電話相談や、最大1時間の個別相談(対面またはオンライン)を、なんと無料で体験することができます。
こちらは2024年8月以降に始まった新たな試みで、中立公正な金融教育の入口として画期的な事業といえます。
さらには、ライフプランの作成からアセットアロケーション提案までを含む本格的な相談が可能なプランを、割引価格で提供するクーポンも配布されています。
野見山氏は「まず体験してもらう」ことの大切さを強調し、「一人一人の記憶に残る」、「他人事ではない、自分事としてとらえる」金融経済教育を普及したいという意欲を示しました。
J-FLECの取り組みは、顧客が安心してお金の相談ができる場を提供し、日本の金融リテラシー向上の一助となるでしょう。
野見山氏の基調講演を終え、続いて家計簿普及推進委員会の方々によるパネルディスカッションが行われます。
登壇者は次の通りです。
株式会社マネーフォワード執行役員 グループCoPA サステナビリティ担当 Fintech研究所長: 瀧 俊雄氏
株式会社くふうAI スタジオ マネーサービス開発部部長 : 深谷 皇紀氏
マネーツリー株式会社 マーケティング部 エンタープライズマーケター :山本 真規子氏
スマートアイデア株式会社 代表取締役 : 江尻 尚平氏
ときわ総合サービス株式会社 営業部次長 : 二宮裕子氏 (順不同)
まずは、『わが国の金融リテラシーの現在地』についての談論が行われます。
家計簿を提供する各社は、日本の金融リテラシーの状況についてどのように認識しているのか。それぞれの意見が交わされました。
スマートアイデア株式会社 江尻氏:
江尻氏はファイナンシャルプランナーとして活躍されており、金融リテラシーが不足している人々の相談を多く受ける立場にあります。
相談者は知識不足からくる不安が強く、専門家の意見に頼り、尚早に何かしらの金融商品を購入してしまうケースがあるそうです。
その結果、不要な出費がかさむだけでなく、金融リテラシーは低下したまま、という事態が引き起こされます。
一方で、おかねレコ等の家計簿アプリを使う利用者は、家計の収支を把握することを通じ、知らず知らずのうちに金融の知識を得、リテラシーが向上する傾向にある、と江尻氏は語ります。
自分の資金状況を知ることで、資産運用を行う余裕が生まれ、さらに基本的な金融知識を活かして「自分に適した金融商品」を判断できるようになります。
このように、家計簿を利用することは、日本の金融リテラシーの向上を促す手段の一つとして促進されるべき、と江尻氏は訴えました。
マネーツリー株式会社 山本氏:
同社は、資産管理サービス「Moneytree」を展開しており、創業者のポール・チャップマン氏はオーストラリアの出身です。
オーストラリアでは国家戦略として金融教育が行われており、その進捗度合は日本の10年先を行っているといいます。
特に注目すべきは取り巻く環境の違いです。オーストラリアでは「スーパーアニュエーション」という取り組みがあり、雇用主は従業員の退職金運用を義務付けられています。従業員が自分で運用先を選ぶこともでき、オーストラリアでは投資が日常的なものとして浸透していることが伺えます。また、若くからクレジットカードを活用してリボ払いが一般的なので、返済計画をシビアに考える習慣を身につけなければならないそうです。自然と金融リテラシーが養われるオーストラリアの慣習を聞いて、参加者は一様に驚いていました。
山本氏は、オーストラリアの事例から、「お金に関する情報収集能力」を身に着け、金融リテラシーを高める必要があるのではと課題を呈しました。
ときわ総合サービス株式会社 二宮氏:
二宮氏は、若い学生と大人の間に金融知識の大きな差はないと言います。しかし、どちらの層にも共通して、座学で得た知識と、実際の金融商品に触れる実践的な能力の間には隔たりがある、と指摘します。
同社が提供する「明るい暮らしの家計簿」は、座学と実学の懸け橋となる重要なツールです。創刊から74年、日本の金融経済教育に欠かせない存在として広く活用されています。
二宮氏は、家計簿が、座学と実学のギャップを埋めるツールとして活用されることを推奨しました。
株式会社マネーフォワード 瀧氏:
二宮氏と同様に、座学と実学のギャップをなくすことの重要性を説く一方、「自分の負債を正しく自覚する必要性」を強調しました。
日本では、「お金の問題を語ることは避けるべきだ」という無意識の観念が存在しています。その意識を無くし、お金の動きを可視化するツールが身近な存在になるべきであると述べました。
株式会社 くふう AI スタジオ 深谷氏:
深谷氏は、クレジットカードや電子マネー、バーコード決済など支払い手段が多様化する中、「どのツールでどれくらい支出しているのか把握しづらい」と悩む人が多いと指摘します。
若い世代は、不安を払拭するためにSNSやYoutubeを通じて知識を得ようとしますが、そこで得られる情報は時に信頼できないものもあります。
彼ら若い世代に対してどのような教育を行うかが今後の課題であり、その中で家計簿が果たす役割の大切さが改めて強調されました。
続いてのディスカッションテーマは、『日本の金融経済教育の現状』です。
マネーツリー株式会社 山本氏:
先ほどのディスカッションでも話されましたが、オーストラリアでは若い世代の頃から金利や投資に触れる機会が多いため、日本に比べて金融教育へのモチベーションが高いといわれています。
一方で、日本でも画期的な試みは行われており、中でも山本氏が注目するのは、ORコード決済でたまるポイントを運用できるサービスです。
1ポイントから運用を始められるため、投資のハードルが低くなり、実践を通じて金融知識を身に着ける有効な手段として紹介されました。
日本の金融経済教育は、国際的に見れば見劣りするものかもしれません。しかし山本氏は、「日本は日本独自の方法で金融教育を行うことができる」と期待感を示していました。
スマートアイデア株式会社 江尻氏:
スマートアイデア株式会社はベトナムに開発拠点を持っています。
江尻氏によれば、東南アジアでは金利が高いため、「貯蓄が運用方法として一番よい」と感じることも多いそうです。そのため、正直金融リテラシーは日本と比べてそれほど高くない、と語ります。
しかし一方で、ベトナムではキャッシュレス化が飛躍的に進んでおり、「むしろ現金での決済は危険」という認識があるそうです。
今後、金利が下がれば日本と同じような状況になる可能性は高いですが、デジタルリテラシーはベトナムが日本をリードする可能性もある、と予測を立てました。
株式会社マネーフォワード 瀧氏:
瀧氏曰く、子どもは自分の親以外の職業を知らないことが多く、周りの人がどのように収入を得ているか理解していないケースがあるとのことです。その場合、ともすると「お金を稼ぐ」ことがネガティブに捉えられ、それが金融経済教育の遅れの原因になるのでは、と瀧氏は危惧します。
幼年期から職業のサンプルを多く見せ、自分の将来の選択肢を学ばせることが重要だと瀧氏は指摘しました。
株式会社くふうAIスタジオ 深谷氏:
深谷氏は、家庭内で行うことができる金融経済教育について言及します。
おそらく、個人の支出や収入の内訳を共有している家庭は少ないのではないでしょうか。子どもがバイトをしたり、親が臨時で出費をしたりしても、資金のやりくりは個人間でのみ行われ、家庭の資産として捉えられることはまれだと思います。
深谷氏は意識改革を推奨します。まず家族を単位にして金融について話し合う習慣をつくれば、金融経済教育の最初の一歩を踏み出すことになるはずです。
ときわ総合サービス株式会社 二宮氏:
二宮氏は、キャッシュレスによりお金の流れを掴むことが難しい昨今、家計簿の重要性を再認識する必要があると主張します。
とりわけ、親元から離れて生活する下宿生や新社会人といった若い世代は、自分のお金の動きを把握するため家計簿を利用し、意欲的に金融経済の知識を得ようとすることが多いそうです。
二宮氏は、金融リテラシーの向上を目指す国の思いと、若い世代の思いはリンクしていると述べ、金融経済教育が更に発展していくことに希望を寄せています。
パネルディスカッションもいよいよ終盤。
最後のテーマとして、『金融経済教育の推進に関して、家計簿はどのような役割を担えるか』が議論されました。
家計簿が教育現場で利用される際の留意点や、家計簿提供企業が金融リテラシーの向上のために取り組んでいることについて、各パネラーが意見を述べました。
ときわ総合サービス株式会社 二宮氏:
二宮氏は、家計簿の役割は家計改善にとどまらず、家庭で行える金融経済教育でもあると語ります。闇バイトや投資詐欺など、金融知識の少ない人をターゲットにした犯罪が横行する現代、騙されないためのリテラシーを学ぶことは喫緊の課題です。
その入り口として、家計簿を利用し、家計の収支状況を把握することの重要性が繰り返し主張されました。
スマートアイデア株式会社 江尻氏:
江尻氏は、ファイナンシャルプランナーとしての立場から、支出を把握するツールとして家計簿を使うことを強く推奨します。
また、YoutubeやSNSで情報過多となりがちな現代において、質が高く、中立公平なアドバイザーの存在が重要であると述べ、同社の「おかねレコ」が提供する「スマート家計AIアドバイザー」にも言及します。誰もが安心してアドバイスを受けられる仕組みが求められる中、J-FLECの取り組みは大変意義深いものだと語りました。
株式会社くふうAIスタジオ 深谷氏:
深谷氏は、「家計簿は最も身近な金融ツール」であり、支出によって得ることができた価値を自覚することが重要だと語ります。
時に、お金を使うことはネガティブな印象をもたれる場合があります。しかし、家計簿を利用することによって、「お金を使ってよかった」とポジティブな振り返りをすることができる機会が増える、と深谷氏は言います。
そういった経験の積み重ねが、将来のお金の使い道や運用についての関心を高め、金融リテラシー向上への意欲に繋がるのではないか、と語りました。
株式会社マネーフォワード 瀧氏
瀧氏は、デジタル全盛期の今こそ、あえて家計簿を紙で作成することによって、自己理解を深める時間を確保することができると提案します。
そして得られた知識を身近な人と共有することが、日本全体の金融リテラシー向上の糸口になると語りました。
マネーツリー株式会社 山本氏
山本氏は、金融経済教育においては、学ぶ人へのアプローチと同じように、教育者に対するサポートも重要だと語ります。
家計簿普及促進委員会が目指すのは「一画面で資産を見える化」することと主張し、今後の日本の金融経済教育の発展に期待を寄せました。
J-FLEC普及推進部長:野見山氏
野見山氏は、今回のイベントの総括として「金融リテラシーは生きるための道具であり、家計簿はその重要な土台」と強調しました。
道具は、個々のニーズに応じてカスタマイズし、最適な使い方を見つけることができます。
野見山氏は、自らの経済状況を管理し必要な選択をすることによって、経済的に満たされた生活を実現することが、J-FLECのミッションである、と語ります。
金融経済教育を、他人事ではなく自分事として捉えることの重要性を聴講者に訴え、今回の「家計簿の夕べ」を締めくくりました。
金融経済教育の在り方や金融リテラシーの重要性についてトークが繰り広げられた「第7回 家計簿の夕べ」は、熱気に包まれる中で幕を閉じました。
本イベントには、事前に予約した参加者だけでなく、飛び入り聴講者も多い印象を受けました。
為替変動が私たちの家計に深刻な影響を及ぼす現代において、多くの人々が金融知識の習得を求めていることを実感します。
家計簿の役割を再認識するイベントとして「家計簿の夕べ」はこれからも回数を重ね、金融経済教育の発展に寄与することでしょう。
兜LIVE!では、これからも金融経済に関するイベントやセミナーの情報を発信していきます。お見逃しなく!
(取材・執筆 和香葉)
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