2021.07.18
大通りを少し入った小道に、ひっそりと佇む『雄峰堂書店』さん。このエリアに唯一残る本屋として、TV番組『出没!アド街ック天国(以下・アド街)』でも紹介されました。金融街に昔からある本屋さんって、とってもディープなイメージ……。一体どんな店長さんとお店なのでしょう?店長の森山篤さんにお話を伺いました。
すみませんね、こんなところに来てもらっちゃって。
―― 何をおっしゃいますか(笑)。街の本屋さんって、久しぶりに来ました。
街の本屋はどんどん無くなっていますからね。うちも残っているのが不思議なくらいですよ。
―― 雄峰堂さんは、このエリアに唯一残る本屋さんと聞きました。
そうですね。私の父が1970年に始めて、今年で52年目になります。
今は個人店ですが、元々はフランチャイズ店の一つだったんです。雄峰堂の本社が新橋にあって、店舗は全部で50くらいあって。でも本社が無くなっちゃって、うち以外の店はすべて閉まっちゃったんですよ。
―― そうでしたか。当初は、東京証券取引所の中にお店を構えていたと聞きました。
はい。うちは時代に合わせて何度か引越しをしていて、このビルは4つ目の場所になります。
1つ目は、東証の中。当時「東京証券消費生活協同組合」という生協みたいなものが東証の地下にあって、紳士服屋、コーヒー屋、電気屋など、色んな店が入っていたんです。うちもその一つでした。
2つ目は、郵船ビルの中。今K5が建っている場所にあったビルです。3つ目は、ヤマタネビルの中。今KABUTO ONEを建てている場所にあったビルです。そして現在に至ります。
―― そうでしたか。それにしても、難しそうな本がいっぱい……。
うちに置いてある本は、金融関係のものが5割ですね。金融系の雑誌、珍しい証券関係の新聞、あとは一般書籍や雑誌も置いています。一般書籍は、売れそうな新書を優先して仕入れていますね。
―― タバコもあるんですね。
タバコね。昔、東証の中に「トウショウ売店」ってものがあって、そこの洗濯屋さんがタバコを扱っていたんですけれど、その店が閉まっちゃってね。それでうちが引き継いで、それからずっと置いています。
あと置いているのは、ネクタイ、ベルト、傘。お店には並べていないけれど、CDも扱っていますよ。注文が入ったら仕入れるんです。
アイドルCDは、お客さんの方が情報収集が早くて。私のところに情報が入る前に、初回限定版の予約電話が入りますよ(笑)。
―― そうなんですね(笑)。雄峰堂さんは、宅配もしていると聞きました。
多少条件はありますが、一冊から無料でお届けしています。うちは店舗販売の他に外商もやっていて、売上の7割は外商からなんですよ。
外商のお客さんは9割が法人で、やっぱり金融関係の会社さんが多いですね。その他は、保険会社、メーカー、広告代理店、病院、薬局、美容院、歯医者さんにお届けしています。
金融会社さんには金融関係の雑誌を。美容院や歯医者さんには、患者さんが読む一般雑誌をお届けしていますね。
―― 街中の人と顔見知りなんですね!
Amazonに対抗するためには、お届けするしかないんだよね(笑)。
―― このお店、なんだかホッとします。
うちは、そんなに頻繁にお客さんが来る店じゃないからね。だからこそ、一人一人のお客さんに親身に対応できるのがウリです。
「こういう本ない?」って聞かれたら、徹底的に情報を調べています。「いつも詳しく調べてくれて助かる」と喜んでもらえますね。
新規のお客さんにも、「何か必要な物があれば探しますよ」って声をかけますよ。もちろん、“話しかけないでオーラ”が出ている方はそっとしておきますけれど(笑)。
最近は、新たに株を始めようとしている若い方が来てくれることもあります。「『アド街』を見た」と言って。「最初はこういう本がいいですよ」って、適切な本をオススメしています。
お客さんの株の経験や知識レベルに合った本をご提案できることも、うちの強みだと思いますね。
―― 司書みたいですね!本のことを相談できる人が近くにいると心強いです。
うちが大手の本屋さんに勝つためには、そういうことをするしかないんだよね(笑)。常連さんが多いから、自動的にそういう対応になるんだけれど。
―― お客さんは、金融関係の方がほとんどですか?
7割は金融関係の方ですね。あとは、この辺で事業をしている弁護士さん、社労士さん、料理店や美容院などの方もいます。もちろん、この辺の住人の方もいます。
本だけでなく、アイドル雑誌もよく売れるんですよ。お客さんの「推し」が載っている雑誌が発売されるとなると、早々に予約注文の電話が入ります(笑)。
―― (笑)。長年の常連さんも多いですか?
多いですね。50年近く通ってくださっている方もいます。
実はね、長い常連さんでも、店が今の場所に移ったことを知らない人もいて。先日の『アド街』を見て、「まだやってたの?移転したの知らなかったよ~」と久しぶりに顔を出してくれた方もいるんです。
―― え~!それは感動!
うれしいですよね。
皆さん、「まだやっているのか?もうくたばっているかと思ったよ」なんて冗談を言ってくれるほど、長~い付き合いなんですよ(笑)。
―― 森山さんはこの街のお生まれですか?
実は、埼玉県の岩槻(現・さいたま市岩槻区)生まれなんです。今も家は岩槻にあります。平日は兜町の事務所で生活して、週末だけ岩槻に帰っています。
―― そうでしたか!森山さん、いつからこの店で働いているんですか?
18歳から少しアルバイトをしていましたが、ちゃんと勤めだしたのは24歳からです。それが1994年だから、28年くらいこの街にいますね。
―― これだけ地域密着なお店だと、やりがいや面白みが多そうですね。
やっぱり人との付き合いですね。会話から始まる関係というか。世間話や冗談で盛り上がれるのは、常連さんが多い店ならではですよね。
「ここで本は絶対買わないからな!」と冗談を言うくせに、最後はたんまり本を買って行ってくれたりね(笑)。
他の本屋で見つけた面白そうな本を、わざわざうちに来て買ってくれるお客さんもいます。その場で買えば楽なのにね……。本当にありがたくて、涙が出ますね。
―― それは感動!雄峰堂さん、ずっと無くならないで欲しいです。
ずっとこうして本屋をやっていたいですけれど、今は本が売れない時代ですからね。うちだけじゃなく、他の本屋さんも同じですけれど、本の売上はどんどん下がっていますから。
例えば旅行に行くとなったら、昔は旅行雑誌をどっさり買ったのに、今は全部インターネットで調べますしね。
今の若い人は小さい頃からタブレットを触っていますし、これから電子書籍が当たり前になったり、教科書までタブレットになったら、紙に違和感を持つ人が出てくるのかなと。
そんな中で、紙の本屋がどう生き残っていくかを考えなくてはならないですよね……。
―― なるほど……。
とは言え、これだけインターネットや電子書籍が普及している中でも、「やっぱり紙がいい」というお客さんは一定数いるんですよ。
「電子も試したけれど、やっぱり紙の感触がいい」「電子だと本の内容が頭に残らない」「記事をちょっとシェアしたいときは紙のほうが便利」「電子だとうまく書き込めない」とかね。
仕事柄、紙じゃないとダメな企業や個人さんもいますし、そういうニッチな市場で手を広げていきたいですね。
―― 分かります!紙ならではの良さって、絶対ありますよね。
紙の本は保管に場所を取りますけれど、電子にはない味がありますよね。
何より、電子は文字の記憶しか残らないけれど、紙は読んだ場面の記憶が残る。「あのとき、あの本を読んだな」って。
紙を折り曲げた記憶、書き込んだ記憶……そういうものが残るのが、紙が持つ味ですよね。手垢や脂がついたり、紙に自分の癖が残ったりすると、それが映像として記憶に残る。それが良いんです。
もちろん、気軽にページ検索できるとか、電子にも良いところはたくさんあります。紙と電子、それぞれのメリットを使い分けていきたいですよね。
そしてうちは、インターネットにはできない“人と人とのふれあい”ができる本屋でいたいと思います。
―― 森山さん、この街の移り変わりをどのように見ていますか?
最近は、新しい店やおしゃれな飲食店ができて、街の雰囲気が柔らかくなりました。女性も来やすい街になったと思います。
昔は本の配達に行くと、どこにでも株価ボードがありましてね。証券会社の前には黒塗りの高級車がバンバン停まっていて、“イカつくてカタい街”ってイメージでしたね。
やがて大きい証券会社が潰れて、地場の証券会社がどんどん他所に吸収されていって、徐々にネット証券の時代になって……。一時は元気のない街になっていましたが、今は元気を取り戻してきましたね。
もちろん、この街には“金融の街”であり続けて欲しいですけれど、これからは金融関係以外の人も集まる街になって欲しいですね。例えば、若い人が金融リテラシーを上げるためにこの街に来て、帰りにおしゃれなお店でご飯を食べて帰るとか。
まだまだ土日は人が少ないから、色んなことを楽しめる街になって、土日もたくさん人が集まる街になってほしいですね。
―― この街の未来のために、雄峰堂さんができることはありますか?
街で開催されるイベントに協力していきたいですね。これからは、若い人が金融を学べるイベントを街中で開催できたら良いと考えているのですが、それが実現したら、うちは金融の勉強に役立つ本を提供していきたいですね。若い人が金融の知識を身につけることや、街を盛り上げることを、「本」という形でサポートしていきたいと思います。
森山さんにお話をうかがいました。いかがでしたか?森山さんの言葉の一つ一つには温かみと深みがあって、常連さんが話し込んでしまう理由がよく分かりました。森山さんがこの街の人々に提供しているのは、本だけじゃないのかもしれませんね。森山さん、お忙しい中ありがとうございました!
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(ライター:安藤小百合 )
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