2022.11.23

【蔵元トーク】#47 4蔵大集合(金升酒造・飯沼銘醸・平瀬酒造店・富美菊酒造)前編

第47回『日本酒を蔵元トークとテイスティングで楽しむ』を開催しました。


こんにちは!
兜LIVE編集部です。


6月25日(土) 、ハイブリッド形式(現地開催&オンライン)で『日本酒を蔵元トークとテイスティングで楽しむ』を開催しました。


今では国際金融都市といわれる日本橋兜町。
江戸時代には日枝神社の門前町として栄え、酒問屋で賑わっていた「日本酒の聖地」でした。
東京証券取引所において初上場時の5回の鐘撞は、酒の原料である五穀豊穣にちなんでいるとのこと。
平日は賑わうこの兜町に、休日にも人が集まってもらいたい。そんな願いから日本各地の蔵元を招き日本酒について学び、味わい、楽しく交流し、その魅力を、兜町の魅力といっしょに広目、お酒が地域と人をつなぐ場所...。そんな場所に発展するように願いを込めて、毎月1回日本酒セミナーを開催しています。


今回は、「4蔵大集合」という特別企画。
・新潟県「初花」高橋巌さん(金升酒造)
・栃木県「姿」飯沼徹典さん(飯沼銘醸)
・岐阜県「久寿玉」平瀬市兵衛さん(平瀬酒造店)
・富山県「羽根屋」羽根敬喜さん(富美菊酒造)

写真左から 高橋巌さん(金升酒造)、飯沼徹典さん(飯沼銘醸)、羽根敬喜さん(富美菊酒造)、平瀬市兵衛さん(平瀬酒造店)


いつもは1蔵お招きしているのですが、今回は何故「4蔵大集合」なのか?


実はこの4名は全員昭和40年生まれで協和発酵さんの卒業生。この会は「同窓会」ということで、4名の和気あいあいとした雰囲気を感じつつ、お話をお伺いすることができました。

楽しい「同窓会」に同席させていただき、ありがとうございました。


◆4蔵を代表して(飯沼銘醸 飯沼徹典さんより)

本日は異色の4蔵が集まりました。不思議ではないでしょうか。
正月に日本橋兜らいぶ推進協議会の藤枝さんが蔵に訪問された際に、そろそろお酒の会をやらないかというお話があり、私は大学卒業後、協和発酵に入社したが、その時一緒に働いた仲間でお酒の会をやったら面白いのではないかと思っていて、今回、実現した。

全員昭和40年生まれ、つるつるの人間もいるが(笑)、彼も同級生。年月が経って4人でお酒の会ができるのが嬉しい。


それでは、姿の雄町で乾杯!


◆栃木県「姿」飯沼徹典さん(飯沼銘醸)

本日、「姿」を初めて飲んだ方はいらっしゃいますか?ぜひ、ファンになってもらいたい(笑)。


<蔵の歴史など>
・姿は無濾過生原酒が基本。製造量は500石くらい。

・栃木県栃木市で東武金崎駅から2キロくらいのところに蔵はある。創業は明治14年(1811年)で、私で9代目となる。飯沼家は元々新潟だったが、宇都宮に来て酒造りをして(酒屋に入って修行)、現在の栃木市西方に蔵を建てた。

・協和発酵とは、大戦の終わる昭和20年に東京工場の疎開先として、蔵が栃木工場となったが、1週間後に終戦となり、ほとんど製造工場としては機能しなかったとのこと。
その間、酒造免許を一旦返納したが、祖父が昭和34年に免許を再取得して現在に至る。

・平成元年に協和発酵に入社し2年後に退社。その後、百貨店に勤務したのち、平成6年に蔵に戻った。

・その頃は新潟から杜氏が来て4名体制で千石程度の日本酒を製造していたが、300石まで減少してしまった。ヤバいなと思って「姿」を立ち上げ、500石まで増産した。現在は、コロナの影響で少し減らしている。


<蔵の体制>
・現在の体制は、造りが私と蔵人2名の計3名、瓶詰で3名、事務・配達・営業で3名の計9名。蔵の経営を考えるともう少し効率化したいが、これ以上人を減らすと自分の首を絞めることとなるので、当面は現体制で頑張っていきたい。


<日本酒について>
・乾杯酒の雄町はコクがあり甘みもあるが、口に入ってから辛くも感じる。だらだら甘いといった感じではない。

・日本酒は多様化している。非常に美味しいお酒でも、再び選んでもらえるかわからない状況。技術が発達して美味しいお酒がたくさんあるので、お客様は非常に美味しいお酒を飲んでも満足することなく、もっと美味しいお酒がないか追及される傾向にある。姿はそうした中でも、いろいろな日本酒をチャレンジして飲んだ後に、どこかのタイミングで「昔飲んだなぁ」と再び選んでもらえるようなお酒になってくれれば良いと思う。


<これからの方針>
・現在、お米は北海道3、栃木3、県外4の計10種類を使用している。
最近では、栃木県固有のお米で、先日、地元の栃木農業高校、小山の農業高校で種植えし、3年後にお酒にするというプロジェクトに取り組み始めた。栃木農業高校でのお米は当社で製造して、小山の農業高校でのお米は鳳凰美田で造ることとなっている。

・米の名前は愛国3号。明治時代に栃木県で造っていたお米で、どういったお酒になるかわからないが、栃木県でも、他県同様、日本酒を地元のお米で製造する流れにある。新しい取り組みでワクワクしている。どんなお酒になるか楽しみにしていただきたい。


◆新潟県「初花」高橋巌さん(金升酒造)

<蔵の紹介>
・本日は、協和発酵の土浦工場でご縁のあった4蔵が集まった。大変ありがたい企画。

・当社のマークは、直角の線が曲がり金、真ん中の斜め線が升を表現。曲がり金で正確に長さを図り、升で正確に量を図り、「正直で間違いのない商売をする」ということでこういうマークになっている。

・赤いマークが新潟県新発田市のあるところ。

・本日参加の4蔵ともに冬は寒く雪が降るところだが、新発田市は最低気温はマイナス5℃。冬の平均気温4度で、比較的雪が降るところ。子供の頃は、普通に2m位雪が積もり、屋根まで積もることもあった。最近は地球温暖化の影響で、それほど降らなくなった。

・夏の蔵。敷地が4000坪と、無駄に広い。

<創業200周年>
・当蔵は本年2022年で創業200年を迎えるため、何か記念イベントをやろうか企んでいるところ。たまたまブラジルも独立(建国)200年で、ブラジル大使館から、夏にコラボしないかと話があった。

・創業年の1822年(文政5年)に何かあったかと調べたところ、ルイ・パスツールというフランスの生物学者が生まれた年だった。

・「パスツリゼーション」という言葉があるが、酒造業界でも使っている「火入れ」。お酒を一定の温度まで加熱し保存性を高める技術で、ワインに導入された。「パスツリゼーション」を考え、ワインの保存性と風味の持続性を飛躍的に高めたということで、その技法に名前がつくくらい有名な人物である。

・ところが、このパスツールの開発の遥か前に日本酒は「火入れ」という技術を生み出していた。日本酒の酒蔵が優秀な技術を日々研鑽していたことの査証である。


<焼酎造り>
・当蔵では、清酒、リキュール(梅酒)、乙焼酎を造っている。

・当蔵は、戦時中に焼酎造りを始めた。終戦間際、新発田16連隊という陸軍の駐屯地があって、戦後、そこに進駐軍が入ってきた。進駐軍にウィスキーを飲ますためにウィスキーを作れということで、国が免許をくれて一時期造っていた。今はクラフトウィスキーのブームだが、今は免許を返してしまったため、製造できない。

・1977年(昭和52年)に導入した蒸留機。蒸留は焼酎、ウィスキー、ブランデーを造る工程の1つ。

・この蒸留機は、減圧蒸留機といって、お酒を入れて蓋を閉めると、気圧を低下させる。50℃くらいで蒸留操作が行えるようになっており、スムーズで滑らかな米焼酎にすることができる。


<食中酒を醸す>
・吟醸酒、上級な特定名称酒は造った後に冷したほうが資質の保存に良い部分もあるが、個人的には、本醸造以下のグレードのものは、ある程度熟成させた方が良いと思っていて、常温の貯蓄蔵としている。


・土蔵造りの貯蓄蔵は、結果的に暑くなるが、蔵内の温度の上下が緩やかなので、お酒にダメージを与えづらくなっており、貯蔵には適している環境である。

・国酒というものは、その国の食事とともに発展してきたお酒。とんかつ、唐揚げでも普段の食卓にある料理を引き立てるようなお酒を造っている。1番大事にしたいのは、常に食中酒でありたい。


<米作り>
・お酒造りと同時に、平成28年から米作りに取り組んでいる。


・新発田市は県境が福島県で飯豊連峰の稜線にある。蔵があるところから山に向かって20分くらい行ったところに田んぼがある。気温が低く水も冷たい。春は遅く秋は早いため、米の収穫量はそれほど多くないが、非常に環境が良く、特に水が綺麗で、田んぼの水をそのまま飲める。

・酒米の90%位をここでまかなっている。植えている米は「越淡麗」という品種で、新潟の地酒ブームの際に名付けられた。新潟県農業試験場が10年位かけて開発したもので、今年で13年めとなる。母が山田錦、父が五百万石で、2つの酒米のちょうど中間の特徴。作付け3ヘクタールのうち、60%が酒米、40%がコシヒカリを作っている。

・自分が主に農作業をやる。夏場は瓶詰めくらいしか仕事がないので、蔵人は春から夏の田植え、秋にかけて刈り取りの時期など忙しいときは手伝ってもらう。酒造りは秋から春、米造りは春から秋で、表裏一体で非常に合理的でもある。

・この1区画だけのお米を単独で乾燥調製、精米工場に出して50%に精米してもらって、純米吟醸の無濾過生原酒で出荷する取り組みを昨年から始めた(今年で2回目)。


・新発田市出身で、東京で活躍しているソムリエの方と田んぼに行った際に、「ドメーヌだ」ということで、「ドメーヌ」という名称でお酒を出荷している。

・お米の収穫量が少なく、お酒の製造数量も僅か。そんな状況なので、「農業」も「日本酒造り」も勢いある産業ではないが、2つのことを合せることでお互いの付加価値を高めてブランド創りにつなげ、収益性を上げていくことを企図している。


・農作業中は帽子をかぶっている。酒造杜氏は色白なので、あまり日に焼けないようにするため(笑)。刈り取りしているは越淡麗。



<米焼酎を添加した日本酒>
・醸造アルコールの代わりに米焼酎を添加して造っている。アルコール添加の技法は優れたもの。醪の中の吟醸香を液体の方に引き出すことで、アルコール添加することによって、味が軽くなる。

・酒税法上認められている醸造アルコールを添加することについては、「純米が良いよね」といった風潮のため、酒蔵も拘りを言いづらくなっている。とても残念なことだ。

・そうした中でも、米焼酎を添加したお酒を造ってみたいと思っていて、10年前から製造に着手した。2,3年はうまくいかなかったがどういった製品にするか決まった。

「越淡麗を使って60%精米、焼酎も白米の使用数量の10%以内」

・製法品質基準に則って金升赤ラベルはあくまでも普通酒という扱いで販売している。純米酒に対するアンチテーゼではなく、こんなこともできますよということで、食中酒として美味しいお酒に仕上がっていると思っている。

・昔は金属のタンクではなく、木樽で発酵させていたが、微生物の住かになり次々に微生物汚染が起こる。木樽の殺菌や、腐造で発酵がうまくいかなかった醪に焼酎を足すと足腰のしっかりしたお酒になるという文献が元禄時代初期の酒造技術書に書いている。そのことを「柱焼酎」と書いてあるので、当蔵ではその名称を使っている。


<最後に>
・26歳のときに協和発酵を卒業した。今年の誕生日で57歳になる。皆さんは30年前と変わらない(髪があるし笑)。県外にこのような仲間がいて励みになる。これからも酒造り、米造りで頑張っていきたい。


◆ブラインドテイスティング

4蔵からそれぞれ純米大吟醸のお酒をお持ちいただき、ブラインドでテイスティングをしていただきました。もちろん蔵元にも(笑)



まず、蔵元からお酒の特徴を説明していただいたうえ、テイスティング。



4蔵のうち、自分の蔵のお酒をわかった蔵元は???内緒にしておきます(笑)

参加者で4蔵のお酒を当てた方は???1名でした!

素晴らしい!初花純米大吟醸がプレゼントされました!!


1.平瀬酒造店 ひだほまれ純米大吟醸


・飛騨誉という地元の米を40%まで磨いたもの。40年前に開発されたもので、寒い所でも育てられる酒造好適米。お米の中に若干渋め、にがみがある。

・精米すればするほど表面のたんぱく質は取れていくが、にがみ成分が残るので、これが飛騨誉の特徴。アルコール度数は16.5%。


2.羽根屋 純米大吟醸50翼Y


・お米は五百万石で、50%精米。香りがあって飲み飽きしないお酒を目指している。

・前回、兜LIVE!に呼んでもらったときは外しているのでドキドキです(笑)



  1. 3.純米大吟醸 初花

・お米は越淡麗で精米は40%。今年の新潟のお米は溶けやすい。残留のアルコールが3.2あるので、結構、甘くて香りがある。

・無濾過生原酒で、日本酒度は-2。日本酒度が他と見分けるポイントではないか。



  1. 4.姿 純米大吟醸無濾過生原酒 山田錦

・純米大吟醸の無濾過生原酒でお米は山田錦。酵母は1801を使用。

・お酒のテイストは羽根屋さんと似ているかも。無濾過生と火入れの違いで判断してもらえたら良いのではないか。



後編に続く


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