2023.03.01

【蔵元トーク】#53 乾坤一(宮城県仙台市 大沼酒造店)

こんにちは!
兜LIVE編集部です。


2月4日(土) 、『日本酒を蔵元トークとテイスティングで楽しむ』を開催しました。

今では国際金融都市といわれる日本橋兜町。
江戸時代には日枝神社の門前町として栄え、酒問屋で賑わっていた「日本酒の聖地」でした。
東京証券取引所において初上場時の5回の鐘撞は、酒の原料である五穀豊穣にちなんでいるとのこと。


平日は賑わうこの兜町に、休日にも人が集まってもらいたい。そんな願いから日本各地の蔵元を招き日本酒について学び、味わい、楽しく交流し、その魅力を、兜町の魅力といっしょに広目、お酒が地域と人をつなぐ場所...。そんな場所に発展するように願いを込めて、毎月1回日本酒セミナーを開催しています。


今回は、宮城県村田町で「乾坤一」を醸す大沼酒造店会長の大沼充さんをお迎えしての開催でした。大沼さんは、蔵元トークがスタートした2018年の2番手として、5月にご登壇いただいて以来となります。大沼さんから、自社のお話のほか、日本酒業界の辿ってきた道のりについてお聞かせ頂くことができました。
どうもありがとうございました!


*前回の兜LIVE! 蔵元トークはこちら



◆ 冒頭挨拶

・3年前に社長業を譲り、会長になった。若社長からは、「全部任せろ」、「心配するな」と言われながらも、何とか頑張っている(笑)

・お酒造りや酵母、お米の話は毎回聴いているだろうから、今回は、蔵のお話をした後、ちょっと日本酒業界の全体的なお話をさせていただき、最後に宮城の純米酒は美味しいぞという話をさせていただきたい。



◆ 大沼酒造店について


・宮城県の高速道路は、村田町で山形道と分岐するが、蔵はその辺りにある。村田町には、有名な史跡はないが、公式レーシングコースを有するスポーツランドSUGOがある。

・村田町は伊達政宗の七男・宗高の館(城ではなく)があった。大沼酒造店は、三代目の1712年(正徳2年)に創業。明治時代まで「不二正宗」というお酒を造っていた。富士山は昔「不二山」と書いていたという記録があり、「こんなに素晴らしい山は二つとない」という意味。江戸時代、刀など上物(良いもの)を「正宗」と呼んでいた。

―― 初代の「正宗」は、灘の櫻正宗になる。櫻正宗は、伏見にも蔵があったが、こちらでは灘と異なり良い酒ができなかったので、杜氏や米を替えみたがうまくいかず、最後に灘の仕込水を樽桶で運んで使用したら、伏見でも素晴らしいお酒ができた。それ以来、この水は普通の水とは違うんだということがわかり、神戸六甲山から出てくる硬水を「宮水」と呼ぶようになった。

・その後、1886年(明治19年)に初代宮城県知事になった松平正直氏が蔵に泊まった際に、「正宗」といった全国に多数ある名称でないほうが良いということで、「乾坤一」と命名し、今に至っている。

―― 「乾坤一擲」は、「乾坤一」が語源。「乾坤一擲」とは、 運命をかけて大勝負をすること。相反する国と国が一戦を交え滅びるかもしれない、といった大事な時に乾坤一擲という言葉を使う。政治家も「乾坤一擲不退転の気持でやる」と演説で使うことがよくある(何もやらないくせに<笑>)。

・なお、「不二正宗」についても、商標登録は3年使わずに他社が同銘柄を使用した場合、裁判で面倒なことになる可能性があるので、1年に一度は「季節もの」として「不二正宗」を販売している。

・当社にはもう1つ「冬華」という商標がある。宮城県が純米酒宣言をした際に、酒造好適米がなかったため、飯米(食べる米)で美味しい純米酒を造りたいと考えた。当時は宮城県産の飯米は「ササニシキ」のみだったので、「ササニシキ」でチャレンジしたところ、2,3年後に美味しいお酒ができた。その際、妻が「冬に咲く花のようにすっきりした味で美味しい」と評したので、商標登録を申請したら許可されたので、現在、正式には3商標を持っている。



・製造石数は800~900石。全量特定名称酒(本醸造以上)で、純米酒比率は95%と高い。年に2本仕込む大吟醸と、地元用に仕込む本醸造2~3本のほかは全て純米酒。

・原料米は、山田錦、雄町、美山錦、ササニシキ、ササシグレ、愛国、神力、酒未来、吟のいろは、蔵の華、彗星を使っている。

―― 大吟醸は、蔵人の研鑽の場としてコンクールに出品するので、山田錦を使う。同じ山田錦でも、兵庫県の中央高速沿いは粘土質の真っ黒な土で立派な山田錦ができるが、当社ではそうした立派な山田錦は回してもらえないので、多可町産のもの(山田穂発見した山田勢三郎翁の生まれた町)を使用している。

―― 雄町は赤磐産とまではいかないが、その周りで収穫された雄町を農協から調達している。

―― 美山錦は大町、庄内もの。

―― ササシグレはササニシキの父。

―― 愛国は元々、静岡のお米。東北が不作だったときに、温かい地方で雪が降ってもしっかり生育できる米ということで愛国をいただいてきて、東北でも普及(宮城県角田市がスタート)

―― 愛国と神力は契約栽培。なお、明治の三大米の愛国、亀の尾、神力は、すべて飯米。

―― 蔵の華は20年前に宮城県酒造好適米となった。


◆地震の影響

・2011年3月の東北震災の際には、宮城県の蔵の9割が被災したが、補助金で立て直した。

・今回、昨年3月の東北新幹線も止まった福島沖地震の影響で、煙突が倒れるなど酒造りができなくなった。その後、復興工事を終え、今期の造りを11月末から開始したが、年内に2本しか絞れなかったほか、働き方改革で年末年始を休みにしているので、年明け後もまだ6本しか絞れていない状況のため、今回、テイスティングに用意した3種類のうち、新酒は冬華(ササニシキ)だけになる。

<阿部酒店コラム「何とかしたい」「力になりたい」(2022.5.17)

⇒大沼酒造店さんが平孝酒造さんで酒造りをされているお話のご紹介など。

<大沼酒造店「酒造り再開のお知らせ」(2022.11.8)


◆日本酒の現状

<数量>

・アルコールの出荷量は、昭和45年から平成11年まででほぼ倍増しているが、その後、健康志向などもあり、低下している状況。



・日本酒をみると、令和2年では、平成11年までの100万KL台から40万KL台まで落ち込んでしまい、アルコール全体の出荷量の5%しかない。

・要因としては、以下のようなことが考えられる。

▼日本酒が本来の姿ではなかった。

▼原材料が高く、他のアルコール飲料と比べると日本酒の価格が高い。

▼種類(アルコール飲料)の増加、ウィスキー人気、芋焼酎ブーム

・さらに、その5%のうち、大手で約9割を占めている。

・足許、輸出が増加しているが、今後も輸出に頼る必要。また、単価の高いものの売上げが伸びてきており、経済酒より値段の高い日本酒が売れるようになってきた。


<清酒製造免許場数>

・清酒製造免許場数をみると、昭和45年には3500以上あったにもかかわらず、令和2年には1400を切るほど激減。これには、上記に記したほか、食文化や生活様式の変化、日本のグローバル化など様々なことが考えられる。地方の食文化を支える蔵元が減少することは残念である。



・神社や寺は村単位であるが、清酒も神事に必要だったことから、酒屋も1つの村毎にあった。雪の降る地方では、春になるまで隣の町に行けなかったことから、雪深い新潟県、長野県では現在でも約80の蔵がある。

・平成30年でみると、上位100社で9割の出荷高で、その他1200社で1割しかない。



◆大沼さんから見た歴史の一部


◆宮城のお酒は素晴らしい

・宮城県は昭和61年に「純米酒宣言」し、県全体で本来の日本酒を売ろうという機運を高めた。令和3年度の特定名称酒比率は93%、うち純米酒比率は42%と、東北6県で一番高い比率となっている。



・なお、東北6県の特定名称酒比率は66%と全国の35%と比べ、かなり高い水準である。



◆今後の課題

・地酒専門店の活躍により助かっている。一方で、ネット販売が主流になると、売り手や消費者の方々と直接話をする機会が減少していくのではないかと危惧している。これまでは、どういったお酒が好まれているのか、どう改善すれば売れるのかといったような情報がface to faceで共有できた。地酒専門店の中には、蔵元が営業に来た際に、「飲んで旨かったら売る」とか、「旨くなったら売る」(出直しておいで)といったやり取りがあり、そうした会話に売れ筋を把握できた。

・兜LIVE!のイベントでも、蔵元と直接話をすることで、生の声を伝えてもらいたい。



◆今回のお酒について

▼日本酒の種類



1.「乾坤一」大吟醸(R3BY)

・通常と比べてカプロン酸エチルは半分程度。「くどくない立ち香」が持ち味。


2.「乾坤一」純米吟醸 原酒 冬華(R4BY)
・「冬華(とうか)」は、「宮城県純米酒宣言」の後、ササニシキでの純米酒造りに取り組んで出来上がったお酒。大沼会長夫人が、「冬に咲く花のように、すっきりした味」と評したところから命名。今回のお酒は、絞ってから数週間しか経過していないので、渋みが残っているが、下味は悪くないと思う。


3.「乾坤一」純米酒 愛国(R2BY)
・「愛国」は明治の三大水稲品種の1つ(他の2つは「亀の尾」と「神力」)。元々静岡のお米で、東北が不作に悩まされた際、耐冷性が高いことから宮城に持ち込まれた。なお、「愛国」には幾つかの品種があり「愛国3号」などの米もある。

<参考:愛国の来歴について>

愛国の来歴については、静岡とする説に加え、他の説もあったが、元宮城県古川農業試験場長佐々木武彦氏の研究により、静岡とする説が確定した。

「日本稲作技術史の謎、「愛国」の育成者はだれか」 農業共済新聞 2005年6月2週号

<参考:「愛国3号」について>

朝日新聞デジタル「70年の時を超え「幻の米」が復活 新たな酒米をめざす「愛国3号」(2022.10.14)

(※)「愛国3号」を栃木県で復刻。2024年産から「鳳凰美田」醸造元・小林酒造さん、「杉並木・姿」醸造元・飯沼銘醸さんで使われる予定とのこと。



◆最後はみんなで集合写真

・毎回、恒例の集合写真です。海外の方も2名ご参加いただきました!



◆まとめ

大沼さんの「人を引き込む話っぷり」、まさに大沼ワールドの90分でした。日本酒業界の未来はあるものの、現状はまだまだ厳しい状況にあることが良く分かったかと思います。奥深いお話の中には、レポートにできない内容も多々ありました。今後、どこかで耳打ちできればです(笑)。

大沼さん、ありがとうございました!


<蔵元トーク前に、渋沢栄一が生涯大切にした佐渡の赤石(縁起石)にタッチして運気アップ!>



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