2021.02.18

【蔵元トーク】#33 津島屋・御代櫻(岐阜県 御代桜醸造)

こんにちは!

兜LIVE編集部です。

 

2021年最初の『日本酒を蔵元トークとテイスティングで楽しむ』を、1月23日(土)に オンラインにて開催しました。

 

今では国際金融都市といわれる日本橋兜町。

 

江戸時代には酒問屋で賑わっていた「日本酒の聖地」でした。東京証券取引所において初上場時の5回の鐘撞は、酒の原料である五穀豊穣にちなんでいるとのこと。



平日は賑わうこの兜町に、休日にも人が集まってもらいたい。そんな願いから日本各地の蔵元を招き日本酒について学び、味わい、楽しく交流し、その魅力を、兜町の魅力といっしょに広め、お酒が地域と人をつなぐ場所...。そんな場所に発展するように願いを込めて、毎月1回日本酒セミナーを開催しています。



今回は、岐阜県美濃加茂市で「津島屋」、「御代櫻」を醸す御代桜醸造の第6代蔵元 渡邉博栄さんをお迎えしての開催でした。オンラインでしたので、北は函館、西は福岡、御代桜醸造のある東海地区からは愛知や四日市からもご参加いただき、総勢48名でした。ありがとうございます。








最初に、参加者の皆様に御代桜醸造のお酒を飲んだことがある?ない?の質問をしたところ、4名ほど「飲んだことがない」ということでした。渡邉さん、新しいファンを増やすチャンスですね!
 


◆地元と蔵の概要等

▼自己紹介

1976年生まれ、44歳。ビール会社に勤務ののち、御代桜醸造へ。2005年に先代の引退に伴い代表に就任。代表になり今年で16年になる。


▼昨年の走行距離
趣味のランニングでは、各種マラソン大会の中止等が相次いだ。その分、近場を走り、走行距離は5,083kmとなった。累計走行距離は44,930km。今年は50,000km超えを目指したい。



▼2021年度

2021年度スローガンは、「ワクワクを積み重ねよう」。こんな世の中だからこそ、お酒を通して楽しくなって頂きたいと考えた。また、我々自身もワクワクしながら1年間を頑張っていきたいとの思いである。 


▼地元について

①岐阜県について   

・岐阜県は、関東・関西・名古屋という消費地へのアクセスが非常に便利というメリットがある。しかし、2020年はコロナの影響で関東等へ行く機会が激減。大変残念に思っている。


・岐阜県は県土の約8割が豊かな森林。森林率は全国第2位で81.1%。水資源にも恵まれ、都道府県別水力エネルギー量は全国1位。 


・モノ作りも盛んな地域。刃物や食器等の出荷が多いほか、豊富な森林資源を活用し、木製机、テーブル、椅子の出荷額シェアが全国1位となっている。


・岐阜県民は外食好き。喫茶店については愛知県民が注目されるが、岐阜県民も大好き。柿は岐阜の名産で、柿の購入量も全国1位となっている。 


②美濃加茂市について 

・総人口は57,290人。岐阜県で11番目の都市。人口はこのところ増加を続けてきたが、コロナの影響もあってか、前年同月比でみると微減となった。外国人比率が高いのが特徴で、多文化共生のまちづくりを行っている。


・観光スポットとしては、旧中山道太田宿などがある。姉妹都市はオーストラリアのダボ市。コロナの直前に市長が来蔵され、「地元で売り込むよ」と言ってくれた。その効果か分からないが、その後オーストラリアへの輸出が増えた。


・坪内逍遥などの出身地。花火大会や秋の歴史を再現した祭りも盛大に行われているが、昨年は中止となった。


▼気候風土 

・年間を通してみると、温暖で年間降水量は多め。しかし酒造期は気温が低く降水量も少ない。


・蔵は木曽川に近く、2020年7月に木曽川上流で集中豪雨があった際には危険水位を超える増水となった。


▼会社概要について

・創業明治26年。今年で128年となる。自分が6代目蔵元。 


・製造責任者は酒向博昭杜氏。製造担当は8名で、うち4名がパートタイム。営業のベテラン社員が定年退職され、平均年齢が少し若返って40代が中心。チームワーク良く仕事が出来ている。


・設備の面では、コロナ禍でも、造ったお酒の品質を守りたいということで、2020年にプレハブ冷蔵庫を1機増設。生酒の貯蔵能力が高まった。貯蔵・出荷体制については、多品種少量生産に合った形に配慮している。


・生産能力は年間約800石。少し減産する方針としていたが、昨秋に輸出が戻り始めたため、前年並みとした。


◆オンライン・リアルタイム蔵見学

▼仕込み蔵へ
・仕込み蔵に向かう途中に新設した冷蔵庫がある。マイナス5度に設定して使用。更に進むと、左側に火入れ商品の出荷待ちスペースがある。



・仕込み蔵は、当蔵が木曽川の洪水に何度か見舞われていることから、主要設備を2階に設置している。










▼酛場
・美山錦55%精米を使用した純米吟醸の酒母が立っている。










▼原料処理場
・手前に800kg、奥に1.2トンを蒸せる甑がある。明日朝に蒸す米が張り込まれている。100度で1時間蒸米する。



・奥に放冷機がある。大きな仕込みの時は放冷機を使用する。



▼麹室
・先々代の頃、5000石生産していた頃からの麹室なので結構広い。手前と奥に床があり、床麹で造る。熱源は電熱線。明日の朝出麹するものがあり、今夜は杜氏が泊まり込みで麹の世話をする。











▼麹室外の作業場
・蒸米を自然放冷したり、出麹した麹を晒したりする。麹をラックを積んで置いている。簡単な湿度調整も出来るようにしている。



・床には階下にホースを通せる穴があり、エアシューターで蒸米を搬送できる。


▼仕込み
・まず、一番大きな単位(4トン)の仕込みタンク。もう少ししてから、普通酒造りを行う時に使う。



・小仕込みの部屋へ。総米600kgのタンクが4本あり、出品酒などを仕込んでいる。



・メインの仕込み部屋。ここでは総米1トン~1.5トンの仕込みを行う。奥のタンクは貯蔵にも使う。



▼貯蔵室
・火入れ商品の貯蔵スペースがある。通常は5度に温度管理しているが、今は気温が丁度その位なので開け放している。



▼槽場
・一番初期の薮田式圧搾機を使用。



▼洗米
・ウッドソン社の「圧密式」洗米機を使用。連続洗米を行うのが特徴で、1時間で3トンの洗米を行うことができる。


<参考:ウッドソン社の「圧密式」洗米機

◆R2BYの造り

▼「御代櫻」使用米

・「御代櫻」ブランドは岐阜県産米を使用することとしている。メインは地元で契約栽培して頂いている「あさひの夢」と、酒造好適米「ひだほまれ」。
 
・美濃加茂市で五百万石が生産されていたのだが、量が少ないなどの理由で、農家さんが作るのをやめてしまった。このため、県内産の酒造好適米は「ひだほまれ」のみという状況。
 
・「御代櫻」で使用している「あさひの夢」は、R1BYまで55%精米だったが、今期は50%精米としている。



▼「津島屋」使用米
・「津島屋」では色々なお米を使用しているが、使用品種の見直しは継続的に行っている。


・今期は、初めて「山恵錦」を使用。長野県内の限定使用と聞いていたが、酒米商社さんを通したら入手することができた。


・山恵錦は2018年に本格デビューした米。これまでの酒造りの状況をみると、優等生的だとの評価。使用したところ、同様の印象を持っている。期待できる酒米と感じたので、今後、紹介させて頂く機会は増えるのではないかと思う。


▼山恵錦について
・山恵錦の系統図を見ると、父方に寒さに強い品種、母方に大粒の品種がみられ、これらの性質を受け継いでいるとみられる。



・醸造特性に関して、山恵錦、美山錦、山田錦の比較データを見ると、山恵錦は砕米率が低いのが特徴。グルコース生成総合活性など、味わいの部分については山田錦の方が上回る。どちらかといえば淡麗なお酒に向くのかなという印象を持つ。



・山恵錦は「信州の山々からもたらされる様々な恵みや清廉さをイメージして命名された」とのことだが、清廉さは、この米を使用したお酒の味からも感じられた。また、雑味の出ない麹を造りやすいとされる。
 
・山恵錦の開発の背景として、温暖化等による美山錦の玄米品質の低下があるようだ。確かに、美山錦は少し溶けにくくなっていると思う。


<参考:「第1回 山恵錦サミット in 銀座NAGANO」の参加報告(2019.7.27)


▼酒造りの拘り
・基本に忠実な酒造りを継続してゆきたい。ヒトの手をかける作業をR2BYでも最重視している。少ない人数だが、丁寧な酒造りを行っていく。



▼使用酵母
・今期は、協会8号酵母を試験醸造で使用する。味わいと酸のあるお酒が出来るが、時代に合わず廃番になっていた。日本醸造協会に問い合わせたところ頒布可能とのことであり、酒向杜氏も関心を持っていたため使用することとした。


 ・この酵母については泡無しが開発されていないので、泡あり酵母となる。この酵母を使用したお酒は近々販売の予定。

 
・2種類の酵母の混合仕込についても、色々と試験醸造を行っている。組み合わせることで味の表現が広がればと考えている。


◆2020年の振り返り等


▼前へ:①国が動く
・コロナ禍で、消毒用アルコールが不足するという事態になった。高濃度エタノール製品に簡単な不可飲処理をすることで酒税を非課税にするという措置が取られた。貢献できて良かったと思うと同時に、インパクトの大きな出来事だったと感じている。
 


▼前へ:②知恵を絞る
・「津島屋 Act Against COVID-19」という企画を行った。第五弾まで実施。酒販店で生じる利益を飲食店や医療関係者に配分して頂くなど、様々な企画を行った。



▼前へ:③新しい価値
・「津島屋外伝 Prototype A 2020 三本の矢」という商品を販売。一升瓶が売れ残り、720mlが完売という状況が散見されたことから、一升瓶を活用する観点もあって企画。


 
・「美山錦」、「山田錦」、「雄町」の無濾過生原酒をブレンドした。マイナス5度で貯蔵している良い状態のお酒をブレンドすることで、バランスの取れた新たな価値のお酒を生み出すことができた。なお、Prototype Aの「A」はアッサンブラージュの頭文字。

 
<参考:「津島屋外伝 Prototype A 2020 三本の矢」

 
▼前へ:④挑む
・「あさひの夢」を50%精米にして、純米大吟醸にしようと考えた。地元のお米を使用し、最高峰のお酒を提供するというもの。コロナ禍で、お客さんがどんなお酒を飲みたいと思っているかについて考えを巡らせた結果の一つ。


・蔵の顔は蔵元でも杜氏でもなく、商品だということを改めて感じた。魅力的な商品を届け続けることが使命と思っている。


<参考:御代桜醸造公式ブログ「御代櫻 純米大吟醸新酒 Prologue R2BY』出荷開始のお知らせ!」

▼前へ:⑤これから
・2月には「津島屋外伝」で「White label」と「Black label」を販売する。新しい感覚の製品となる。


・また、アッサンブラージュ酒で「2021 HOTAKA」を販売する。ヒントは長野と岐阜の合作ということ。穂高連峰をイメージするようなスケールの大きいお酒になると良いなと思いつつリリースする。


▼前へ:⑥伝えることは大切
・今後、雑誌やテレビ等でも、メッセージを発信し続ける予定。


 

◆テイスティングについて




▼SAKEテイスティングシート
 





・今回、参加者のみなさんに「SAKEテイスティングシート」を3枚お配りしました。普段は、特約店様に新商品をご案内した際にご回答をお願いしているもの。共通の言葉で商品の評価をして頂くのが狙い。


・社外秘ではないのでご利用頂ければと思います。ご記入頂いた際には、FAXでもその他の方法でも良いので、お知らせ頂けると有難いです。今後、飲んだお酒の内容を記録するのにも使えると思います。
 
▼酒器の話
・最後に、酒器によるお酒の味わいの違いについてお話したい。お酒は酒器により、表情が大きく変わっる。自分が用意したのは「ワイングラス」、「ショットグラス」、「平盃」、「本きき猪口」。


・なお、今日自分が用意した「ショットグラス」は吟醸酒協会で使っているものなので香りも拾いやすいが、もう少し縦長のものの方が、酒器による違いを感じやすい。


・「本きき猪口」は業務用。同じ酒器で定点観測するために、出荷の状態を見るためには、これで確認する。


・平盃はすっきり飲める。食中によい。ワイングラスは香りを楽しむのに向くが、味わいがぼやける印象がある。

ということで、「津島屋」についてしっかり知識を吸収した後は、恒例のテイスティングです。当てるのが目的ではなく、自分の好みを知ってもらうのが狙いです。
 

▼今回のお酒について
「津島屋」純米吟醸 廣島産八反錦 滓がらみ Tropial∞ R2BY
・広島県産八反錦55%精米、日本酒度:-3.0、アルコール度数:16度、酸度:1.8。

・滓がらみ。ジューシーで「トロピカル」なイメージがテーマの純米吟醸で、サブタイトルに「Tropial∞」と付けている。少し甘めで、舌触りはクリーミー。


「津島屋外伝」純米酒 契約栽培米山田錦 全国燗酒コンテスト2020金賞受賞酒
・岐阜県本巣市(もとすし)産契約栽培米山田錦60%精米、日本酒度:+1.0、アルコール度数:16度、酸度:1.7。

・「津島屋外伝」は、「津島屋」銘柄の中で、「変わり種」や「本数が少ないもの」に使用している名称。これは「本数が少ないもの」に該当する。

・穏やかに立ち上がるイソアミル香と、程良い旨みと酸が特徴の食中酒。常温、冷酒、燗酒と温度帯によって表情を変える。

・「全国燗酒コンテスト2020」のプレミアム部門で金賞を受賞したお酒で、同コンテストでは40度の燗で評価が行われる。40度前後でバランス良い味が楽しめる。


「津島屋外伝」純米酒 Nordwind (北の風) Perlwein 2021

・北海道産吟風60%精米、日本酒度:-30、アルコール度数:11度、酸度:非公開。

・「津島屋外伝」のうち、これは「変わり種」に該当する。ワイン的な味わいとしたお酒。日本酒度やアルコール度数も特徴的。

・ジューシーな甘みと軽快な酸が特徴で、洋食との相性も良い1本。瓶内二次発酵しているので、微発泡感がある。


みなさん、イベントの最初に乾杯してますので、そこそこ、飲んでいる状態で答え合わせですが、今回は渡邉さんの人柄で(笑)、非常にわかりやすかったのではないでしょうか!?
正解は……以下のとおり。いかがでしたか?!



◆Q&A

(問)酒向杜氏の年齢を冠した純米大吟醸「○歳の春」シリーズは、いつ始まったのか。


(答)「二十八歳の春」からで、2004年スタート。今年は「四十五歳の春」となる。なお、ラベルの文字は書道家・遠藤泉女(えんどう せんにょ)先生にお書き頂いている。


(問)仕込み水はどのようなものか。

(答)木曽川の伏流水で中軟水。少し甘みを感じる水。


◆最後はみんなで集合写真

毎回、恒例の集合写真です。みなさん、蔵元トーク&オンタイム蔵見学はいかがだったでしょうか!


 

 

◆まとめ

渡邉さんには、前回、ご登壇いただいた作の清水さん同様、兜LIVE!蔵元トークで3年連続お話をいただきましたが、コロナの逆境の中、新たな気付き、方向性など、まさに「直近」のお話を頂きました。今後、発売される新酒が待ち遠しいですね。次回は、「リアル渡邉」にお会いできることを楽しみにしています!!

 


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