イベントレポート

2020.08.21

第25回『日本酒を蔵元のトークとテイスティングで楽しむ』を開催しました!

こんにちは。

兜LIVE!編集部です!


長く続く雨のせいか少し肌寒い陽気となった7月11日(土)、東京日本橋にあるFinGATE KAYABAにて「日本酒を蔵元トークとテイスティングで楽しむ」を開催しました。

ゲストは富山県富山市から参加された、富美菊酒造株式会社の蔵元・羽根敬喜さんです。


羽根さんが蔵元杜氏になられるまでの波乱万丈なお話しから始まり、地元富山県の清冽な水と酒米にこだわった酒造り、イベント恒例の利き酒、試飲と盛りだくさんの内容をレポートいたします!


名水の郷、富山県の日本酒造り

富山県では日本三大霊山のひとつと言われる立山連峰をはじめとする、山々からの豊富な雪解け水により育まれた五百万石、山田錦などの良質な酒米を使った酒造りが古くから行われてきました。富山県ではこれらの酒造好適米と呼ばれる酒米の使用割合が、全国の20%強よりもはるかに高い80%超え。これにより富山県のお酒は、まろやかな独特の風味が特徴になっています。


また、富山県は「平成の名水百選」にも選ばれるほど湧き水が豊富なため、各蔵ではこれらの良質の水を仕込みに使用。この水の良さも、すっきりとした飲み応えのあるお酒を造る要因となっています。


富山県の杜氏の流派は古くから二つあり、繊細で淡麗な辛口の酒質を造る越後杜氏と、しっかりした味と深みある酒を造る能登杜氏が半分ずつ各蔵で酒造りを行っていました。県内には20の酒蔵があり、酒造組合には19の蔵元が所属。ベテランの季節雇用の杜氏が引退されたことにより、ここ数年で蔵の製造責任者の若返りが大きく進んでいます。


また、酒屋の創業も古いところが多く、ほとんどが江戸から明治の創業です。昭和の時代は特級、一級、二級という級別制がありましたが、現在ではこの制度は無くなり、お酒も純米大吟醸、純米酒、大吟醸、吟醸酒、本醸造酒、普通酒と呼び方が変わりました。



高品質の酒造りを追求する富美菊酒造株式会社


富美菊酒造株式会社は1916年(大正5年)に創業した100年以上の歴史と伝統を誇る酒造です。創業以来、立山連峰の伏流水を仕込み水として五百万石、雄山錦、山田錦、富の香といった酒米を使い、酒造りを行なっています。


代表的なブランドは「菊の香りのように香ばしく美しい富山の代表酒であれ」ということから命名された「富美菊」と、平成14年にもう一度、蔵が酒造りを始めた時の原点に立ち返ろうという想いから、古くからの屋号である名前を復活させた「羽根屋」の2種類。「富美菊」は優しい香りとやわらかな味わいが特徴で、「羽根屋」は華やかな香りと口中に広がるうまみと切れ味、すっきりしたあと味が特徴です。


製造工程においては、「すべてのお酒を大吟醸と同じ手間暇をかけて造る」という蔵元の理想を実現するため、酒米の吸水作業を、ザルに小分けし秒刻みで細やかに吸水具合を調整する限定吸水という方法で行っています。これにより軽やかで透明感のある旨味と、芳醇な余韻を残すことができるのですが、かなりの手間がかかるため通常は鑑評会の出品酒などの最高級の吟醸酒にのみ使う方法なのだそうです。さらに、箱麹、蓋麹による丁寧な麹処理や日本酒のしぼりの工程においても、最高級の吟醸酒のみを使用する手法を用いています。そのため製造量を拡大せず、少数限定品となってしまうそうです。


*富美菊酒造株式会社


蔵元杜氏の理想と挑戦。酒造りの「常識」を疑う


現在の蔵元杜氏・羽根敬喜さんは東京の大手発酵メーカーに勤めたのち、平成7年に実家の富美菊酒造を継ぐため富山に戻り酒造りの世界に入りました。平成27年に社長となった羽根さんですが、次男として生まれたことや、昭和の職人堅気だったお父様への反抗などもあり当初は積極的に後を継ごうとは思っていなかったそうです。「半ば無理矢理に酒造りを勉強させられていた」と苦笑混じりに話しているのが印象的でした。


お父様の勧めで入社されたメーカーでの厳しくもあたたかい指導、周りの若い蔵元さんたちの「本物の自分の酒を造りたい」という熱い想いに、少しずつ気持ちが揺さぶられるも、「まだ自分のやりたい事は見つからなかった」と修業時代を振り返られていました。


修業を終えて実家の富美菊酒造に戻ったのち、しばらくは酒を売る営業の仕事をされていた羽根さんですが、漠然と蔵の経営に不安を感じていたそうです。そんな最中、銀行で決算書を見て会社の実情を把握したことで不安は確信へと変わります。蔵の継続、酒造りではなく蔵の幕引きが自分の仕事なのだという気持ちが芽生えたそうです。そうはいうものの、長く働いている従業員の方々のことも考え、先ずは10年会社を持たすことを第一目標に。日本酒造りを見直し、継続させるために新潟から優秀な杜氏さんをスカウトし酒造りを行うこととなります。その甲斐あって、賞を何年も続けて獲得できるまでに酒の質は上がっていきました。


しかし、そんな素晴らしい酒なのになぜか売れないという事態に直面します。当時の酒造りは、品評会用の酒と市販される酒には造り方に大きな違いがあるのが一般的で、大きな品質の違いがあったためでした。それに疑問を持った羽根さんは、「市販酒こそを美味しいものに」という結論に思い至ります。「全ての酒を、大吟醸と同じ方法でつくる」という今までの酒造りの常識に反する発想は、杜氏の大反対にあってしまいます。それならば、と自ら蔵に入ってアルバイトの方も雇い酒造りを行うことで杜氏を説得。酒米の原料処理の要である吸水処理を、大吟醸と同じ手間のかかる限定吸水という手法で行うことで、新しい富美菊酒造の酒造りが始まりました。


その後、羽根さんはベテランの杜氏から酒造りの工程を学び、その全行程を引き継ぐようになりました。現在は自ら蔵元・杜氏として、地元の蔵人とともに羽根屋の酒造りを行っています。


同イベント恒例の利き酒に挑戦!


富美菊酒造の歩みについて学んだ後は、いよいよ皆さんお待ちかねの利き酒タイム。これは、名前を伏せたA、B、Cというお酒が用意され、蔵元のヒントを元に正解を当てていく、というものです。今回ご用意してくださったのは「富美菊 純米吟醸 プロトタイプ フランマー」「羽根屋 純米吟醸 プリズム」「羽根屋 純米吟醸 クラシック」の3種類。羽根さんのヒントを元に皆さん正解を探ります。


筆者も利き酒に挑戦。Aは3つの中では一番香りが軽めで色もかなり透明に近く、すっきりとした味わい。Bは一番骨太で後味もしっかり残るのが印象に残り、Cは骨太な中に軽やかさが同居しているような複雑な味わいがあり、フルーティーな香りも感じました。個人的にはAが一番好みでした。



上の写真は、利き酒にご用意いただいた日本酒3種類。左から搾りたてのフレッシュな美味しさを追求した「羽根屋 純米吟醸 プリズム」、富山の美しさを投影し躍動感ある味わいを表現した「富美菊 純米吟醸 プロトタイプ フランマー」、蔵に現存する資料から再現した幻のレシピで造った「羽根屋 純米吟醸 クラシック」となります。原料米はすべて、麹が山田錦、掛米は五百万石で精米歩合も60%ですが、個性の違いを明確に感じました。それでも根底に流れる味の傾向は似ていて、羽根さん曰く「酵母は違うけれども、水質のおかげで近い味になるのではないか」とのことでした。


答えはA「羽根屋 純米吟醸 クラシック」、B「富美菊 純米吟醸 プロトタイプ フランマー」、C「羽根屋 純米吟醸 プリズム」。今回はなんと、利き酒に全問正解された方に羽根さんから素敵なプレゼントが贈られました!



屋号の入った前掛けで気分はすっかり杜氏さん!日本酒好きにはたまらないお土産ですね。私はというと、1問正解でした。


蔵元お薦めの日本酒3選!


利き酒に続き、蔵元お薦めの日本酒をご用意いただきました。写真左から「羽根屋 純米吟醸 煌火」「羽根屋 大吟醸 令和元酒造年金沢国税局優等賞受賞酒」「羽根屋 純米大吟醸 翼」の3種。


まずいただいたのが、羽根屋の看板商品「羽根屋 純米吟醸 煌火」。酸味が強く、一口含んだだけで口中に広がるフルーティーな香りが特徴的で、名前の通り華々しく煌びやかな印象がありました。フランス日本酒品評会 「Kura Master 2018」にてプラチナ賞、「全米日本酒歓評会2014」にて金賞も受賞した蔵の代表酒です。


富山県産山田錦を100%原料米とした「羽根屋 大吟醸 令和元酒造年金沢国税局優等賞受賞酒」はすっきりとした喉ごしと、軽やかな香りで飲みやすいお酒でした。ラベルに大人の佇まいを感じる「羽根屋 純米大吟醸 翼」は少し辛めの口当たりと程よい酸味が持ち味で、意外と喉ごしもよくスルスルと入ってしまいました。こちらも、フランス日本酒品評会 「KURA MASTER 2018」金賞、「インターナショナル・ワイン・チャレンジ 2016」金メダル、「ワイングラスでおいしい日本酒アワード2015, 2016」金賞と数々の賞を受賞した名酒です。


富山湾の恵を酒の肴に


おつまみとして地元富山県の海の幸も登場。甘辛く煮たホタルイカ、トウガラシの効いたホタルイカ、魚肉やイカゲソが練り込まれた「びっくり揚」、大葉の香りが爽やかな「磯くずし」というカマボコの4種類でした。


香りが穏やかですっきりした味わいの「令和元酒造年金沢国税局優等賞受賞酒」には甘辛く煮たホタルイカがぴったりと合っていて、ついつい日本酒のおかわりも進んでしまいました。酸味の感じられる「煌火」「翼」にはパンチのある辛いホタルイカで迎え撃つもよし、カマボコをおかずとしてお酒のお供にするのもよいと感じました。


富山県のお酒は総じて、富山湾から獲れる魚介類に合った辛口で香り豊かな食中酒になる傾向があるそうで、「羽根屋ブランドのお酒に、特に合う食べ物は何ですか?」という会場からの質問に、「口当たりも後味もすっきりとしたお酒なので、今回ご用意したおつまみ以外にも、富山湾名産のシロエビや肉料理にも合いますよ」とのことでした。


日本海の豊かな漁場・富山湾は「天然のいけす」とも呼ばれ、暖流と寒流が流れ込み多種多様な魚が獲れる水産資源の宝庫。なかでもシロエビ、ホタルイカは富山湾ならではのご馳走です。



ひたすら前を向いて続けていく、富美菊酒造の酒造り


利き酒、試飲タイムがひと段落し、蔵元から富美菊酒造がこれから目指す方向についてお話しがありました。


今、全国各地では若くて優秀な蔵元さんたちがどんどん育ってきていて、造る酒も大変素晴らしいそうです。若い力を感じるのと同時にそういった心のこもったお酒をいただくと、ついついマンネリ化しそうになる自分の気持ちが引き締まると言います。その上で、羽根屋として求め続ける酒質は、従来の透明感がある旨味も十分に残しつつも、最後まで続く綺麗な余韻・膨らみを感じられるようなキレのあるお酒を目指していきたいとのことでした。伝統を大切にしながらも新しい挑戦を怠らない、蔵元の実直で熱い想いを感じました。


平成23年より365日稼働させてきた蔵は、現在の新型コロナウィルス対策の影響を受け2020年4月、9年ぶりに蔵を閉め、酒造りを止める事態となってしまいました。しかし、その際も下を向くことなく従業員の方々と蔵の掃除をしたり、勤務時間を短縮して休めるときは休んだりと、今できることを行ったそうです。このような状況だからこそ気がつけたこと、見つめ直せたことも多かったと言います。


しかし、忙しい毎日からの突然の解放は精神的に厳しいもので、動いていない蔵の中で考え事をする時間も増えたそう。なぜ自分が、なんの為に酒造りをしているのか、これから何をすべきなのか、そういった事をずっと考えていたと言います。


そんなある日、小売の店を掃除するためにシャッターを開けた際、偶然居合わせた近所の方々に急に拍手をされたことがあったそうです。「店が開いた!」と嬉しそうに一升瓶を何本も買われていく姿を見て、「自分たちの造る酒が皆さんの元気や喜びに繋がっている」ということを実感し、また気を引き締めて酒造りを頑張ろうという気持ちになったと言います。


まとめ:喜びを届ける酒造り


富山県の酒造りの歴史に始まり、羽根敬喜さんが蔵元杜氏になるまでの波乱万丈な経緯、伝統に縛られず押し進めた新しい日本酒の価値の提案といった、大変興味深いお話が満載だった今回のイベント。非常に柔和な表情と語り口からは想像できない、酒造りへの熱く揺るぎない想いが羽根さんから感じられ、胸がいっぱいになりました。


古くからの屋号である羽根屋というブランド名には「翼が飛翔するが如く、呑む人の心が浮き立つような日本酒として存在したい」という願いが込められているそうです。それは、「気を込め、心を込めて丁寧にお酒を仕込み、呑む人に喜びを届けたい」という蔵元の日本酒造りに対する言葉・姿勢にも通じているのではないか、と思いました。


2018年10月から開催されている「日本酒を蔵元トークとテイスティングで楽しむ」。今回は感染症の情勢を鑑みて、人数の制限、ソーシャルディスタンスの確保、マスクの着用(集合写真撮影時を除いて)、アルコール消毒といった対策を取りながらの開催となりました。

早く平常に戻れることを切に願いながらレポートを終えたいと思います。
次回、また会場でお会いできますように!



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