2022.01.17

【蔵元トーク】#40 楯野川(山形県 楯の川酒造)

こんにちは!
兜LIVE編集部です。
 
11月27日(土) 、オンラインにて『日本酒を蔵元トークとテイスティングで楽しむ』を開催しました。
 
今では世界的な金融街と言われる日本橋兜町。

江戸時代には酒問屋で賑わっていた「日本酒の聖地」でした。東京証券取引所において初上場時の5回の鐘撞は、酒の原料である五穀豊穣にちなんでいるとのこと。
平日は賑わうこの兜町に、休日にも人が集まってもらいたい。そんな願いから日本各地の蔵元を招き日本酒について学び、味わい、楽しく交流し、その魅力を、兜町の魅力といっしょに広め、お酒が地域と人をつなぐ場所...。そんな場所に発展するように願いを込めて、毎月1回日本酒セミナーを開催しています。
 
今回は山形県酒田市で「楯野川(たてのかわ)」などを手掛ける楯の川酒造でした。代表取締役社長の佐藤淳平さんより、以下のとおり盛り沢山で、新たな取り組みも数多くお聴きすることができました。


◆楯の川酒造のご紹介
◆楯の川酒造の酒造りについて
◆契約栽培米への取り組み
◆世界的ロックバンド フー・ファイターズとのコラボレーション
◆組織強化と働き方改革
◆新たな取り組み

 ▼「白麹」を使用したお酒の醸造
 ▼新酵母YK009を使用したお酒の醸造
 ▼炭酸充填機の使用
 ▼公式オンラインショップの開設
 ▼製品課棟の新築
 ▼新仕込み蔵の建設
 ▼高級酒への注力
◆今後の展望
◆今回のお酒について
◆Q&A



 ◆楯の川酒造のご紹介



▼蔵の概要
・創業は1832年(天保3年)。今から190年ほど前になる。元々は酒母の製造場としてスタートし、その後、清酒製造に転換して今に至っている。自分で六代目で、2001年の「9.11」の後、10月に蔵に戻った。ちょうど20年を経過したところである。

・日本酒の主要銘柄は「楯野川」。そのほかに、山形の果物やヨーグルトを使用したリキュール「子宝」、和のまっこり「ホームランまっこり」がある。また、資料に記載していないが、粕取り焼酎や梅酒も製造している。

・楯の川酒造の関連会社として、鶴岡市に奥羽自慢という蔵を別会社で経営している。そちらでは、「奥羽自慢」や「吾有事」という日本酒のほか、「HOCCA(ホッカ)」という日本ワインの製造を行っている。
<参考:「ホームランまっこりの詳細」(公式HP)
(※)分類は「リキュール」、原材料は、「米(国産)・果糖・米麹(国産米)・麦麹」。
<参考:奥羽自慢株式会社・会社概要(公式HP)

▼純米大吟醸への特化と高精白への注力
・山形県は「吟醸王国」ということで売り出してきたが、当蔵は11年前に純米大吟醸に特化した、全国的には珍しい酒蔵である。

・高精白のお酒に注力しており、精米歩合の一番高いものは1%。一番低いものが50%であり、計算はしていないが、平均すると30%は確実に切るのではないかと思う。

▼契約栽培を中心とした使用米
・お米に関してはかなり拘って使っている。山形県産の酒造好適米を中心に、約25名の農家さんに栽培を依頼。酒米の「雪女神」、「出羽燦々」、「美山錦」、飯米の「亀の尾」、亀の尾の親である「惣兵衛早生」を生産して頂いている。

・県外の米としては、「山田錦」と「雄町」を使っている。

・「山田錦」に関しても2020年から徐々に契約農家に切り替えている。2022年の作付けからは、「山田錦」は全て契約栽培になる。

・「雄町」は岡山産を使っている。後でお話するが、フー・ファイターズのコラボのお酒で使っているぐらいで、長期的に使うかどうかは、検討の余地がある。


▼スタッフについて
・スタッフ数は、パートを含めて63名。そのうち12名がリモートワークで、東京、神奈川、京都、沖縄の石垣島で勤務している。


◆楯の川酒造の酒造りについて


▼蔵の立地
・庄内平野の北部、人口約10万人の酒田市の東部に位置する。蔵は、すぐ裏手が山、目の前が田んぼという、お酒造りに適したロケーションである。

・山形県を食文化や方言などで区分すると、庄内平野と内陸に分けられる。これは、庄内平野は江戸時代に幕府寄りの酒井家が鶴岡藩として治めていたことの名残である。

・食文化の違いの例を挙げると、例えば、芋煮は、庄内平野では庄内豚を使って味噌ベースで作る。これに対して、内陸は山形牛や米沢牛を使い、醤油ベースで作る。こうした違いは、酒席で結構話題になる。

・庄内地方には酒蔵が多く所在する。山形県内には52蔵あるが、そのうち20蔵が庄内地方にある。庄内平野の人口が30万人程度(当方注:山形県の人口約100万人の3割に相当)であることを考えると、集積度は高い。

・庄内平野は米どころであり、水も気候も良いことから酒造りが盛んになったのだと思う。また、庄内人、山形県民は「こつこつまじめに取り組む」という気質であり、人の面でも酒造りに適していると思う。

・庄内平野は北に鳥海山、南に月山・湯殿山・羽黒山があり、山々に囲まれている。
西側は日本海。平野の真ん中を最上川などの大きな川が流れている。春夏秋冬が非常に分かりやすく、夏は暑く、冬は寒い。

・2週間前から天気が悪くなり(当方注:開催日は11/7日)、毎日雨が降ったり、今朝は雪がパラパラ降っていた。これから12月、1月になるとかなり寒くなって、吹雪がすごい。雪は横から殴りつけて降るエリアである。

・内陸とは環境的に結構違うが、マイナス10度、20度となることはないので、冷え過ぎず、醪の管理もしやすいのも、酒造りに適しているといえる。
<参考:庄内地方について


▼等級検査と自社精米
・当蔵の特徴として、自社内での等級検査と自社精米がある。

・地元の契約栽培米は9月中旬から10月上旬に納品される。基本的に全て自社の敷地内で2~3週間ほどかけて等級検査を実施する。検査者は、自社に資格保有者が1名いるほか、外部企業の資格保有者に来て頂く。

・なお、県外から調達している「山田錦」、「雄町」は、当社外で等級検査を行ってから納品される。

・精米を行うのは、精米担当3名とパート1名の計4名。米は新中野工業の精米機4台で行っているが、農家毎に精米機にかけている。

・このように、地元の契約栽培米は、米を酒造りに使うまでの中間部分について、しっかり管理している。

・当社は高精白の酒造りのため、米糠も結構出るが、全量無駄なく使われている。

・糠は、赤糠、とら糠、白糠、上白と4種類に分ける。お米屋さん等に赤糠を引き取ってもらい、米油の原料や、家畜の飼料となる。より白い方の糠は、煎餅や団子の原料として売却している。

・使用する玄米の量は、当社で1年間8500俵、関連会社の奥羽自慢が1500俵程度で、合計1万俵程度となる。なお、1俵は60kgである。

・玄米の価格は1俵あたり1万8千円、山田錦に関しては2万円後半になるが、糠の売却単価は1キロ10円~10数円なので、微々たる金額である。
<参考:糠の種類について
(※)一般には、赤ぬか、中ぬか、白ぬかの3種類に分けられる。

▼製造
・製造課12 名(パート含む)で酒造りを行っており、季節雇用で更に農家さん2名に来て頂いている。



・製造課の業務は、白米の洗米、浸漬、蒸し、麹、酒母、醪、上槽、ろ過、加水までとなっており、それ以降は瓶詰めの部署が担当している。

・酒造りは「半年間休みなく、寝る暇もなく忙しそう」というイメージがあると思うが、当社の場合はどの部署も週休2日で、年間120日程度は休みがある。普通の会社と同じように働けるように、以前から勤務体制や環境の整備を行っているので、少人数で酒造りをしている酒蔵さんとは一線を画すのではないかと思っている。

・今期の仕込みは9/10日前後にスタートして、5月末か6月初までを予定している。その後、搾りや瓶詰めがあり、7・8月がオフとなる。酒造期間は10か月となる。

・製造課には色々なパートがある。ジョブローテーションを行い、1つのパートを半年間任せる。3年で6つのパートを経験できるので、新人でも3~4年で酒造りの全てのパートを経験する。広く薄くではあるが、お酒造りについて他の蔵よりも早く吸収できるのではないかと思っている。


▼酒母について




・2~3年前から全て中温速醸を採用している。通常の速醸酛は2週間で完成するが、中温速醸では1週間で酛造りが出来る。山廃、生酛は全く作っていない。

・酵母に関しては、全て自家で拡大培養して添加している。

・酵母の種類は、9号系の山形酵母KAを中心に使用している。生酒は協会6号を使用。高級酒は協会1801と山形酵母を半々くらいにブレンドし、上立香と含み香を感じられるような酒質設計にしている。

・前期は、自家採取したオリジナルの酵母を使用してタンクを何本か仕込んだが、今期は予定していない。山形酵母KA、協会6号、協会1801を使い分ける。

<参考メモ:普通速醸と中温速醸>

▼普通速醸
・一般に一旦10度以下に温度を下げ、その後状況に応じて暖気を入れるなど温度コントロールを行い2週間程度で育成。

▼中温速醸
・当初20度程度の温度をそのまま維持する。育成期間は1週間程度。暖気を入れないので雑菌汚染のリスクを減らせるともいわれる。
(中温速醸について(1)(2)

<参考:山形KA酵母について
(※2)山形KA酵母は、NF-KAとも呼ばれる。
<参考:有名な酵母リスト (1)(2)


◆契約栽培米への取り組み

▼県内の契約栽培
・契約栽培は、これまで力を入れてきた取り組み。山形県内の主な酒造好適米である「出羽燦々」、「美山錦」、「雪女神」について、15~16年前から契約栽培を開始。当初は約10ヘクタール(10町歩)程度だったが、現在は約70ヘクタールで増えている。

・「雪女神」はまだ新しい品種であり、昨年からスタート。当蔵では「出羽燦々」や「美山錦」の使い勝手が良く、相性も良い。これらに加えて「雪女神」、「亀の尾」、亀の尾の親の「惣兵衛早生」といったお米を契約栽培してもらっている。

・基本的に、地元の農家さんには農薬と科学肥料を半分以下に抑えた「特別栽培米」で作って頂いており、農家さんの栽培履歴は全て蔵にデータとして上がってくるようになっている。

・なお、2名の農家さんには、「出羽燦々」の有機栽培をお願いしている。こちらは農薬も化学肥料も使用しない有機栽培となる。
<参考:水田の広さの単位 (1)(2)

(※)10町(歩)=9,900㎡


<参考:特別栽培米について>
・農林水産省の定めるガイドラインでは、「特別栽培農産物」と呼称し、「その農産物が生産された地域の慣行レベル(各地域の慣行的に行われている節減対象農薬及び化学肥料の使用状況)に比べて、節減対象農薬の使用回数が50%以下、化学肥料の窒素成分量が50%以下、で栽培された農産物」と定義される。(1)(2)


▼県外の契約栽培
・県外の「山田錦」に関しても、昨年から少しづつ契約栽培を行っている。来年の作付けに関しては、県内と同じように特別栽培として、農薬と化学肥料を半分以下に抑えた栽培方法で作ってもらう。

・また、農家さんの一人に、有機栽培で「山田錦」を作ってもらえるようお願いしている。こちらは、JAS認証を受けるまでに3年間かかるので、それを乗り越えてから有機の認証を取った「山田錦」になる予定。

・これらは、当社がかなり力を入れている取り組みになる。

▼原料米に関する考え方
・日本酒の原料は水を除くとお米しかない。一般的な蔵元さんは基本的に県の酒造組合やお米屋さんに全て原料を丸投げして、それを仕入れるというのが暗黙のルールのようになっている。

・当社では特定の農家さんにお願いし、顔が見えるような形で納品してもらい、農家さん毎に精米して、かつ、「このタンクには、この農家さんとこの農家さんのお米が入っている」ということが分かるように取り組んできた。これは、より踏み込んだところまでやっていきたい。

▼農業法人について
・農業法人にも数年前から出資しており、農業法人に「美山錦」、「出羽燦々」の特別栽培米を栽培してもらって納品を受けている。

・農家さんも更に高齢化が進むので、酒米作りを止めるとか、農業を辞めるといったとことも増えてくることも見越し、農業生産法人にも少しづつ進出している。一般企業は、農業法人の株式を50%以上保有することが中々難しいが、時と場合によっては、そこまで進出することになるかもしれない。
<参考:農業法人と農地所有適格法人(農業生産法人)
(※1)「農業法人」とは、法人形態によって農業を営む法人の総称。法的に定められた名称ではなく、農業を営む法人に対し任意で使用される。
この農業法人のなかで、農地法第2条第3項の要件に適合し、「農業経営を行うために農地を取得できる」農業法人を「農地所有適格法人」という。
(※2)平成28年4月1日施行の改正農地法により、「農業生産法人」は「農地所有適格法人」に呼称が変更となり、要件が緩和された。

▼惣兵衛早生(そうべえわせ)の復刻
・「惣兵衛早生」は、庄内地方の在来品種。「亀の尾」は「惣兵衛早生」の突然変異株である。この「惣兵衛早生」の復刻を3年間かけて実施した。

鶴岡市藤島地区にある農業試験場から1.9kgの種籾を譲り受け、農家さんに増やして頂き、2年前にタンク2本を仕込めるまでになった。これを「Shield(シールド) 惣兵衛早生」としてリリースした。

・「亀の尾」もそうだが、「惣兵衛早生」も酒米ではなく飯米。そのため、酒米のような力強さやふくらみは無いが、素朴な味わいになったと思う。今回の試飲酒の一つなので「昔の日本酒はこんな感じだったのかな」という思いを馳せて飲んで頂ければと思う。
<参考:「惣兵衛早生」栽培のストーリーと楯野川の新シリーズ 「Shield(シールド)」

<参考:「惣兵衛早生」についての蔵元ブログ

◆世界的ロックバンド フー・ファイターズとのコラボレーション

・今年の2月に、米国のロックバンド「フー・ファイターズ」(Foo Fighters)とコラボレーションを行った話について説明したい。




・まず、映像からご覧頂きたい。
“Foo Fighters x Tatenokawa Collaboration Sake “HANSHO (Midnight)” Making Teaser”

・フー・ファイターズは、1995年に米国で結成されたロックバンド。自分も高校3年生ぐらいの頃から聴き始めて、大学生の時は1枚目、2枚目のアルバムを好んで聴いていた。そのため、会社うんうんもさることながら、個人的に嬉しい案件であった。

・2月に「半宵 碧」(はんしょう あお)と、「半宵 銀」(はんしょう ぎん)の2種類をリリース。バンドのメンバーともマネジメントを通じて遣り取りさせてもらい、お酒の方向性、米のセレクト、精米歩合、酵母などについて意向を聞きつつ醸造した。




・また、蔵の中に大きなスピーカーを設置。実際に影響があるかどうかは別として、フー・ファイターズの音楽を聴かせながら醪を育てたというのが特徴である。

・バンドのメンバーからも好評を得ており、10月から米国でも流通を開始した。来年以降も何かコラボして行きたいとのお話を頂いており、今年のアイテム以外にも、フー・ファイターズのオリジナル酒が出る流れになっていくのではないかと、自分も期待している。




<参考:SAKETIMES記事「米国を代表するロックバンド・Foo Fighters x 楯の川酒造がコラボ!ニューアルバムと同日2/5(金)に純米大吟醸酒をリリース」

<参考:PR TIMES「楯の川酒造とフー・ファイターズのコラボで話題の日本酒「半宵」再出荷開始!フー・ファイターズからのラブコールで実現したオリジナル日本酒の制作過程を追ったドキュメンタリーMVもオフィシャルYouTubeにて公開」>

◆組織強化と働き方改革



▼組織強化

・2021年9月に川口達也氏に役員に就任頂き、経営企画室や通販をみてもらっている。川口氏を含め、2021年の春先から10月までに10名ほど、デジタルマーケターやカスタマーサクセスの専門家の方などに、リモート勤務の形で入社頂いている。





・今回、東京の配信会場でサポートしている高梨氏も広報担当として入社して頂いた経緯。製造や出荷以外の業務について、リモート勤務の形で採用することで組織強化を図っている。


▼働き方改革
・コロナ禍でリモートワークが増えているが、当社は10年以上前に東京営業担当を採用した頃からリモートワークを始めている。コロナ禍前には4人ほど東京勤務者がおり、国内営業と海外営業を担っていた。




・コロナ禍になり、よりリモートワークを進めるべく、社内インフラを整備した。「チャットワーク」、「Google Workspace」、「Sansan」や、人事関係の「ハーモスコア」等を活用している。

・酒造りの現場も、先ほどお話したように完全週休二日制。酒造りのデータは全て管理してクラウドサービスで共有し、醪の管理等を行う

ほか、出荷管理などもおこなっている。

・今取り組んでいるのは、在庫管理や出荷、酒販店や問屋からの受注関係のDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進。よりIT化、自動化を行い、より筋肉質な会社を目指したいと考えている。
<参考:高梨さんによる当イベントのリポート


▼社内コミュニケーションの取り組み
・Chatworkスレッド「フリートーク」を設置し、他社情報共有やイベント情報など、業務以外の情報交換 を気軽に行うことで、コミュニケーションを円滑化している。



・社員数が増えたので、新しい社員にも早く会社に馴染んでもらうため、社員インタビュー企画などを行っている。また、Wantedlyを使った取り組みなども行っている。

・他部署体験(ジョブトライアル)を実施し、リモートワーク社員であっても現場で他部署の業務を経験することで、社員コミュニケーションを促進し、業務への知識を深めてもらう。酒造り、出荷を経験するほか、利き酒勉強会等も行っている。
<参考:「社員インタビュー企画」の例

<参考:Wantedly活用例「お酒造りの現場を紹介します!」

◆新たな取り組み



▼「白麹」を使用したお酒の醸造

・楯の川酒造で史上初めて、白麹を使用した商品「干支ボトル 寅 2022 」を 11 月 15 日から販売している。





・クエン酸由来のレモンのような爽やかさと、重厚な甘みがある、今までの楯野川と一線を画すような仕上がりになっている。見かけたら是非お買い求め頂きたい。




▼新酵母YK009を使用したお酒の醸造

・YK009は、山形県が県オリジナルの酒米「雪女神」を用いた日本酒の商品化を念頭に開発した新しい酵母。どちらかといえば、高級酒用の香りがある程度あるタイプと考えている。「酒未来」50%精米をタンク2本で仕込む予定で計画を組んでいる。
<参考:山形県工業技術センター「新酵母(YK009)を使用した清酒の製造技術」


▼炭酸充填機の使用




・3~4年前に導入したスパークリング用の充填機があるのだが、2020BYまでは生酒の充填しか使用していなかった。タンクでは6~7本程度。

・それでは勿体ないということで、2021BYからは、火入れ酒を含め、全ての商品において「炭酸充填機」を使用して瓶詰することとした。

・その理由には、作業効率の改善のほか、品質向上も挙げられる。

・この充填機は、空尺部分に窒素ガスを入れることができ、また、ノズルが底まで刺さるので、お酒を泡立てずに瓶詰めできる。即ち、お酒への衝撃を抑えつつ、酸化も防止できる。
・これにより、「老ね」や「生老ね」を抑えることが期待される。


▼公式オンラインショップの開設
・2019年8月から自社のECを立ち上げ、蔵から直接販売できるようにした。フー・ファイターズのお酒も当初は自社ECショップで販売を開始し、その後酒販店に展開した。
・今後も、限定酒や試験醸造酒などのレアなお酒をECショップを利用して展開できればと考えている。

▼製品課棟の新築




・2021年9月に建設を開始し、年末には完成予定。ラベラーを通して梱包する製品課の作業場になる。ラベラーの台数を増やしつつ、作業効率をアップさせ、中国や米国のようにコンテナで大量の注文が来るようなケースにスピーディーに対応したい。

▼新仕込み蔵の建設




・今期の設備投資の目玉。600kg用の小さいサーマルタンクを18本導入。ここには元々プレハブの冷蔵庫が5~6台あったが、キレイにして仕込み蔵として整備した。

・精米歩合18%よりも磨いた高級酒を専門に仕込む。サーマルタンクで0.1度刻みの温度管理もしつつ、空調もあるので、外気温に左右されない品温コントロールと醪管理が出来る。お酒の品質が更に上がるのではないかと思う。




▼高級酒への注力
・今まで、1%精米のお酒を販売する一方、晩酌用に「清流」や「美山錦 中取り」のような比較的リーズナブルな純米大吟醸も販売してきた。これを、より精米歩合の高い製品に注力する形にしてゆきたい。

・コロナ禍ということもあり、1本1本にしっかり付加価値をつけられるようにしていきたい。

◆今後の展望

・精米歩合20%以下のもの、特に精米歩合1%のお酒をもう少し量産して海外展開をしっかりやっていきたい。50%精米のお酒も継続して販売するが、今期の途中からオリジナル瓶を採用したり、よりデザインに注力したアイテムを企画・開発している。

・関連会社の奥羽自慢で手掛けているワイン事業に加えて、2021年12月には、ウイスキー事業の子会社設立を予定している。2022年夏頃から建物を建設し、2023年1~3月でウイスキーのプラントを導入。4月から蒸留を開始したい。

・ウイスキーは販売まで3~4年寝かせる必要があるので、販売は2026~2027年頃に開始できればと考えている。

・日本酒、ワイン、ウイスキー、リキュール、焼酎ということで、日本産酒類の総合酒類カンパニーを目指す。日本酒を中心に展開することは間違いないが、幅広い商品展開で会社を成長させていきたい。
・4~5年後にIPOできるような体制を整えていきたいと考えている。実際にIPOするかどうかは置いておいて、酒蔵から、一つの企業として、地に足を付けて、100 年後も成長し続ける会社を目指していきたい。

<参考:「ラベルデザインにこだわったお酒」等(公式HP)

◆今回のお酒について


①「楯野川」 純米大吟醸 美山錦中取り




・当社では比較的ベースとなるお酒。「清流」と「美山錦中取り」が定番のお酒である。
・「美山錦中取り」は地味目なお酒。お料理と合わせながら飲んだり、燗にしても美味しい。
<参考:「楯野川 純米大吟醸 “清流”と“美山錦 中取り”、酵母について」(公式HP)
(※)「清流」は山形酵母KA、協会酵母1801、「美山錦 中取り」は山形酵母KAを使用。

②「Shield」 惣兵衛早生(そうべえわせ)




・先ほどお話した通り、「惣兵衛早生」は「亀の尾」の親になる品種。このお米でお酒を造っているところは全国で当社だけだと思う。
・飯米なので、酒米のような味の幅や深みはなく、素朴な味わい。他の2種とは対照的な味わいになると思う。

③「楯野川」 純米大吟醸 三十三




・高級酒のレンジの一つ。「出羽燦々」は20年ほど前に開発された山形県の酒造好適米。山形県に1400m級の山々が33あるということがネーミングの由来にあり、その数字に掛けて33%精米としている。
・あまり国内では流通していないが、中国には大量に輸出している人気商品である。
<参考:「出羽燦々」について>

山形県酒造組合HP

SAKETIMES記事「吟醸王国・山形県が産んだ酒米「出羽燦々」【専門用語を知って日本酒をもっと楽しく!】」
(※)1991年に「山形酒49号」という系統名が与えられ、1997年に「出羽燦々」として品種登録
農研機構 品種解説:「出羽燦々」)
「山形県における酒米開発の取り組み」山形県工業技術センター・工藤晋平氏

◆オンライン飲み会をしながらQ&A

(Q)資料に「50 歳で第一線から身を引いて、優秀な方へバトンタッチしたいと思っています」という記載があるが、何か思うところがあって書かれているのか。

(A)これは前から言っていること。自分は20歳で社長になり、それから23年経つ。蔵に戻ってきてからだと、2021年11月で丁度20年。社長は30年やれば良いのではないかと思っている。それからは違うことをやってみたいという漠然とした思いがある。会社は優秀な人に執行してもらえば回るのではないかと思っている。


(Q)次がお酒に関わる仕事がどうか分からないということか。
(A)そうだが、お酒に関連することなのかもしれない。これから考えたい。


(Q)IPOのメリットは、どこにあると考えているか。
(A)実際にIPOするかどうかは置いておいて、それができるような体制まで持っていきたい。これまで酒蔵でIPOした先は無い。また、上場企業は3000~4000社程度あるようだが、仮に当社が上場すると、その中で創業が一番古い企業になるようなので、それも面白いだろう。IPOした場合、資金調達も大きなメリットになると思うが、日本酒の事業がレガシ―で斜陽産業だという見方を変えていく一つの契機になるのではないかと思う。また、輸出を促進する上では、一つの材料になるかもしれない。


(Q)炭酸充填機で泡立たずお酒を注入できる仕組みをもう少し詳しく教えて欲しい。
(A)普通の充填機のノズルは瓶の上の方までしか入らず、そこから瓶底に向けてお酒がシャワーのように注がれる。そうすると瓶内にお酒が溜まる際に泡立ってしまう。すると落下の距離もあるし、泡立つのでお酒が酸化する。炭酸充填機は、ノズルを入れる前に、瓶内にガスを注入して圧力を変える。その後にノズルが瓶底の方まで入り、注入されたお酒の液面が上昇するとともに、ノズルも上がる。すると泡立たないし、お酒へのダメージも小さい。また、空尺に最後に窒素ガスを充填するので酸素を相当程度シャットダウンしてお酒の酸化防止に役立つ。基本的にはスパークリング日本酒を詰める専用の設備だが、当蔵では生酒も火入れ酒もこれで詰めるという対応をしている。国内ではそうした取り組みは、あまり無いのではないか。


(Q)農家さん毎に仕入れ、精米からタンクまで管理されているということだが、それによりどのようなメリットがあるか。また、そこから得られた結果を農家さんにフィードバックされていたり、今後の更なる活用等が検討されているのであればお聞きしたい。
(A)地元で25名ほどの農家さんに地元で原料米を作って頂いているが、「亀の尾」や「惣兵衛早生」は2名の農家さんにしかお願いしていない。そのため、どのお酒にどの農家さんのお米が使われているか分かりやすい。「亀の尾」や「惣兵衛早生」に取り組む農家さんは、「リスクを取っても良い」と考えて下さる方々。そうした農家さんが、「自分の作ったお米がこういうお酒になっている」と分かるのはメリット。そうした農家さんは、お歳暮やお中元で、「亀の尾」や「惣兵衛早生」のお酒を使われたりする。それは農家さんの楽しみの一つになっているのではないか。農家さん毎のフィードバックとしては、等級検査の後、農家さん毎にタンパク質含有量なども計測して、全ての農家さんのデータを、全ての農家さんに提供している。タンパク質含有量は6%とか8%とか、結構ばらつきがある。そうしたデータ提供が翌年の米作りに役立つことを期待している。これからの展開としては、できれば、農家さん毎にタンクを仕込めれば理想であるが、なかなか難しい。ただ、洗米や浸漬がブレにくく、非常にやりやすいのは確か。組合やお米屋さんから購入すると、例えば出羽燦々を100俵購入すれば、色々な農家さんの出羽燦々が混じる。そうすると結構ブレて、精米までは何とかなるが、洗米や浸漬で苦労する。酒造りで我々が出来る仕事というのは、基本的に、水分と温度のコントロールしかない。水分のコントロールが上手くいかないと酒造りの障害になる。そこを契約栽培で農家さんを特定して同じロットで管理し、難しいところを一つ一つ潰していくのが目的となっている。


(Q)今年のお米の出来はどうか。
(A)基本的には出来が良く、収量も多い。品種にもよると思うが、どちらかといえば少し柔らかいかなと思っており、溶けやすそうだ。普通に原料処理すると溶け過ぎるだろうという前提で、締めて、溶けないようにしている。


(Q)高品質化という観点から、来年のラインナップの変化はあるか。
(A)大胆に変化させることを考えている。「ひやおろし」や夏酒は、今までのものを止めて、酒未来と羽州誉に変える。あと、来期になるが「光明」の派生商品として雪女神1%精米の製品も考えている。
<参考:「羽州誉」について>
デジタル大辞泉プラス「羽州誉」の解説
(※)「酒造好適米の品種のひとつ。羽州錦2号。山形県の高木酒造14代高木辰五郎が2000年に育成し固定された。美山錦と玉龍F10の交配種。短稈で耐寒性が高く大粒で、キレのある酒質が特徴」と説明。


(Q)来年の「山川光男」については、どのような予定になっているか。
(A)今年は「お肉」をテーマにして、庄内豚や米沢牛、羊などの食材にあわせて展開したが、来年については決まっていない。松尾芭蕉とか…。自分は「魚」が良いのではないかと言ってみたが、他の3蔵は内陸で、魚といったら鯉や鮒などしかないとして頓挫している。
<参考:「山川光男」公式HP
(※)「山川光男」は、以下の4蔵の銘柄から一文字づつ取ってネーミング。
「山」=山形正宗
「川」=楯野川
「光」=東光
「男」=羽陽男山

・上記4蔵が交代で、「山川光男」ブランドのお酒を製造。春・夏・秋・冬の4バージョンを販売している。


(Q)ウイスキーと日本酒の製造で、関連する部分はあるか。
(A)製造面での関連は、あまり無いと思う。ウイスキーは麦芽が原料で、糖化して麦汁をつくり、発酵させる期間が3~4日程度。その後すぐ蒸留だが1日で終わる。1ロット1週間程度で造る。3~4日間の醪管理では日本酒の技術は応用できるかもしれないが、醸造酒と蒸留酒ということで、製造面は異なる。むしろ、販売面やビジネスとしては、日本酒もウイスキーも酒類なので、応用できると考えている。


(Q)ワイン用のブドウの生産状況や、生産量についてお聞きしたい。
(A)ワインのブドウの生産は5年ほど前から楯の川酒造で行っている。現在2ヘクタールほど。苗木で6000本程度ある。それ以外に内陸の農家さん4~5名ほどに、シャルドネ、カベルネ・ソーヴィニヨンを作って頂いているが、まだ収穫に至っていない。収穫できるようになるのは3~5年後になると思う。生産量については圧倒的に日本酒の方が多い。ワインは2021年の9~10月に仕込んだが5000本程度の生産量。品種としては、シャルドネ、ピノグリ、カベルネ・ソーヴィニョン若干と、ツヴァイゲルトなど。2021年は春先に雹(ひょう)が降り、シラーとピノノワールが収穫できなかった。雪や雹という自然に大きな影響を受けた年だった。


(Q)1年程前の本セミナーで「雄町の使用は取止める予定」と聞き、残念に思っていたが、フー・ファイターズのお酒で雄町のお酒を飲むことが出来て良かったと思っている。また、「Foo Fighters」を漢字にしたようなラベルのデザインも気に入っている。
(A)「雄町」は前期で辞めるつもりだった。フー・ファイターズのメンバーにサンプルを送ったところ、「出羽燦々」50%精米と、「雄町」50%精米が良いと言われたので、続けることにした。現在、「雄町」を使用しているのはフー・ファイターズのお酒のみ。デザインに関しては、デザイナーさんに何パターンか作ってもらい、メンバーに見てもらったところ、漢字っぽいデザインが「クールだね」ということで決まった。なお、フー・ファイターズのファンで、このラベルデザインをタトゥーにしているのを写真で見たことがある。


(Q)例年4月に開催していた蔵開放について、2022年はどうなりそうか。
(A)2022年は9月に、酒田市内の公共施設か広場を使用して開催する方向で検討している。例年4月に蔵で開催していたが、4月は少し寒いということ、また、蔵開放で使用していたスペースに、先にお話した製品課棟を建設したという事情もある。


(Q)組織強化の効果、現状と今後の展望についてお聞きしたい。
(A)組織強化でリモートワークの方が増えた。今年はセールス、プロモーション、経営企画の面を強化したが、これからも、働く場所に関係なく優秀でお酒に興味のある方をどんどん取り込んでいきたい。例えば、海外在住の方というのもあり得るだろう。働く場所に縛られないというのは、企業としては良いのではないか。製造や出荷という現場がある部署は仕方ないが、そうでない業務については、積極的に採用していきたい。ECにも注力したい。BtoBもやりつつ、特殊なアイテムや試験醸造など、レアなアイテムに関しては自社ECを使って展開していければと思う。今まで当社もBtoBで酒屋さんと問屋さんに頼ってきたが、例えば、売上の10~20%を自社で販売しなければならない時代になってきているのではないかと思っている。


◆まとめ

兜LIVE!に4年連続登場していただいている楯野川。これまでも、18%精米、8%精米、そして1%精米の日本酒を発売するなど「攻め」まくりでした。そして、今後も攻めの姿勢で次から次と新しいことにチャレンジしています。今回は、リモートワークを活用して、セールス、プロモーション、経営企画など幅広い人材を活用する取り組みが印象に残りました。

まだ、『楯野川』を飲まれたことがない方は、ぜひ、お試しあれ!!



 

<佐藤淳平社長をお迎えして開催された過去の「兜LIVE!」の投稿>
◆2020年10年24日開催レポートはこちら
◆2019年4月27日開催レポートはこちら
◆2018年4月28日開催レポートはこちら


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