2025.12.24

2025年12月7日、日本橋兜町・茅場町にて第8回目となる「Jazz EMP @ Tokyo Financial Street 2025」が開催されました。
今年も兜町のランドマーク「KABUTO ONE」に、若手精鋭を中心とした才能溢れるジャズミュージシャンたちが集結。
大盛況のうちに幕を閉じたイベントの様子をレポートします。
「イノベーティブな場所には必ず芸術、音楽がある」という着想のもとに始まった「音楽と金融の融合」、「若手ミュージシャンの育成」をコンセプトに行われるジャズの祭典、それが「Jazz EMP」です。
ジャズシーンに頭角を現す若手ミュージシャンに成長の機会を提供すること(EMP=Emerging Musicians Program)を目的に、金融の街・兜町が世界に誇る代表的なイベントとして毎年開催されています。
8回目の開催となる今年は、総勢5組のミュージシャンによるセッションとNPO法人アーキペラゴの代表理事を務める三井文博氏によるトークイベントが行われました。
会場となったKABUTO ONEがある日本橋兜町・茅場町は、東京取引証券所を代表に「証券・金融の街」、「事始めの街」として日本経済の中心として繁栄していきました。
現在ではおしゃれなレストランやカフェなども多数存在し、定期的にジャズイベントも行われ若者を中心に多くの人が賑わう街としても広く親しまれています。

日本橋兜町の新たなランドマークとして知られるKABUTO ONE。4Fにある500名以上を収容可能なホールで開催され、多くのジャズファンが会場を訪れました。
3Fには読書と食事を楽しめる非日常的なリラックス空間「Book Lounge “Kable”」があり、この日は店内で注文できるフードやドリンクを会場に持ち込むこともできました。
私はカフェラテとチーズのタルトケーキをテイクアウトしましたが、非常に美味しかったです。

食事をしながら家族や友人とリラックスして演奏を楽しむ観客も多く、賑やかであたたかい雰囲気に満ち溢れた時間をKABUTO ONEで過ごすことができました。
第8回「Jazz EMP」の出演アーティストとタイムテーブルは以下の通りです。
■12:10~ Session #1 寺久保伶矢
寺久保伶矢(Tp.Vo.)/伊藤友佑(Gt.)/市川空(Key.)/江原“Bandy”悠紀(Ba.)/山近拓音(Drs.)
■13:10~ Session #2 中林俊也カルテット
中林俊也(Sax)/平手裕紀(Pf.)/木村優太(Ba.)/きたいくにと(Drs.)
■14:20~ Business Talk Session 「レッジョ・エミリア・アプローチにインスパイヤされて始 まった芸術士活動」
NPO法人アーキペラゴ代表理事 三井文博×武藤沙和(モデレーター)
■15:00~ Session #3 平田晃一カルテット
平田晃一(Gt.)/石田衛(Pf.)/吉田豊(Ba.)/柳沼佑育(Drs.)
■16:00~ Session #4 布施音人バンド
布施音人(Pf.)/太田朱美(Fl.)/曽我部泰紀(Ts.Ss.)/鈴木雄太郎(Tp.Flh.)
駒野逸美(Tb.)/高橋陸(Ba.)/中村海斗(Drs.)
■17:00~ 原朋直 Chordless Trio plus with 池田篤
原朋直(Tp.)/伊東佑季(Ba.)/大儀見海(Drs.)/平倉初音(Pf.)/朝田拓馬(Gt.)/池田篤(As.)

オープニングでは小池百合子東京都知事から、都も注目する芸術と金融の総合イベントとして「Jazz EMP」の発展を願う応援のビデオメッセージが送られました。

総合司会を務める鈴木ともみ氏のMCを皮切りにイベントがスタートします。
トップバッターを担当するのはトランぺッター、シンガーソングライター、プロデューサーとして幅広く活躍する若手アーティスト・寺久保伶矢氏。
疾走感のあるバンドセッションから始まり、それへ呼応するように寺久保氏が情熱的なトランペットを吹き上げ、序盤から会場を大いに盛り上げました。

トランペット演奏のみならずボーカルまで務め上げ、マルチな才能を見せます。


曲調が目まぐるしく変化する怒涛のアンサンブルの中で、各バンドメンバーのソロ→寺久保氏と2対2のセッションというパートが始まり、静と動を自在に操るかのような演奏で会場の空気を揺らしました。
また終盤にはエレクトリックピアノやドラムパッドなど電子楽器を用いながらのセッションも行われ、さらに流れを変えていきます。ジャズをルーツにしながらも、ジャンルにとらわれず前へ前へと突き進む寺久保氏とバンドの姿勢はまるでロックバンドのようでもあり、彼らの演奏に魅せられて思わず“縦ノリ”する観客も。
火付け役以上の存在感を放ち、新世代の音を会場に刻み込みました。
来年にはNewアルバムをリリースするとのことで、今後の活躍にも目が離せません。

続いて登場したのは、国立音楽大学ジャズ専修主席卒業の中林俊也氏率いる中林俊也カルテット。
2024年に結成された、中林氏のオリジナル曲の演奏を中心に活動しているバンドです。
ブラシによるスネアドラムの刻みから始まる、しっとりとしたジャズらしい入り。そこに平手裕紀氏のピアノと中林氏のアルトサックスのメロディーが加わりました。

ピアノとドラムのセッション。支えているようにも攻めているようにも表現するドラムの上でピアノが自由に踊り、そこへ中林氏のサックスが優しく包み込むように入ります。


深夜のひと時を連想させるようなウッドベース。だんだんと朝日が昇るようにテンションが上がっていき、一日が穏やかに始まっていく情景が頭の中に浮かび上がりました。
曲が続いていき、今度はサックスが入ることで浮かぶ情景は朝から夕方、そしてまた夜へ。
繊細な音が生み出す、日常の営みを表現するかのようなセッションに観客は心を奪われていきます。
演奏が終わりMCに入ると中林氏は「来年はレコーディングをして、音源を出したい」と語り、今後の展望を伝えました。
最後は自身の名刺代わりの一曲として、すでにリリースもされている『Highlight』を披露。
悲哀を感じさせるピアノと、激しくも静かに音を鳴らすドラム。中林氏のソプラノサックスが明るく雄々しい音色を奏で、光と闇がせめぎ合ってるかのような印象を与えます。
絶望から希望へ向かっていくように演奏の展開を広げていき、最後は静かに大団円を迎えました。

20分の休憩時間を挟み、次のプログラムはNPOアーキペラゴ代表理事の三井文博氏と、ソプラノ歌手でありJazzy Business Consulting株式会社のビジネスアナリストでもある武藤沙和氏によるトークセッション。
「芸術士」の活動とその始まりについて語られました。


「芸術士」とは幼児教育の現場で活躍する若手アーティストたちのことで、絵画や造形などを通して子供たちの感性や創造力を育成することを目的に様々な現場へ派遣されています。
三井氏は、芸術士の始まりはレッジョ・エミリア・アプローチにあるといいます。
レッジョ・エミリア・アプローチとはイタリアのレッジョ・エミリア市に発祥を持つ、アートを用いて子供たちの自由な興味関心を育む教育方法です。
教育哲学者ローリス・マラグッツィの提唱から始まり、戦後に参政権を持った女性市民たちの力によって教育施設が建てられ、そこへ職にあぶれた芸術家たちが集まったことで実現しました。

その出来事が、「芸術士」誕生のきっかけになったとのことです。
芸術士が目指すのは「非認知能力の育成」、そして協力先の高松市から提示された「子供たちの自己肯定感の向上」であると三井氏は語ります。
疑問や探求心を見捨てず、大切な「タネ」として捉え、結果を求めない可能性を追求していくのが芸術士の基本理念であると観客へ伝えました。
武藤氏曰く、若手アーティストが自身の専門性を用いながら社会貢献ができる機会であり、子供たちの笑顔や成果に繋がる芸術士の活動は、芸術と社会の共存の在り方として一つ大きな効果を持つ事例だと思います。
子供たちと社会を繋ぐ架け橋として、芸術士のこれからの活動に大きな関心が寄せられました。
トークが終了し、再びジャズセッションが始まります。

ステージに上がったのは、2023年Seiko Summer Jazz Campで最優秀賞を受賞した札幌の若きジャズギタリスト・平田晃一氏が率いる平田晃一カルテット。
平田氏の挨拶とメンバー紹介から始まり、石田衛氏によるゆったりとしたピアノからスタート。ギターが入り、ピアノとアンサンブルを進めていきます。
スタンダードを中心とした、若手ながらも円熟味を感じさせる演奏で会場にいるジャズファンの心を掴んでいきました。


中盤にはバラードが演奏され、平田氏のクリーンなサウンドによる独奏がしばらく続き、そこにドラム、ベースが加わります。
ピアノは効果音のように一音一音を的確に鳴らし、雨の日に部屋の中で物思いに耽る何気ない日常を連想させるような表現をセッションで披露しました。

終盤に入ると平田氏は再び観客に挨拶をし、六本木のジャズクラブ・アルフィーで録った自身のライブ録音CD『Introducing Koichi Hirata - Live at alfie』を宣伝。今後の活動への意欲を語りました。
最後の演奏に入り、ドラムのリズムから軽快なノリのギターでセッションがスタート。遊ぶように響くウッドベースの音が全体を包み込んでいきます。
アップライト感のあるピアノが光り、ドラムソロへと移行。スネア・タム・シンバル全てが情熱的に鳴らされ、そこに激しさは保ったまま空気を変えるように平田氏のギターがメロディーを奏でました。
平田氏を軸に、全楽器がそれぞれ存在感を発揮し合いながらも絶妙なバランスで演奏を成り立たせる様はまさに四重奏。
若手の実力派として、このイベントに相応しいパフォーマンスを魅せました。
「Jazz EMP」も終盤に近付き、今回最多人数で登場したのはジャズピアニストの布施音人氏率いる布施音人バンド。

普段は高橋陸氏、中村海斗氏とトリオで活動していますが、このイベントでは4名のホーン奏者を引き連れ、オリジナル曲のアレンジを披露しました。
布施氏の指揮から始まった4つの管楽器による演奏は非常にドラマチックで、まるで複数の登場人物が錯綜する物語のような雰囲気を感じさせます。


物語に変化をもたらすように、トリオによるピアノ・ベース・ドラムのセッションが加わります。 中盤はトロンボーンとフルートの共鳴が印象的で、対してトリオの主張も徐々に激しさを増していきました。 そこからトランペットとサックスの共鳴も始まり、全合奏で物語はピークに達します。

物音を叩くような不可思議なベースソロの上にトロンボーンが鳴らされアンサンブルへと繋がり、ゆったりとした雰囲気の中エンディングへ。
トリオが描いたシナリオの上で管楽器が演技をするようなセッションは、最後まで観客を魅了していきました。
布施氏曰く、トリオの楽曲をこのような形で演奏したのは初めてだったとのことで、いつかまた披露してみたいとアレンジへの意欲を見せました。
アルバムの制作を計画しているなど、今後の挑戦にもますます期待が寄せられます。

多くの熱狂を生んだジャズの祭典もいよいよ最後のセッションへ。
イベントの音楽監督を務めるジャズトランペット奏者の原朋直氏とサックス奏者の池田篤氏を筆頭とした、原朋直 Chordless Trio puls with 池田篤が登場。長らくイベントを支え続けたベテラン奏者と若手ミュージシャンの世代を超えたコラボレーションで締め括ります。
原氏の挨拶とメンバー紹介から始まり、オリジナル曲を3連続で披露。
原氏のトランペットと池田氏のサックスによる幻想的な始まりから、しっとりとしながらも難解なフレーズを放つピアノへと続きます。


複雑なビートの上で響く朝田拓馬氏のギターソロ。まるでトランペットがもう一人いるかのような独特な音色で観客の心を躍らせました。

原氏のカウントでゆったりとしたバラード調のセッションへ。ギターのクリーンサウンドとベースがグルーヴを生み、ドラムがだんだんとテンションを上げていきます。その流れのまま池田氏のサックスが鳴り響き、ベースソロが大人らしい雰囲気を作り出しました。
原氏は最後に少し笑い話を挟みながら、「年を重ねるごとに大切なものが見えるようになりました。ジャズとは目新しさからその内面の深さを感じていくもので、そういった若者が増えたと思います。ぜひCDを買ったり、ライブハウスに行ったり、応援してあげてください」と、イベントのコンセプトでもある若手ミュージシャンの成長への想いを語りました。
「最後は景気よく!」と、原氏と池田氏がそれぞれ強烈なソロを吹き会場を盛り上げていきます。圧巻のパフォーマンスには長年ジャズと向き合ってきた貫禄を感じさせ、音で魅せるベテランの姿に感動しました。
演奏が終わり拍手が鳴り響く中、そのままアンコールへと突入します。

最後はジャズの名曲『Donna Lee』を本日の出演者一同で演奏。
個性豊かなミュージシャンたちがそれぞれ思うままにソロを回し、最後は全合奏へ。
6時間にわたる長丁場にふさわしいフィナーレを迎え、8回目となる「Jazz EMP」は幕を閉じました。
「Jazz EMP」を通して音楽、芸術というものの奥深さをあらためて知ることができたと思います。
普段メディアや音楽シーンで取り上げられるようなポピュラーミュージックにはない、音色とグルーヴの世界。
楽譜に縛られない即興演奏、リズムの中で生まれる独特な揺らぎといった生演奏の魅力=ジャズの醍醐味を存分に味わうことができ、6時間ということを忘れるほど、ミュージシャンたちによる白熱のセッションに夢中になっていました。
またトークセッションの内容もとても興味深く聞き入り、実社会における芸術活動の在り方について非常に考えさせられました。
金融街として発展した街がこれほどまでに芸術に対して深い理解を示し、若い世代のために盛り上げようとするその姿勢には、文化というものへの希望を感じさせます。
それぞれ満足した様子で会場を後にする観客たちを見ながら、「証券・金融の街」、「事始めの街」、そして「芸術が育つ街」としても日本橋兜町・茅場町は新たに進歩していくのだろうと、期待に胸が膨らむ一日となりました。

******************
▼兜LIVE!(かぶとらいぶ)
人と歴史と未来をつなぐ応援プロジェクト兜LIVE!では、たくさんの方が兜町・茅場町に親しみを持っていただけるような楽しく勉強になるイベントを企画・実施していきます。FacebookやInstagramをフォローして最新情報をチェックしてくださいね。
・Facebook
・Instagram
・X(旧Twitter)
×
兜LIVE!について
運営 |
一般社団法人日本橋兜らいぶ推進協議会 |
|---|---|
代表者 |
藤枝昭裕 |
住所 |
〒103-0026 |
連絡先 |
support@kabuto-live.com |