2020.08.04
こんにちは。
兜LIVE!編集部です!
7月4日、東京証券取引所(以後、東証)ロビーにて、東京都の「アートにエールを!東京プロジェクト」の出品するため、舞台『一粒萬倍〜A SEED〜』の演奏収録が行われました。
「アートにエールを!東京プロジェクト」とは、文化の灯を絶やさないための緊急対策、芸術文化活動支援事業第一弾で、この事業は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止に伴い、活動を自粛せざるを得ないプロのアーティストやスタッフ等が制作した作品をWeb上に掲載・発信する機会を設けることにより、アーティスト等の活動を支援するとともに、在宅でも都民が芸術文化に触れられる機会を提供するものです。
『一粒萬倍〜A SEED〜』のコンセプトは五穀豊穣への感謝です。この五穀豊穣には収穫だけでなく、社会の繁栄と人々の幸せを願う気持ちも込められています。今回の演奏では、コロナの暗雲を吹き払い、私たちの社会に元気と笑顔を呼び戻すことへの祈りも込められています。
東証ロビーでの演奏は、終始リラックスした雰囲気で、さながらアットホーム・コンサートのような趣きとなりました。当日の様子を演奏者のスナップを交え、音楽の感想などもレポートしていきたいと思います。
舞台『一粒萬倍〜A SEED〜』は日本神話をモチーフとし、ビッグバンによる八百万の神々の誕生から世界に五穀豊穣の恵みがもたらされるまでを描いた壮大な物語。能、日本舞踊、邦楽囃子、和太鼓といった日本の伝統芸能をベースとし、バイオリン、チェロ、さらには現代舞踊といった西洋芸能の要素なども加えた新しいスタイルで表現する舞台になっています。
今回はバイオリンの内藤歌子さん、同じくバイオリンの那須亜紀子さん、チェロの谷口賢記さん、小鼓の望月左武郎さんのパフォーマンスを収録するという内容でした。
演奏収録は東証ロビー。もともと『一粒萬倍〜A SEED〜』は五穀豊穣を祝う趣旨もあり、東証とは非常に親和性があるのですが、ロビーで演奏するのは初めてになるそうです。
舞台の作・演出を手掛けられている一粒萬倍制作委員会の松浦代表を中心に撮影用機材をチェック。アングルなどを決め、録画用カメラ3台と録音用のレコーダーで演者の一挙手一投足を狙っていきます。
非常にラフな出立ちの松浦さんは演者にもスタッフのみなさんにも気さくに声を掛けていらっしゃって、現場にも自然と一体感が生まれていきました。
一番手はチェロ奏者の谷口賢記さん。レコーダーを一番良い音で拾える場所にセッティングし、立ち位置が決まるとリハーサルがスタートしました。
スイス・チューリヒに生まれ、幼少の頃から音楽を学んでいた谷口さん。京都大学交響楽団にて首席奏者、学生指揮者としても活躍し、その後ボストン音楽院へ留学、音楽修士号を取得。指導者として国内外で後進の指導、室内楽の普及活動に尽力されています。また、「舞台演技のできるチェリスト」として、様々な分野の芸術とのコラボレーションにも力を注いでいる方です。
リラックスしつつもほどよい緊張感の中、撮影がスタート。一曲目はバッハの『無伴奏チェロ組曲』による独奏。チェロ奏者にとってバイブルともいえる幾何学的な音の羅列は、人の持つあらゆる感情を表現しているとも言われています。人間の声に音域が近いというチェロの中低域のメロディが、心地よくロビーの空気を震わせていくのを感じました。カメラアングルを変え、レコーダーの位置も変えながら数テイク録画していきます。
重厚な石造りの建物だからか、音がよく反響しとても荘厳な響きになっていました。温かみのある中低域の音も吸収されずに残っていくため、弦楽器の大切な音域がしっかり残っているように感じました。
続いて登場したのはバイオリンの内藤歌子さん。軽く音合わせをして、舞台のテーマともいえる曲『一粒萬倍』をデュオで演奏です。スローテンポで重厚な音で始まりを告げる第一幕から一転して、速いパッセージを刻みながらバイオリンによる雄大なメロディーへと展開されます。「調和」「融合」といったものが本作品のテーマの一つでもありますが、逃れられない宿命、運命に抗っていくといったイメージも浮かんできました。
次に演奏されたのはバッハの曲で、宮廷音楽のような優雅な調べ。息の合った会話のような演奏が続き、会場全体も温まっていくのを感じました。とりわけ印象に残ったのはクラシカルなアレンジが素晴らしい、山田耕筰さん作曲『赤とんぼ』。バイオリンの中低域のメロディをチェロの低音が支え、寄りそうように景色をつくっていくさまは知的な趣きで、日本人なら誰もが感じるであろう郷愁を呼び起こしてくれました。同じテーマを繰り返しながら徐々に変化していくアンサンブルが、様々な秋の風景を表現しているように感じました。
最後にチェロの谷口さんがスタッフからのリクエストを受け、独奏による『文楽』をイメージした即興演奏を披露してくださいました。その『人形浄瑠璃文楽』は、日本を代表する伝統芸能の一つで、太夫、三味線、人形が一体となった総合芸術。三味線を爪弾くようなピチカートによるアプローチから指板を叩く奏法、アルコによる重音、速弾きと1人何役もこなす変幻自在な演奏でした。
谷口さんの撮影が終了し、次は内藤歌子さんのソロ演奏の撮影が始まりました。数々のコンクール受賞歴を持ち、東京音楽大学付属音楽教室、開智学園総合部などで指導にあたる傍ら、オーケストラ、室内楽、ソロでの演奏活動を行っています。そんな内藤さんが演奏されたのが、オペラで使われる『タイスの瞑想曲』。これは、ジュール・マスネが作曲の歌劇『タイス』第2幕の第1場と第2場の間にバイオリンのコンサートマスターにより演奏される間奏曲で、劇のクライマックスのシーンでも再び登場するとても甘美で印象的な曲です。内藤さんご自身も思い入れのある大好きな曲とのことで、感情がこもった優雅で力強く、どこか儚さを感じる旋律が会場を包みました。
しばしの休憩の後、正装に身を包んだ小鼓の望月佐武郎先生がいらっしゃいました。東京初のプロ和太鼓団体「助六太鼓」の創設者であり、アメリカでの演奏・指導も行われた華やかな経歴を持ちの方。『一粒萬倍〜A SEED〜』の舞台に日本の伝統芸能だけでなく、洋楽や他ジャンルのエッセンスを取り入れたいと考えたお一人です。
空気をヒリヒリと震わすかのようなかけ声とともに始まった演奏。このかけ声は、正面を向いている囃子方同士が進行を確認するために必要であるのと同時に、他の演者たちにとっても演技の合図として大切なものになります。これは、ただ“合わせて”舞台をまとめていくという事ではなく、相手が意図する表現を把握し、そこに対して自身の表現をぶつけていくことを意味します。それによって、より緊張感をはらんだ舞台を作ることができるそうです。
小鼓の有機的なリズムと拍子ごとに強弱や調子を変えながら発声されるかけ声が、東証ロビーをあっという間に和の空間へと変えてしまいました。リハーサルはなく文字通り一発勝負で撮影も終了。望月さんは「音の反響がよく、とても気持ちよく演奏ができました」とおっしゃっていました。
午後になりバイオリニスト那須亜紀子さんが到着。那須さんは前々回の公演でバイオリニストを務め、今回は内藤さんとともに出演されるそうです。お互い初共演とのことで、音を確かめ合うようにリハーサルが始まりました。
エルガー作の『愛のあいさつ』からスタートしたデュオ演奏。内藤さんの弾くメインのメロディと那須さんのカウンターメロディがお互いの呼吸を確かめ合うように寄り添っていき、緊張感を保ちつつもリラックスした演奏になっていました。
2曲目のアイルランド民謡『ロンドンデリー』、3曲目日本の歌百選にも選定されている『浜辺の歌』と立て続けに演奏。浜辺の歌の抒情的なメロディが内藤さんから那須さんに途中で交代するシーンがあり、お二人のバイオリンの音色の違いも楽しむことができました。
撮影のトリを飾るのは那須さんのソロパフォーマンス。レッドバイオレットの衣装で登場です。
「東アジア文化都市2014」の日本代表アーティストとして中国公演を行うなど様々な公演に出演され、ラインハイト室内楽アカデミー講師を務めるなど指導にも力を入れている那須さん。しっとりと情感たっぷりな内藤さんとは異なり、那須さんの太く突き抜けるようなバイオリンの音色が場内に響き渡ります。「昨日、公演のイメージに合うように考えました」という曲紹介から始まったオリジナル曲を演奏。バイオリンの全音域を駆け抜けるかのような縦横無尽で力強い曲で、コンテンポラリーミュージックのような印象を受けました。
2曲目はタンゴの名曲『ジェラシー』。リズミックで情熱的な演奏が衣装に映え、会場にいる人たちの目を釘付けにしていました。ちなみに、日本ではタンゴがヨーロッパに渡り変化したものをコンチネンタル・タンゴと呼び、『ジェラシー』もそのひとつになるそうです。
目的であった演者一人一人の撮影も無事に終えることができ、その映像が組み合わされた作品の完成形がとても楽しみになりました。東証ロビーの隅々まで響き渡る神々しいまでの音楽の粒が、極上の時間を演出してくれたように感じます。
「アートにエールを!東京プロジェクト」への出品のための撮影という枠をはるかに超えた、贅沢なプライベートコンサートになったと思います。
そして、作・演出の松浦代表を中心に堅いチームワークも感じとることができ、今秋に東証アローズでの開演が予定されている『一粒萬倍〜A SEED〜』ライブへの期待もさらに高まりました。
皆様にも、悠久の時を感じられる壮大な演奏をぜひ聴いてもらいたいです。
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