2024.02.15

【蔵元トーク】#62 作(三重県鈴鹿市 清水清三郎商店)

こんにちは!
兜LIVE編集部です。


12月23日(土) 、『日本酒を蔵元トークとテイスティングで楽しむ』を開催しました。
今では国際金融都市といわれる日本橋兜町。
江戸時代には日枝神社の門前町として栄え、酒問屋で賑わっていた「日本酒の聖地」でした。
東京証券取引所において、上場時の5回の鐘撞は、酒の原料である五穀豊穣にちなんでいるとのこと。
平日は賑わうこの兜町に、休日にも人が集まってもらいたい。そんな願いから日本各地の蔵元を招き日本酒について学び、味わい、楽しく交流し、その魅力を、兜町の魅力といっしょに広目、お酒が地域と人をつなぐ場所...。そんな場所に発展するように願いを込めて、毎月1回日本酒セミナーを開催しています。


今回は、三重県鈴鹿市で「作」を醸す清水清三郎商店の代表取締役清水慎一郎さんをお迎えしての開催でした。清水さんは、蔵元トークがスタートした2017年以降6回目のご登壇となります。過去5回、その時々の話題をお聞かせ頂きましたが、今回のお話のメインは、「日本酒を説明し、理解するとはどういったことか」、「日本酒の味わいには果実味があるのはなぜか」に関する清水さんの考察でした。大変、勉強になりました。



◆ 最近の話題

・まず、12月16日(土)にBS-TBSで放映された「中田英寿が巡る注目の酒蔵2023」を観ていただきたい。
https://bs.tbs.co.jp/entertainment/sakecompe2023/


・前半に「SAKE COMPETITION 2023」表彰式の模様で、「Super Premium」部門で「作 智」(ざく さとり)が1位を受賞した。「SAKE COMPETITION 2023」は、“世界一美味しい市販日本酒”を決める品評会で、2019年以来4年振りに6月14日(水)に開催された。


・後半は、元サッカー日本代表の中田英寿さんと三重県出身でシンガーソングライターのMs.OOJA(ミス・オージャ)さんが当社を訪問し、日本酒造りのこだわりや「作 智」の美味しさの秘密を探るという内容になっている。「作 智」は2016年、G7伊勢志摩サミットの食事会で乾杯酒に採用された純米大吟醸である。


・今回の「Super Premium」部門の1位で、「SAKE COMPETITION」4部門(「純米酒」、「純米吟醸」、「純米大吟醸」、「Super Premium」)全ての部門で1位を取り、盾を並べていたのだが、番組で取り上げてくれなかった(笑)


◆ 日本酒を説明する。理解するとは何か?

・「日本酒、日本の酒蔵を説明する。日本酒を理解する。」とはどういったことなのだろうか。


・海外で輸出することが増えて、酒蔵の説明をする機会も増えたが、その際、「日本酒を造るためには、冬の寒いときに冷たい水に手を晒して米を洗っています。」とか、「麹番をする際は寝る時間がなく、徹夜で酒を造っている。」といったような説明が多い。いわば、「一生懸命酒造りをしています」ということの説明で、日本人相手だと「杜氏さん、大変ですね」といったように善意で解釈されるが、海外ではほとんど通用しない。この説明では、「どの酒蔵も同じことを言っていますね。あなたの酒蔵の違いは何ですか。identityは?philosophyは?」と問われ、戸惑ってしまうのが現状である。


・ワインの生産者は、日本の酒蔵より以前から地域間競争に晒されていて、説明に慣れている。ワインは、グルジア、ジョージア、ウクライナ、南アフリカ、アルゼンチン、イタリア、フランスなど多くの国で作られており、もちろんどこでも一生懸命作っているが、地域間競争に勝つため「何が違うのか」をしっかり説明しないといけない。


・そこで、ワインの生産者は、ぶどうの品種が同じであっても、地層が違うとミネラルの含有量などにより味わいが異なるということから、「地層の違い」を説明することで、「テノワール」という新しい概念を持ち込んだ。あくまでも「地層の違い」の説明なので、決して「この地層なので、ここのぶどうが一番」といった説明の仕方はしない。


・一方、日本酒の差別化のために米の品種で説明しようとするとどうなるか。米の味わいは、水田で作られるので水や土壌の影響を受けるだろうが、ぶどうとは違うのではないか。ソムリエ協会の日本酒セミナーで、米の違いをぶどうの品種のように説明し、「山田錦の味」、「五百万石の味」といっているが、日本酒は違った説明方法が必要ではないか。


・上の図で、目玉が付いているのが酵母(イースト)で、お酒のできる一番根本のもの。世界中のアルコールは酵母の働きによる。酵母がブドウ糖(グルコース)を食べて、二酸化炭素とアルコールに分解する(アルコール発酵)。ブドウ糖は、米や麦などの穀類の場合、鎖状につながっている状態(でんぷん<澱粉>)で、でんぷんはこのままでは酵母を食べられないので、ちょん切ってあげる必要があり、その働きをするのが「酵素」である。酵素は生物ではなく、生物が作り出すたんぱく質の一種で、触媒の働きをする。人間は体の中に酵素をたくさん持っていて、食べたものを分解して栄養にすることができる。


・ビールの場合、麦芽(麦に少し芽を出させたもの)の先端で酵素が作られて、麦の中に蓄えられたでんぷん質を分解して育っていく過程で、酵素反応が一番活発になる温度に上げることで、でんぷんを全て糖に変え、搾って甘い液体を作り、そこに酵母を入れてビールを作る。この後の工程はワインと同じである。


・日本酒の場合、蒸した米、麹を繁殖させた麹カビと一緒にタンクの中に入れて、麹カビの作り出す酵素の働きででんぷんがブドウ糖になり近くに存在する酵母の働きでアルコール反応が始まる(平行複発酵)。この造り方は、外からコントロールできるものが温度しかないという非常に難しいものである。


・ワインの場合、ぶどうを潰すとその中にブドウ糖があるので糖化する必要がないことから、酵素を必要としない。そして、ぶどうの果汁と酵母があると発酵が始まる。


・ワインは人間が知恵を付ける以前から自然界に存在している。どこかに果汁があって、そこに空気中の酵母があって、ワインができて動物などが飲んでいた(サル酒など)。ビールや日本酒は、発酵させるために糖化させる必要があったことから、人間が知恵をつけてからではないと製造できなかった。


◆ 日本酒の味わいには、果実味がある?


・以下は、日本書記の中に出てくる酒に関するという文章だが、ヤマタノオロチは8つの頭のある大きな蛇で、稻田宮主簀狹之八箇耳(イナダノミヤヌシスサノヤツミミ)がスサノオに退治してくれと頼んだら、「たくさんの木の実を集めて、八個の甕(カメ)だけ酒を醸造しろ。」との記述がある。木の実は何かといえば、どんぐりでは酒を造れないので、ぶどうのことと思われるので、日本書記に書かれている最初の酒とはワインのことと推測できる。ヤマタノオロチの話が播磨風土記とか古事記にも書かれていて、播磨風土記では米と麹カビと記述がある。そのことももって、GI播磨の中では日本酒発祥の地と記載している。少なくとも日本書記では「木の実を集めて酒を造った」とあるので、ワインのことだと思う。ワインが最初にあったという前提で話をすると、150年前にワインが海外から入ってきたといわれているが、日本人は昔からワインを知っていたこととなる。


・ここからは想像で話。
「王様達がお酒を飲んで食事をしていた。飲んでいるお酒はワインである。そこに家来が米と米麹で造った新しい酒を持って来た。王様達に勧めて飲んでもらうと、いつも食べている刺身、焼魚、イカの塩辛はワインには合わなかったが、今日飲んだ酒はこれらの料理と合った。それ以降、みんなで酒を飲むときはこの酒(日本酒)を飲もうということとなった。」


・先祖は日本酒しかないから日本酒を飲んでいたのではなく、主体的に日本酒を選んだという証拠である。それ以降、日本酒が飲まれ続け、発展して今の味になったのではないか。


・日本酒の味は、フルーティであるとか、果実味があるとかいう。日本酒はフルーツで作っているわけではない。海外に行くと果汁を入れているのかと聴かれるが、果汁を入れているわけではなく、米と米麹と水だけである。この果実味はどこから来るのか。


・ビールの味わいの特徴は何か。麦は「〇〇産の△△という品種です」と説明しているクラフトビール屋さんはほとんどいない一方、ホップを褒める。では何のためにホップを入れているのか。


・ホップは⼤⻨と並んでビールの重要な原料であり、ビール製造に当たり、次のような⼤切な役割を果たしている。

 1.ビールに独特の香りと苦味を与える。
 2.ビールを清く澄ませる。
 3.雑菌の繁殖を抑え、ビールの腐敗を防ぐ。
 4.ビールの泡⽴ち、泡もちを良くする。


・このような作用は、毬花の中にできるルプリンの働きによるもので、ルプリンは花粉のような⻩⾊の樹脂に含まれ、毬花が成熟するにつれて、付け根部分に分泌・形成される。



・ホップを最初に使い始めたのは防腐効果のためで、ビールはアルコール度数が5%くらいしかないので腐敗しやすく、苦みのあるホップを入れて腐敗を防いで長期間飲めるようにした。それが今ではホップがビールの特徴的な味になった。


・日本酒の場合は、アルコールを高くできるという特徴があるので、防腐剤のようなものを入れる必要がない。これが、平行複発酵の主な特徴である。


・また、日本酒の場合、山田錦、雄町など米の品種があるが、ワインのように品種によって味わいが違うという説明は違うような気がする。


・平行複発酵の醪のタンクの中で、目や舌で確認することはできないが、麹と酵母の働きによってお米から果汁を作っており、この甘酸っぱくて香りの良いものをどう作っているかということをうまく説明できないかと思っている。そういった説明をすることで、日本酒の味わい、私たちのやっている製造方法を日本人を含め世界の人たちに説明していきたい。


<参考>
•「米麹から清酒香気の前駆物質の分別について」(鈴木昌治・米山平・小泉武夫東京農業大学醸造学科 1980年第5号清酒の香気成分377〔醗酵工学第58巻第5 号377−383.1980〕
これらの結果より、米麹が清酒香気を高める役割は、麹菌が蒸し米成分の一部に作用して清酒香気発生のための前駆体がここでつくられ、次に酵⺟が発酵するときそれらの化合物を清酒香気物質に転換するという、清酒醸造上での麹と酵⺟の相互の役割が、香気付与性の上からも調和し合っていることを知った。


◆ 「食材の豊かな三重」から「美食の聖地・三重」への転換

・三重県にはいろいろな食材があり、いろいろな酒蔵がある。この食材は酒に合うことを追及している。




・「食材の豊かな三重」から「美食の聖地・三重」への転換を図っている。




◆ 2023年A.S.I.世界最優秀ソムリエコンクール

・昨年2月7日(火)から12日(日)までフランス・パリで開催の「第17回A.S.I.世界最優秀ソムリエコンクール パリ大会」は、ラトビアのライモンズ・トムソン選手が優勝した。日本からは準決勝に進出した岩田 渉選手が5位となった。

https://www.sommelier.jp/topics/view/20221122_senkokai 



・パリのプルマンホテルに宿泊したが、ホテルのメインダイニングの名前が「UMAMI」だった(和食店ではないが日本語が流行しているためのネーミング)。



・2月10日に晩餐会が開催され、当社の「作」が提供された。お酒はたくさん出され、例えば、ホタテ料理に日本酒1種類、ワイン2種類の計3種類が提供され、どれが合うか飲みながら楽しむ食事会だった。コンクールでも、日本酒に関する問題が多数あった。このように、日本について非常に興味を持ってくれる時代になった。


・30年前は誰も日本酒について興味がなかったし、普通酒中心で美味しくなかった。30年経過してだんだん日本酒がおいしくなってきた。また、フランス料理もクリームやバターたっぷりのコクのあるものだったが、1990年頃になるとエスプーマといった泡立てたソースが流行るようになり、2010年頃にはソースは点と線だけの脂肪を減らしたもの(軽いもの)となると、赤ワインが合いにくくなってきたため、赤ワインの生産量が減り、白、ロゼが増加した。一方、日本酒も普通酒全盛期から純米酒、純米吟醸が増えてきて、美味しいものが増えてきた。例えて言うなら、小高い丘があって、こっちからフランス料理が上がって来て、反対側から日本酒が上がって来て、丘の上で出会った感じである。フランスでは非常に日本酒の啓蒙活動をしてくれている。日本人にも、もっともっと日本酒を飲んでもらいたい。


◆今回のお酒について

▼日本酒の種類
「作」 新酒 純米大吟醸(50%精米)
―― 四季醸造の当社における「新酒」とは、今年採れた米で造ったお酒のこと。なお、ラベルは、東レが環境に優しい水なし印刷で作ったもの。
<水なし印刷について>
https://www.nikkakyo.org/sites/default/files/WaterlessPrinting.pdf
「作」 穂乃智 純米(60%精米、協会14号酵母)
「作」 雅乃智 中取り 純米大吟醸(山田錦50%精米)








・3種類の説明を聴き終え、お待たせしました。清水さんによる乾杯!



ここで、なんと!!!
今回はクリスマスプレゼントで、とっておきのもう1本をテイスティングできることに!!



◆最後はみんなで集合写真

・毎回、恒例の集合写真です。12月23日ということでサンタさんの帽子も。それと、みなさん気が付きましたか!?作の清水さんと左隣の方のネクタイは同じものです!作の特製ネクタイですね!



◆まとめ

・清水さんは、6回目のご登壇でしたが、今回も新鮮なお話を聴かせていただいています。来年は再び三重県に行き、三重の食材を肴に「作」を味わいたくなりました。



<蔵元トークの後は、京橋のお店で懇親会でした!コロナが終わったなぁ(笑)>



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