2026.08.07

【企業に聞く】「証券界の聖地」東京証券会館へ――いちよし証券に聞く、この街で働くということ

こんにちは!
兜LIVE!編集部です。


今回お話を伺ったのは、日本橋茅場町の東京証券会館に本社を構える「いちよし証券株式会社」さんです。1950年の創業以来、一貫して「対面」での資産運用アドバイスにこだわり続けてきた、業界でも珍しいスタイルの証券会社です。


2019年9月、いちよし証券は長年拠点としていた八丁堀からこの茅場町へ本社を移転しました。移転のきっかけや、この街で働く中で感じる魅力、そして今後の兜町・茅場町エリアへの期待について、広報室長の河合孝俊さんにお話を伺いました。


◆個人のお客様に寄り添う、対面にこだわる証券会社

広報室長の河合孝俊さん


いちよし証券は、1950年の創業以来、個人のお客様の資産運用のお手伝いを事業の中心としてきました。上場法人や金融機関、海外の機関投資家もお客様に含まれますが、基本的にはすべて「資産運用のアドバイス」が業務の軸になっているといいます。


――まず、いちよし証券様の事業内容や強みについて教えてください。
一番の特徴は、インターネットでの取引を行っていないという点です。今は多くの証券会社がネット取引を導入していますが、当社はあくまでも対面での取引にこだわっています。おそらく上場している証券会社の中でインターネット取引をやっていないのは、当社と極東証券さんくらいだと思います。


もちろんスマートフォンで口座の状況を確認したり、簡単な手続きをしたりすることはできるようにしていますが、実際の売買という部分は、あくまでも対面で行っていただく形です。


――なぜそこまで対面にこだわるのでしょうか。
やはり、まとまった資金をどう運用するかを考えるときに、クリックひとつで動かすのはなかなか難しいと思うんです。いろいろな意見を聞きながら決めた方がいいことも多いですし、お客様おひとりに必ず担当のアドバイザーが1人つく体制にしているのも、そのためです。
今は分からないことをAIに聞けばそれなりの答えが返ってくる時代ですが、お客様のニーズやどこまでリスクを取れるのかというところは、しっかり会話を重ねる中で把握していく必要があると思っています。


もうひとつの特徴が、グループ会社の「いちよし経済研究所」です。中小型の成長企業に特化してリサーチを行っている会社で、こうした分野に特化した研究所は、日本はもちろん世界的にも珍しいんです。海外の機関投資家が、当社の研究所のレポートを頼りにしてくださることもあります。


◆「売れる商品でも、売らない信念」。ストック型ビジネスモデルへの転換



いちよし証券が大切にしているのが、目先の売買ではなく、お客様と長く付き合っていくという考え方です。オフィスの中にも「売れる商品でも、売らない信念。」と書かれたポスターが掲げられていました。


――お客様との付き合い方について、なにか大切にしている考え方はありますか。
証券会社の従来のビジネスモデルは、お客様から預かった株や投資信託を売ったり買ったりすることで、その手数料をいただくというものでした。今も多くの証券会社がこのスタイルです。ただ、それだと証券会社側の収益のモチベーションが「売買させること」になってしまうので、どうしても無理に売り買いをすすめてしまう、ということが起きやすくなります。


1990年代後半に「日本版ビッグバン」と呼ばれる証券業界の大きな規制緩和があり、手数料が自由化されました。それまで200〜300社近くあった証券会社の競争がより激しくなることが見えていたので、当社は「預かったものを売り買いする」のではなく、預かり資産をじっくり増やしていただく「ストック型」のビジネスモデルに、1998年から転換していこうと決めました。
社内では営業担当を「アドバイザー」と呼んでいて、評価も「どれだけ売買したか」ではなく、「どれだけお客様に長く資産を預けていただけているか」で見るようにしています。


――むやみに売り買いをすすめないということですね。
はい。当時としては、かなり先駆け過ぎていたところもあると思います(笑)。ただ、時代が「貯蓄から投資へ」と変わってきた今、ようやくこのビジネスモデルが時代に合ってきたという実感があります。




――いちよしさんのポスターにあった「売らない信念」というのも、こうした考え方に繋がるのでしょうか。
そうですね。自分たちのグループでしっかり研究・リサーチできて、責任を持ってお勧めできる商品でなければ、お客様には販売しないというのが根底にあります。すべてグループの中でリサーチから運用まで対応しているんです。


例えば今流行っている外国の個別株なども、当社は特別な強みを持っているわけではないので、基本的にはこちらからお勧めすることはありません。ご希望があれば購入いただける仕組みはありますが、それよりも専門的にリサーチしている投資信託を持っていただく形をとっています。そうすると、何かあったときにもプロからのレポートが入りますし、これは2000年くらいからずっと続けている考え方です。


――今流行っているからといって、安易にお勧めすることはしないと。
はい。「もっと儲かる商品をなんで売ってくれないんだ」と、他社に流れてしまうお客様がいらっしゃるのも事実です。ただ、相場のことなので、ずっと儲かり続けるということはありません。お互いに納得しながら、いつ頃戻りそうかということも共有しながらやっていくという感じですね。


◆八丁堀から茅場町へ。移転を後押しした「運命のタイミング」


いちよし証券は2000年から19年間、隣駅の八丁堀に本社を構えていました。2019年9月、現在の茅場町・東京証券会館へ移転します。


――八丁堀から茅場町へ移転された経緯を教えてください。
東日本大震災をきっかけに、社屋の老朽化が気になり始めたというのが、移転を考え始めた大きなきっかけです。八丁堀の本社はここよりも古い建物で、震災以降は少し不安を感じるようになっていました。


そこから移転先を探し始めました。日本橋(高島屋の方や室町のあたり)なども候補にあったと思うのですが、なかなか決まらずにいました。


――その中で、なぜ東京証券会館に決まったのでしょうか。
探している間に、たまたまここに入っていた日本証券業協会さんが移転されるという話が入ってきたんです。3フロア空くということで、当時本社に300人ほどいたので、ちょうど3フロア入れるくらいのサイズ感でした。2018年頃から本格的に移転プロジェクトが動き出しました。


――引っ越しは大変でしたか。
大変でした。金曜日の夜に什器や段ボールをこちらに運んでもらって、土曜日のうちにセッティングをし、日曜日にその部署の社員が来て荷解きをする、というのを4週連続でやりました。八丁堀からの移動だったので、この規模で済んだのかもしれません。距離が離れていたら、もっと大変だったでしょうね。


――このエリアに本社を構えることに、何か特別な思いはありましたか。

当時、当社の会長の武樋がよく言っていたのが、「東京証券会館は証券界の聖地だ」ということでした。1949年に取引所が再開され、高度成長とともに証券界の基盤も整ってきたときに、証券協会としても活動拠点を作ろうとなりました。既に戦前から銀行協会は丸の内にビルがあり、証券協会としても会館建設は悲願でもあったそうです。そこで昭和41年、山一証券日銀特融の翌年に協会員の証券各社が出資して東京証券会館を建てました。取引所が建て替えの時には兜クラブという記者クラブも入っていて、上場会社の記者会見もこのビルで行われていたと聞いています。様々な危機を乗り越え、50年以上にわたり活動の拠点とされてきましたので象徴的な場所であり、業界の人であればあるほど、ここのことをよく知っているというか、そういう意味で本当に聖地なんですよね。たまたまタイミングが合ったとはいえ、ここに入れていただけるのは非常にありがたく、身が引き締まる思いでした。


――本当に幸運なタイミングだったのですね。
2000年に大阪から東京に本社を移してから何十年も経っていたわけですが、震災以降はBCP(事業継続計画)の考え方が重視されるようになって、店舗の移転や耐震補強などを優先的に進めていました。本社についてはどちらかというと後回しになっていたのですが、そんな中でちょうど良いお話をいただいた、という感じです。今は関係会社も含めて400人強がこのビルで働いています。


◆茅場町で働く楽しみ


――現在のオフィスの使い心地はいかがですか。
やはりアクセスのよさを感じますね。東京証券会館は地下で茅場町駅と直接つながっているので、雨の日でもスッと来られると、お客様からも喜ばれています。私たちも助かっていますね。
オフィス自体も、ワンフロアが広くなったので部署間のアクセスが良くなりました。八丁堀の時は関係会社が別のビルに分かれていたのですが、今は同じビルの中に入っているので、動線もかなり楽になりましたね。


――ランチタイムや会社帰りに立ち寄るお気に入りのお店はありますか。
私がよく行くのは「バンボリーナ」という洋食店です。ランチよりも夜によく行くのですが、閉まるのが21時なので、飲みすぎずに済むのがありがたくて(笑)。サイコロステーキが看板メニューで美味しいのですが、その前に必ず頼むのが小エビのフリットです。飲み足りない時は、帰り道にある「平和どぶろく兜町醸造所」に寄ることもあります。


――先日は山王祭もあったと思うのですが、参加されていかがでしたか。
今回は新入社員を中心に、若手社員、本社の社員も合わせて80人ほどが参加しました。東京近郊の支店のメンバーにも声をかけていて、横浜や千葉、埼玉あたりからも来てくれていました。


提供:いちよし証券株式会社


もともとは八丁堀にいた頃から神輿を担いでいたのですが、その時は20〜30人ほどの規模でした。当時は本社ビルの1階に駐車場があって、そこにブルーシートを敷いて、お疲れさまでしたと言いながらお弁当を出したりしていたんです。今回はオフィスの2階の広いスペースで、同じように打ち上げをしました。
最初は参加の仕方がよくわからず、遠慮がちに遠巻きに見ていた新入社員も、後半はしっかり中に入って一緒に盛り上がっていましたね。


提供:いちよし証券株式会社


――地域の行事やイベントに参加されることは他にもありますか。
祭りはもちろん参加しますし、本社でも周辺の清掃や公園の清掃活動を月に1回ほどやっています。各支店でも同じような活動をしていますし、地元のロータリークラブとの付き合いなどもありますね。


以前はこういう活動をあまり大きく発信してこなかったのですが、最近はホームページやSNSでも発信するようになって、それがきっかけで地元の方から「いちよしさん、出てたんですね」と声をかけていただくこともあります。休みの日に仕事とは関係のない話をしたりしながら、少しずつ地域に馴染んでいっている、という感じです。


◆水と緑を活かした街へ。今後の兜町・茅場町に期待すること


――今後、茅場町や兜町にどんなことを期待されますか。
このあたりも随分きれいになってきたなと感じています。外国人観光客の姿もちらほら見かけるようになりましたし、週末にお店に並んでいる人がいたりして。昔の感覚だと、週末は誰もいない街だったので、変わってきたなと思います。


せっかく運河などもあるエリアなので、そういうものを活かした「水と緑」を感じられる街になってくれると嬉しいですね。坂本町公園も芝生になって、いい雰囲気になったと思います。気候のいい時期は、お昼にお弁当を食べたり、ゴザを敷いて寝転んだりしている方も多いですよね。盆踊りのようなイベントも開催されていて、いいなと思って見ています。


実は東京証券会館の屋上には「Edible KAYABAEN」という菜園があって、いちよし証券としても支援をさせていただいています。社員がハーブを摘んだり、野菜の収穫をしたりする催しに参加することもあります。収穫した野菜は新鮮でおいしいですし、実はハチミツも採れるんですよ。この辺りで一番大きな緑地は皇居なので、「これは皇居の花の蜜のハチミツかもしれません」なんて冗談を言いながらお配りしています(笑)。


――今後、いちよし証券として目指していきたいことはありますか。
世の中がようやく「貯蓄から投資へ」という流れに本当に変わってきていて、当社が長年やってきたストック型のビジネスモデルが、時代にマッチした形になりつつあると感じています。せっかく聖地といわれるこの場所に移転してきたこともありますし、ここでしっかりと、まだまだ成長していきたいと思っています。


◆取材を終えて

お話を伺う中で印象的だったのは、いちよし証券様が徹底してお客様第一の姿勢を貫いていることでした。売れる商品でも、責任を持って説明できないものは勧めない。まとまった資金だからこそ、対面でじっくり向き合う。そうした姿勢を、創業以来ずっと大切にされてきたのだと感じました。


「貯蓄から投資へ」という流れが本格化する中、こうしたストック型のビジネスモデルは、これからますます求められていくのではないかと思います。震災をきっかけに移転先を探す中で、たまたま「証券界の聖地」東京証券会館に巡り合ったというお話にも、運命的なものを感じました。
山王祭に近郊の支店の社員さんまで駆けつけて参加されるお話や、屋上菜園への支援のお話からも、この街との関わりを積極的に作っていこうとされている様子が伝わってきました。今後もこの茅場町の地で、いちよし証券様がどんな歩みを重ねていかれるのか、楽しみにしています。
本日はお忙しい中、貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。


いちよし証券株式会社
東京都中央区日本橋茅場町一丁目5番8号 東京証券会館5階


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