2020.09.14
2020年8月、日本橋兜町にユニークなワインショップ「Human Nature」とコーヒースタンド「SR」がオープンしました。同空間に2店舗が同居する珍しいスタイルの出店で、新たなカルチャーの発信地として注目されています。今回は、「Human Nature」代表の高橋心一さん、「SR」代表の加藤渉さんにインタビュー。お二人のこれまでと出店の背景に迫りました。
――高橋さん、加藤さん、はじめまして!
お二人:はじめまして!よろしくお願いします!
(左:高橋さん、右:加藤さん)
――高橋さんは、オンラインのワインショップを手掛けていたそうですね。なぜ今回実店舗を出すことになったのですか?
高橋氏:実は、オンラインショップをやる前にも2度ほど実店舗を持っていたんです。色々事情があって、すぐに畳みましたが……。ここに出店することになったのは、知人に声を掛けてもらったことがきっかけです。
……って、すみません。なんか書きにくいですよね(笑)。「運命に導かれるように兜町に舞い降りた」と書いておいてもらえますか?(笑)
――えっ(動揺)!わ、分かりました(笑)。色んなドラマを経験して、兜町に辿り着いたんですね……。今回のお店は、どのようなコンセプトですか?
高橋氏:昔の「角打ち(※)」をアップデートしたイメージです。社交場としての角打ちですね。ナチュラルワインをはじめ、チーズやハムなどのおつまみもご用意しています。
(※)角打ち:酒を販売する酒屋の一画に設けられた立ち呑みスペースでお酒を楽しむこと
周辺住人の方やこの街で働いている人はもちろん、音楽やアートが好きな人々の社交場になると良いなと思っていて。レストランというよりあくまで「酒屋」のイメージで、「ワイン角打ち」って感じかな。
通常の飲食店はお酒や食事が中心ですが、私の店の中心は会話です。ワインや食事はあくまで楽しい時間の媒介役であると考えています。
小さいお店ですが、物販もやります。ワインはもちろん、店内で食べて気に入った食品も購入していただけます。食材は本当に良いものを取り揃えているんですよ。その他、エチケットをモチーフにしたオリジナルグッズも販売する予定です。
――お酒は媒介役!素敵な考え方ですね。ワインのラインナップは何種類くらいあるんですか?
高橋氏:300種以上あるかな?これからもっと増やしていきますよ。以前イタリアで食科学の大学院に通いながらナチュラルワインのインポーターをしていたので、その知見を活かしています。メニューにはベルモットやレモンサワーなどもあるので、ワインが苦手な方にも楽しんでいただけますよ。
――イタリアに留学!高橋さんってグローバルなんですね。お店では音楽イベントも計画していると聞きましたが。
高橋氏:はい。音楽関係や東京のアンダーグラウンドの良い人たちに知り合いが多いので、彼らを招きたいんです。音楽イベントというよりはBGMとして、良い時間を過ごすための一要素にできたらと思っています。
――加藤さん、「SR」はスウェーデンのストックホルム郊外発祥のコーヒーなんですよね。
加藤氏:はい。でも実は、現地でも知らない人のほうが多いんです。ちょっと良いレストランやギャラリーに卸している小さなブランドですが、知っている人には「ここのコーヒー美味しいよね」と定評があります。
――「SR」を東京に出店することになった経緯を教えてください。
加藤氏:そもそも最初に「SR」を日本に引っ張ってきたのは、ここの隣に出店しているビールスタンド「オムニポロス・トウキョウ」の共同代表・松井さんです。松井さんの奥様がスウェーデン人なのですが、奥様の紹介で、当時都内で開催されたコーヒーフェスティバルに「SR」をスポット出店したそうなんですね。
その後、本格的に日本で展開することになり、コーヒーが分かる人を探されていて。松井さんと私の共通の知り合いを通して、声を掛けていただきました。つい先日まで青山で営業していたので、今回は移転という形です。
――そうでしたか。今回のお店はどのようなコンセプトですか?
加藤氏:コーヒーそのものの品質を謳うのではなく、そのコーヒーが目の前のコミュニティにどう影響を与えるか、どういうシチュエーションの中にそのコーヒーがあるのかを大事にしています。
待合せ、会議、ひとりの時間……どんな場面にもコーヒーがありますよね。それは缶コーヒーでも何でも良くて、言ってしまえばただのコーヒーなんですが、私たちは「それがうちのコーヒーだったらなお良いよね」と考えているんです。
先ほど高橋さんも言っていたように、良い音楽があって、良いアートがあって、その中に美味しい食べ物や美味しいコーヒーがある。あくまでも、コーヒーはシーンの一部であると考えています。
――確かに、美味しいコーヒーがあるとその時間が豊かになります。豆は何種類用意していますか?
加藤氏:4種類から5種類です。こだわって選んでいるので、数は少ないですね。スウェーデンのロースターが東京をイメージしてブレンド・焙煎した、東京限定の豆も用意しています。コーヒーは農作物なので、シーズンごとに変わります。
その他、自家製のパウンドケーキ、シフォンケーキ、クッキー、スコーンなどの焼き菓子も用意しています。ゆくゆくはキッシュなども置きたいですね。
――店舗は築70年のうなぎ屋をリノベーションしたそうですね。
高橋氏:はい。内装は設計士さんにお任せでしたが、プレーンな印象で気に入っています。
BGMにもこだわっていて、フィレンツェの「K-array」というシルク・ドゥ・ソレイユも採用しているサウンドシステムを置いています。音楽が会話を邪魔しないですし、飲みやすいワインのように軽くてディープな音なんです。
――高橋さんがワインに関わることになったきっかけを教えてください。
高橋氏:ニュージーランドの大学に留学した後、日本の一般企業に就職しましたが、半年でニュージーランドに戻りました。バーで働きながらイタリア人と同居していたのですが、社交的な彼の影響で“家飲み”にハマりまして。日本人はあまり家飲みをやらないけれど、「家で美味しいご飯を囲んで皆でワイワイするのって、すごく良いな」と思ったんですよね。そのときの体験が、この店のコンセプト“社交場”のルーツです。
ナチュラルワインはその彼に教えてもらったのですが、すごく気に入ってしまって。日本でも通販で買って飲んでいたのですが、ナチュラルワインって高価なんです。それで、「自分で酒屋の免許を取れば卸値で飲める!」と考えて……(笑)。それがこの仕事を始めたきっかけです。趣味の延長みたいなものですね。
――高橋さん、すばらしい発想です(笑)。加藤さんは、どのようにコーヒーに関わることになったのですか?先ほど「ニュージーランドに居た」と仰っていましたが。
加藤氏:はい。学生時代カフェでアルバイトしていたのですが、当時はまだ珍しかったエスプレッソマシンをいじるのが楽しかったんです。卒業後はアパレル業界に就職しましたが、29歳のときに「やっぱりコーヒーの仕事をしたい」と、ニュージーランドのバリスタ養成学校に通うことにしました。
現地では、カフェやレストランで働いたり、車で旅をしたりして、心地よいカルチャーから多くの刺激を受けました。日本に帰国後ゲストハウスに就職しましたが、直後に松井さんから声が掛かり今に至ります。
――好きを仕事にしていて素敵です!お二人は元々知り合いだったのですか?
高橋氏:はい。共通の知り合いを介して3年程前に出会い、そこからですね。
――お二人がワインとコーヒーに関わる中で、大事にしていることは何ですか?
加藤氏:私は“スピード”ですね。皆が皆ゆっくりコーヒーを飲みたいわけじゃないですし、特にこの街の金融関係の方は素早く提供して欲しいはずですから。お客さんのシチュエーションを考えたサービスを大事にしています。
高橋氏:私は“マイペース”ですね。良く言えば、妥協しないってことかな(笑)
――お互いが真逆な感じで良いですね(笑)。
加藤氏:無い部分を補い合っている感じかもしれません。それぞれに真面目な部分と不真面目な部分があるので。でも、それが良いんでしょうね。
――これからの展望をお聞かせください。
加藤氏:毎日立ち寄ってもらえるような、皆さんの日常の一部のような店になれたら嬉しいですね。あとは、これから店舗が増えていく予定なので、スタッフたちが責任を持って楽しく働ける場所をつくっていきたいです。そのためにも、まずは起点となるこの店を面白くしていきたいですね。
高橋さんが隣に居ることは、スタッフたちにとってプラスです。「コーヒーだけやっていれば良いわけじゃないんだ。むしろ、それ以外のことが大事なんだ」と学べると思うので。コーヒー屋はすでに沢山あるので、同じことをやってもしょうがないですから。
高橋氏:私は……ランダムな動きをして、偶然を味方につけて、想像しなかったような良い店にしたいです!キッチンカーも持っているので、イベントにも出かけて行こうと思っています。
――偶然を味方に……!このお店なら、沢山の偶然が集まってきそうですよね。最後に、この日本橋兜町・茅場町エリアは再開発中ですが、どのような街になっていって欲しいですか?
高橋氏:平日だけでなく、土日も人があふれる街になって欲しいですね。
加藤氏:面白いことを継続していれば、自ずと人は集まってくると思います。洋服も食べ物もあるような、アジアンマーケットのようなイベントをやりたいですね。そして、それを継続していきたいと思います。
高橋氏:アイデアさえあれば、何でもできるはずです!それが新しいものである必要はないんです。この店を実験店舗にして、自由な発想で色んなことを試していきたいです!
高橋さん、加藤さんにお話をうかがいました。いかがでしたか?お二人の温かく情熱的なお人柄に触れ、とても心地よい時間でした。皆さんも是非、お二人自慢のワインとコーヒー、そして心地よい空間を味わいに来てくださいね。
高橋さん、加藤さん、ありがとうございました!
(ライター:安藤小百合 )
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