2026.06.11

金融の街の真ん中で、子どもたちを育てる。阪本こども園 園長・重田操さんにお話を伺いました!

こんにちは!
兜LIVE!編集部です。


東京証券取引所まで徒歩数分、阪本小学校と同じ敷地に立つ阪本こども園。2021年4月、中央区で初めて公募された公私連携幼保連携型認定こども園として開園したこの園は、渋谷教育学園が運営を担っています。前身は中央区立阪本幼稚園。長く地域に愛されてきた公立幼稚園の歴史を引き継ぎながら、新たな一歩を踏み出しました。園長の重田操さんに、開園当初のことから話を聞きました。



◆「コトはじめの街」でのスタート

──開園にあたって、前身の阪本幼稚園から引き継ごうと思ったことはありましたか?
阪本幼稚園は、自主性や好奇心を大切にした教育観で地域にとても愛されていたと聞いていました。それは園の理念である「自調自考」にも通じるところがあって、引き継いでいきたいと思いました。それから、阪本小学校との連携です。同じ敷地内にありますし、公立時代からの地続きとして、しっかり関係を築いていきたいというのがありました。


もう一つ大きく変わったのは、対象年齢です。幼稚園は3歳から5歳でしたが、こども園になると1歳から受け入れることになります。教育だけでなく保育の機能も加わり、長時間の預かりにも対応できるようになりました。保育時間が延びたことで、この街で働く親御さんたちのニーズに応えらえるのではと思いました。


──開園がちょうどコロナ禍と重なりましたね。
本当に大変でした。運動会(園では「運動あそびのつどい」と呼んでいます)を行おうとしても、保護者の参加を制限するという状況から始まりました。先生たちも苦労しましたし、行事のたびに「できません」ではなく「どうしたらできるか」を考え続けました。6年目を迎えた今、地域や小学校との連携がようやく軌道に乗ってきたと感じています。コロナの頃と比べると、今がとても充実していると思えます。


──中央区内で初めて設置された私立の幼稚園(こども園)として、この街でスタートすることへの思いはいかがですか?
正直、重荷でもありました。ただの新設園ではなく、この街の子育て文化を一緒に作っていく場所として期待されているのだろうという感覚があって。それに応えていかなければという気持ちは、ずっとあります。
中央区は都市型で多様性があって、歴史もあって、働く街でもある。そのど真ん中に生まれたこども園ですから、この街だからこそ意味のある取り組みをしていきたいと思っています。


◆お散歩が、まるごと社会科見学

金融街のど真ん中にあるこども園ならではの日常があります。子どもたちのお散歩コースは、そのまま社会科見学のようです。


──この街を歩くと、子どもたちにはどんな変化がありますか。
もちろん公園にも行くのですが、この街ならではのお散歩先があります。兜町・茅場町エリアの再開発拠点として生まれた複合施設KABUTO ONEもそのひとつ。地域の方々は温かく迎えてくれます。ポルシェの展示場に招いていただいたこともあって、子どもたちが目をキラキラさせて帰ってきました。普通の公園とは情報量がまったく違って、働く大人の姿からも街並みからも、子どもたちはいろいろなものを持ち帰ってきます。


最初は私も戸惑いがありました。こんな街中を子どもたちが出歩いて、本当に大丈夫だろうかと。保護者の方からも、安全に預かってもらえればそれでいいという声があったんです。でも、安全を守りながらこの街を見てもらいたい。ここに住んでいるのだから、と思って続けています。


──渋沢栄一さんの銅像も、子どもたちには身近な存在なのですね。
「しぶさわえいいち」という言葉を、幼いながらに普通に口にしていました。今日銅像を見てきた、触ってきたと話してくれる。びっくりするくらい子どもたちに浸透しています。公共の場でも、はしゃいでいい場所と静かにしなければいけない場所の区別やマナーを、街に出ることで自然と学んでいます。


KABUTO ONE 1階アトリウムに設置されている渋沢栄一翁


──街が変わっていく様子も、子どもたちは見ているんですね。
園のすぐそばには、2025年10月に開業したばかりのホテル「キャプション by Hyatt 兜町 東京」があります。更地だったところから少しずつ建物ができていく様子を、子どもたちはずっと見ていました。建設中のビルや、現場に出入りするタンクローリー、はしご車に釘付けになって、そこで散歩が終わってしまったこともあります(笑)。でも、それもありですよね。クレーン車がどうやってビルの上に行くのかを、自分たちで調べたりして、「なんで?」「どうして?」がいたるところから生まれてくる街なのです。


◆おままごとで生まれた、お金の教室

この街ならではの学びは、園の外だけにあるわけではありません。日常の保育の中にも、兜町らしいエピソードが生まれています。


──小学校との連携や、金融教育につながる取り組みはありますか?
ある日、子どもたちがおままごとをしていた時のことです。「支払いはペイペイで」と言いながらピッとやっている。最初は「今どきだな」と感心していたのですが、ふと「この子たちには、お釣りの概念がないのかもしれない」と頭に浮かびました。私たちが子どもの頃は、お使いでいくら渡されていくら返ってくるかを考えていた。でも今の子どもたちは、ピッとやれば何でも買えると思ってしまうかもしれない。そこに少し危機感を覚えました。


ちょうどその頃、保護者のご家族にファイナンシャルプランナーの方がいらっしゃることがわかって、思い切って相談してみました。そうしたら「お金の教室をやりましょう」と言ってくださって。それから3年間、続けています。


──どんな内容なのでしょうか。
5歳の子どもたちを対象に、実際に卵を買う体験をしたり、本物のお札に触れたりします。お金には売る側と買う側があって、そこに「ありがとう」という気持ちが生まれるんだということを伝えています。お札のホログラムを見たり、目の不自由な方がどこを触れば金額がわかるかを一緒に確かめたり。お金には実態があって、それを通じて様々なものや気持ちが行き来するのだということを伝えています。


──子どもたちに変化はありましたか。
その後のおままごとに、現金が登場するようになりました。やってよかったなと思いました。教えてもらったことをすぐにやってみようとするのが、子どもたちのいいところで、それが本当の教育だと思っています。


◆自調自考──考えて、調べる力をつけたい

渋谷教育学園が大切にしてきた理念「自調自考」。自ら調べ、自ら考える力を育てるこの言葉を、幼児教育にどう落とし込むのでしょうか。




──「自調自考」を1歳から5歳の子どもたちに実践するのは、難しくないですか?
よく聞かれるのですが、自調自考の土台を作ってあげるのが、この場所の役割だと思っています。将来、自分で人生を切り拓いていくときに必要な力の種を、ここで育てるイメージです。
具体的には、答えをすぐに出すのではなく「どう思う?」と聞いてみる。「なんでそうしたの?」と言うと子どもは戸惑ってしまうのですが、「どうしたかったの?」と聞くと「私はこうしたかった」と言葉が出てくる。言葉を引き出してあげることが、一番大切だと思っています。できた、わかった、という積み重ねが自信になって、次は何をやってみようかという学びにつながっていく。それが自調自考とつながっています。


保育業界では1つ、2つ、3つ……9つまで、「つ」のつく年齢までに、社会で生きるための考え方や能力の土台がほぼ出来上がると言われています。1歳から5歳までここにいるとなると、本当に重大な時期を預かっているということです。先生たちへの研修でも、社会性の基盤を作っているんだということを繰り返し伝えています。


先生たちのやり方はそれぞれで良い。でも最終的に向かうゴールは同じ。その共通のゴールへ向かうために、4つの目標を置いています。「元気に遊べる子」、「根気よくやり抜く子」、「素直で思いやりのある子」、「読書好きな子」。この4つです。


──自分で考える力を、遊びの中で培っていくということですよね。
はい。特に砂場は子どもの社会の縮図だと思っています。貸し借り、衝突、交渉、協力
いろいろなことが砂場の中に凝縮されています。


砂場の砂はサラサラの川砂(奥)と泥遊びに適している山砂(手前)の2種類が用意されていました。


砂場でケーキを作る女の子と、そばで夢中でトンネルを掘る男の子。気づかずに足がケーキを壊してしまい、ふたりは固まります。 先生は責めずに気持ちに寄り添い、「悲しかったね」「気づかなかったんだね」「これからどうしようか」と穏やかに場を整えます。 その言葉に背中を押され、男の子は小さく「ごめんね」。女の子も涙をこらえて「一緒に作る?」と応えます。子どもたちが自分の言葉で気持ちを伝え、また遊びをつなげていけるよう、そっと支えることが私たちの大切な役目です。


◆食べることも、学びのど真ん中に

阪本こども園の給食へのこだわりは、園舎に入った瞬間から伝わってきます。給食室に面した窓は、誰もが思わず足を止めるほど大きく、調理の様子がよく見えます。



──給食室の大きな窓が印象的でした。
朝、食材が運ばれてくるのを子どもたちはもう見ています。登園しながら今日は何ができるのかなと思って、遊んでいる途中でも給食の準備が始まると走って見に来る。作る過程が見えることが、食への興味につながっていると思っています。
人間は食べたものでできている、というのが私の考えです。好き嫌いの多い子も、偏食の子も、いかにおいしく、いろいろなものを食べられるようにするかを給食業者さんと一緒に毎月考えています。



──ブリの解体ショーもされているとお聞きしました。
大きな包丁を持ってきて、目の前でブリを捌いて、その日の給食にブリの照り焼きを出しました。命をいただくということと、自分たちが食べているお魚がもともとこんなに大きいということを、目で見て感じてほしくて。すると、それまで魚が苦手だった子もちょっと食べてみようかなという雰囲気になりました。


──お弁当の日も設けているそうですね。
遠足では、食べづらいお弁当に時間がかかり、みんなが遊びに行った後も頑張って食べている子の姿がありました。お弁当にはご家庭の愛情がたくさん込められていることを感じています。
その経験から、子どもたちが遠足をより楽しめるように、食べやすい行楽弁当について保護者の皆さんと一緒に考えていきたいと思い、年に3回のお弁当の日を設けています。 否定ではなく、共に工夫しながら子どもたちの成長を支えていくことを大切にしています。


また、玉ねぎの皮で布を染めたり、さつまいものつるでリースを作ったりと、食材を食べるだけでなく制作にも活かしています。食を通じた学びは、給食の時間だけにとどまりません。


◆忙しい親たちと、一緒に育てる

阪本こども園には、朝7時半から夜7時半まで子どもを預ける家庭もあります。金融・ビジネスの街で働く保護者が多く、共働きがほぼ当たり前になった今、園に求められる役割も変わってきています。


──保護者の方々との関わりで、大切にしていることはありますか。
夜ギリギリに迎えに来るお母さんに、今日こんなことをしていましたよとお伝えしながら、お仕事ご苦労さまですと声をかける。それだけのことなのですが、少しホッとしてもらえる場所でありたいと思っています。子どもを預かるだけでなく、親御さんにとっても安心できる場所であることが、この街で働く人たちへの保育だと思っています。


──地域との連携も少しずつ広がっているそうですね。
平和不動産さんからジャズフェスや桜祭りにお声掛けいただいたり、造形展(園では「造形あそびのつどい」と呼んでいます)に地域の方が足を運んでくださったりしています。今年は山王祭に子どもたちが参加する予定もあって、先生や保護者役員の方とでお手伝いで参加します。


今年から新しく「子育て広場」も始めます。在園児ではない未就学のお子さんをお持ちの保護者の方を対象に、手遊びや体操、子育て座談会のような場を年2回設ける予定です。地域の皆さんが温かく迎えてくださるからこそ、私たちも何か応えていきたいという気持ちがあります。微力ではありますが、少しずつ広げていけたらと思っています。


◆この街に育ててもらった子が、今度は街を育てる

取材の最後、重田さんに子どもたちへの思いを聞くと、この街への言葉が自然と続きました。



──変わりゆく兜町・茅場町の中で、子どもたちにどんな時間を過ごしてほしいですか。
この街に子どもたちを育ててもらい、今度は、ここで育った子どもたちが大人になって戻ってきて、育てる側になってほしいという思いがあります。街並みが変わっても、この場所への気持ちは変わらないでいてほしい。そのためにも、子どもたちにとって楽しくて豊かな時間をここで作っていきたいと思っています。


──最後に、阪本こども園に興味を持っている保護者の方へメッセージをお願いします。
タイパやコスパという言葉が当たり前になった時代ですが、子どもの育ちは効率では測れないと思っています。一人一人に個々のペースがあって、うちの子は遅いですと心配される保護者の方もいるのですが、それも個性です。その子らしさを大切にすることを、いつもお伝えしています。
子育ては一人でするものではない。同じ方向を向いて、一緒にやっていきましょうというのが私たちのスタンスです。そういう場所に共感してくださる方と、一緒に子育てができたら嬉しいです。



▪️学校法人渋谷教育学園 阪本こども園

     中央区日本橋兜町15番18号


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