2021.02.04

【蔵元トーク】#32 作(三重県 清水清三郎商店)

こんにちは!
兜LIVE!編集部です。
 
12月26日(土) 、オンラインにて『日本酒を蔵元トークとテイスティングで楽しむ』を開催しました。
 
今では国際金融都市といわれる日本橋兜町。
 
江戸時代には酒問屋で賑わっていた「日本酒の聖地」でした。東京証券取引所において初上場時の5回の鐘撞は、酒の原料である五穀豊穣にちなんでいるとのこと。
平日は賑わうこの兜町に、休日にも人が集まってもらいたい。そんな願いから日本各地の蔵元を招き日本酒について学び、味わい、楽しく交流し、その魅力を、兜町の魅力といっしょに広め、お酒が地域と人をつなぐ場所...。そんな場所に発展するように願いを込めて、毎月1回日本酒セミナーを開催しています(今月は2回目です!)。



今回は、三重県鈴鹿市で「作」を醸す清水清三郎商店の第6代蔵元 清水慎一郎さんをお迎えしての開催でした。オンラインですが、もっとも遠方では福岡の方にご参加いただきました。ありがとうございます。
 最初に、参加者の皆様に作を飲んだことある?なし?の質問をしたところ、41名中飲んだことがない方は2名だけという結果でした(素晴らしい!!)。
 
伊勢の歴史を含め作ワールドのはじまりです!
 
そうはいっても、まずは乾杯!
話をしっかり聴きたい方は、ほどほどに飲みながらで。


◆「作」醸造元・清水清三郎商店、2020年のニュース

①生産量増加に向けた取り組み


▼瓶詰工場などの建設 

・2020年3月に瓶詰工場の建設を開始し、2021年1月に竣工予定。その後、別の建物の建設に着手し、順次建設。全てが完成するのは数年先の予定。瓶詰工場から着手したのは、瓶詰が生産量増加のボトルネックになっているため。


・現在の瓶詰めは手詰めで、ラベルも手貼り。新しい瓶詰工場は、今後20~30年間を見通し、クリーンルームのような環境とする。HACCP(ハサップ)への対応も進める。


 ☆ その後、清水さんからHACCPの認定証が届いたのとご報告をいただきました。


<参考:「HACCP(ハサップ)」について



▼人員の増強 

・生産量増加へのニーズは強く、少しづつ増加させてきている。四季醸造になったのも、生産量増加のために生産のスタートを早めたり、終了時期を後倒ししていたら結果的に四季醸造となった経緯。


・四季醸造の中で生産の精度や再現性を高めるためには、最終的には設備よりも人が重要になる。ここ数年、新卒採用を2名前後コンスタントに実施。まずは製造を担い、状況に応じて担当業務を変えてゆく予定。


・5年ほど前、製造は3~4名のメンバーにパートを加えて行っていたので、人員的には3倍にはなっている。


②「Kura Master」プレジデント賞の受賞と「GI三重」 


▼「Kura Master」プレジデント賞の受賞 

・「Kura Master」で、「作 智(さとり) 純米大吟醸滴取り」が、全出品酒のトップである「プレジデント賞」を受賞した。



・「Kura Master」は「フランス料理に合う日本酒を選ぶ」というコンセプトで開催。審査委員長のグザビエ・チュイザ氏は「ホテル クリヨン」のシェフソムリエを務め、日本酒に造詣が深い。              


・例年、結果発表はパリで行われるが、今年はオンラインでの発表となった。同氏は「プレジデント賞」への祝辞の中で、「GI三重」に言及して下さった。以下では「GI三重」について説明したい。



<参考:「Kura Master 2020」受賞酒

(※)「Kura Master」は2017年から開催。今年で4回目。


<参考:グザビエ・チュイザ氏について> 


<参考:「Kura Master」に関する婦人画報記事(2018/08/11)>

(※)「見た目10点、香り30点、テクスチャー40点、料理とのマリアージュの潜在力20点の100点満点で評価」との説明。


<参考:東洋経済記事:「フランス料理に日本酒」が増えている理由 ワインが苦手な「料理の7要素」とは?(2018/08/13)> 


フランスへの日本酒輸出量は約2.5倍増


大きな変化がフランス料理界で起きている


ワインが不得手とする「7つの要素」 

(※)「うま味」「苦み」「卵」「くんせい」「酸味」「辛み」「ヨード香」


Kura Masterが始まったきっかけ


一般的な日本酒品評会とは異なる点


必ずしも大吟醸ばかりが好まれるわけではない 


昔は新鮮な状態で日本酒を貯蔵する技術がなかった


▼「GI三重」(当方注:GIについては後出の各種参考URL参照)

・2020年6月に、「GI三重」の指定が行われた。県単位の日本酒GIとしては、山形県に次いで2例目。



・「GI三重」を申請することにした契機は、3年前の「サロン・デュ・サケ」に三重県の補助金を得て県のブースを出展したこと。


・ブース名に「三重」と掲げられていたこともあり、来場者から次々に「三重とはどんな所か」と問われた。自社製品の説明をする以前に地元の説明をしなければいけない。これは、遠いところに来るほど必要なことなのだと感じた。



・GI取得に向け、山形県でGI取得に尽力された「出羽桜」仲野社長にお越し頂いて同県の取り組みを学ぶなどして昨年夏まえ頃から準備を進めて、本年6月に指定を受けた。 


・そのGIが「Kura Master」の表彰式で認知されているのを知り、さすが、AOCの定着したフランスには浸透が早いと実感した。


・なお、グザビエ・チュイザ氏からは、「ホテル クリヨン」で毎冬開催されるオイスターバーで、今年は日本酒を提供したいという提案を頂いた。通常は白ワインやシャンパンが提供されている。 


・提案では、今年GI指定を受けた「三重」と「はりま」の日本酒、そしてAWA酒が対象とされていたが、パリがロックダウンとなり、実現できていない。


<参考:「サロン・デュ・サケ(Salon du Saké)」公式HP>


 <参考:「サロン・デュ・サケ」参加記録:静岡県「杉錦」杉井さんブログ> 

(※)シルヴァン・ユエ氏が2013年にスタート。3日間で5千人以上の参加者があるイベント。


<参考:酒類の地理的表示一覧


<参考:地理的表示「三重」生産基準


<参考:酒類のGI制度とは> 

・GIは、Geographical Indicationの頭文字で、地理的表示とも表記。国税庁長官の指定を受けると産地名を独占的に名乗ることができる。お酒にその産地ならではの特性が確立されている場合に、産地からの申立てに基づいて指定される。


<参考:酒類GI制度の成り立ち> 

・WTOの発足に際し、ぶどう酒と蒸留酒の地理的表示の保護が加盟国の義務とされたことから、平成6年に国税庁が制度を制定。平成27年に制度を変更し、全ての酒類を制度の対象とした。


<参考:国税庁「酒のしおり(令和2年3月)」関連ページ


◆三重・鈴鹿の歴史的背景から名を取った新商品について


「三重」の歴史的背景から名を取った新商品「FLINT」(フリント)



・「FLINT」は火打石のこと。日本武尊(ヤマトタケルノミコト)が焼津で火攻めに遭った時、防御に使ったのが草薙の剣。反撃に使ったのが火打石。日本武尊の命を救った火打石から名前を取った。


・実は「三重」という名前は、日本武尊の話に由来する。日本武尊が東国を平定した後の帰路、鈴鹿の近くで亡くなるが、最後に詠んだ歌が「我が足 三重の鈎(まがり)の如くして、いたく疲れぬ」とされている。その後、この地が「三重」と呼ばれるようになった。


<参考:「三重」の名の由来について


②「鈴鹿」の歴史的背景から名を取った新商品「なぐわし」



・「なぐわし」は「名+ぐわし」で構成される古語。「ぐわし」は「かぐわし」(香+ぐわし)に残っているように「素晴らしい」という意味。


・鈴鹿は大和の国の成立にとって重要な地。御食国(みけつくに)と呼ばれ、「租庸調」とは別に「贄」として穀類以外の食料を納めていたと考えられている。


・また、まだ広域に勢力を伸長していなかった大和朝廷は、攻め入られるリスクのある要衝の一つを関ヶ原、もう一つを鈴鹿峠と認識していた。そのため鈴鹿には国府や国分寺が置かれていた。


・そんな鈴鹿に倭姫命(やまとひめ)が来た時の記述が「倭姫命世記」(やまとひめのみことせいき)に残されている。倭姫命が鈴鹿を治める者に名を尋ねたところ「味酒鈴鹿国『奈具波志』忍山」(うまさけすずかのくになぐわしおしやま)と答えたという。


・良い言葉で、「名前が素晴らしい」という意味なので、素晴らしい土地である「東条」の山田錦を使用したお酒の名前に使うことにした。


・なお、「味酒鈴鹿国」(うまさけすずかのくに)という言葉は、当時、鈴鹿の国が美味しいお酒を造る土地として知られていたということであり、「味酒」(うまさけ)は「鈴鹿」の枕詞とされている。



<参考:「味酒鈴鹿国」に関する清水清三郎商店HPの記載

<参考:「倭姫命世記」の該当箇所に関する解説

◆Bioについて

 ▼Bioと酸化防止剤

・1~2年前にフランスで開催された展示会「ヴィネクスポ・ボルドー(VINEXPO Bordeaux)」に行った際、自分達のブースに「Bio」と書いてあるのを見つけた。



・主催者に問い合わせたところ、「日本酒は酸化防止剤(亜硫酸塩=SO2)無添加なのでBio表記をした」と回答。それまで、「自分達がやってきたこと」をアピールしてきたが、「やっていないこと」に注目されたのは新鮮だった。



・同展示会に「ボルドー・ビオワイン協会」が出展していて、交流してみると、酸化防止剤を使用せずにどのように酒造りをしているのか関心が高いことも分かった。


・それを受けて考えた日本酒の説明表記をスライドで説明。「保存料 酸化防止剤 不使用」のほか、「無補糖」と記載。グルコースやpH、酸度の記載は、ワインにおける表記に使われるもの。なお、ワインの酸度表記にあわせて日本酒の酸度を記すと一桁低くなる。


<参考:「ヴィネクスポ・ボルドー」について

<参考:酸化防止剤(亜硫酸塩=SO2)について

▼「ビオディナミ」と陰暦
・もう一つ、Bioの関係では、「ビオディナミ」にまつわる話がある。



・「ビオディナミ」は自然農法の一種で、特に厳格な農法を用いる。以前、オーストラリアで「ビオディナミ」に取り組むワイナリーを訪れた際、「月の満ち欠けに従ってブドウの摘み取り等を行う」と聞いてオカルトかと思ったが、「ビオディナミ」では月の周期が生物に及ぼす影響を考慮すると知った。


・翻って、GI申請のために三重の歴史を調べていたところ、「伊勢暦」を知るようになった。お伊勢参りの目的の一つは「伊勢暦」を持ち帰ることだったとされている。


・「伊勢暦」は農業暦としての役割を持つ。神社の祭りが農事と縁が深いことを考えると自然な話ではある。「伊勢暦」が使われていた時代は当然陰暦で、月の満ち欠けに基づく暦だった。


・こうしたことを踏まえて、ビオディナミの関係者に「日本でも月の暦に従って農業が行われていた」と話すと大変驚かれる。


<参考:「ビオディナミ農法」について

◆「三重県酒造組合のシンボルマーク」について

・「三重県酒造組合のシンボルマーク」は、上部の丸い部分に「束ね熨斗(たばねのし)」と「大鳥居の朝日」、中央部に「素焼きの盃」をかたどっている。



・「束ね熨斗」は、縁起が良いとされる日本の伝統模様。婚礼衣装や大漁旗などにもその図柄が用いられている。これは、鮑を薄く剥いたものを干してつくる「のしあわび」を束ねた形を表している。



・贈り物を包む「熨斗紙」についている六角形の色紙の中にある黄色い部分は、本来は「のしあわび」を紙で包んだもの。1本でも大事にされているものを沢山束ねたのが「束ね熨斗」といえる。


・伊勢に近い国崎(くざき)では、獲れた鮑を「のしあわび」に加工し、伊勢神宮へ献上され続けているという歴史がある。 


・「大鳥居の朝日」は、毎年、冬至に伊勢神宮・内宮の宇治橋の大鳥居から昇る朝日を意味する。


・中央部の「素焼きの盃」をかたどっている。伊勢神宮の「かわらけ」(お神酒を頂く素焼きの杯)を意味する。


<参考:「GI 三重 シンボルマーク」について
(※)「三重県酒造組合のシンボルマーク」と同じ意匠を用いています。


<参考:伊勢神宮の「あわび」と「土器」
 

◆テイスティング

「作」についてしっかり知識を吸収した後は、恒例のテイスティングです。当てるのが目的ではなく、自分の好みを知ってもらうのが狙いです。

 












 

▼日本酒3種

①「作 新酒」純米大吟醸、精米歩合50%

②「作 穂乃智」純米、精米歩合60%

③「作 雅乃智 中取り」純米大吟醸、精米歩合50%



【今回のお酒について】
①「作 新酒」純米大吟醸、精米歩合50%
・当蔵は四季醸造。法令上の醸造年度は7月1日から切り替わるが、「新酒」と銘打つのは、醸造年度とは関係なく、新米で醸造したお酒としている。
・今回お配りしたロットでの使用米は「イクヒカリ」。収量が多くないため、使用米は変わっていく。
・酵母は自社保存株。元は「きょうかい1801」系だが、酢酸イソアミルも相応に出る株となっている。
・華やかで若々しい香りが立ち上がり、今年収穫された新米の味わいが口中に広がる。
 
<参考:「イクヒカリ」について

<参考:「作 新酒」純米大吟醸@はせがわ酒店


②「作 穂乃智」純米、精米歩合60%
・「きょうかい14号」系の酵母を使用。

・穏やかな酸と、鼻の奥にすっと立ち上がる爽やかなライチの香りがする。

③「作 雅乃智 中取り」純米大吟醸、精米歩合50%
・三重県または兵庫県の山田錦のみを使用。酵母は①と同じ1801系の自社保存株。

・搾りの工程で最初の「荒走り」と最後の「責め」を除いた「中取り」部分。豊かな味わいと香りがありながら、最後の透明感が特徴。
 
正解はこちらです!難しかったですかね。
 

 
◆Q&A

(問)酒造りで大切にしていることは何か。

(答)今年は、三重県のお酒のブランド化推進事業も行っていて、「三重県のお酒の特徴は何か」ということも考えていたのだが、まずは、そこに住む人が造る(※)という人の技術だと思う。
 また、「水」の要素は大きい。特に、離れた土地の水を比べると違いが分かる。世界的にいえば、日本の水は特殊だという説もある。元筑波大学教授で地質学者の久田先生が述べられており、日本の地質が他の国と異なることが原因としている。
 
(※)伊勢杜氏が、農閑期の出稼ぎではない地元の杜氏であったという伝統を指していると思料。

<参考:元筑波大学・久田健一郎氏


(問)「作」は、なぜ「さく」ではなく「ざく」と読むのか。

(答)漢字は中国から朝鮮半島を経由して伝わったと考えられるが、中国人に読ませると「Zo」、韓国人に読ませると「Zaku」だと言う。

日本では漢字が伝わってから濁音が清音化する傾向があるようなので、元々「Zaku」と言っていたのではないかと推察している。


(問)ラベルデザインはどうしているのか

(答)10数年の付き合いとなる1人のデザイナーにお任せしている。

但し、レギュラーの「作 穂の智」などのデザインは、元々自分が考えたもの。作り直しても良いと思い、以前デザイナーに相談したが、「これはこれで完成しているから良いのではないか」との答えで、そのままになっている。


(問)「作 IMPRESSION(インプレッション)」について教えて欲しい。

(答)「作」では元々生酒を出していない。それは、時間の経過による味の劣化から免れないため。しかし、生酒の良さもあるので、何とかこれを火入れで実現できないかとトライしたのが「プロトタイプ」。

「プロトタイプ」では、搾ったばかりの酒を瓶燗していた。しかし、瓶が割れたり、キャップが飛んだりした。対策として瓶に注入する酒の量を減らしてみたり、3~4年試行錯誤してやり方が決まって販売するようになったのが「IMPRESSION」。瓶燗はしておらず、火入れ・急冷したものを瓶詰めしている。


・「IMPRESSION」は4種ある。Gは「玄乃智」、Hは「穂乃智」、 Mは「恵乃智」、Nは「中汲み(雅乃智)」の頭文字。


(問)酒造好適米が余剰となっているようだが、食用への転用については。

(答)既に食用で売られているので、自分自身、山田錦を個人的に購入した。山田錦は心白が大きく、中心部が疎構造なので、パエリアなどに使うとスープを良く吸い込んで美味しい。試してみてほしい。 

 
◆最後はみんなで集合写真

毎回、恒例の集合写真です。みなさん、清水さんの作ワールドは、いかがだったでしょうか!


◆まとめ

清水さんには、兜LIVE!蔵元トークで3年連続お話をいただきましたが、毎年、新しい話題に事欠くことがないくらい進化しています。2021年もぜひ、兜LIVE!でお会いしたいですね。
今後も、常に進化する『作』を飲むことで、日本酒のトレンドを把握できるのでは!!
四季醸造ですので、四半期ごとにチェックしましょう(笑)

 

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