2023.05.14

【蔵元トーク】#54 龍勢(広島県竹原市 藤井酒造)

こんにちは!

兜LIVE編集部です。


3月25日(土) 、『日本酒を蔵元トークとテイスティングで楽しむ』を開催しました。

今では国際金融都市といわれる日本橋兜町。

江戸時代には日枝神社の門前町として栄え、酒問屋で賑わっていた「日本酒の聖地」でした。

東京証券取引所において初上場時の5回の鐘撞は、酒の原料である五穀豊穣にちなんでいるとのこと。


平日は賑わうこの兜町に、休日にも人が集まってもらいたい。そんな願いから日本各地の蔵元を招き日本酒について学び、味わい、楽しく交流し、その魅力を、兜町の魅力といっしょに広め、お酒が地域と人をつなぐ場所...。そんな場所に発展するように願いを込めて、毎月1回日本酒セミナーを開催しています。


今回は、広島県竹原市で「龍勢」を醸す藤井酒造代表取締役社長の藤井義文さんをお迎えしての開催でした。藤井さんから、竹原市、蔵の歴史、酒造りなどなど、お聞かせ頂くことができました。

どうもありがとうございました!



◆ 蔵の概要

・日本酒業界に入って50年近くなるが、その間、業界も大きく変貌した。私が大学に入った昭和48年は日本酒業界が最高潮のときで、その後、見事に日本酒の消費量が減少した。当時、東京農大で蔵出身の同級生が十数人いたが、半分の蔵が廃業となり、とても物事を前向きに考えられる時代ではなかった。一方、現在の若い蔵元は、状況が全く異なり、前向きに「新しい酒造り」や「海外」に目を向けることで、一から蔵の見直しを行っている。



・創業は1863年(江戸時代末期)。初代藤井善七が創業。創業時に隣の蔵も購入し、新しく建てた蔵と共に二つの蔵で酒造りを始めた。隣の蔵は、創業時で既に100年以上前からある蔵だったそうだ。



・私が五代目で六代目の息子が40歳になるので、そろそろ世代交替を考えている。七代目(孫)も既に誕生している。息子には一度も「後を継げ」とは言ってこなかったが、30歳になったときに、息子から蔵に戻ると言ってきてくれた。



・創業銘柄「龍勢(りゅうせい)」は、龍頭山の麓の井戸水で醸したところ勢いの良い酒が出来たことから命名された。この銘柄の由来にある通り、竹原は豊かな地下水に恵まれた地で、瀬戸内海ならではの少雨温暖な気候は暑すぎず寒すぎず清涼な空気に満ちた環境として、日本酒づくりに最適な土地柄であった。


・「夜の帝王」は、販売してから今年で40年になる。当時、こんな銘柄を誰が買うのかと揶揄されたが、現在、購入者の6割以上が女性だと得意先から聞いている。厳格な醸造理念の下で醸される龍勢ラインナップと比べ、夜の帝王はカジュアルでユニークなものとしており、醸造技術をもって遊ぶことをテーマに、楽しいお酒造りを行っている。2018BYには、高アルコール=辛口、低アルコール=甘口という、従来の日本酒の既成概念を打ち壊す「夜の帝王 FOREVER」(アルコール20度で甘口)、「夜の帝王 Daybreak」(アルコール13度で辛口)を発売。「夜の帝王 Daybreak」は、低アルコールながらも辛口で厚みのある酸がキレのよいお酒で、 夜の帝王が明け方(Daybreak)まで飲めるお酒をイメージして醸した。


・主な受賞歴だが、明治40年(1907年)、日本初の全国清酒品評会(現在の全国新酒鑑評会の前身)で最優等第一位の名誉に輝いた。創業銘柄『龍勢』は、「その年で最も出来のよかった純米酒」だけが名乗ることを許されたお酒だった。三浦仙三郎が確立した軟水醸造法により醸された広島の日本酒が認められた瞬間でもあった。



・上の書は、第1回全国清酒品評会の際、三浦仙三郎先生は審査員だったが、東京に帰られてから書いて頂いたもの。最優秀賞を龍勢が取ったが、それは藤井家だけの誉ではなく、郡や県の誉におよぶ。自ら蔵主であり杜氏である三浦先生が幅広く技術を同業者に教えていただいた結果である事が分かる。


因みに、「吟ずる者たち」というタイトルで三浦仙三郎先生が映画化された。私もこの書の説明をする場面で出演させてもらった。来月(2023年4月)DVD化になるそうなので、ぜひとも観てください。


*劇場用日本酒映画「吟ずる者たち」公式

(あらすじ)
日本酒造りが盛んな広島の町で、日本で初めて吟醸酒をつくった三浦仙三郎の酒づくりの思いに触発され、酒づくりの道を歩み始める女性の姿を描いた人間ドラマ。東京で夢破れ、故郷の広島に帰ってきた永峯明日香。三浦仙三郎の杜氏の末裔が継いだ酒蔵で育った彼女は、酒づくりに興味はあったものの、養女であったことから実家を継ぐことはそぐわないと、酒づくりを避けて生きてきた。目標を見失っていた明日香は父が家宝とする仙三郎の手記を目にする。明治初期、新米酒造家だった仙三郎は、醸造中に中の酒が腐る「腐造」に何度も見舞われる。さまざまな逆境の中、自動精米機の開発者佐竹利市、広島杜氏の養成に尽力した橋爪陽らの協力を得て、腐造を起こさずに安定した日本酒醸造技術の確立に研鑽を重ね、ついに軟水による低温醸造法を導き出す。明日香は手記に書かれた、「100回試して、1000回改める」という「百試千改」の思いに強く惹かれていく。


・日本初の全国清酒品評会での栄誉から100年後の2007年、ロンドンで行われている「International Wine Challange」(通称IWC)でその年に新設されたSAKE部門のうち純米吟醸酒・純米大吟醸酒の部にて、『龍勢 黒ラベル 純米大吟醸』が最高賞である最高金賞(部門トロフィー)を受賞した。IWCは世界最大規模・最高権威に評価されるワイン・コンペティションで、世界中のワイン業者から注目されている。2007年に「SAKE部門」が本格的に設けられてから、初の受賞を藤井酒造が果たした。


・その10年後の2017年には、フランスで行うフランス人のための日本酒コンクールとして初めて開催された「Kura Master」の純米部門で「龍勢 純米吟醸 白ラベル」が、プラチナ賞を受賞した。


◆ 広島県竹原市について

・蔵のある竹原の街は瀬戸内海に面している。島の多いところで、一番高い山に登ると、150の島々が見渡せる。



・竹原の干拓地は全く農作物が育たない土地だったため、赤穂から製塩技術を導入し、塩田が築造された。赤穂より上質の塩を製造できるようになり、財を成した。塩づくりは夏の仕事だったので、財を成した人は、冬は酒造をやることで、1年中多くの雇用を創出し、たくさんの税金を払うことが当時のステイタスだった。なお、藤井酒造の先祖は塩づくりをしておらず、油や肥料を商売にしていたようだ。


・竹原は、江戸時代当時の町並みをそのまま維持しており、国の伝統的建造物保存地区に選定されている。当該保存地区は全国に100か所以上あるが、竹原は指定が早かったので、整備も進んでいる。



・下の写真は10月終わりの竹灯りのお祭り「たけはら憧憬の路」である。下に敷いているのは煉瓦だが、竹原は煉瓦の産地でもある。竹原の煉瓦は赤土から造っているので、本来赤色なのだが、この街では赤い煉瓦は似合わないということで黒く塗っている。



・竹の囲いで飾り付けしているが、下が溝になっているため、人が落ちないように1年中囲いをしたままにしている。夜は照明がつくと、幻想的になる。



・酒蔵交流館は、地元の方々と観光客の皆さんが交流できる場として20年前に開館した。酒蔵交流館内部では、日本酒をはじめ、小物や食品関連グッズ等を展示販売している。また、奥には手打蕎麦屋も併設されている。これは珍しいのだが、当時、行政の承認をちゃんと得ているもの。



◆ 酒造りについて


・私どもの造りは、生酛造りが中心。画一的に工業製品のように、いつも同じようなものを造ろうというつもりはない。美味しいお酒を造るために努力はするが、生酛造りなので、自然との対話が必要になる。



・以前は、お酒に色があると、実際にお酒を味わってないのに「古い」と言われたが、最近は言われないようになった。時代が変化し、しっかり中身で判断してくれるようになった。


(洗米・浸漬・枯らし・蒸しは最重要作業しつかりと乾燥した強い蒸気で蒸し上げる)


・土地柄、水害に遭う惧れがあるので、2階に酛場、麹室、甑があるため、和釜が使えないので、ヒーターで熱を上げながら乾燥した強い蒸気で水を吸わせ過ぎないようにしっかり蒸しあげているので、捌きの良い蒸米としている。


(自然放冷)


・麹米は放冷機を使わず、手で運び、自然放冷をしている。そうすることで、余分な雑菌が付着し難い。


・その後、適度に冷めたものを室に引き込んで種付けをする。
種麹は、基本的に大正初期のものを使用している。全国で藤井酒造だけではないか。昔のものは力がある一方、現在の種麹と違いいろいろな影響もでるかもしれないが、それも生酛造りの特徴と捉えている。


(麹の種付け)


▼生酛の酛摺り

・今期は、蔵人4名で55本仕込んだ。3月初に最後の酛摺りが終わった。酛摺りをすることで菌が入りやすい状態を作る。特に、乳酸菌が入って来て乳酸発酵してくれると、ほかの菌を淘汰し、酵母だけが生きていく。今年は安定的なお酒ができた。生酛ってこんな綺麗なのというお酒に仕上がっていると思う。いろいろな文献で味が複雑と書いてあるが、それはうそ。本来の生酛を飲んだことがない人が書いたのではないか。




・自然の酵母は非常に強い。速醸の酵母は1CC中に10の8乗、自然の酵母は10の7乗くらい存在する。100人と1000人が戦って、100人が勝つイメージ。それくらい違う。


・酵母の数が少ないということは1つ1つの酵母が強いということ。発酵の後半で酵母がへこたれない。へこたれると、自分の出したアルコールで死んでしまい、アミノ酸を出す。アミノ酸は旨みだがあり過ぎるとえぐみになる。


・今は泡なし酵母を使うので、あまり見たことがないかもしれないが、醪に泡が出て、泡はタンクを超えて溢れ出すので、泡消機を利用していた。プロペラのようにぐるぐる回って泡を消してくれる。これがない時代は泡を消さないと溢れてくるため、徹夜をしていた。


(醗酵が始まると綺麗で元気な泡が立つ)


(泡消し機)


・楷入れの様子。プロのカメラマンが撮ってくれるということで、法被を着て格好良い写真を撮ってもらった。普段はこのような格好で作業をしていない(笑)


(仕込から約1か月かけて醸しあげる)


・大正初期の木桶。昭和30年台まで使っていたが、60年余り使っておらず蔵の2階で眠っていた。5,6本あったが、木桶屋さんに3本もっていって2本再生してもらった。60年使っていなかったので、これはカビ臭くて使えないと思ったが、表面を削ったら酒の香りがした。



(100年以上前の木桶を再利用)


・この木桶で仕込んだ酒はまた違いとても元気だ。泡を見てください。岩のような力強い泡になる。今の酒造りではみられなくなった。そのかわり欠点がある。冷やせないため、温かいときは使えなかった。当初は、外から冷やすことばかり考えていたが、中から冷やす方法があることに気づいた。中に冷水を循環させる装置を入れて冷やすことで、安定した酒造りができるようになった。ベッドの上に雪が積もっている。



(木桶生酛造り)


・明治末期頃から酵母を培養し、乳酸を添加して速醸で製造することが主流となった。それまでは、蔵にいる菌を活かす伝統的な生酛造りをしていたため、酵母を培養するということはなかった。


・現在の「生酛」の定義は、「乳酸」を添加しないものとなっているが、現在では「乳酸菌添加」が行われたり、「酛摺り」もしない酒の生酛表示も存在しているのが残念でならない。
我が蔵は、今年9割方生酛となったが、来年は全量、生酛造りとなる予定。

◆醸し手

・真ん中に息子(専務)もいるが、仕込みの時間帯だけしか蔵に入らないので、実際の蔵人は4人である。


・杜氏は弟で、1994年から務めており、今年で30年になる。広島県の杜氏といったら、昔は70歳代、80歳代だったが、現在は弟が最年長となった。どの蔵の杜氏も若くなった。



・蔵元自らも造るようになった蔵が増加した。若い時から酒造りに入っている。また、年間雇用となり、全員が社員。副杜氏の岡田(40代半ば)も他の蔵で10年杜氏をやっていたので、そろそろ杜氏にと考えている。一番右は新人で、以前は東京でカメラマンをやっていた。奥様と竹原に移住して酒造りをするようになった。


◆原料米

・全量、「酒造好適米」を使用している。一般米は水を吸うのに長時間かかるため、使用していない。酒造好適米は、効率的に作業を行えて良い味が出るが、値段が高い。




・広島産の八反錦、八反35号、山田錦が中心。他に契約栽培の鳥取県産山田錦と岡山県産雄町を使っている。今年から自分町の農家さんが八反錦を作るようになり、初めて採用した。


◆仕込水


仕込水は、竹原を流れる賀茂川上流の伏流水と竹原の地下水を使用している。水は軟水で口当たりがまろやかな酒となる。

硬度

伏流水 45

地下水 19

※伏流水は主に生酛に使用


・近くの井戸は浅井戸のため、生活用水が混ざり造りには使えないので、蔵から10キロ北にあるところに伏流水を汲みに行っている。そこの水を生酛に使うと菌がいてすごく有用。


・「地下水」というのは水道水のこと。竹原の水道水は井戸水を引いている。水道水には少量だがカルキが入っているので、カルキ抜きをしてタンクに貯めている。将来はもう一度、深井戸を掘って酒造りに使ってみたい。


◆目指す酒質


「生酛造り」を中心に、酒米ごとの個性・特性を活かした酒造り

・ほとんどを伝統生酛造りで醸造。乳酸菌や酵母等も無添加の古式製法で醸すことで、酒米の特性と蔵の特性を映し出した龍勢でしか醸し出せない唯一無二の酒を目指している。酵母も無添加と言うことは、発酵過程の微生物全てが蔵に住み着いているものが働いてくれるのを待つ酒造りで、人はその環境を整えるだけで、自然と対話しながら待つと言うことになる。


・来年からは、全量、生酛造りの予定。その中で何ができるか。お米、製法の違いなどなど、チャレンジしていきたい。失敗すれば改善すればよいし、美味しいお酒ができれば続けていきたい。


五味バランス良い食事とともに楽しめる酒

・米の特徴ごとに「甘」「酸」「苦」「塩」「旨」バランスよく醸し分けて、きれいな水のような酒ではなく、力強く余韻のある香味豊かな酒質を目指している。


熟成に向いた強い酒質

・長期間の熟成によって本領を発揮できるような酒を目指している。熟成温度は5度~10度程度を想定し、家庭でも熟成を楽しめる世界を創りたい。一番良いお酒は何かと聴かれることがよくあるが、私は、二日酔いにならないお酒であると考えている。


◆主なお酒紹介

・現在市販中の純米大吟醸は黒いラベルだけ速醸であとは生酛。帝国ホテル、明治記念館、リッツカールトン東京などでも扱っていただいているお酒もある。



・首に醸造年度。表ラベルの右側に小さく「生酛」と表記。最初、わかりずらいと反対したが、わかりずらいのは年寄りだからと言われ、納得した(笑)


・雄町だけが熟成タイプ。お燗すると非常に良い。濃い料理に抜群に合う。チーズと合う。

このデザインのお酒シリーズは会員の酒屋さんのみのお取扱い。



・季節商品は、搾りたて生原酒や活性にごり酒、夏の生酒、攻めを生原酒でブレンドしている「番外品」。秋のひやおろしはコメ違いで3種類(八反、雄町、山田錦)などがある。



・夜の帝王シリーズで、真ん中がアルコール度数20°で甘口の「FOREVER」、左側がアルコール度数13°で辛口の「Daybreak」、右がレギュラー酒。



◆今回のお酒について

1. 龍勢 生酛八反 ゆらぎの凪 (りゅうせい きもとはったん ゆらぎのなぎ)
八反は広島県産の酒造好適米。野菜との相性が良い食中酒で、冷酒や常温で美味しい酒質設計を目指している。また、きめ細かい透明感ある味わいと艶のある香りで、口当たり良いなめらかで綺麗なお酒となっている。今回のお酒は今期の酒造り2022BY一度火入れ。


2. 龍勢 生酛山田錦 日々綽々 (りゅうせい きもとやまだにしき ひびしゃくしゅく)
塩味と相性が良い食中酒。冷酒や常温で美味しい酒質設計を目指している。薫り高く、味わいのバランスに優れた品。今回のお酒は一年熟成の2021BY瓶貯蔵酒。


3. 龍勢 生酛雄町 無垢の系譜 (りゅうせい きもとおまち むくのけいふ)
伝統の酒米岡山県産「雄町」を伝統生酛で醸し上げ、タンク熟成の後瓶詰めしたお酒。 味わいも奥深く、余韻がある。冷やさず常温又はお燗がお薦め。濃い目の味のお料理やお肉料理、煮込みやチーズにも良く合う。今回のお酒は三年熟成の2019BY。



◆最後はみんなで集合写真

・毎回、恒例の集合写真です。海外の方もご参加いただきました!



◆まとめ

藤井さんの生酛にかける想い、そして二日酔いにならないお酒造り。素晴らしいですね。

今回初めて、セミナーは日本橋兜町のランドマーク「KABUTO ONE」3階Book Lounge Kableで開催しました。アカデミックな雰囲気で素敵でした!

藤井さん、ありがとうございました!



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