2021.06.06
こんにちは!
兜LIVE編集部です。
4月24日(土) 、『日本酒を蔵元トークとテイスティングで楽しむ』を開催しました。
今では国際金融都市といわれる日本橋兜町。
江戸時代には酒問屋で賑わっていた「日本酒の聖地」でした。また、東京証券取引所において初上場時の5回の鐘撞は、酒の原料である五穀豊穣にちなんでいるとのこと。
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平日は賑わうこの兜町に、休日にも人が集まってもらいたい。そんな願いから日本各地の蔵元を招き日本酒について学び、味わい、楽しく交流し、その魅力を、兜町の魅力といっしょに広め、お酒が地域と人をつなぐ場所...。そんな場所に発展するように願いを込めて、毎月1回日本酒セミナーを開催しています。
今回は、山形県天童市で「出羽桜」を醸す出羽桜酒造の四代目蔵元 仲野益美さんをお迎えしました。オンラインでの開催ということもあって、もっとも遠方では函館の方にご参加いただきました。ありがとうございました。
最初に、参加者の皆様に出羽桜を飲んだことある?なし?の質問をしたところ、飲んだことがない方は2名だけ?という結果でした(素晴らしい!!)。
現在、出羽桜酒造社長のほか、山形県酒造組合会長、日本酒造組合中央会・海外戦略委員会委員長を務めている。
▼銘柄の由来
・地元にある舞鶴山は2000本の桜の名所。桜は国花として愛されている。咲く前も咲いている間もウキウキするし、散った後も美しい。出羽桜もそのように楽しまれ、愛されるお酒でありたいという願いを込めて名付けられた。
▼精米と米の調達について
・自社精米を行っている。精米所を有しているのは、蔵に余裕がある証拠。なお、蔵に余裕があっても街中であるなどの制約で精米所を持たない先はある。
・精米所に粒選別機を入れ、調達した米を自社で再度選別している。
・これは、蔵の方針として、仕入れるお米を等級の高いものに限定しないようにしているためである。こうした方針を取っているのは以下のような理由がある。
・山形県の酒造業界は、県全体として米の調達交渉を行っている。これにより、価格交渉や、新しい品種の生産の依頼などの面でスケールメリットを享受できる。
・酒米の等級は、特上、特等、1等、2等、3等の5ランク。一般米は特上、特等がないので3ランクある。山田錦では特等が10%以下。雄町だと特等は殆どない。1等であれば良い方だと言える。2等米が出ることは避けられない。
・そうした中で県内では大規模な当蔵が等級の高いものに調達を集中させると、他の蔵に皺寄せが生じる。そのため、当蔵は1等まででまかなえない場合は、2等までは調達することとしている。
・先代社長である父は、「買った米でいかに良いお酒を造っていくのかというのが造り酒屋。良い米を使っているということを宣伝するのは、造り酒屋ではなくて米屋だ」と言っていた。
・そうした中で上手く米を使うために、粒選別機を使用している。経済合理性の面からは、等級の高い米を買った方が安いが、上記の考え方に沿って米の調達を行い、選別を行っている。
・不作の年は、粒選別機を通さずに(多めに)使いたいという誘惑に駆られるが、精米所は、米を粒選別機に通さないと精米機に入れられない構造としている。
▼「枯らし」について
・精米所を持つことのメリットの一つは、「枯らし」の期間をしっかり取ることができること。当蔵での枯らしの期間は、山田錦35%精米で大吟醸に使用する米は一か月。当蔵で最も低精白の65%精米でも10日間以上取るようにしている。
・委託精米の場合、こうした枯らしの期間を取るためには、蔵に米を保管するスペースを確保することが必要。もちろん、精米所に保管を依頼することもできるが、保管料を負担する必要がある。
・自社精米でも委託精米でも、枯らし期間をしっかり取っているかどうかという点に、蔵元の考えが出る。その蔵の使っている米を見ると蔵元の考え方が分かる。
▼洗米・浸漬
▼蒸米について
▼製麹について
・製麹は機械を使わず、全てのお酒について麹を手造りしている。夜、麹の世話をする頻度は大吟醸と普通酒で異なるが、全ての麹について、泊まり込みで世話をする。これはあまり知られていないかもしれない。
▼酒母
▼醪
▼製造量と製品ラインナップ
・当蔵の製造量は以前から変わらずに7000~8000石。そうした中で、他の蔵の製造量が減っていき、県内では相対的に大規模な蔵となったという流れである。そのため、当蔵は「大きくなった」という意識はないし、造り方も手造りを維持している。
・製品ラインナップについては、普通酒から大吟醸まで、様々なお酒を造っている。それにより、消費者に選択してもらえるようにすることが大事との考え。日々お酒を飲む方の立場に立てば、日常酒も大事だと思う。
▼仕込みについて
・仕込みは大きなものは2.5トン。小さなものは740KL。その中間に1.5トンや1.8トンものがある。3トン以上になると人間による櫂入れができなくなり、タンク下部に攪拌用の装置を入れる必要がある。
・なお、醪の温度管理は750KL単位で考えるもの。大きくする場合はその倍数となる。小さければ良いという訳ではない。600KLとか400KLというのは、お米の都合とかタンクの都合だと思う。
・醪日数も長ければ良いという訳ではない。醪日数45日間という酒は飲みたい気がしない。一方、多少短くても25日などで美味しい大吟醸は造れる。
▼上槽について
・粕歩合が高ければ良い訳ではない。袋吊りは別にして、粕歩合60%という酒はふくらみが無い酒になってしまう。大吟醸で精米歩合が35%後半という酒でも、粕歩合は40%程度が適正だろう。
・袋吊りは3本行う。大吟醸なので、アル添して2時間程度置く。そして、上から汲むものと、下呑みから取るものと、3本を分けて取る。鑑評会を目指す酒は色々な種類があった方が良いのでこうしている。
▼上槽後の管理について
・山形県では「造りまで半分」と言う。造りについては、良い酵母もあり、ノウハウも流布しているので、1年目の人でも良いお酒を造る状況になっている。それだけに、上槽後の管理が大事だと思っている。
・上槽後の温度管理や、火入れのタイミングは重要。そのために冷蔵庫や脱酸素装置などの投資をしている。
・これもあまり知られていないかもしれないが、当蔵で「吟醸」と名の付く商品は、殆どが生詰め、瓶殺菌の一回火入れとなっている。これが出羽桜のお酒の香りと味の秘訣だと思う。
▼製造における蔵元の役割
・蔵元が製造に関わっているかどうかというのも蔵により異なる。どちらも良さがあると思うが、当蔵は蔵元が製造に関わるという家訓がある。自分が蔵に帰ってから毎年自分で大吟醸を仕込んでおり、今年で35年目になる。
・蔵元が杜氏と意思疎通を取ったうえで、造りは杜氏に任せるという考え方も有る。その場合、船頭は2人いてはいけない。そうした蔵で、蔵元に造りの話を聞いた場合、仮に蔵元がその答えを分かっていても「それは杜氏に聞いてくれ」と言うだろう。
▼吟醸酒販売の歴史
・「日本酒の復権は吟醸酒にある」という考えの下、当蔵が「桜花吟醸酒」を発売したのが1980年。最初は「中吟」と呼んでいた。久保田さんが発売開始したのが1985年なので5年早い。
・その頃、大吟醸酒は既に発売されていて、吟醸酒の歴史は大吟醸酒の歴史であった。「西の関」や「浦霞」、「越乃寒梅」などが大吟醸酒を発売していた。
・吟醸酒の歴史はそれほど古くない。山形県のメーカーでも1980年頃に大吟醸酒を造っていた蔵は半分に満たないのではないか。造っても売れなかった。水っぽいとか薬臭いとか、今とは異なる評価をされていた。
・そんな中でも、技術を磨き、伝承するために大吟醸酒は造り続けられてきた。
・また、父は、「吟醸酒を作ると蔵に緊張が走る」と言っていた。米を相当削り、コストが高いため失敗が許されない。米は毎年変わるので、それに合わせた造りもしなければならない。そうした造りが蔵の緊張維持に繋がるとしていた。
・大吟醸酒の価格は1980年頃でも720ml 2,000円程度だったと思う。それでは手の届く価格とはならず、「日本酒の復権」には繋がらないと考えられていた。そこで、「大吟醸」から「大」を取った酒を造れ、ということになった。それで「中吟」と呼んでいた。
・そうして開発された「桜花吟醸酒」は、当初55%精米だった。現在は50%精米になっている。価格は、「スタンダード一升瓶の酒にコーヒー1杯分の価格を足して買えるように」とされた。当時、コーヒー1杯は300~400円程度だったのではないか。
・ラベルには「吟醸酒」と大きく書いており、銘柄名は小さく記載している。ここには、吟醸酒を日本酒復権の切り札にしたいという思いが込められている。「日本酒にはこんなお酒もあるのですよ」と知ってもらいたいという趣旨である。
・出羽桜の今日があるのは、このお酒のお陰だと思っている。そのくらい大事なお酒。昨年で40年となり、記念酒も出しているが、更に磨きをかけていきたい。
<参考:出羽桜酒造HP「吟醸酒の普及」ページ>
▼価格設定について
・社是として、「お客様の手の届く価格にする」という考え方を採っている。そのため、同程度の精米歩合の他社のお酒と比較して、当蔵のお酒はそれほど高くないと自負している。
・前述のように、当蔵は多様なお酒を造っているが、全てのお酒からある程度の利益を上げるという体質になっている。
・スタンダードのお酒もある程度売れている。地元でしっかりとした価格で売って頂けるのは輸送コストの面でも有利。そうした体質であるので、特定名称酒から大きな利益を上げなければいけない訳ではない。
・商品をトータルで均して、価格を設定できるというのは有難いことだと思っている。
▼生酒の管理①:冷蔵保管について
・当蔵は生酒にも力を入れており、1982年から生酒を出荷している。生酒の管理について、当初、国の先生の指導は「10度以下で管理」というものだった。それが5度になり、零度になり、マイナス管理に移行してきた。
・出荷を開始した頃は、「生老ね」という言葉すらなかった。「ミルキー臭」などと言われたりしていた。「生老ね」という言葉が広まったのも、生酒の定着を示すものだと思う。
・火入れのお酒も良いが、「蔵で飲む生酒は美味しい」と言われるように、生酒の良さもある。3月に生酒を出すのは難しくないが、5月、6月、7月になっても生酒が飲みたいという声に応えるのは難しい。そのための試行錯誤をしてきた。
・冷蔵設備については、当蔵の製造石数に相当する70万本のお酒を全量保管できる体制にはなっている。もちろん、実際に冷蔵保管するかどうかは、お酒の種類による。
・なお、当蔵では、常温で熟成させる本醸造などの火入れのお酒でも、一部は冷蔵保管をしている。常温熟成の熟度が当蔵の理想よりも進んだ場合には、冷蔵保管しているものとブレンドして熟度の調整を行う。
▼生酒の管理②:脱酸素について
・生で熟成する良さもあるが、劣化する面もある。これを避けるために、お酒の酸素を抜いて貯蔵するということを日本で最初に行った。このために、三菱レーヨン株式会社(現在の三菱ケミカル)と脱酸素装置を共同開発した。
・生酒の劣化を防ぐには、酵素を限外濾過で除去する方法もある。しかし、当蔵はコールドチェーンで流通できることを前提に販売するので、酵素が活きている状態のものを届けたいと考えた。そこで採用したのが脱酸素である。
・「おいしい牛乳」という製品があるが、あれも脱酸素によりフレッシュさを保つようにしたものである。
・脱酸素装置を開発した際、特許取得の話も出たが、あえて取らないことにした。それにより、業界にとって役に立ち、生酒の良さが消費者に知られることで日本酒が発展すれば良いと考えた。脱酸素装置を使用する蔵は少しずつ増えていると思う。
・なお、脱酸素装置は火入れ酒の管理向上にも有効。火入れは、上槽後、なるべく早く行う方がフレッシュさをキープできるが、忙しくてすぐに出来ないこともある。こうした時に脱酸素装置を使用することで、火入れまでの時間を稼ぐことができる。
<参考:出羽桜酒造HP「脱酸素装置の開発」>
(※)生酒をマイナス5度で貯蔵すれば酵素の糖化作用は抑えられる。しかし、3~4か月すると、酵素が香り成分を酸化させ、生老香を生む。酵素を限外濾過で除去することで回避する方法もあるが、日本酒の香味バランスを崩す恐れがある。そこで、酸素を除去して酸化を防ぐ方法を取った。
<参考:灘酒研究会 用語集「生老ね香」>
(※)生老ね香はイソバレルアルデヒドを含む香りであり、生酒においてはイソアミルアルコールの酵素的酸化によって生じるとされる。
<参考:限外濾過について(灘酒研究会 用語集「限外ろ過」>
(※)通常の濾過では、濾し分けることが困難な粒子を、膜の孔径を小さくすることで濾し分ける濾過方法。生酒中の酵素をほとんど除去できる。
<参考:出羽桜酒造HP「脱気装置をリニューアル」(2020.6)>
<参考:三菱ケミカルとの新たな協働により「クリンスイ」での酒造りを実施>
(※)本社蔵は軟水、山形蔵は硬水。これに対し、クリンスイはミネラルが1%以下の超軟水。発酵を助けるため、醪の発酵過程で最初に急激に温度を上げる「前急型(ぜんきゅうがた)」を採用。また、米を締めて造ったところ、辛めの酒が生まれた由。
▼生酒の管理③:リサイクル可能な段ボール
・従来の生酒出荷用段ボールは、中にアルミ箔とウレタンの断熱材を挟み込んでいた。これでは、アルミ箔と断熱材を外さないとリサイクルできない。このため、特殊樹脂を挟んだ段ボールを王子製紙株式会社と共同開発した。
・この際も、特許取得の話が出たが、やはり取らなかった。他社も使えるようにして、日本酒の発展に役立てばよいとの考え。
<参考:出羽桜酒造HP「出羽桜クール段ボール」>
(※)1997年に開発。防湿性と鮮度保持に適したリサイクル可能な段ボール。
▼日本酒業界の発展と出羽桜
・当社は常々、「出羽桜だけ良ければよい」とか「当蔵だけ良ければよい」という考え方は、いずれ限界が来ると考えている。あるべき姿は、日本酒全体が増えて、山形県全体が伸び、その中で出羽桜も伸びるということだと思う。
・酒蔵はファミリー企業。長期で物事を考えることができるという良さがある。会社で大事なのは、短期のブランド力とか短期の収益ではなく、存続し続けることだと思う。長い歴史のある業界がきちんと存続し続けるようにすることが重要。
・そのためにも、信用は大事。短期的な信用もあるが、何十年、何百年と続く歴史から来る信用は深みと幅が違う。そうした信用をバトンタッチしてゆくことが自分の役割である。
▼他業界とのコラボ
・他業界とのコラボについても、様々な取り組みを行っている。コラボにより、「新たに気づくこと」、「振り返らなければいけないこと」、「勉強しなければいけないこと」が見えてくる。これが当蔵ひいては日本酒業界への刺激になる。
・ファッション、インテリアなどの業界とのコラボを進めている。
<参考:仲野社長インタビュー記事(産経新聞2020.8.6)>
(※)「周辺業界のワイン、飲食、器などとコラボレーションすることで、相乗効果も生もうとしている。いま考えているのは、日本酒とファッション、日本酒とインテリア。酒造業界に直接結び付かない業界とのコラボを考えていきたい」
▼日本酒全体の輸出状況
・日本酒全体の輸出金額は、2020年の1~12月で241億円。前年比3.1%増で、11年連続で上昇した。これまでは量で10%以上、金額で20%の伸びを示していたが、コロナ禍で鈍化した。
・2020年については、アジア向けの復調が寄与した。驚くことに、ずっと1位だった米国が3位に後退し、1位は香港で61億7000万円、2位は中国で57億9000万円。米国は50億7000万円だった。
・米国向けが鈍化した背景には、コロナ禍のほか、コンテナの手配に困難があったという面もあった。それだけに、また復活すると思われる。所詮まだ241億円。他の輸出品に比べればまだまだ少ないといえる。
▼出羽桜の輸出
・当蔵は1997年に輸出を開始した。地酒メーカーとしては早い方だと思う。輸出比率は10%程度で、7000石のうち、700石程度が輸出ということになる。
▼日本酒造組合中央会・海外戦略委員会について
・日本酒造組合中央会に海外戦略委員会が立ち上がって11年目。自分は二代目の委員長で、初代は「月の桂」増田社長だった。
・全国組織が立ち上がってまだ10年強、当蔵が輸出を開始してからでも20年強。輸出は始まったばかりといえる。しかし、日本酒は、世界に冠たるアルコール飲料であると自負している。「一番遅れて世に出る世界に冠たるアルコール飲料」である。
・日本酒には日本がぎゅっと詰まっている。出羽桜には山形がぎゅっと詰まっている。それを輸出せずして、日本を理解してもらうことはできない。日本を理解してもらうため、文化を背負って輸出していくという強い思いがある。
・全国の蔵も頑張っており、半分以上の蔵が輸出を行っている。菅総理が官房長官だった時に日本酒の話をさせて頂いたことがあるが、半分以上の蔵が輸出しているということに一番驚かれていた。
・山形県はもっと頑張っており、51の蔵のうち、80%以上が輸出に取り組んでいる。
▼輸出の効果
・日本国内が少子化で伸びが見込めないことに加え、輸出のブーメラン効果により日本の国内市場への好影響も期待できる。
・そのほかに、輸出の効果として自分が大切だと思っていることがある。それは、地元に戻ってくる優秀な人材に活躍の場を用意することである。
・山形で輸出の話をすると、ともすれば「海外よりも日本や山形の方が大事だ」と言われることがある。しかし、次世代の人が、どのような夢、誇り、希望をもってくれるのかということは大事なことである。
・特に、山形県の場合、例えば総合商社でバリバリ活躍できるような人が、事情があって地元に戻らなければならないとき、就職先は県庁ぐらいしかなかったりする。こうした方々に場を提供することも大事だと思う。
<参考:輸出に関する仲野社長インタビュー記事>
①「経営者TIMES東北」
(※)「フランスのワインは、全体の40%弱、数兆円が海外に輸出されている。これと比較しても、日本酒の海外輸出はまだまだ伸びしろが大きいと言える」とのこと。
②山形コミュニティ新聞社(2010.12.24)
(※)2010年当時、出羽桜の輸出比率は約5%とのこと。
・全国より蔵元後継者等を研修生として受け入れており、現在研修中の人を含めて20名の研修を行ってきた。その顔触れは以下の通り。
<現在研修中>
・福岡県「喜多屋」木下理紗子さん
・千葉県「勝鹿」窪田達成さん
<卒業生>
・栃木県「天鷹」尾崎俊介さん(2年間)
・長野県「七笑」川合貴裕さん(3年間)
・三重県「酒屋八兵衛」元坂(げんさか)彰太さん
・宮﨑県「日南娘」(焼酎)宮田健矢さん
・群馬県「利根錦」永井悠介さん
・茨城県「霧筑波」浦里知可良さん
⇒令和2酒造年度南部杜氏自醸清酒鑑評会で首席。
・茨城県「徳正宗」萩原康久さん
・宮城県「鳳陽(ほうよう)」内ケ崎 啓さん
⇒令和2年東北清酒鑑評会で、第二位となる「評価員特別賞」を受賞。
・静岡県沼津市・わさび漬け「丸屋」三枝昭文さん
・青森県「安東水軍」尾﨑大さん
・新潟県「至」羽豆純さん
・石川県「手取川」吉田泰之さん
・石川県「手取川」吉田行成さん
・群馬県「浅間山」櫻井武さん
・鹿児島県・本坊酒造・本坊昌嗣(まさつぐ)さん
・千葉県我孫子市・酒販店「春日や」中村靖さん
・茨城県「霧筑波」浦里浩司さん<初代研修生>
<今後>
・本年9月から、宮城県「勝山」伊澤さんの息子さんが研修に入る予定。なお、これが自分の代では最後になるのではないか。その後も研修制度を続けるかどうかは、専務の判断になるのではないかと思っている。
・研修生は、一蔵人として、全くえこひいき無しに仕事をする。夜勤も4日に1度程度のサイクルで行う。こうした研修が、少しでもプラスになってくれればと思っているし、我々も刺激を受けている。
・なお、「ノウハウを盗まれたりしないのか」と聞かれることもあるが、そんなものは隠すと次を生み出すのが遅れるだけだと思う。また、情報は発信する人のところに集まるものでもある。
・研修生を弟子というのも変だが、弟子が頑張っていたら、師匠も頑張らないとという思いになる。負けたら恥ずかしいし。そうしてお互い刺激しあえれば良いのではないかと思っている。
<参考>
出羽桜酒造HP掲載の研修生リスト>
仲野社長による「出羽桜研修生現役OB蔵元とのオンライン飲み会」のfacebook投稿
(※)出羽桜研修生のOB会「一路会」が結成されることになったとのこと。
出羽桜酒造HPの研修生卒業記事
・「七笑」醸造元・七笑酒造 川合貴裕さん
・「日南娘」醸造元・宮田本店 宮田健矢さん
▼清酒GIの歴史
・日本酒で最初のGIは、石川県白山市の5蔵が「水」を切り口にして取得したもの(2005年)。
・山形県も手を挙げたが、広い地域で網をかけるならば、日本全体を対象にした「日本酒」のGI指定を先に行う必要があるとしてだいぶ待たされた(当方注:「日本酒」は2015年に指定)。
・GI山形は、地域としては2番目、県単位では初の指定である。その後、清酒では、2018年に「灘五郷」、2020年に「はりま」、「三重」、2021年に「利根沼田」、「萩」が指定された。「佐賀」なども申請中と聞いている。
・GIは、地域の共有財産である産地名の適切な使用を促す制度。産地名が有するブランド価値を保護するもので、国税庁が認定を行う。国の制度なので、決まり事を破るとペナルティを受ける。
▼GI山形について
・山形のお酒は、「柔らかくて透明感がある」ということで認定されている。
・GI山形について、特に、ソムリエの方などから「何故、原材料を山形の米や酵母に限定しないのか」と言われる。しかし、県全体のGIとする中で、蔵として「山形」の名を使用している先は、全てのお酒についてGIの基準を満たす必要がある。
・山形にはそうした蔵が1先あるので、そうした先の立場も尊重する必要がある。
・また、米や酵母について限定すると、例えば、近県で良いお米や酵母が育成されてもGI認定酒では使用できないことになる。米や酵母は技術発展があり、どこまで縛るのが良いのかという問題がある。
・そうしたことから、GI山形は、ピラミッドで言えばベースとなる部分で取得した。
・しかし、寄せられるご意見も理解できるので、更に先を目指す取り組みも行っている。GI取得後3年が経ち、ある程度コンセンサスができたので、現在、山形県産米まで進んできている。次は好適米に進めてゆくことになると思う。
▼県単位でのGIについて
・県単位だと山形だと51蔵あり、コンセンサス作りも簡単ではない。小さい地域で網をかける方法もある。例えば、県内でいえば「大山」は取得しやすいかもしれない。しかし、そうした取得をすると、県全体での取得は難しくなる。
・農産物の例だが、山形では東根が「さくらんぼ」のGIを取得した。天童や寒河江も「さくらんぼ」で知られるが、県全体では取りにくくなっている。
・そこで、「ラ・フランス」では県全体で取得している。生産量が多いのは天童、発祥は高畠だが、県全体で取得した後であれば、地域別に追加取得しても問題ないと思われる。
▼GIの今後
・GIについては、まだまだ磨きをかける必要がある。また、様々な地域がGIに取り組むことで、GIへの理解も深まると思う。
・GIに関する夢は、世界中のワインリストに日本酒が登場する際に、ブルゴーニュやボルドーと並んで、GIである山形、三重、灘五郷などが地域名として使用されるようになることである。
・多くの地域がGIを取得し、日本酒を語る際に、そのバックにある「地域」も語って頂ければと思う。それにより、本当の意味で日本酒のことを理解してもらうことに繋がると思う。
・当蔵は山形の蔵。山形への恩返しとして、酒をキッカケに世界の人が山形を訪ねるようになることを目指す。ワイン好きがボルドーやブルゴーニュを訪ねるように、日本酒が好きなら日本に行き、そして山形に行きたい、そうした動きに繋げたい。
・そして、山形に来た各国の人に、SNS等で世界に発信して欲しいと思う。また、山形の人にも、来日した人が、自分達が当たり前と思っていることや物を評価してくれることを実感して欲しいと思う。それが、山形の良さを更に高めることにも繋がり得る。
<参考>
「GI山形」に関する情報
・国税庁HP:地理的表示「山形」生産基準
・今回の3種のお酒は、山形が誇る酒米の3部作を使用している。
<参考:山形県酒造組合HPの酒米ページ>
①出羽の里
②出羽燦々
③雪女神
①出羽桜 純米酒 出羽の里
・日本酒度+1、アルコール度数15度、酸度1.2、精米歩合60%。
・出羽の里は、タンパク質含有率が低く、5%ほどの有意な差がある。このため、あまりお米を磨かなくても良いお酒を造ることができ、価格を抑えて皆様に楽しんで頂ける。
・お燗にしても美味しいと思う。
②出羽桜 純米吟醸酒 出羽燦々無濾過生原酒
・日本酒度+4、アルコール度数17度、酸度1.4、精米歩合50%。
・山形県では、美山錦が主力の酒米だった。しかし、長野発祥の米なので、山形オリジナルをつくりたいということで開発された。
・出羽燦々は、短期間で全国の酒米で4番目の生産量となった。3位までは山田錦、五百万石、美山錦が定位置。4位以降は動きがあり、4位が出羽燦々の定位置という訳ではないが、開発後、短期間で4位に入るようになった酒米はないと思う。
③出羽桜 純米大吟醸酒 雪女神四割八分
・日本酒度-3、アルコール度数16度、酸度1.3、精米歩合48%。
・雪女神は山形待望の、大吟醸に向くお米。山田錦とは異なり、後味がすっと切れていくのが特徴。山形県としては、「甘くてジューシーなお酒の流行の後には、すっきりしたものが注目される時代がくる」と考えている。その時に向くお米として開発した。
・当蔵は雪女神を当初35%精米のみで使用したが、「雪女神を広く知ってもらうには35%精米だけでは時間がかかる」ということで48%精米の商品を出した。なお、雪女神は精米歩合を50%以下とするルールがある。
・雪女神は今回の3種の中では米の値段が一番高い。35%精米は720mlで4200円だが、このお酒は720mlで1650円。小関先生には「会長、何やってるんだ。安すぎだ」と怒られた。しかし、雪女神を知ってもらうための値段設定となっている。
(Q)一蔵だけが伸びるのではなく、業界全体が伸びないといけないという考え方に感銘を受けた。中央会の海外戦略委員長も務めておられるので、今後の注力は海外ということになるか。
(A)そうした面はあるが、日本あっての海外だし、当蔵にとっては、山形あっての日本。やはりホームグラウンドは重要。
足許の状況では、山形県は全国平均よりも出荷が良くない。前年対比で全国平均は80%後半。これに対し、山形は80%近辺。全国的にはパック酒が堅調だが、山形にはパック酒をメインにしている蔵はない。
東北でみても、悪い県は宮城と山形。両県ともパック酒が主力の蔵は無い。だからといってパック酒に注力するということは無いが、国内も含めて頑張っていかなければならないと思う。
海外戦略についていえば、2024年のユネスコ無形文化遺産への登録に向けて進んでいくと思う。それにより、国内外含めて、國酒に目を向けてもらえればと思っている。
(Q)研修制度はユニークだと思うが、始まった経緯などについてお聞きしたい。
(A)旧国税庁醸造試験場での研修同期だった「霧筑波」浦里さんから、当蔵で研修したいという話を受けたのが始まり。あとは、農大の先生の紹介であるパターンと、研修生のお父さんと旧知の仲で頼まれるというパターンがある。
「勝山」、「鳳陽」、「喜多屋」さんなどは後者のパターン。
(Q)出羽桜さんは比較的大きいのに手造りだという点が、研修先として魅力的なのではないか。
(A)当社は本社蔵と山形蔵がある。本社蔵は1.8トン中心の日仕舞だが、山形蔵は1.5トン中心の半仕舞。半仕舞の蔵だと、2年間いれば、全ての工程をある程度体験できる。
研修希望が来るのは、卒業生が活躍しているという面も大きいと思う。しかし、当蔵の研修は厳しい。
<参考:「半仕舞」と「日仕舞」>
(※)「半仕舞」では1日おきに仕込みを行う。これに対し、毎日仕込みを行うことを「日仕舞」という。
(Q)研修についていえば、小関先生の影響もあるのか。例えば、「上喜元」も結構、研修生を受け入れていると聞く。
(A)山形は受け入れるキャパがあるということだと思う。小関先生についていえば、今日の山形があるのは小関先生のおかげ。先生がいなければ今の山形はない。
蔵元自ら酒を造り続けるように言われたのも小関先生から。「30歳とか40歳までやる蔵元は多いが、その後やらなくなる。お前は最後までやれ」と言われた。それで、研修生と一緒に大吟醸酒を造っている。
<参考:仲野社長インタビュー記事(小関先生に触れたもの)>
(Q)これからのチャレンジについてお聞きしたい。
(A)当蔵は、先駆けとしてトライする精神が大切だと考えている。それがあって、今日の出羽桜があると思っている。
価格帯については、「手の届く価格」を標榜しているので、比較的リーズナブルとなっている。しかし、輸出すると、「ワインと比べて価格の幅が無さすぎる」と言われる。
この点、一番分かりやすく世界に訴えかけられるのは「時間軸」ではないかと思う。古酒、熟成酒に、もう少し力を入れて、それらについてはもう少し付加価値を持たせて、品質と価格に納得してもらえればと考えている。
当蔵は、吟醸の古酒なら他に負けないぐらい手持ちがある。それを活用する方法を、ネーミングから考えている。
また、スパークリングなど様々な種類のお酒でもチャレンジを続けたい。日本酒の周辺にある器や料理のほか、ファッションやインテリアなどとのコラボも進めていく。
例えば、ここに急須があるが、これにお酒を入れてそのまま冷凍庫に入れ、取り出してお酒を注ぐことができる。これを出羽桜オリジナルで作ろう、というように、「お酒+何か」ということに注力してゆこうと思っている。
また、缶入りのお酒も出している。元々「吟醸缶」を出していたが、最近「特別純米缶」も発売した。キャンプなどでお湯に入れてそのままお燗をすることができる。
<参考:出羽桜と山形鋳物のマリアージュツアー(2021.3.5)①②>
毎回、恒例の集合写真です。みなさん、仲野さんの出羽桜ワールドは、いかがだったでしょうか!
仲野さんは、新しい仕組みを開発しても特許取得しない、全国より蔵元後継者等を研修生として受入るなど、常に日本酒業界の発展を考えていることに感銘を受けました。
そして、「コロナ禍だが、厚く重い雲の上は必ず晴れていると信じています」とのお言葉。
皆さん、その間も、その後も、日本の文化である「日本酒」を積極的に味わいましょう!!
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