2021.12.13

[前半]7月10日(土) 『日本酒を蔵元トークとテイスティングで楽しむ』を開催しました。

こんにちは!兜LIVE編集部です。


 7月10日(土) 、『日本酒を蔵元トークとテイスティングで楽しむ』を開催しました。
今では国際金融都市といわれる日本橋兜町・茅場町。 


江戸時代には酒問屋で賑わっていた「日本酒の聖地」でした。また、東京証券取引所において初上場時の5回の鐘撞は、五穀豊穣にちなんでいるとのこと。

平日は賑わうこの兜町に、休日にも人が集まってもらいたい。そんな願いから日本各地の蔵元を招き日本酒について学び、味わい、楽しく交流し、その魅力を、兜町の魅力といっしょに広め、お酒が地域と人をつなぐ場所...。そんな場所に発展するように願いを込めて、日本酒セミナーを開催しています。


今回は、岩手県で「南部美人」を醸す株式会社南部美人も五代目蔵元 久慈浩介さんをお迎えしました。オンラインでの開催ということもあって、北は函館、西は那覇の方にご参加いただきました。ありがとうございました。




メイン・トピックは「スーパーフローズン」。マイナス30度の液体で日本酒を瞬間冷凍することで、搾りたての状態を保つ技術。「時を止め、距離を超えて、蔵でしか飲めなかった日本酒を届けることができる」というものです。


久慈さんは、この技術の革命的な点を、以下のように表現されています。

①世界中に最高の状態のお酒を届けられる。特に生酒の生老ねを避けられる点が大きい。

②子や孫の世代に、言葉ではなく、実物でお酒を伝えることが可能になる。日本酒が絵画のように「世代を超えて楽しめる作品になる」。


イベント参加者は、生酒の純米大吟醸300mlを2本、冷凍と冷蔵で別々に配送されて飲み比べました。



一本は「スーパーフローズン」(上槽後、瞬間冷凍したものを冷凍貯蔵)の「冷凍配送」、もう一本は同じお酒を冷凍せず「マイナス5度で4か月近く冷蔵貯蔵」したものの「冷蔵配送」です。



飲み比べてみると、瞬間冷凍された「スーパーフローズン」は、まさに「蔵で飲む搾りたて」そのまま。通常より恵まれたマイナス5度の4か月貯蔵ですら、だいぶ生老ねが出ていることが実感できました。


なお、メイン・トピックである「スーパーフローズン」のほかにも、お話は以下のように盛り沢山。通常1時間半のイベントなのですが、今回は久慈さんのご要望で3時間コースで設定。それにも拘らず、あっという間に時間が経ちました。


<トピック一覧>
【蔵のご紹介】
【医療的ケア児と「クラフトジン」】
【輸出について】
【ラベルの「リブランディング」】
【「コーシャ」と「ビーガン」認証取得の経緯】
【特別純米酒について(ぎんおとめ・1901酵母)】
【IWCについて】
【スーパーフローズンについて】


各トピックの間にQ&Aがあったほか、最後に纏めてQ&Aセッションを実施。Q&Aセッションでも、江戸時代の酒造りの再現や、コロナ禍における「酒悪者論」についてなど、様々なお話しがありました。


2つに分けて投稿しますが、【IWCについて】までが前半。【スーパーフローズンについて】以降が後半です。


後半レポート


▼日本酒セットの内容(180ml×3本)

①「南部美人」吟醸

②「南部美人」特別純米

③「南部美人」スーパーフローズン<「冷凍」保存・「冷凍」宅配>

④「南部美人」スーパーフローズンと同じお酒<「冷蔵」保存・「冷蔵」宅配>



◆イントロダクション

(「日本橋兜らいぶ推進協議会」代表理事 藤枝さん)
・「兜LIVE!」は39回目。今回の参加者は59名。さすが久慈さんのパワーの賜物。ところで、「南部美人」所在地、岩手県二戸市といえば何が有名か。


(久慈さん)
・二戸といえば漆。漆の生産量が日本一で、「漆掻き」は、昨年、ユネスコの無形文化遺産に登録された。金閣寺の金箔を張るのも漆が接着剤として使われており、金閣寺が金色に輝けるのも二戸のお陰だと言える。


<参考:「漆掻き」がユネスコ無形文化遺産に決定

◆蔵のご紹介

▼蔵の歴史
・創業は1902年。創業者は曾祖父。曾祖父は隣町の醬油屋の末っ子で、山一つ越えて二戸で酒造りを始めた。酒好きな人で、飲み過ぎて早くに亡くなった。その時点で祖父はまだ幼子だったので、曾祖母が二代目となった。

・元の銘柄は「堀の友」だったが、祖父が太平洋戦争から戻り、心機一転、「南部の国で美人の酒を造ろう」ということで、昭和25~26年頃に「南部美人」銘柄を立ち上げた。その後、父が継ぎ、自分は五代目となる。


<参考:南部美人HP「沿革」

▼家訓と酒質
・当家の家訓は「品質一筋」。これを守って初代から酒造りを続けてきている。

・そして、五代目として自分が造ろうと思っているのは、品質一筋をベースにして、「笑顔溢れる明るい酒」。難しく考えずに「これは旨い」と笑顔になるお酒を造っていきたいと思っている。

・では、笑顔になるお酒とは何かといえば、美しさ、「美人」であること。美しさを極めた酒としたい。それだけに「南部美人」という名前に誇りを持っている。社名も2001年に久慈酒造合名会社から株式会社南部美人に変更したほどである。


▼搾ってからの処理の重要性
・では、美しい酒質とするために、どんなことをしているか。どの蔵でも、搾りたてのお酒は美味しい。では、なぜ世の中には、美味しいお酒とそうでないお酒があるのか。それは、搾ってからの処理が違うから。

・日本酒造りには教科書(※1)があるが、アップデートされておらず、内容が古い。そのため、今読むと「缶詰」を作るための内容になっている。マグロに例えると、「マグロをツナ缶にするための教科書」である。

・教科書通りにやると、最初はマグロなのだが、途中でツナ缶になってしまう。マグロはマグロのまま食べられるようにしたいと思うが、教科書には缶詰の作り方しか書いていない。それほど、搾った後の部分の記載が古くなっている。

・また、杜氏が造るところまでしか責任を持たないのも一因である。搾って「良い酒が出来た」といって杜氏は地元に戻り、後の処理は社員が行うため管理が行き届かない場合がある。これに対して、オーナー杜氏は、お酒が飲み手に届くところまで責任を持つ点が異なる。

・「澱下げ」と「澱引き」の違いは知っているだろうか。「澱下げ」は澱下げ剤を使用して澱を取り除く方法で、大手蔵で行われている。地酒蔵は通常、「澱引き」(※2)を行う。教科書では「澱引き」は良い方法とされているが、現代の酒造りからみると、「澱引き」も酒質劣化に繋がる。

・現在の酒造りでは、搾った時のお酒が100点満点。昔は搾った時が70点で、追熟して80点になったりしていたが、現在は、搾った後は100点から減点されるだけ。搾った時に近い状態をどう維持するかが課題となるが、「澱引き」に1か月かけていたら、その間に劣化してしまう。

・そのため、近年では、「澱引き」をせず、別の方法で澱を取り除くようになっている。

当蔵では、SFフィルター(※3)で澱を取り除く。これは、ヤブタ等で搾った酒を「もう一度搾る」という意味だと理解頂けばよい。それによりタンパク質や浮遊物を除去してキレイな酒にする。

・このように1日でキレイな酒にして、即座に瓶詰め・火入れをする。当蔵の特定名称酒は、全て5日以内に瓶燗急冷を行う。瓶燗急冷は人手で行うと1日300~400本が限度だが、機械では1時間3000本を処理できる。その後、マイナス5度で貯蔵し、早いものは1か月、長いものでも1年以内に飲み手の手許に届ける。

・こうした処理をきちんと行うと、酒質はそれほど悪化しない。搾りたてで100点のお酒を95点ぐらいで止め、その後は1日マイナス0.1点ぐらいの減点に抑えられる。

・なお、熟成酒への取り組みは別途行っている。熟成に向く酒を造り、専用の貯蔵方法で管理している。

・当社は、蔵を2つ有している。本社蔵はあまり広くないため、馬仙峡蔵を建てた。本社蔵で搾ったお酒は、SFフィルターを通した後、馬仙峡蔵に持っていく。馬仙峡蔵には、瓶詰設備、ジン・ウオッカの製造設備がある。なお、馬仙峡蔵にも製造設備やSFフィルターがある。

・年間の仕込み本数は、本社蔵、馬仙峡蔵の合計で160~170本。これを殆どブレンドせずに瓶詰するため、仕込み毎の味のブレをなるべく無くすように管理している。

・なお、純米吟醸、純米大吟醸は原酒とすることも多い。アルコール度数を高くすると酵母が死滅するため、あまり度数を上げないような酒造りをしている。

・当蔵には少し違った個性のお酒があり、「雄三スペシャル」と呼んでいる。常務を務める弟が造っているのだが、いわば「燗酒にして美味しい美人」である。冷やして飲むよりも、燗にして楽しんで頂きたい。


(※1)「公益財団法人 日本醸造協会」(「きょうかい酵母」の頒布元)が各種の出版物を販売している。例えば以下の通り。

増補改訂清酒製造技術 新版

増補改訂最新酒造講本

酒造教本

(※2)「澱引き」について

(※3)SFフィルター(中空糸フィルター)について 

◆医療的ケア児と「クラフトジン」

・清酒のほかには、糖類無添加梅酒などのリキュールや、「クラフトジン」・「クラフトウオッカ」に取り組んでいる。「クラフトジン」・「クラフトウオッカ」は、コロナ前は全く取り組むつもりはなかった。これをやることになった契機が消毒用アルコール。

・消毒用アルコールは、コロナ禍が始まって消毒用アルコールが市場で払底した際、緊急措置として製造したもの。当初より、これは一時的な問題であって、夏ごろになれば通常の供給が追い付き、対応不要となるのは分かっていた。

・そんな時、蔵に一本の電話がかかってきた。電話の主は、岩手県の医療的ケア児(※)の親御さん。医療的ケア児は胃ろうや気管切開をしており、生きるために消毒用アルコールを必要としている。

・その親御さんに聞くと、「子どもが生きるのに必要な消毒用アルコールがあと1本しかない。南部美人さんが消毒用アルコールを造ると聞いたので、何とか売って欲しい」という。これを聞いて、すぐに消毒用アルコールを製造して、そのお宅に届けた。

・親御さんにお会いしてみると、その手がボロボロで驚いた。その理由は、消毒用アルコールは子供のために使うので、自分達の手の消毒にハイターを使用しているからだった。

・そんな親御さんが、消毒用アルコールを届けた自分に言ったのが「命を救ってくれてありがとうございます」という言葉だった。自分は「美味しいです。ありがとうございます」という言葉は幾度となくお聞きしてきたが、「命を救ってくれてありがとうございます」と言われたのは初めてだった。

・そして、加えて言われたのが「買いたい。だから、お願いだから切らさないで欲しい」ということ。これを聞いて「続けていかないといけない」と覚悟を決めた。自分が続けていくことで、岩手県に200世帯あるという医療的ケア児のご家族が安心して暮らすことができる。

・しかし、当時は特例措置により清酒免許で消毒用アルコールを造ることができたが、続けるとなるとスピリッツの免許と設備が必要になる。すると大赤字になる。社内で大反対を受けたのだが、「それなら、飲むアルコールも造ればいいじゃないか」と反論した。

・スピリッツ免許で製造できるアルコールは沢山ある。その中で、クラフトジンで投資を回収して、消毒用アルコールの製造を継続できればと考えた。

・そうしているうちに、コロナ禍の影響で酒米が余るという話が出てきた。米作りは、一度止めると戻れない。「今年はいったん別の作物を作って、また再開する」という訳にはいかないのだ。

・だから、「獺祭」さんや、「醸し人九平治」さんが「山田錦を食用に使って下さい」という話をされたのは至極もっともなことである。しかし、自分は、「それをやると食米のパイの奪い合いになる」と思った。そして、「酒米なのだから酒にしてやろう」と考えた。

・そこで、ジンのベースアルコールを米から作ることにした。ジンは国内の競合先が少ないので、パイの奪い合いになる恐れも小さい。クラフトジンは8/18日に発売。


(※)「医療的ケア児」とは
経管栄養(食事のためのチューブを胃に通す)、気管切開(呼吸のための器具を喉に取り付ける)など、何らかの医療デバイスによって身体の機能を補っている状態にあり、医療的ケアを必要とする子どものこと。


<参考:「南部美人クラフトジン」

<参考:「南部美人クラフトジン&クラフトウォッカ新発売 記者会見」(2021.8.19、1時間25分)>

◆輸出について

・「南部美人」は、輸出にも力を入れている。現在の輸出先は55か国。大陸でいえば、南極以外の全ての大陸で発売している。輸出への取り組みは早い方だったと思う。

・その中でも、昨年放送になったNHK BS1スペシャル「SAKE革命」では、自分がアフリカでダンスを踊っているところを見た方もいるかもしれない。ダンスはさておき、現地の人に楽しく日本酒を飲んでもらえるようになってきている。

・これは何を意味するか。ある人に「海外ばかり目を向けて、日本人を裏切るのか」と言われたことがあるが、それは違う。世界中の人が日本酒を美味しく飲むようになったら、その聖地は日本である。

・世界中の人が日本に来て、カッコよく日本酒を飲む皆さんの姿を見て、「やっぱり日本酒は凄い」と思ってもらいたい。そうなったら、日本は日本酒の聖地になる。その日本の飲み手に、日本酒のことを良く知って欲しいという願いを強く持っている。

・聖地日本の飲み手の皆さんが世界で一番大事な人々。世界で日本酒が評価されれば、日本の飲み手も評価されると思っているので、是非応援して頂きたい。


NHKクローズアップ現代「日本酒が「世界酒」に!~SAKE革命~」(2019.11.14)>


【Q&Aコーナー】 

(問)南極にはまだ出ていないとのことだが、「南極美人」は誕生するか。

(答)実は、南極に行こうと思って手筈を整えていたのだが、コロナでストップしている。

南極に持っていこうと思っている酒が、スーパーフローズン。現在、観測隊の方が南極にビールやワイン、日本酒を持っていく場合、手荷物にして部屋に置いておくしかない。そうでないと凍ってしまうから。

昭和基地にはバーもあり、週に何日かオープンするが、圧倒的に蒸留酒が多いという。これは、途中で凍らないお酒を選んでいるから。しかし、最初から凍っているスーパーフローズンを持っていけば問題ないじゃないか、と考えている。

南極に行く場合、途中で帰ってくるという訳にいかず、1年2か月かけて行く必要があるのがネックだが、行ってこようかと思っている。


(問)余った酒米を海外の酒蔵に送るという手はあったのか。

(答)それも考えたのだが、輸送費用が非常に高いということがネックだった。加えて、コンテナの需給がひっ迫し、輸送自体が困難な状況にあった。


(問)「味のブレを無くす」という話があったが、そのためにどのような工夫をするのか。

(答)吸水率が大事。また、麹については、酵素力価を勘案して酒造りを行う。ひと昔前まで、麹を研究所に送って酵素力価の計測結果を得るまで2日を要した。しかし、今は測定機器が良くなったので、酵素力価を蔵で瞬時に測定できる。

なお、データ的に同じ酒を造りたいと思っている訳ではない。味が大きくブレるような、「溶け過ぎた」とか「発酵が強すぎる、弱すぎる」といった事象を防ぐのを目的として、データを追いかけているということである。

◆ラベルの「リブランディング」

・新しいラベルに切り替えた。ラベルの下には久慈家の家紋を入れた。

・大事にしたのは旧ラベルのイメージ。そのため、旧ラベルの色を反映した。特別純米は赤系のラベルだったので朱色にした。吟醸は、それまでラインナップになかったので、新たに藍色のラベルとした。そのほかは、純吟は緑、純大は黒、大吟は白とした。



・このようにしたのは、新ブランドの立ち上げではなく「リブランディング」だったから。旧ラベルが統一感がなくて分かりにくいという話があったので「リブランディング」を行ったという背景がある。

・しかし、旧ラベルには、それぞれの時代の蔵元の想いが反映している。今の南部美人があるのは、そうした過去があってこそなので、それも大事にしたいと思った。

・表ラベルには、「南部美人」というロゴと、久慈家の家紋、特定名称の記載しかない。これに対し、裏ラベルには情報を盛り込むことにした。



・情報は、和英併記にした。また、QRコードを付けて、商品情報のページに飛べるようにした。

・「コーシャ」と「ビーガン」の認定マークも入れている。これは、「見える化」のためである。「コーシャ」はユダヤ教の食事規定で、その認定を取得したのは2013年。日本酒では「獺祭」さんに続いて2例目。そして、2019年には完全菜食主義者「ビーガン」の認定も取得した。

・そして、最もこだわったのが「日の丸」である。日本酒のラベルで「日の丸」が入っているのは、「開華」さんのスパークリングぐらいしか見たことがない。

・当初、ラベルに「日の丸」を入れていいのか分からなかった。日本酒造組合中央会などにも協力を頂いて2年ぐらい調べた結果、得られた答えが「『使ってはいけない』ではない」だった。

・但し、「原料に海外産のものは入らないか」とは聞かれて、日本酒については「GI日本酒」の規定に従えば日本産の原料しか無いので問題はないとなった。リキュールだと海外産のものが入り得るので気にされたようだ。

・何故こだわったかといえば、ラベルに「Made in Japan」と書いてあっても伝わらないから。日本産だと一番分かりやすいのは国旗を付けること。GI日本酒のマークもあるのだが、それでは誰も分からない。日本を背負って海外で戦うのだから、もっと多くの日本酒のラベルに、日の丸を入れるべきだと思う。

・2020年には「non-GMO」(非遺伝子組み換え)の認定も取得した。これも、知っている人からすれば当たり前のことなのだが、見える化しないと世界の人には分かってもらえない。

・「ビーガン」は、殆どの日本酒は、何もしなくてもそのままで認証可能。大手の一部のお酒のように、ゼラチンを含む澱下げ剤を使用しているとダメだが、特定名称酒は普通澱下げ剤を使わないと思うので、殆ど「ビーガン」だと思う。

・これに対し、ワインは清澄化のために卵の殻や白身を使用するため、認証可能な商品が少ない。

・こうしたことから、「皆で認証を取ろう」と働きかけており、栃木県「天鷹」さん、兵庫県「龍力」さん、石川県「手取川」さんなどが取得している。この流れが続き、世界中で「日本酒がビーガンなのは当たり前だよね」となれば良いと思う。


<参考:南部美人HP「南部美人のリブランディング」


【Q&Aコーナー】
(問)吟醸のスペックを教えて欲しい。

(答)使用米は、ササニシキやひとめぼれなどの食用米を60%精米で使用。酵母はM310である。飲みやすく、スレンダーな美人だと言われる。


(問)「南部美人」の「美人」は、どんな「美人」か。

(答)色に例えると、純白のキレイな白。女優に例えると、宮崎あおいさんのような清純・正統派美人。叶姉妹のようなタイプではない。長澤まさみさんともちょっと違う。

◆「コーシャ」と「ビーガン」認証取得の経緯

・「コーシャ」認証を取得した契機は、「獺祭」の桜井会長から「うち、今度コーシャ認定を取るんだ」と聞いたこと。「何故ですか」と聞くと「だって、ホワイトハウスに納入するのに必要だから」と言われた。当時、「獺祭」さんはホワイトハウスに納入するために尽力されていた。

・桜井会長からは、「日本にユダヤ教指導者のラビであるエデリーという人がいるので、一度会ってみるといい。但し、醸造アルコールを使っていると難しいかもしれない」という。そして紹介を頂いて、会いに行った。

・会ってみると、「日本アルコール産業株式会社」がコーシャ認定を取得したので、そこの醸造アルコールを使用すれば問題ないという。これを聞いて即座に醸造アルコールの調達先を変更した。

・父からは「長い付き合いのある先から変更してどうするんだ」と怒られたが、「コーシャ認定のために必要なので仕方ない」と説明した。

・コーシャ認定を取得すると、ユダヤ教の人が飲むのかと思ったら、意外とそういう話ではなかった。

・米国ではコーシャ・フーズのお店は多く、コーシャ認定の食品はアレルギー・フリーを保証するとか、動物性のものを寄せ付けないということでユダヤ教以外の人々も多く利用していた。

・そうしているうちに、コーシャ・フーズの利用者から、「米と米麹で造るお酒なのに、何故ビーガン認証を取らないのか」と言われるようになった。そこで調べてみると、当初は認証機関から「アルコールは認証しません」と言われた。

・その後数年経って、改めて問い合わせると「アルコールの認証も始めた」との話があり、認証を取ることができた。




<参考:ラビ・ビンヨミン・エゼキエル・エデリー氏が運営する「ハバッドハウス・オブ・ジャパン」

<参考:南部美人HP「今、海外で注目を集める食事規定”コーシャ”とは」

<参考:ダイヤモンドオンライン「日本酒メーカーが「ユダヤ教の食品認証」を相次ぎ取得する理由、獺祭に南部美人も」

<参考:きた産業「日本酒と Kosher」

<参考:コーシャジャパン「Why sake needs Kosher?」


【Q&Aコーナー】
(問)「HACCP(ハサップ)」(食品の衛生管理手法)は取得しているか。

(答)今年から、日本酒製造にも「HACCP(ハサップ)」が義務化されており、当蔵も取得する。なお、当蔵はこれに伴い、酒粕の個人販売を取りやめた。酒粕に異物が混入するのを完全に防ぐことは難しいためである。

現在、お菓子の材料や、豚の飼料に活用する方策を進めている。


◆特別純米酒について(ぎんおとめ・1901酵母)


▼使用米「ぎんおとめ」について
・特別純米酒は、当蔵で一番生産量の多いお酒。使用米は「ぎんおとめ」。「ぎんおとめ」は岩手オリジナルの酒造好適米で、当蔵で試験醸造した銘柄。

・現在、岩手オリジナルの酒造好適米は「吟ぎんが」、「ぎんおとめ」、「結の香(ゆいのか)」の3種がある。

・岩手オリジナルの酒造好適米を最初に開発した際、幾つかの候補から、小規模醸造などを通じて3種に候補を絞り、これを酒蔵で試験醸造することになった。

・当蔵はそのうちの1種を担当した。その米の栽培適地が県北だったため、県北の蔵として担当することになった経緯。他の2種は県南が栽培適地で、盛岡の蔵が試験醸造を担当した。

・試験醸造した酒を持ち寄り、ブラインドで利き酒をして点数を付けたのだが、3種のうち、2種が同点で1位に並んだ。そこで2種を見てみると、今の「吟ぎんが」と「ぎんおとめ」だった。

・そこで、両方とも岩手オリジナルの酒造好適米として採用すれば良いのではないかと思われるかもしれないが、当時は1種類を選ぶ必要があった。それで落ちたのが「ぎんおとめ」だった。

・落された理由は「県北が栽培適地だから」というもの。岩手県で米の主たる生産地は県南。県北だと「やませ」の冷害などに遭うと酒米が打撃を受けることになりかねないと懸念された。

・ここで落選すると、通常はもう終わりとなる。甲子園でも、優勝校は覚えていても、準優勝校は覚えてもらえない。お米でも、採用されなければ闇に消える運命にある。しかし、そこで声を上げたのが、当時、県の農政部長をされていた高橋洋介さん。

・その方が「これだけ良い酒が出来るのだから、県が予算を出すので、もう一年試験醸造をして欲しい。もしかしたら、この米が県北の農業の光になるかもしれない」と言って下さった。これにより、この米の命脈は首の皮一枚で繋がった。

・翌年、再度試験醸造を行ったが、それでも品質が良いということが認められて、「吟ぎんが」のデビュー翌年に「ぎんおとめ」がデビューした。県が酒米を2年連続でデビューさせるということは珍しい。通常は10年に一度といったペースである。

・こうした経緯なので、自分にとって「ぎんおとめ」は子供のような存在である。


▼IWCチャンピオンSAKE受賞後の造り方の変更
・このお酒は、2017年にIWCチャンピオンSAKEを受賞した。これはあまり言っていないことだが、受賞の前と後では、このお酒の造り方を変えている。

・自分は、特別純米酒にもある程度のカプロン酸エチルの香りが欲しいと思っていた。加えて、イソアミル系の香りも欲しかった。

・チャンピオンSAKE受賞前までの造り方は少し変わっていた。2本の醪を立てて、搾った後でブレンドするという方法である。例えば、仕込み1号を9号酵母、仕込み2号を1801酵母で造り、搾った後でブレンドして1本のお酒として検定する。

・これは「合併検定」という方法で、酒税法上認められている。しかし、チャンピオンSAKEの受賞後、この方法をやめた。

・2酒類の酵母を活用する方法には幾つかある。

・まず、酒母の製造段階で2種類の酵母をブレンドする方法がある。しかし、1801酵母のような香り系の酵母は弱いので淘汰されやすく、2種類の酵母を投入するタイミングをずらすなど、再現性の低いテクニックを用いなければならない。

・三段仕込みの「添え」の段階で2種類の酒母を使う方法もある。しかし、酒母が余ってしまうという問題がある。

・そのため、「合併検定」を行っていた。しかし、1801酵母はアルコール耐性が低く、発酵途中で死滅するため、日本酒度-10で発酵が止まったりする。そして、1801酵母の醪は途中で止まっても仕方ないという前提で、9号酵母の醪の日本酒度を+10や12など高く仕上げる。

・しかし、これは本末転倒な面がある。1本1本の醪に丁寧に向き合っていないと思っていた。

・チャンピオンSAKEを受賞した時、「世界一になって、あとは何をするのか」と聞かれた。現状維持は衰退を意味するので、2018年の酒造りの前に、製造スタッフと、今後の在り方について議論をした。

・その時、製造スタッフから「1本1本の醪に丁寧に向き合っていない」という話が出た。だったら、醪1本に真剣に向き合うにはどうしたら良いか。

・丁度その数年前、日本醸造協会からカプロン酸エチルと酢酸イソアミルの両方の香りを出す1901酵母の頒布が始まっていた。当蔵でも試験醸造を行っており、その結果が非常に良かった。「いずれはこの方向にしよう」と考えていたこともあり、1901酵母を使用して単一醪で仕込むことにした。

・これが、「合併検定」を取りやめた経緯である。


◆IWCについて

▼IWCのSake部門創設の経緯等
・IWCはロンドンで行われるワインのコンクールだが、世界中から出品されるグローバルな大会である。ワインは、Red, White, Sparkling, Sweetの四部門でチャンピオンを選定する。

・このIWCに、2007年にSake部門が出来たのだが(※1)、まず、その背景についてお話したい。

・日本酒が世界で飲まれるようになり始めても、多くは海外在住の日本人だったり、日本に関係のある外国人だった。そうした中、日本酒を飲む外国人には4つのポイントがあると考えた。

・一つ目が、日本のことが好きなこと。二つ目が、健康に気を付けていること、三つ目が、ある程度のお金を持っていること。これら三つのポイントを満たすと、寿司を食べるようになる。

・そうした人のうち、どういう人が日本酒を飲むかといえば、「ワインのことを良く知っている」ということ。これが四つ目のポイントとなる。

・日本では、日本酒の飲み手である一般の人で、ワインのエキスパートでもあるという人は、あまり多くないのではないかと思う。

・しかし、海外での飲み手が「ワインのことを良く知っている」という前提に立つと、日本酒も、ワインの世界観の中に入っていかないといけない。そうした観点から注力したのが、WSET(※2)での日本酒講座と、IWCのSake部門創設。

・IWCの運営者であるサム・ハロップ氏(※3)に日本酒の魅力を伝えたのが、平出 淑恵さんのほか、「横浜君嶋屋」君嶋哲至さん、富山県「満寿泉」桝田隆一郎さん、神奈川県「いづみ橋」橋場友一さん、宮城県「浦霞」佐浦弘一さん、といった面々。

・IWCはワインの世界で注目を浴びるコンテストであり、その中にSake部門が出来る意味は大きかった。今では、ロンドンで行われるIWCチャンピオンの発表イベントに来場する700名のテーブル全てに日本酒が並ぶようになっている。


(※1)IWCのSake部門創設について

(※2)「WSET」は、ロンドンに本部を置く世界有数のワイン教育組織である「Wine&Spirit Education Trust」の略称。

WSETは現在、英語で受験する日本酒資格を運営。現在、入門編の「Level1」と応用編の「Level3」がある。なお、当方もWSET SAKE Level3を保有しています。

(参考)<WSETとその資格試験について

    <WSET SAKE Level3について

(※3)サム・ハロップ氏について


▼IWCのSake部門の仕組み
・IWCでは、出品酒からまず「ゴールド」の受賞酒が選ばれる。そして、その中から、部門別トップの「トロフィー」が選出される。最終的に1品が総合トップの「チャンピオン」となるが、「チャンピオン」はロンドンで発表される。

・「トロフィー」を受賞すると、受賞9蔵にロンドンへの「招待状」が届く。普通「招待状」といえば無料だが、この「招待状」は有料。飛行機代やパーティへの参加費も自分持ち。それに加えて、参加者に飲んで頂くお酒の代金も負担する。

・「チャンピオン」発表当日の一日は長い。昼の12時に集合して着付けなどを行う。その後、午後4時からwelcome receptionが始まり、試飲などを行う。午後6時にパーティ会場が開場。7時からディナー。8時半頃から各部門のチャンピオンの発表が始まる。

・はじめに、Sake部門の発表が行われる。この発表の様子について言えば、実は、自分はチャンピオンSakeを受賞した2017年の前年、2016年にも発表の場に居た。それは、本醸造部門でトロフィーを受賞していたからである。

・2016年のチャンピオンSakeを受賞したのは出羽桜さん。自分は本醸造部門だったので、「本醸造がチャンピオンになることは無いだろう」とは思いつつも、発表が近づくと段々緊張してきた。

・そして発表の瞬間。「チャンピオンは出羽桜」と発表されると、自分と同じテーブルにいた「出羽桜」仲野社長をハイビームが照らした。仲野社長は立ち上がって深々とお辞儀をし、舞台に向かわれた。

・それを見て、「これは自分が取らなきゃダメだ」と思った。「取りたい」というのではなく、「取らなきゃいけない」という意味合いだ。「いつかは」という気持ちだったが、その翌年にチャンピオンを受賞したのは奇跡だと思う。

・各部門のチャンピオンの発表が終わると、12時過ぎからダンスパーティーが行われ、長い一日が幕を閉じる。


▼チャンピオンSakeについて
・2017年にチャンピオンSakeを受賞したが、どのお酒がチャンピオンなのかを知るのは、審査に加わる大橋健一さん(最難関のワインの資格「マスター・オブ・ワイン」保有者)など、ごく一部の人々。

・チャンピオンSakeが発表されるのは7月。その年の6月、ワインのセミナーのために盛岡に来られていた大橋さんにバッタリ出会った。トロフィーの通知を受けていたので、大橋さんにお礼を言ったのだが、大橋さんは何だか素っ気ない素振りだった。

・後で大橋さんから「盛岡で会った時に、『おめでとう』と言いそうになって、何とか自分を律するのに大変だった」と言われた。「それで何だか様子が変だったんですね」という会話をしたが、これも縁だったなと思う。

・そのチャンピオンSakeだが、「実力だけではなれない」と思う。もちろん、「運だけでもなれない」。「実力があって、酒の神様にご褒美をもらえる蔵」が受賞するものだと思う。そうでないと、チャンピオンの意味が分からない。

・チャンピオンの受賞蔵を見ると、「この蔵が受賞して、本当に良かったな」と思うことが多い。

・昨年、和歌山県「紀土」さんが受賞した時は、「このコロナ禍で山本さんが受賞して本当に良かった」と思ったし、今年、長野県「御湖鶴」さんが受賞した際は、竹内重彦さんのご苦労が報われたと思った。


【Q&Aコーナー】

(問)「南部美人」は、海外ではどう評価されているか。

(答)「南部美人」は、海外に出ていくのが早かった。日本では「ずっと前からある」となると目新しさを欠き、むしろ「赤武の方がいい」と言われたりする。そうした時は、同じ岩手県なので「是非赤武を飲んで欲しい」と答える。

一方、海外では、「ずっと前からある」というのは安心や信頼に繋がる。「南部美人」は海外では「Southern Beauty」と呼ばれるが、飲み手が自分に会うと「beautyじゃないね」と言われることがある。これには「beautyなのは自分じゃなくて酒だから」と答えている。


(問)海外ではどの国への売り上げが多いか。

(答)米国が1位、中国が2位。この2先が伯仲してきている。また、ドバイ向けが多いのも特徴。ドバイへの輸出は2006年に開始しており、歴史がある。ドバイが1位になることは無いが、単価が高く、売上金額は大きい。

その他には、香港、台湾、韓国などが多い。一方、今後が楽しみな国もある。例えばアルゼンチン。今は日本酒が殆ど売られていない。首都ブエノスアイレスには「Osaka」という高級和食レストランもあるのだが(※)、置かれていたSakeは、かつて月桂冠USAのものだけだった。

現在は、アルゼンチンにも「南部美人」が流通するようになっている。

(※)「Osaka Palermo」


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