2021.12.13

【蔵元トーク】#40 南部美人(岩手県 株式会社南部美人)[後半]

こんにちは!兜LIVE編集部です。


 7月10日(土) 、『日本酒を蔵元トークとテイスティングで楽しむ』を開催しました。
今では国際金融都市といわれる日本橋兜町・茅場町。 


江戸時代には酒問屋で賑わっていた「日本酒の聖地」でした。また、東京証券取引所において初上場時の5回の鐘撞は、五穀豊穣にちなんでいるとのこと。

平日は賑わうこの兜町に、休日にも人が集まってもらいたい。そんな願いから日本各地の蔵元を招き日本酒について学び、味わい、楽しく交流し、その魅力を、兜町の魅力といっしょに広め、お酒が地域と人をつなぐ場所...。そんな場所に発展するように願いを込めて、日本酒セミナーを開催しています。


今回は、岩手県で「南部美人」を醸す株式会社南部美人も五代目蔵元 久慈浩介さんをお迎えしました。オンラインでの開催ということもあって、北は函館、西は那覇の方にご参加いただきました。ありがとうございました。


後半の内容は、【スーパーフローズンについて】と、Q&Aセッションです。

なお、前半は以下のURLで投稿しており、トピックは下記<前半トピック一覧>の通りです。


前半レポート


<前半トピック一覧>
【蔵のご紹介】
【医療的ケア児と「クラフトジン」】
【輸出について】
【ラベルの「リブランディング」】
【「コーシャ」と「ビーガン」認証取得の経緯】
【特別純米酒について(ぎんおとめ・1901酵母)】
【IWCについて】

◆スーパーフローズンについて


▼「市場に出ている生酒」は苦手

・自分は生酒が得意ではないが、正確にいうと、「市場に出ている生酒が得意ではない」ということである。

・蔵で飲む搾りたての生酒は100点満点であり、美味しい。しかし、市場に出ている生酒は、造り手の感覚では良くて80点。平均では40-50点程度。それは、生の劣化が見えてしまうから。

・なお、飲み手には、生の劣化を熟成として魅力と捉える人もいるので、それを否定する訳ではない。

・蔵元はそうした感覚なので、生酒を販売する蔵は、「1週間以内に飲んで欲しい」とか「マイナス5度とか10度で保管して欲しい」といったお願いをすることがある。しかし、そのように扱っても生酒は劣化する。

・配布資料に「愛ある最悪の生酒」の話が書いてある。NYに行った時に、南部美人のファンで生酒を敢えて取っておいてくれた人がいた。「久慈さんが来るので生酒を取っておいた。一緒に飲もう」と言われたが、1年半か2年程経ったものだった。相手の人には「美味しい」とは言ったが、とてもじゃないが飲める状態ではなかった。


▼「蔵の搾りたての生酒」は美味しいが、普通は商業ベースに乗らない

・ただ、自分が得意でないのは「市場に出ている生酒」であって、蔵で出てくる生まれたての生酒は、物凄く美味しい。何故かといえば、今の酒造りは搾った時に100点となることを目指しているから。

・搾った後は、100点から減点されていくしかない。それを如何に減点されにくい方法で保存するかが重要となる。そのためには火入れしかない。しかし、火入れは手術であり、味に絶対に傷がつく。どんなに上手に火入れをしても100点のままにはできない。

・しかし、生酒のままだと、酒はどんどん劣化する。火入れをすれば、その後の減点は1日マイナス0.1点程度に収まるので、酒質を維持するために火入れをする。

・本当は、搾ったままの味を飲み手に届けたい。ごく一部のマニアな人向けなら、「今日搾ったので、すぐ送るから、明日着いたらすぐ飲んで欲しい」と伝えることもできる。しかし、それでは商売にならない。


▼「冷蔵輸送・冷蔵貯蔵」という日本酒のネック

・日本酒が世界で戦っていくときに、ネックとなる点の一つが、冷蔵輸送・冷蔵貯蔵を必要とすることである。冷蔵貯蔵を要しない酒もあるが、それは我々が目指す酒質とは異なる。

・我々が目指す酒質を世界に伝えていこうと思ったら、どうしても冷蔵輸送・冷蔵貯蔵が必要となる。しかし、ワインのように常温流通ができるようでないと、世界に広げていくにはネックになる。


▼「スーパーフローズン」との出会い

・では、何か方法は無いのかと考え続ける中で見つかったのが、この「スーパーフローズン」。そのヒントを得たのは、高知で食べた鰹だった。

・ご招待頂いて高知に行き、鰹を食べさせて頂いた。自分は鰹が好きなのだが、岩手では美味しい鰹はなかなか食べられない。そこでご馳走になった鰹は、信じられないくらい美味しかった。

・「この鰹はめちゃくちゃ美味しい。こんな美味しい鰹は食べたことがない」と話すと、それを出してくれた人が「久慈さん、この鰹は冷凍なんだよ」と言う。自分は、「え?冷凍鰹?その前に、何で客人に冷凍を出すの?」と驚いた。自分は「生が良くて、冷凍は安物」と思っていたので。

・そうしたら、その人は「冷凍していない生もあるけど、食べる?」と聞いてきた。心の中では「生があるのなら、そっちを先に出してよ!」と思いつつ、「もちろん頂きます!」と答えて期待して待った。

・「冷凍鰹ですら、これだけ美味しいんだから、生は気絶するぐらい美味しいに違いない」と思い、出された生の鰹を見ると、見た目はあまり変わらない。

・「食べてみて下さい」というので、「頂きます!旨いだろうな、パクッ」と食べた。すると、「あれ?あれ?ちょっと待てよ。あんまり変わらないな冷凍と。俺、舌がおかしくなったかな」と思って、今度は薬味もつけずにもう一度冷凍を食べてみた。しかし、どちらも同じく美味しかった。

・出してくれた人に「生はもっと美味しいだろうと思ったのだが、変わらない。これは、生のモノが悪いのか」と聞いたところ、「そうではなくて、この冷凍した鰹は、物理的に凍ってないんです」と言われた。「は?何の謎かけか」と思って驚いて聞けば、「これは瞬間冷凍なんだ」という。

・「瞬間冷凍って、冷凍ですよね」と聞くと、「瞬間冷凍は細胞から何から一切壊さないので、物理的に凍っていない」という。こちらが「意味が分からない」というと、瞬間冷凍の設備を見せてくれることになった。

・実際に見てみると、ものの一分も経たないうちに、鰹は凍ってしまう。それを解凍してみると、普通、冷凍した魚や肉を解凍した時に出てくる血のようなものが出ない。あれは自分は血だと思っていたが、血ではなくて、ドリップという。

・ドリップが何故出るのか。細胞の中にある水の分子が、凍る時に膨張し、さらに結晶化するので細胞壁を破ってしまう。その状態で凍結する。それを解凍すると、細胞壁が破れた状態なので、細胞内の液が漏れて、ドリップとなる。そのため、通常の冷凍、即ち緩慢冷凍だと、どうしても味や食感がおかしくなる。

・しかし、瞬間冷凍だとどうなるか。細胞の中にある水の分子が瞬間的に凍るので、膨張する時間がない。また、結晶化する時間もない。即ち、細胞が壊れない。そのため、ドリップが出ないし、食感も変わらない。

・瞬間冷凍の機械を作っているのは、「テクニカン」という横浜の会社。その会社で、マグロのトロの刺身を、凍らせて解凍するのを何度も繰り返して食べさせて頂いたことがあるが、味は全く変わらなかった。これは凄い衝撃だった。


▼「スーパーフローズン」を日本酒で

・これを見た時に、「ちょっと待てよ。酒でやったらどうなる?」と考えた。その時は、「いやダメだ、まず膨張して瓶が割れる。また、体感的には、酒を凍らせると、解凍した後で苦かったりエグかったりしてあまり美味しくないイメージがある」と思った。

・「みぞれ酒」のように、凍らせてシャーベット状で飲む提案はあるが、貯蔵の方法として冷凍を採用している先は、ほとんど無かった。そこで、テクニカン社で、「酒を冷凍してみても良いか」と聞いて、蔵から生酒を送ってもらった。

・時期が夏から秋頃だったので、熟成した生酒だったが、そこで瞬間冷凍してみた。殆ど液体膨張しないので瓶は割れなかった。解凍して酒の味をみてみたら、酒を飲んで鳥肌が立つのは何十年振りかというほどで「うわー、キター!」と思った。

・「全然良いし、むしろ、生老ねも良くなっているのでは?」というぐらいの印象だった。瓶も割れないし、酒の味も悪くならない。それで、「搾りたての新酒を即座に瞬間冷凍したい」と思った。すぐに機械を買えれば良かったが、お金の問題もあるので「とりあえずテストさせて欲しい」とお願いしてテスト機械を借りた。


▼新酒で行った「スーパーフローズン」のテスト

・借用した機械で、当蔵でその期に造った搾りたての新酒を瞬間冷凍した。そして、瞬間冷凍させたものと、凍らせていないものを、そのままクーラーボックスで1時間かけて盛岡にある「岩手県工業技術センター」に持ち込んだ。

その時の検査結果が、配布資料にある「官能検査の結果 しぼったばかりの生原酒と、それを瞬間冷凍したお酒の比較」というデータである(※1)。データを見ると、瞬間冷凍したものと、そうでないものは、殆ど変わらないデータとなっている。

・この時ちょうど、他の県の先生や、鑑定官の先生も来られていたので、その場で解凍して利き酒をして頂いた。その結果は、「殆ど違いは見受けられない」というものだった(※2)。


(※1)「官能検査の結果」のデータは、ウェブページの中ほどに記載。
(※2)利き酒の結果は、上記「官能検査の結果」の下にリンクが張られている「別紙2平成30年3月24日-冷凍酒報告書」に記載。



・酒を凍らせたら、凍らせていない酒と比べて、何かトラブルがあると思うのが普通だと思う。しかし、瞬間冷凍では、データ的にも官能的にも変化がなかった。



▼冷蔵貯蔵と「スーパーフローズン」の飲み比べ


・配布資料にもう一つ「官能検査の結果」を記載している。これは、「同じお酒を瞬間冷凍して冷凍貯蔵したお酒と、瞬間冷凍せずに液体のままマイナス5℃で冷蔵貯蔵したもの」に関するデータである。貯蔵期間は約6か月。

・今日の参加者の手許にあるのは、まさにこれである。「岩手県工業技術センター」で行ったような「違わない」ということを利き酒で確認するのは非常に難しい。しかし、「違う」というのは見つけやすい。今日はこれを実感して欲しい。

・同じグラスを二つ用意して、一つ目のグラスには瞬間冷凍して冷凍で届けたお酒、もう一つのグラスには、冷蔵で届けた酒を注いでほしい。そして、まず、冷凍貯蔵の方から飲んで欲しい。

・大吟醸の搾りたて生を、搾ったその日に凍らせたものなので、凄くフレッシュだと思う。このレベルの生酒は蔵でしか飲めない。

・次は、冷蔵で届けたものを飲んで欲しい。マイナス5度で4か月程度貯蔵したものだが、冷凍貯蔵との違いが分かると思う。造り手からみると、完全に生老ねが出ている。市場にある70-80点の生酒はこれ。しかし、本当の生酒の味は、一つ目のグラスのもの。

・もう一度、一つ目のグラスのお酒を飲んでみて欲しい。どれだけフレッシュか分かると思う。同じお酒で、瞬間冷凍での保管と、冷蔵保管で、これだけ違う。先程言及した検査結果をみても、グルコース値やイソアミルアルコールの値が、冷蔵貯蔵の方が高くなっている。それだけ熟成が進んでいるということを示している。


▼「時を止める」技術

・これは、「老ね」ではなく「生老ね」である。起きていることは酵素熟成で、イソバレルアルデヒドが発生する。それは、マイナス5度の貯蔵でも発生する。マイナス5度というのは、通常の酒販店や飲食店、家庭などでは用意できない環境だと思うが、それでも劣化する。

・それが「スーパーフローズン」を利用すると、全く関係なくなる。つまり、「いつでも、どこでも」蔵での搾りたてのお酒を飲むことが可能になる。時を止めて、距離をゼロにして、日本中、そして世界中にお酒を提供することができる。

・今日は生酒で飲み比べて頂いた。その方が分かりやすいので。しかし、これは火入れ酒にも活用できる。例えば、アルゼンチンやブラジルに輸出する時に船便で3~4か月かかり、現地で実際に飲まれるタイミングまで考えると、1年程度の貯蔵期間が想定される。

・しかし、瞬間冷凍して輸出すれば、解凍する時まで時間が止まる。世界で日本酒を一番良い状態で飲ませるには、この方法がベストだと思っている。

・生酒でも、火入れ酒でも、良い状態で届けることに苦労している蔵は多い。「新政」の佐藤祐輔さんもそうだし、「風の森」さんもそうだと思う。

・生に拘れば拘るほど、「生老ねとの闘い」、「早く飲んで下さいのお願い」、「取っておいたことに対して、何で取っておいたのと怒られてしまう理不尽」が生じる。そうしたことを、スーパーフローズンは全部無くしてくれる。

・もう一つ素晴らしいのは、凍らせる時に瓶を選ばないこと。当蔵では商品として販売するためにプリント瓶にしているが、瞬間冷凍自体は瓶を選ばないので、どんな瓶でも冷凍貯蔵が可能。但し、ラベルを後から貼るのは難しいので何か考える必要はある。なお、キャップも特殊なキャップを使っている訳ではない。

・これが、今後の日本酒の立ち位置を変えていく技術だと思う。


▼他蔵での実用化の動き

・スーパーフローズンの技術を発表してから、非常に多くの蔵がこれをテストしている。当蔵の次に実用化したのは「獺祭」さん。

・桜井社長にお会いした時、「スーパーフローズンの話を聞かせて欲しい」と言われて「じゃあサンプルを送るよ」と言ったら「ネットショップで買いました」と言われた。それで、「あれはすごい」から始まって、「生酒以外でもできるのか」とか、「スパークリングはどうか」など色々なことを聞かれた。

・スパークリングも全く問題なく出来る。当蔵のAWA酒も、市販はしていないが、瞬間冷凍したものがある。全く変化なく、全く問題なくできる。但し、スパークリングは、あまりやっても意味ないかなと思っている面はある。やはり威力を発揮するのは生酒。


<参考:「獺祭 純米大吟醸45 寒造早槽 急速冷凍酒」試験販売のお知らせ>
(※)テクニカン社が開設した横浜市のショップでのみ販売。


▼熟した生酒を好む方へ

・しかし、良くいるのが、「そんな若々しい生酒は、俺は生酒として認めない!」という人。「生酒はちょっと熟した方が旨いんだ」という人が必ずいる。そういう人には「この生酒を、自宅の冷蔵庫で1か月も置いておけば、好みの熟した生酒になる」と説明している。

・時は残酷で、過ぎ去った時は戻せない。しかし、重ねることはできる。熟した生酒が好きな人は、これを買ってもらって、自分の好きなところまで熟成させて飲んで欲しいと思う。

・熟してしまった生酒は、絶対に元には戻せない。時が進むしかないのなら、一番最初のゼロのところで止めたものを、皆さんで育ててみませんか、というのが自分からの提案である。決して、熟した生酒が好きな人を排除している訳ではないということもご理解頂きたい。


▼「記憶に残る商品」ではなく、「記録に残る作品」になること

・日本酒もワインもそうだが、嗜好品は人の記憶にしか残らない。日本酒に詳しいファンの人は、日本酒の美味しかった記憶が幸せすぎて、今を生きている人だと思う。

・だが、例えば、最盛期の「開運」波瀬杜氏が造った大吟醸の味を、自分は知らない。保管してあるものを飲ませて頂いたことは多々あるが、経過した時間を取り除いて理解するのは非常に難しい。

・当時は未成年で飲めなかったし、仮に飲めても理解できなかったと思う。「菊姫」時代の農口杜氏のお酒や、「満寿泉」三盃杜氏のお酒も同様。

・そうした最盛期のお酒を飲んだことがある人は、記憶にとどめていると思う。しかし、記憶は、残念ながら一代限り。息子にも娘にも、孫にも、言葉でしか伝えられない。飲んだ感動や想いは、言葉では間違いなく伝わらない。

・これは、すごく勿体ないことだと思ってきた。しかし、スーパーフローズンの技術で「而今」大西さんが造った「特等雄町 純米大吟醸」(※)などを瞬間冷凍して取っておいたら、その感動は、自分だけではなく、自分の子供や孫にも伝えられる。言葉ではなく、物として伝えることができる。

・すると酒は、「記憶に残る商品」から「記録に残る作品」に変わっていく。山口県「天美」の初年度の作品を全部うちに送ってくれたら、瞬間冷凍して貯蔵しておくと言っている。「美味しくなあれ」と愛を込めたその愛が、10年後も変わらないか試してやる・・・って言ってあげようかなと思っている。

・瞬間冷凍では、そういうことが可能になる。ベンチャーで立ち上げた蔵のファーストリリースのお酒なんて、そうそう飲めるものではない。しかし、この技術でそれが可能となる。

・蔵元としては、例えば、50年後に自分の孫が「おじいちゃんの久慈浩介は、どんな酒を造っていたの」と言ったときに、「あ、これだよ。解凍して飲んでみて」と言ってもらえるようになる。

・これは凄いことだと思う。自分は、商品としてスーパーフローズンを販売するよりも、アーカイブとして歴史に物を残せることに意味があるのではないかと思う。これは、ピカソとか、そうした人のしてきたことと比肩できるのではないか。

・100年先の技術者が、過去の酒を言葉で理解するのではなく、利き酒で理解できるようになる。そして、「この時代の酒はこんな酒だったのか」と評価できるようになる。今は、昭和20年や30年の酒の味は、もう分からない。祖父の酒は分からない。

・そのように、時代を飛び越えて継承できるようになること、それこそが、スーパーフローズンの最大の功績ではないかと思っている。

・機械の値段は、一番小さなもので400万円。車一台の値段で購入できる。400万円でこれができるなら、買った方が良いと思う。こう言うと、「秋葉原のバナナの叩き売りの人みたいだ」と言われる。しかし、何千万円とか何億円なら無理だが、この値段なら買う価値があると思う。


(※)「而今 特等雄町 純米大吟醸」について
・特等はお米の等級。雄町で特等を取るのは難しく、平成30年に初めて特等を取る米が作られた。その米で醸されたのがこのお酒。なお、その後平成元年、2年とも特等は出ていない。
参照先

▼瞬間冷凍の仕組み

・一般に、冷凍する方法としては窒素ガスのように非常に冷たい気体を使う方法と、液体を使う方法がある。凍る速度は圧倒的に液体の方が早いので、スーパーフローズンは液体を使った冷凍方法を使用している。

・違いが生じるのは、熱伝導率が異なるから。例えば、サウナの温度は90度ぐらいあるが、人はその中に入ることができる。一方、ポットのお湯は95度ぐらいだが、その中に手を入れられない。また、90度のお風呂にも入れない。

・これが熱伝導率の違い。気体の中に入っても熱伝導がゆっくりだから体の温度上昇は緩やかになる。液体は熱伝導が早いので、その中には入れない。それと同じで、マイナス190度の気体を使うよりも、マイナス30度の液体の方が圧倒的に早く凍る。

・凍るスピードはなるべく速い方が、モノへのダメージが少ないので、液体の方が有利である。

・では、何故マイナス30度なのか。「速く凍らせるためには、より温度を低くしてマイナス60度などの液体に入れた方が良いのでは?」と思い、聞いてみると、「それは、やっても意味がない」と言われた。

・マイナス10度や20度だと凍るスピードが遅いが、マイナス30度以下だと、凍るスピードにあまり差が出ないのだという。また、マイナス60度などにすると、機械として販売する時にコンセントの容量や電力使用量で負担が大きすぎるという。

・マイナス30度は、マイナス60度などより低い温度に比べて、凍るスピードも見劣りせず、コストも抑えられるので、商品としてはマイナス30度が良いと言われた。

・なお、どうやって凍っていくか撮影したいと思ったが、マイナス30度で動くカメラは無いという。どなたか、撮影できる方法をご存知の方がおられたら教えて欲しい。


<参考:テクニカン社の「液体急速凍結機 凍眠(とうみん)」
(※)熱伝導率や凍結スピード、冷凍した肉や魚を解凍した場合のドリップ量の違いなどが解説されています。

<参考:テクニカン社HPでの久慈社長のPR画像
(※)2分45秒の動画で久慈社長がポイント解説。簡潔で分かりやすいのでお勧めです。

<参考:テクニカン社「凍眠ミニ」
約50cm四方のコンパクトサイズで、100V電源で使用可能。


【Q&Aコーナー】
(問)スーパーフローズンのお酒は、どんな美人に例えられるか。

(答)このお酒は「フローズン・ビューティ」という商標を取っているが、中身は、宮崎あおいさんを少しふっくらさせた感じのお酒。


(問)日本酒は細胞壁がないので、緩慢冷凍で解凍してもドリップが出る訳ではない。緩慢冷凍で酒質が悪化するメカニズムはどのようなものか。また、そうした悪化のメカニズムが瞬間冷凍で発生しないのは何故か。

(答)ご指摘の通りで、細胞壁がないのでドリップの問題はない。「細胞壁のある魚や肉が変わらないなら、細胞壁のない日本酒は更に良いのではないか」と思った次第。

お酒を凍らせた時のメカニズムについて色々調べたが、昭和38年の文献で、北海道で「凍ってしまった酒」についての論文があった(※)。そこでは、緩慢冷凍でもお酒の味はあまり変わらないとされている。この点は、当時の利き酒と現在の利き酒がどの程度違うのか良く分からないので、何とも言えない。

ただ、自分の感覚としては、緩慢冷凍すると、酒質が劣化するというより変化して、苦みやエグミが出るように感じている。化学式では説明できないが、何がしかの変化が生じているのではないか。瞬間冷凍すると、利き酒してもその変化すら感じられないので、大きな違いがあると思っている。メカニズムについてはもう少し調べたいと思っているので宿題にさせて欲しい。

ただ、緩慢冷凍だと、そもそも瓶が割れてしまうのが問題。他にも、昔の人が冷凍貯蔵を行わなかったのには、何か理由があったのではないか。瓶割れを防ぐためだけなら、瓶に入れる酒の量を減らす方法もあるが、そうしたことは行われてこなかった。

(※)「清酒の凍結現象について」(日本釀造協會雜誌vol.58, no.12, pp.1191-1197)


(問)感想だが、両方とも凄く美味しいと思う。

(答)勿論、マイナス5度の冷蔵庫で貯蔵したものが不味かったら大問題。基本的に不味くはない。しかし、スーパーフローズンと比べたら違うよね、ということを見てもらう機会にしたかった。

他の方の感想として、チャットでは「冷凍の方が圧倒的に美味しい」とか、「香りが違う」、「舌触りが違う」などの声も頂いている。熟した生酒が好きな人以外は、冷凍の方が美味しいいと思ってもらえると思う。「違う」ということを分かって頂ければ、今日の目的は達成と考えている。


(問)飲みきれない場合、再度凍らせることはできるか。

(答)それは避けた方が良い。緩慢冷凍だと、量が減っていれば瓶は割れないとは思うが、味の変化が保証できない。瞬間冷凍であれば、何度凍らせて解凍させても味はあまり変わらないが。


(問)凍らせると水分とアルコールが分離すると思うが、その影響は無いのか。

(答)分離はするが、解凍する時に混ぜてもらえば問題ない。味がそれを証明している。


(問)「夢のタイムカプセル」だと思う。

(答)その通り。「タイムスリップ酒」という名前も考えたのだが、「ちょっと違うかな」と却下されてしまった。


(問)スーパーフローズンは、解凍後、どのくらいで飲むのがお勧めか。

(答)自分の経験上は、解凍直後よりも、1時間ぐらい置いてから飲んだ方が、味がまとまっていて美味しい気がする。


(問)先代、先々代のお酒と、現在のお酒は、どう違うか。

(答)先々代のお酒は全く思い出がない。先代の頃は、一級酒、二級酒の時代なので、そうした造り方のクセがついていた。炭素濾過もしていたし、少しギスギスしたお酒だったと思う。

また、酒造好適米も殆ど使っていなかった。岩手では好適米をあまり作っていなかったので。鑑評会の出品酒でも、山田錦を1本造るかどうかという程度。昔はトヨニシキなどで造っていた。それに比べれば今は贅沢だと思う。


(問)冷凍した状態で、何十年、何百年と保存できるのか。

(答)現在実験中。スーパーフローズンを始めたのは3年前だが、3年前のスーパーフローズンを最近解凍して飲んでみたところ、全く変化していなかった。2年前のものと比べてみたが、それでも変化は無かった。

十年、百年はこれからの話だが、物理的に考えて、凍った状態のものが悪化するのは考えにくい。家庭用の冷凍庫だと霜取りなどで温度が変化することも考えられるが、業務用の冷凍庫はそうした変化はないので。


▼冷凍のネガティブ・イメージを変える

・実は、食品の業界で瞬間冷凍の技術を活用している先は多い。しかし、皆それを言わない。例えば、ミシュラン三ツ星のお寿司屋さんに行って「はい、冷凍のマグロです」と出されたら、「ふざけんな!」と思うのではないか。

・しかし、スーパーフローズンを見ていると、「生が全て正しい訳ではない」という気持ちになる。食品の業界では一般に、冷凍に対して物凄いネガティブ・イメージがある。しかし、酒では、「低い温度で保管することが正しい」という認識の人が多いのではないか。

・実際に、これまでスーパーフローズンの話をした時に、「え、冷凍するの?不味いのでは」と言われたことは無い。それを考えると、冷凍のイメージを変えていけるのは酒しかないのではないかと思う。

・瞬間冷凍はSDGsにも繋がる。スーパーマーケットやデパートでは余って捨てられてしまうお肉などが多い。新鮮な商品か、安い冷凍品か、という選択肢の間に、スーパーフローズンという選択肢が増えると良いのではないかと思う。

・また、サバやアジにはアニキサス(寄生虫)の問題があるが、冷凍すると死滅するので、瞬間冷凍した方が良いと言われる。アメリカでは寿司ネタは全て冷凍することが求められる。

・このように、瞬間冷凍の技術は食の世界では一般化してきているので、酒の世界でも一般化できると良いのではないかと考えている。

・なお、最近流行っている「甘酒」も瞬間冷凍できる。通常は、熱殺菌か防腐剤の使用が必要となる。しかも、熱殺菌の場合、日本酒は62~63度で良いが、甘酒は80度とか90度まで上げる必要がある。

・この甘酒を生のままスーパーフローズンで冷凍して、溶かして飲んでもらうという取り組みを、自社ではないが、自分の仲間が行っている。


<参考:JETRO記事「ニューヨーク市、飲食店での生鮮魚の事前冷凍を義務化-FDAのガイダンスに基づいて実施-」(2015.7.28)
(※)貝類、魚卵、マグロの一部、条件を満たす養殖魚は対象外となっている。


▼「夢」について

・一番美味しい日本酒は、蔵で飲む搾りたて。しかし、それを世の中の全ての人が飲める訳ではない。このスーパーフローズンの技術があれば、フレッシュ革命を起こして、世界中で、本当にフレッシュなお酒を当たり前に飲めるようになる。

・時を止めて、距離をゼロにできる時代が来る。税関で冷凍した酒をどう審査するかといった問題のある国もあるが、そうした問題を一つ一つクリアしていけば、冷凍のコールドチェーン自体は間違いなく世界中にあるので、広がっていくのではないかと思う。


▼「スーパーフローズン」のまとめ

・思いの丈を話したが、自分は「これが正しい」と言っている訳ではない。「こうした技術があれば、日本酒はもっと楽しくなる」と思っている。

・他の蔵にも是非やって欲しい。「風の森」さんには、是非やって欲しい。あれだけ生酒に拘るならば、「笊籬(いかき)採り」したばかりのお酒をスーパーフローズンにすれば面白いものになるのではないか。

・「新政」さんのお酒も、スーパーフローズンにすれば、急いで飲まなくても、いつでも飲めるようになる。「新政」さんはプリント瓶なので、更にやりやすいのではないか。「獺祭」さんも動いたので、他も動いてくれれば良いと思う。

・また、これが家庭に広がると良いとも思う。家で「取って置き」を取っておいたら、劣化してしまったということもあるのではないか。しかし、瞬間冷凍できれば、何時でも飲める。あるお酒を飲んで「感激したから取っておきたい」ということが可能になると良いのではないか。そうした時代が来ることを願っている。

・当蔵では、生酒の商品はほんの一部だが、全量、スーパーフローズンにしたいところ。しかし、瞬間冷凍の機械は投資可能だが、冷凍庫の投資費用が大きいので、将来的な課題となっている。

・なお、流通については、冷凍のまま届けると迷惑がかかることもあるので、「注文があった時に溶かして届ける」ということを考えている。その場合、酒屋さんだと「届いてから販売まで何日かかるか」という問題があるので、基本的にはB to Cになるかと思う。

・酒屋さんに申し訳ないなという思いはあるが、酒屋さんに、「当蔵のために冷凍庫を入れて欲しい」というのも難しい。多くの蔵が手掛けるようになり、「獺祭が冷凍で来るから、その脇に南部美人も置いておく」というようになれば良いと思う。


【Q&Aコーナー】
(問)スーパーフローズンは何度ぐらいで飲むのがお勧めか。

(答)純米大吟醸の生原酒なので、低めの温度が良い。10度以下がお勧め。


(問)スーパーフローズンのスペックは。

(答)「結の香」50%精米を使用している。酵母は1801で純米大吟醸。アルコール度数15度台の原酒。


(問)スーパーフローズンは、どんなお酒でも活用できるのか。

(答)その通り。火入れでも、スパークリングでも可能。コルクキャップでも大丈夫だった。但し、「にごり」は「白川郷」の三輪さんから聞かれているが、まだテストが出来ていない。しかし、醪を凍らせたことがあり、全く問題なかったので、「にごり」も大丈夫だと思う。


(問)R2BYの「蔵の原点回帰」はどのようなことをされたのか。

(答)R2BYは、上槽で用いる「槽」の最後の年だった。槽搾りは、当蔵の酒質にマイナスの可能性が高く、あまりやっていなかったが、最後の年なので少し増やした。ラベル等には記載していないが。

槽搾りは「風景としては良いな」と思ったが、搾っている時間が長すぎる。最短でも一日かかるうえ、粕の方にだいぶお酒を残さないといけない。「責め」まで商品にすると「南部美人」の美人が炭が塗られたようになってしまう。それを排除すると生産効率の面で難しい。

また、「江戸時代のレシピ」を用いた酒造りを行った。隣町である洋野町(ひろのちょう)の昔の酒蔵から、完璧な状態で昔の酒造技術本が見つかった。それを再現して造ってみたが、予想と全く違うものが出来た。

レシピを見て、もっと雑味があり、重くて濃い酒が出来ると思っていた。しかし、出来たお酒は普通に美味しかった。

「江戸時代の人がこんなに美味しいお酒を造っていたはずがない」と思って調べてみると、まず、蔵が非常に清潔になっている。昔は野生酵母とか不要な菌が沢山いるところで造っていたはずだが、今は殆どいない。

また、昔は科学の知識無しに造っていたが、今は科学知識がある。昔の造りが、カーナビが無い時代に地図無しで知らない場所に行くようなものだとすると、今はカーナビがあるので絶対に迷わない。

「こうするとこうなる」というのが分かっているので、「そうならないように、こうしよう」と先回りして、酒を良い方向に持っていくことができる。そうすると、予想よりも美味しいものができた。

「来年はもっと下手に造ろう」と言っているが、技術陣に「下手に造れ」というのは最も難しい注文だと思う。原点に回帰するといっても、技術は原点に回帰できないのかもしれないと思っている。

<参考:南部美人HP「江戸の酒しぼりました」


(問)特別純米酒に合う食べ物は何か。

(答)今の時期なら(当方注:7月時点)、三陸の紫雲丹を、塩と天然のワサビで食べて、特別純米酒を飲んで欲しい。


(問)聖火リレーは楽しかったか。

(答)緊張した。もっと祝福の中で走れると思っていたので少し残念だったが、楽しかった。トーチとユニフォームももらうことができて、お店に飾っている。


(問)1801酵母のお酒が大好きです。

(答)自分も1801酵母のお酒は好みだが、1801酵母単体だと飲み飽きてしまう。特別純米酒は食中酒なので、香りよりも味のバランスを考えた時には飽きないようにする必要がある。

純米吟醸や純米大吟醸なら、そういう酒だと思って飲んでくれるから良いが、特別純米酒はそうはいかないので1901酵母を使用している。

なお、吟醸はM310、純米吟醸はM310と1801酵母、純米大吟醸と大吟醸は1801酵母とM310を使用している。「雄三スペシャル」は7号酵母で、長野県「真澄」発祥の酵母である。

自分は熊本県「香露」で修行したことがあり、9号酵母の原株(※)を4種類持っているので、昔はそれも使っていた。


(※)日本醸造協会は「株式会社熊本県酒造研究所」で採取された酵母を「きょうかい9号酵母」として頒布。同研究所は、これとは別に、自ら保存・管理している「熊本酵母」を何種類か頒布。KA-1はオーソドックスで、KA-4は比較的香りが出ると言われる。
<参考:熊本酵母


(問)スーパーフローズンは、米国ではどこで買えるか。

(答)米国ではまだ購入できない。


(問)酒蔵体験の企画はあるか。

(答)仕込み体験ができるようにしようと考えている。HACCP(ハサップ)の関係で、装備をして頂く必要があるが、そうした点も含めて体験してもらえればと思っている。

あと、蔵の敷地内に田んぼを作る計画を進めている。


(問)スーパーフローズンは、蔵からの購入しか出来ないのか。

(答)瞬間冷凍の機械「凍眠」を作っているテクニカン社が、横浜市都筑区に「TŌMIN FROZEN(トーミン・フローズン)」という店舗を設けている。そこでは、「南部美人」のほか、「獺祭」の瞬間冷凍酒も販売している。

酒屋さんに出さないという訳ではないのだが、冷凍庫を持っているお店はなかなかない。冷凍ストッカーで十分なのだが、置くスペースが無いという話もある。

なお、米国はこれからだが、ドバイの「zuma」には既に提供している。お客さんに凍った状態を見せて、それから解凍して注ぐというサービスをしている。少しづつ進めていきたいと思う。


<参考:「TŌMIN FROZEN」

<参考:ドバイ「zuma」について

「zuma」浜田竜二氏


(問)是非、二戸市の豚の宣伝をしてほしい。

(答)二戸市に「佐助豚」というブランド豚がある。当蔵の酒粕が、「佐助豚」の餌として一部使用されている。これを本格的に増やす相談をしている。非常に甘みがあって、脂が溶けるように美味しい。是非食べて欲しい。


<参考:久慈ファーム「佐助豚」


(問)以前、クラフトジンの味が決まらないという話をお伺いしたが、その後どうなったか。

(答)漸く形が出来てきた。クラフトジンを色々と利き酒したが、色んな味があるお酒が多い。自分はそういうお酒は得意でないので、シンプルなものを目指した。ボタニカルは、ジュニパーベリーと漆の木のみ。

シンプルなドライジンとするが、米由来のベースアルコールなので、その特徴を出し過ぎるとクセになる。このクセをあまり出し過ぎないようにしようとしているが、全くゼロにはならない。ちょっとした米由来の味がありながら、シンプルなものにする。

漆の木は、そのまま使っても香りの抽出が難しい。炙ると結構良い香りが出てくるので、その割合を調整中。

ジンは難しい。やってみて、初めて難しさが分かった。


(問)「不味いものが造れない」という話があったが、何故か。

(答)普段造っているものを、不味く造るというのは難しい。味噌汁がそうだと思う。初めて作ったら不味くなるかもしれないが、ずっと作り続けてきたら、味噌が麦みそから白みそになったり、具がナスから豆腐になっても、味噌汁は不味くならないと思う。

同様に、やり続けてきた技術が悪くなるということは無い。江戸時代のレシピを使っても、技術まで江戸時代のものになる訳ではないということが良く分かった。


(問)久慈さんといえば、東日本大震災の時にYouTubeで「花見自粛反対」を訴えたことを思い出すが、現在の「お酒悪者論」についてどう考えるか。

(答)ちょうど、西村大臣が金融機関から締め出しをする発言をして、それが撤回された(※)。しかし、内閣官房コロナ対策室と国税庁が、酒の提供自粛に応じない飲食店との取引停止を依頼した文書は、まだ生きている。

ここまで自分も我慢してきたが、「それはちょっと違うでしょう」と思った。しかし、感情論で発言すると炎上するので、今、法律的に問題ないのか、顧問弁護士に調べてもらっている。

自分達が納得できないのは、「酒を飲むとコロナが広がる理由とエビデンスを見せて欲しい」ということ。エビデンスがあるなら、仕方がない。それを無しに「止めろ」とか「時短」とか言われるのがおかしい。

海外では、飲食前面停止の話は別として、「アルコール提供停止」をしている国の方が少ない。時短についても、「むしろ密になるから、人数制限の方が適切ではないか」というのが自分達の考え方。

そうした問題が沢山ある。海外にはちゃんと例があって、エビデンスもあるのに、何故それを見てもらえないのか。

エビデンス無しに悪者にされてしまう。今までは飲食店だったが、そこに酒販店と酒蔵も巻き込んだ。我々としても黙っている訳にはいかない。

東日本大震災の「花見自粛」は何のためにもならないことが明らかだったが、ウイルスの場足はそうではないので難しい。

その代わりに自分は、「酒蔵は100年も200年も300年も続いている。100年前のスペイン風邪や、赤痢など、様々な疫病に我々の先祖は打ち勝ってきている。その証が、現存する酒蔵である。だからコロナも打ち勝てる」と言ってきた。

しかし、西村大臣は劇薬を使用してきたので、それに対してどうするか、皆と相談して対応するつもりである。


(問)エビデンス無しに、良いようにスケープゴートにされているように感じる。何が悪くて何が悪くないのか、もう少しはっきりさせないといけない。

酒を悪者にするということについていえば、フランスでワインを悪者にしたら国民は怒るのではないか。日本でも、國酒としての重要さも含めて、国民を味方につける形で話を進めていけると良いのだろうと思う。

(答)そこもハシゴを外されたように感じている。菅総理(当方注:当時)は、1月の所信表明演説の中で、日本酒を含めた國酒をユネスコの世界無形文化遺産に登録すると言い切った。日本産品の輸出増加政策の中にも日本酒は入っている。そのように協力してきたのに、いきなりハシゴを外されたと思わざるを得ない。

スケープゴートにされているという感じもある。飲食業界は政治に強くないので、そうした側面がある。酒造業界も、そんなに政治には強くない。だからこうした事態になったのではないかとは思う。

(※)「酒提供飲食店との取引停止要請(対酒販店・対金融機関)」(2021年7月8日)について<このイベントは7月10日開催>


・緊急事態宣言を決定した7月8日、内閣官房コロナ対策室と国税庁が、酒の提供自粛に応じない飲食店との取引停止について、卸業者を含む酒販などの関係団体に文書で依頼。

・その後、内閣官房は13日夜、関係団体への依頼を撤回することを発表し、団体宛てに撤回文書を出した。

・なお、7月8日には、酒類の提供停止に応じない飲食店に対し、取引金融機関から順守を働き掛けてもらう方針も公表されていたが、こちらは翌日の7月9日に撤回されている。


(問)「吟ぎんが」と「ぎんおとめ」で、後者は平仮名表記なのには理由があるか。

(答)両方とも、「吟・ぎん」が付くのは吟醸の吟に由来。「吟ぎんが」は吟醸や純米吟醸向きとしている。一方、「ぎんおとめ」は純米や本醸造向きとしている。兄弟のような米なので、両方とも「吟・ぎん」を付けているが、「ぎんおとめ」については、「吟」の字を使って純米や本醸造を造ると混乱するので、平仮名の「ぎん」としている。


(問)解凍したスーパーフローズンは、どのくらいの期間楽しめるか。

(答)この瞬間の美味しさは、今日しか楽しめない。明日になったらもう少し熟すが、熟したら悪い訳ではない。明日は明日の美味しさがある。

蔵では、生酒の期間は1週間以上は置かないようにしている。1週間以内に飲みきってもらえば、何とかなるかと思う。


(問)聖火ランナーの話をもう少しお聞きしたい。

(答)自分は、1万人いる聖火ランナーの中で、生まれた家と、自分が経営する会社の目の前を走った唯一のランナーではないかと思う。

聖火ランナーは、たった200mしか走らない。岩手県のランナーは「岩手県を走る」とされるだけ。市町村の指定はできない。それがたまたま二戸市で、更に自分が生まれた家と、自分が経営する会社の目の前を走るという奇跡のような事が起きた。

スタート時点は蔵から歩いて30秒。自分は歩いていくと言ったが許可されず、車で5分の集合場所に集められて、皆でバスに乗って各自のスタート地点に置いていかれる。

二戸市で走るのは10名で、その中で「二戸生まれ、二戸育ち、今も二戸に住んでいる」というのは2名だけ。そのため、聖火ランナーがスタート地点に連れて来られても、周囲の人の反応が薄い。

しかし、自分の走る場所は、住人が知り合いばかり。スタート地点に到着したら、皆盛り上がって「こっちに来い」とか「トーチを触らせろ」とか大変なことになった。道のあちこちから呼ばれるので行っていたら、警備の人に「スタート地点に戻って下さい」と言われた。

スタートして、できるだけ長い時間を過ごしたいのでゆっくり走っていたら、すぐに警備の人が来て「速く走って下さい」と指示された。200mの間も知り合いばかりなので、あちらこちらに手を振りながら横や後を向きながら走っていたら、「うしろ向きで走った聖火ランナーはお前だけだ」と言われた。


(問)オリンピックで来日する選手に日本酒を飲んで欲しいか。

(答)本当は、そういうパーティーでAWA酒を使う予定だった。乾杯酒もAWA酒に決まっていた。しかし、そういうパーティが全てできなくなってしまった。とても残念だ。


(問)「江戸時代の酒造り」の話をもう少しお聞きしたい。

(答)江戸時代の酒造本が見つかったという話は、日本全国で結構ある。しかし、今回は隣町なので、自分達の先祖が飲んでいた酒のレシピなのでトライした。

米も、その時代の米を使いたかったが、造りの前には見つけられず、古い米である亀の尾を使った。その後、江戸時代にこの辺りで作られていた「豊後」という米を見つけた。仙台の研究所に残っていた9~10粒を譲り受けて、今増やしているところ。酒造りに使えるようになるのは2年後。

来年は、隣町の水を持って来て仕込む予定。そして、2年後には米も復活して完成となる。

◆締めの言葉

・日本酒の輸出に力を入れているが、日本にファンを作らずに海外に行っても意味がないと思っている。世界に行くためには国内での評価が絶対に重要。国内の日本酒ファンを大事にしていきたい。

・世界に日本酒を広め、海外からのインバウンドが再開したら、日本に来た人が「日本で日本酒を飲む人はカッコいい、凄い」と言われるような、日本を目指したい。聖地日本のお酒として、これからも頑張っていきたい。

・日本酒もそうだが、ジンやウオッカなど、「南部美人」は挑戦を続けていくので、これからも是非応援して欲しい。

・コロナが収束したら、蔵に来て頂ければ全部お見せするので、是非二戸に来て欲しい。



◆まとめ

久慈さんの数々の新しい取り組みは素晴らしいですね。あっという間の3時間でした。コロナが収束したら、ぜひ蔵に行きましょう!
その間、積極的に日本の文化である「日本酒」を味わいましょう!!


最後に、恒例の集合写真です。みなさん、久慈さんの南部美人ワールドは、いかがだったでしょうか!!



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