2020.12.23
こんにちは!
兜LIVE!編集部です。
11月15日、オンライン配信による「Jazz EMP@Tokyo Financial Street 2020」が、「証券・金融の街」、「コト始めの街」である日本橋兜町の東京証券取引所「東証Arrows オープンプラットフォーム」にて開催されました。今回は現場で取材したイベントの様子を、前後編に分けてたっぷりお伝えします!
「Jazz EMP@Tokyo Financial Street」とは、「金融と音楽の融合」「若手ミュージシャンの育成」をコンセプトとして、2018年から開催され、今年で3回目を迎えるイベントで、”EMP”とは「Emerging Musicians Program」の頭文字をとった略称です。
兜町・茅場町を中心とした証券会社、金融関連事業者、事業会社をスポンサーとして、将来の活躍が期待される若手ジャズミュージシャンを出演者に、「資本市場の中枢」であり、兜町のランドマークでもある東京証券取引所を会場としていることに特徴があります。また、主催者の意向に左右されず、彼らが自ら演奏したい曲を自由に演奏してもらうことで、アピールの機会を提供し、今後の成長機会の増加に繋げていくという「若手育成」のコンセプトを中心としていることに、他のジャズイベントにはないオリジナリティのあるものとなっています。
3回目となる今回は、新型コロナウイルス流行の影響による昨今の情勢を踏まえて実会場でのライブを回避しつつ、演奏機会を減らされてしまった若手ミュージシャンのパフォーマンスをより多くのジャズファンに届けられるよう、東証Arrowsにスタジオを構えるインターネットテレビ放送局の「ストックボイス」の特別番組としてオンラインでの開催となりました。
また、ジャズ特有の「即興演奏」にも大いに関係のある「アート思考」をテーマとしたトークセッションなども交え、複数拠点での参加を可能とする、オンラインならではの機能を有効に活用した充実したイベントとなりました。
なお、このイベントの様子は、既に「ストックボイスオンデマンド(YouTube)」にアップされ、繰り返し視聴が可能となっています。
プログラムはトークセッション♯1「アート思考とジャズEMP」からスタート。登壇したのはシニフィアン株式会社 共同代表の小林賢治さんと、『13歳からのアート思考』を著書に持ち美術教師・東京学芸大学個人研究員・アーティストの肩書きを持つ末永幸歩さん。トークセッションではジャズに関連して、ワシリー・カンディンスキーの『コンポジションⅦ』を取り上げ「アート思考とは何か?」をわかりやすく説明してくださいました。
ワシリー・カンディンスキーはモスクワ出身のアーティスト。大学教員として活動していた30代のころ、たまたま足を運んだ展覧会でクロード・モネの『積みわら』を目撃し、彼の人生は大きな転機を迎えます。『積みわら』は多くの色調や筆跡によって構成された絵画。カンディンスキーは、抽象的で何が書いてあるかわからないこの絵に困惑し、衝撃を受け魅了され、アーティストとしての人生をスタートさせます。
アーティストとしてのカンディンスキーのテーマは、脳裏に焼き付いた『積みわら』のように、「抽象物を絵画で表現するにはどうしたらいいか?」ということでした。苦心の末、子どものころから親しんでいた音楽に目を付け、音を絵に落とし込むことでテーマのための手段を獲得。以来、抽象物を描写し続けました。
ここで大切なのは、「音楽を絵に描いたというよりは、何が書いてあるかわからなくするために音楽を使った」という点。つまり、必ずしも『コンポジションⅦ』から音楽を読み取るだけが正解となるわけではなく、鑑賞した人それぞれが自由に感想を抱いていい、というのがカンディンスキーのねらいである、と末永さんは説明されていました。例えるなら、作者カンディンスキーと鑑賞者が双方向の関係で、鑑賞者の数だけ『コンポジションⅦ』が存在する、というイメージでしょうか。
この例はアート思考の一例であり、末永さんはアート思考・アーティスト思考について「自分なりのものの見方で世界を見つめて、自分なりの答えを生み出し、その答えが新たな問いを生み出す思考法」だと説明。それに対し、かつて美学芸術史を学び、現在ビジネスの分野で活動する小林さんは「(カンディンスキーの例のような)こういう活動はイノベーションが盛んに叫ばれる、ビジネスの領域でも大事なことなのだと思いました」とコメント。
小林さんが学んでいた美学芸術学は、簡単に言うと感性的なことを議論するのであれば実は何でも良い、という幅の広い学問。小林さんはなかでもクラシックの演奏を研究されていました。
美学芸術学を研究したきっかけについて、「例えばバッハの演奏を聞いたときにバッハの作品なのか? バッハ+演奏家の作品なのか? 誰の作品なんだ? と不思議に思ったことだった」と話す小林さん。バッハが同じ曲をいろいろな楽器で演奏すること、バッハの楽譜に楽器の指示がないことに触れ、「バッハの時代にも演奏者がアレンジを加えることはあったし、現代の楽器でバッハを演奏することもある。それが間違っているか? といわれると、やっぱり素晴らしいんじゃないかと思うんですよね。なので、こうしなきゃダメだ、ということ以上のスコープを、バッハの作品は有していたのではないか? 正しい・正しくないを超えて、好き・嫌いを語れる、っていうことがもっとあっていいんじゃないか?」と投げかけます。
決まり切った正解ではなく、それぞれの感じ方でいい。小林さんのお話にはアート思考に通ずるものが感じられました。
続いてプログラムは、JAZZ SUMIT TOKYOの紹介へ。別室スタジオから、JAZZ EMPの副実行委員長・東海林正賢(しょうじまさより)さん、JAZZ SUMIT TOKYO代表の中山拓海さんによるトークが行われました。
「今回は、昨今のジャズミュージシャンがどういった状況にあるのか、生々しい話をしてもらおう、と中山さんに登壇をお願いした」という東海林さん。また現状を打破すべく、中山さんが新しく活動を始めたJAZZ SUMIT TOKYOについての紹介もしていただきたい、と話しました。
中山さんは現在の状況について、「ライブの本数はもどりつつあります。しかし座席数が限定されているため、ミュージシャンもそうですけど、ジャズのお店もとっても苦しい状況で、都内だけでも何店舗も閉店してしまいました。またバイトを始めたミュージシャンの方もいれば、悲しいことに活動を退いてしまった方もいらっしゃいます」と厳しい状況を口にしました。
東海林さんは「ビジネスマンや社会にとって、芸術やアートは非常に重要なんですけれども、なかなかそこを社会として支持する状況になっていない」と現状の仕組みについて苦言を呈します。Jazz EMPはそんな仕組みを変えることも活動の一つです。
一方の中山さんがスタートさせたのが、JAZZ SUMIT TOKYO。「いい音楽を良い映像と共にお届けする。JAZZ SUMIT TOKYOがファシリテーターとなって、いい音楽を発信している人をわかりやく伝える方法をとっています」と今の世の中の流れに合った取り組みを始められました。
JAZZ SUMIT TOKYOはサブスクリプション制で、リスナーは映画のように美しい映像と本物の音楽を、月額1,000円で体験可能。資金は、クラウドファンディングで募っています。中山さんは「JAZZ SUMIT TOKYOはミュージシャンそれぞれに対しての支援ができる。今までにないような音楽家と音楽を聴きたい人、音楽家と繋がりたい人の新しい繋り方を提案していければ」と展望を語り、セッションは終了となりました。
開会のあいさつは、先ほどに引き続き東海林正賢さんが登壇。好天の日曜日にも関わらず、配信を見てくれている方々にお礼の言葉、また協力していただいた方々や、24社のスポンサー団体に対して感謝を述べられました。
挨拶ではJazz EMPが、なぜ東京証券取引所で開催されているのかを解説。「ベースには『ニューヨークでもベルリンでもパリでも、国際金融都市であり、イノベーションが非常に進んでいる街ではジャズがあふれているけれども、兜町にはジャズがない』『ジャズがないとイノベーションが盛んにならない』という、実行委員長有友の考えがあります。そのため、国際金融都市を目指す兜町でも、「金融と音楽の融合」を実現し、イノベーションを喚起するジャズやアートをもっと広めていきたい、ということで兜町のランドマークである東京証券取引所を使わせていただいています」と東海林さん。
これに加え、Jazz EMPには金融業界の方々にジャズの良さ、若手ミュージシャンの実力を理解してもらい、コロナの影響を受けて厳しい状態にある彼らがスポンサリングを受けられるようにしたい、という狙いがあるそう。若手ジャズミュージシャンが演奏したい曲を思いのままに演奏してほしい、という願いもあります。さらに国際金融都市構想を実現していくなかで日本のアート面の強みを街の魅力としてアピールしていきたいと、開催への熱い想いを語っていました。
2020年度のJazz EMPは東京都も後援。小池百合子都知事からはビデオメッセージが寄せられました。
都知事は「芸術の秋にふさわしい、金融と音楽の融合。Jazz EMPは、ジャズミュージックにおける新しい才能を応援していくプログラムですが、この取り組みが金融に関係するさまざまな人々に発信されることで、多様性に満ちた東京の文化の魅力についての認知度が一層高まることを期待しています」と、開催へのエールを送ってくれていました。
トップバッターを飾ったのは、さまざまなバンドでドラマーとして活躍する、木村紘さんがリーダーを務める「木村紘カルテット」。演奏は木村さんのオリジナル曲が中心で、これまでの多種多様な音楽経験からくる、印象的なメロディーを奏でつつ、ときにはパワフルな即興も兼ね備えた、さまざまな一面を見せる音楽が特徴的です。
1曲目は「遠雷」という曲名のとおり、ゆったりと心地いいテンポで始まり、中盤から終盤にかけてはダイナミックで迫力あるナンバーへ。そして、その空気感はそのままに、畳みかけるようにベースのソロから始まる、2曲目が演奏されました。この2曲目は木村さんが、ベースの古木さんがよく弾いているフレーズを活かしたい、と作曲したもの。まるで真夜中をイメージさせるような静まったリズムに、木村さんの狙い通りベースの低音が絶妙にマッチしていました。最後の3曲目は、今年4月~5月のコロナ禍による自粛期間中に、窓から移り行く季節を眺めながら制作した、という曲を披露。寂しげなメロディーからはじまり、やがて外に出たい、活動したい、と訴えかけてくるようなフレーズへと変化する、切実で熱い想いが伝わってくるような一曲でした。
続いての演奏は、ジャズを基礎にトランペットやギター、そして電子音を用いて演奏する4人組のグループ「Klehe」。「僕たちのライブではいろいろな音が鳴ると思います」の言葉通り、40分ノンストップの演奏中、通常のジャズ音楽では考えられないほど多くの音が幾重にも響きあっていました。
特徴的な電子音は機械的でありながらも、複数をレイヤーのごとく積み重ねていくうちに、やがて木々が風に揺れる薄暗い林のような音へ変化。電子が自然をイメージさせる、という衝撃的なものでした。演奏では電話のようなコール音や、スティックを落とす音、息を吐く音を使用。さらにはギターをバイオリンのように弓で弾いてみたり、袋をこすってみたり……。何の変哲もない音、めったに聞かない音、ノイズさえも彼らにかかれば、独自の世界観を構成する音の要素となり、視聴者を圧倒させるような確固たる音楽に仕上がっていました。
この後のトークセッションと3組の演奏は、【後編】に続きます。
YouTubeで演奏の配信がされていますので、皆さんも極上の音楽に浸ってください。
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