2024.10.31
こんにちは!兜LIVE! 編集部です。
7月27日(土) 、『日本酒を蔵元トークとテイスティングで楽しむ』を開催しました。 今では国際金融都市といわれる日本橋兜町。
江戸時代には日枝神社の門前町として栄え、酒問屋で賑わっていた「日本酒の聖地」でした。
東京証券取引所において初上場時の5回の鐘撞は、五穀豊穣に因んでいるとのこと。平日は賑わうこの兜町に、休日にも人が集まってもらいたい。そんな願いから日本各地の蔵元を招き日本酒について学び、味わい、楽しく交流し、その魅力を、兜町の魅力といっしょに広め、お酒が地域と人をつなぐ場所...。そんな場所に発展するように願いを込めて、毎月1回日本酒セミナーを開催しています。
今回は、山形県鶴岡市で「吾有事」を醸す株式会社奥羽自慢の阿部さんをお迎えして開催しました。お楽しみください!
・2012年1月に楯の川酒造に入社しました。入社のきっかけですが、最初は酒造りをやりたくて入社した訳ではないです。就活中にバイトを探していたところ、ハローワークの人に勧めてもらったのが、たまたま楯の川酒造だったのです。
・1月から5月までの季節雇用で入社し、その期間で辞めようと思っていたのですが、 洗米や楷入れなど酒造りをやらせてもらったら、酒造りが非常に面白くなりました。米と水だけでなんでこんな液体(日本酒)ができるのだろうかと疑問に思い、それを先輩に質問して解決すると、また違う疑問が湧いてきて、それを解決していくのが面白いのですね。そんな状況になったので、社長に直談判して正社員として雇ってもらいたいとお願いして、2012年6月に正社員となりました。
・2017年、奥羽自慢に「出向」という形で異動して、新ブランド「吾有事」を立ち上げました。当時の写真ですが、一番左が佐藤淳平社長です。当時は楯の川酒造から数名出向して、この5人でお酒を製造していました。
・山形県の鶴岡市にあります。庄内地方で日本海沿いです。元々、櫛引町だったのですが、平成の大合併(平成17年)で、現在の鶴岡市になっています。
・設立は、平成25年7月1日ですが、佐藤仁左衛門酒酒造場時代から数えて、創業が今年で300年になります。先日、300周年のイベントをさせていただきましたが、 東京など遠方からからわざわざ来ていただいた方々もいらして、約600人くらいの集客があり、大成功に終わっています。
・代表者は、楯の川酒造と同じ佐藤淳平が務めています。
・社員8名・パート3名の計11名(うち2名は季節労働)に、阿部を入れて12名で 酒造りとワイン造りをやっています。
・ 製造量ですが、2023BYが230石でした。これまでは最高で380石の時期もありましたが、2021年のコロナ以降は減石しており、現在は230石となってい ます。
・奥羽自慢の外観になります。茅葺き屋根で、前代表の佐藤仁左衛門さんの奥様の住宅も併設されています。
・毎年、年明けに杉玉を交換しています。
・山形県は人の横顔のような形になっており、庄内地域、最上地域、村山地域、置賜地域の4つに分かれています
・鶴岡市は、地図上では鼻の辺りにあるような感じで、山形県の日本海沿岸(庄内地方)南部にある人口約10万人の都市です。
・2005年(平成17年)10月の市町村合併により県内人口が第2位です。
・江戸時代には鶴岡藩(通称、庄内藩)の城下町として盛えました。
・奥羽自慢のある旧櫛引町は、山に入ったところで雪深く、積雪が全国で1位になるくらいの雪が多く降るところです。その当時(5,6年前)のニュースです。例えば、 朝、車を駐車して夕方まで動かさないと、1日でこんなに雪が降ります。
・食べ物では、だだちゃ豆が有名です。
・仕込水は井戸水で、フィルターを通して塩素処理して使用しています。
・出羽三山(湯殿山、月山、羽黒山)がありますが、そのうち一番高い山が月山になり、その月山水系の水を使用しています。
・硬度は30~40で、超軟水になります。山形県は全体的に軟水が多く、酒になったときに余韻の長いお酒になることが多いです。
・2022年より「大乗水」という濾過設備を導入することで、よりクリアになったと思います。
・ 「吾有事」と書いて、「わがうじ」と読むのですが、曹洞宗の開祖道元禅師の言葉で、自分の「存在」と「時間」との一体感を表します。
・酒造りは、自分の存在や時間が溶けて、忘れてしまうくらい没頭するもの。そのように没頭して造った日本酒を、多くの人に味わって欲しいという想いから命名しました。
・最初に、この吾有事の意味を聞いた際、飲み会の時に仲間たちとお酒を飲んでいると時間を忘れて、あっという間に時間が経過しますが、そこに「吾有事」というお酒があったら嬉しいと感じました。もっとも、オフィシャルな説明としては、「時間を忘れて没頭して造った日本酒を、多くの人に味わって欲しい」の部分になるのですが、自分としては、このことを考えながら、吾有事を大事に育てて来ました。
・メインで使用している米は、出羽燦々50%、美山錦55%、雪女神50%になります。 地元である庄内産の米を使用しております。楯の川酒造が契約している地元の農家さんのお米を楯の川酒造で精米したうえで、奥羽自慢に送られて来ます。
▼酒造り工程
原料処理⇒製麹⇒酒母造り⇒醪管理⇒上槽⇒濾過⇒火入れ・瓶詰め
▼原料処理(洗米)
・白米計量機で10キロずつ測っていきます。
・初年度はこの機械がなかったので、重量計でザル毎に手作業でやっていました。社長も作業に加わっていましたが、腰を痛がっていました(笑)
・計量したお米を洗米機で洗い、右側のシャワーで更に洗い流します。手前側で浸漬作業を行っています。
・浸漬して吸水させているところです。上に黒いお皿が浮いていますが、浸漬中に水が濁っていない状態にするということを一番目指しています。より綺麗に米糠を落としているので、水に浸けた時にはもう濁りません。
・甑に入れて、蒸気が抜けてから50分程蒸します。
・蒸し上がったら手で掘っていきますが、ゴム手袋をしてもかなり熱いです。
▼製麹
・お米を室に引き込んで、夕方、「切返し」を行い、総突破精の麹にします。使用する種麹は、ひかみ、白夜、白麹です。
・盛り前の切返しも普通は切返し機を使いますが、全てメッシュを通し温度低下を防ぎ、米一粒一粒が麹になるように意識します。
・奥羽自慢の特徴としては、種切り後、切り返しして、翌朝に小箱に盛っていく作業があるのですが、メッシュを使って切り返しを行っています。
・基本的に、他の蔵は切返機を使ってお米をバラバラにしていますが、奥羽自慢の場合、引込み量も少なく、メッシュでやった方が温度も下がらず、お米がバラバラになるので、このメッシュを使って切り返しをしています。
・切返機は、モーターに棒が何個か付いてて、それが高速に回って、そこにお米を入れることによってバラバラにしていくのですが、モーターが回っているため、風が出て麹の温度が下がってしまうとか、一個一個バラバラにならないことがあるので、奥羽自慢ではメッシュを使っています。実は、吾有事を製造するまでは、切返機を使っていました。
・2023年から室を新しくして、ステンレスのパネルに切り替わっています。
・引き込み・種切り、翌日に盛り、その翌日に出麹作業があるのですが、奥羽自慢の場合、この出麹ボックスの中に入れて作業します。右上の装置は送風機で、風を送ることにより麹の水分量を調整していきます。
・麹用冷凍庫です。現在、奥羽自慢では麹の引き込みを2つに分けています。酛麹〜添麹、仲麹まで一緒に引き込んで、留だけは別に引き込みます。他の蔵は基本的に、初添え、仲、留を別々に引き込きますが、引き込んだ時に室の中に2つの種類のお米が必ず入ることになりますので、管理が少し難しかったり、種麹や米が違ったりします。その場合、一時的に手袋を替えるとか、混ぜてはいけないものを混ぜてしまうリスクがあるので、奥羽自慢の場合は基本的に1種類だけ引き込むようにしています。引き込んで、使用するまでに時間があった場合は冷凍庫に入れて冷凍しています。
▼酒母造り
・奥羽自慢では、速譲酛(人工的につくられた乳酸を直接添加して酒母を育成する酛のタイプ)で、その中でも中温速譲という仕込みを行っています。仕込みの温度は20℃ ぐらいになります。
・なぜ、中温速譲にしているかといいますと、酛の日数が短いほうが味わいがライトになるのではないかと思っています。元々、普通速譲を採用していたのですが、中温速譲に切り替えてからは、大体1週間くらいで仕上げています。
・使用酵母は、基本的に協会601、1801ですが、1401を使うこともあります。
<酵母の特徴>
協会601号
秋田の新政が発祥の酵母。現在頒布されている酵母の中で、最も古い酵母になる。 酢酸イソアミル(マスカット様)をよく出し、低温でも高アルコール下でも元気に生育する。
協会1801号
16号と9号からできたカプロン酸エチル高生産性酵母カプロン酸エチルの特徴香である、パイナップル・リンゴなどの吟醸香がある。
協会1401号
生成される酸が少ないために綺麗な味の仕上がりとなる。酢酸イソアミルの中でもバナナやマンゴーの様な吟醸香が特徴。
▼醪管理
・酛を大きいタンクに移動させ、3回にかけて掛米を入れていくこれを一般的に「3段仕込」といいます。
最後の留仕込みから約1か月間(28日)かけてゆっくり発酵させていきます。日本酒独特の「並行複発酵」という発酵をします。
・山形県の場合、酸をあえて出さない造りが良いとされていたので、酸を出さない造りで、低温でじっくり1か月から35日くらいかけて造るのが一般的です。
・26才の時に醸造責任者になって普通に仕込んだのですが、あまり特徴のないお酒が出来上がりました。酒屋さん営業をしている際に、せっかく若いのだから、もっと尖った酒造りをしたほうが良いのではないかとアドバイスを頂きました。自分は酸味が好きだし、山形県で酸味のあるお酒があまりなかったので、酸を軸に酒造りをやってみようと決意し、もろみ管理の仕方を一番大きく変えました。
▼仕込み風景
・奥羽自慢の場合、放冷機がないのですべて自然放冷になります。
① 蒸米をさらし板に広げます。社長の作業風景です(笑)
② 蒸米を放冷します。
・放冷機で使うと楽ですが、自然放冷の方が良いと思っています。理由としては、近年気象状況によって、米が硬いとか軟らかいといった問題が毎年発生していますが、自然放冷の場合、この管理が非常にやり易いです。放冷機ですと一定の速度でコンベヤーにお米が乗っていくので、途中で止めることができないですが、自然放冷の場合、軟らかい年だったら放冷時間を延ばして硬くしたりとか、逆に米が硬い年にはこの晒し時間を短くして、解けるように操作することが簡単にできますので、酒質のコントロールがやり易いと思っています。
③ 蒸米を晒します。
④楷入れをしながら、晒した米を手作業でタンクにいれます。
▼サーマルタンクと流量計
・2017年当時は、仕込みに使えるサーマルタンクは1本もなく、水が流れるジャケットを巻き、8本で仕込みを回していました。その後、少しずつ設備投資をして、サーマルタンクが全部で9本になり、ホーロータンクも8本あるので、全部で17本あります。
・香り系の酵母は、低温で発酵させた方が良い香りが出るので、基本的にサーマルタンクで仕込むようにしています。
・右上の写真ですが、奥の方が流量計で手前がスネークポンプになります。流量計は、仕込水をタンクに送る時に使います。元々は、前日に翌日使用する分の水をタンクに入れて冷水器で冷やして、翌日仕込みに全量を使います。もっとも、前日に水を冷やし忘れると、冷やした水がないという状況になってしまいます。この流量計と水を冷やす用のサンマルタンクをつなぐと、添えは100ℓ とか、仲は250ℓ のように水の量を操作できるので、非常に便利です。
・流量計は、タンクの検定もできます。タンクは水が何 ℓ 入るかの証明を取る必要がありますが、この機械を使うとその証明が取得できます。
▼上槽
・2017年は佐瀬式の槽で絞っていました。左が醪を入れる前で、右が醪を入れた後になります。
・1枚ずつアルミの板(2m弱)があり、その間に折り畳んだ布が入っていますが、毎回2人でセットする必要があります。板をセットするのも、絞った後に粕を抜くのも全部2人がかりでやらなければならないので、かなり重労働でした。
・味わいのコンセプトは、フレッシュでガス感のあるお酒ということでしたが、基本的にお酒がずっと空気に触れた状態で流れていくので、フレッシュ感というよりはまったりした感じのお酒が出来上がるので、翌年、社長にお願いして「ヤブタ」を購入してもらいました。 現在は、冷蔵庫の中にヤブタが入っています。
▼濾過
・一般的な sf フィルターを酒粕や酵母を分離します。
▼火入れ・瓶詰め
瓶詰めは、お酒を絞り、翌日濾過して、その翌日に瓶詰めして、そのまま火入れして、冷蔵庫に入れます。他の蔵に比べるとかなり早いと思いますが、楯の川流のやり方になり、お酒に与るダメージを最小限にすることができます。
▼分析機器
・今年導入した振動密度計は、日本酒度とアルコール度数を測ります。元々は「浮ひょう計」という機器で測定していましたが、測定時の温度によって日本酒度に差が出てしまうため、温度を15℃にする必要がありました。振動密度計を使うことによって、測定時間が短縮できるほか、正確に測れるようになったので非常に役立っています。
・2016年からぶどうの栽培を開始し、2018年からワイン醸造を開始しました。 「HOCCA」という銘柄です。2021年9月に、先程の茅葺き屋根の向かいにワイナリーを建設しました。
・HOCCAは、農家さんが農作業するときに手拭いを頭に巻く、ほっかむりから作った造語になります。
・現在、HOCCAはもっと種類があるのですが、写真は左からシードル(リンゴの発泡酒)です。白ワイン、赤ワインです。
・現在、コロナ禍もあり、栽培事業については一旦撤退してまして、醸造用ブドウを購入して、製造だけ行っています。
・3種類ご用意しました。
・お酒のスペック等については、以下の資料をご覧ください。
では、乾杯!
・毎回、恒例の集合写真です。美味しい日本酒を飲んだ後の余韻が伝わってきますね!
阿部さんに初めてお会いしたのが入社間もない頃でしたので、10年以上のお付き合いになります。阿部さんの立ち上げたブランド「吾有事」は、東京のあちこちの飲食店で 美味しく飲ませて頂いています。現在は月光川ウィスキー蒸留所でウィスキー製造に携わっています。今度は、阿部さんがブレンドしたウィスキーが飲める日を楽しみにしております。また、山形県酒田市でお会いしましょう!
<イベント前には渋沢栄一翁が生涯大切にした佐渡の縁起石「赤石」にタッチして運気 アップ!渋沢栄一オブジェもご一緒に(笑)>
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