2024.10.04

【金庫巡り】#7_遠山偕成 兜町ビルに行ってきました!

こんにちは!
兜LIVE!編集部です。


この連載【金庫巡り】では、この日本橋兜町・茅場町周辺にある古い金庫にフォーカスして、その歴史や魅力を発信していきます。
今回は、戦後日本の証券業界に大きな影響を及ぼした「遠山元一(とおやまげんいち)氏」に関係する金庫について、前後編でお届けします。
前編となるこの第七回では、「遠山偕成株式会社」を訪れました。建物の地下には、かつて証券会社が使っていたという2種類の金庫があります。過去の資料も交えながら、現物を見せていただきました。


◆遠山偕成株式会社とは?


遠山偕成株式会社は、オフィス向け賃貸ビルを中心に事業をおこなっている企業であり、今回取材した金庫がある「兜町偕成ビル別館」も所有物件の1つです。


親会社である遠山偕成ホールディングス株式会社の所有物件も含めて東京都内にオフィスビルを10棟、福岡県内に8棟保有しているほか、東京都の港区及び大田区には住宅を保有。さらに、土地賃貸業や港区高輪にてパンの製造・販売業もおこなっており、共通するのは「お客様にとって快適な環境を提供する」という理念です。


創業者は、SMBC日興証券の創業者かつ初代会長であり、「兜町の天皇」とも呼ばれた遠山元一氏。現在は、孫にあたる遠山明良氏が代表取締役を務められています。


社名の「遠山」は遠山一族の名字から、また「偕成(かいせい)」は「偕(とも)に成る」という意味で、聖書から用いた言葉が由来とのことです。


◆遠山偕成株式会社の「貸金庫」と「本金庫」

今回見せていただいた金庫は、兜町偕成ビル別館の地下にある「貸金庫」と「本金庫」です。



当時の竣工図を拝見すると、「貸金庫」の手前には「監視室」が設けられていることから、会社が使用する金庫と顧客が利用する金庫を区別して管理していたと考えられます。



こちらが「貸金庫」です。ずっしりと重い金庫扉には擦り切れた跡があり、頻繁に開け閉めされていた時代があったことがうかがえます。金庫扉は特注で製作されたものと推測され、少なくとも昭和37年10月以前に作られたもののようです。



二重扉になっているほか、金庫内に閉じ込められた際の緊急用設備も設けられています。



金庫がある部屋の手前にある小部屋は、かつて監視室として使われていた場所です。



次に「本金庫」を見せていただきました。「貸金庫」と同じフロアにあり、2つの金庫室が並んでいる形です。



「貸金庫」と造りは同じですが、金庫内の空間はさらに広く、また心なしか金庫扉もより重厚な雰囲気をただよわせています。



これらの金庫の主な用途は、株券の保存です。特に高度経済成長期には活発な取引が行われ、金庫内には大量の株券が積み上がっていたものと想像されます。



しかし時代が進み、株券の電子化によって2009年に紙の上場株式が無効になると、両金庫は本来の用途を失いました。その後、一時期はテナントによって倉庫として利用されていましたが、現在では、扉のダイヤル番号を知る人もいなくなりました。



今はひっそりと地下に眠る「貸金庫」と「本金庫」ですが、遠山偕成株式会社ではこれらの金庫の今後の活用方法について検討を進めているとのことです。


◆兜町偕成ビルについてお話をお聞きしました

兜町偕成ビルについて、社員の伊賀雄二郎さんにお話をうかがいました。


伊賀雄二郎さん(不動産事業部 東京不動産事業課長)
証券会社でリテール営業に従事ののち2007年5月から現在不動産業に従事されています。保有物件のPM、BM業務、物件の売買、事業計画の策定等に携わるほか、約10年前から地元兜町町会に入会し、理事を務められています。


◆昭和37年(1962年)竣工時の様子について

――ビル竣工時のエピソードを教えてください。



伊賀さん
「兜町偕成ビルは、竣工当時から弊社の所有物件だったわけではなく、本館は偕成不動産株式会社が、別館は日本勧業証券株式会社が所有していました。当時の竣工図を見ると、本館と別館は施主が異なっています。これは敷地の有効活用を図るとともに、建築費を抑えるための決断だったのではないかと推測されます」



「弊社は昭和46年(1971年)に本館を、平成12年(2000年)3月に別館を取得して、現在の管理体制になっています。今回ご覧いただいた金庫は、竣工時は日本勧業証券が使用しており、それ以降も証券会社等が使用したのち、2014年に本来の役割を終了しています」


◆ビルを彩るアートの力。遠山家と芸術の関係

――ビルにはさまざまな芸術作品が飾られていますね。詳しく教えてください。



伊賀さん
「兜町偕成ビル本館入口の外壁に設置されているアートは、鳥取県出身の彫刻家・辻晉堂(つじ しんどう)による「雲」という作品です。以前、鳥取県立美術館から取材いただいたこともありますね。気づきにくいかもしれませんが、来館された際は、ぜひご覧いただきたいと思います」



「本館エントランスのドアは、日本橋 榛原(にほんばし はいばら)様による和のデザインで彩られています。古ビルならではの見せ方ができないかということで、2024年夏から始めた試みです。季節に合わせて3か月ごとにデザインが変わり、春夏秋冬それぞれの意匠が楽しめるようになっています」



辻晉堂は「陶彫」で国際的にも有名であり、戦後の現代美術の世界で確固たる地位を築いた人物です。日本広しといえど、世界的な彫刻家の作品が見られるオフィスビルは貴重な存在といえるでしょう。


また、榛原は文化3年(1806年)の創業であり、和紙及び紙製品の販売をおこなってきた歴史ある老舗です。


派手で目立つ装飾ではなく、ひそやかで上品にオフィスビルを飾る。その在り方からは、創業者である遠山元一氏から続く遠山家の芸術への想いが感じられます。


遠山元一氏は美術品収集家としても有名であったほか、長男・遠山一行氏は音楽評論家、孫の遠山公一氏は美術史家であり、現代表取締役の遠山明良氏も音楽を嗜まれる等、遠山家は実業家であるだけでなく、芸術に造詣が深い人々も輩出してきました。
そんな遠山家が管理する建物だからこそ、アートはビルを構築する大事な要素なのかもしれません。


◆カフェで歴史を次世代へ伝える。遠山偕成が試みる新たな「継承」の形とは

金庫がある兜町偕成ビル別館について、1階のエントランスホールを利活用する試みが進められているとのことで、そちらのお話も伺いました。


――オープン予定のカフェとは、どんなものですか。



伊賀さん
「エントランスホールはかつてテナント様のカウンターがあり、店頭業務ができたほどの広さがあります。このスペースを有効活用して、2025年にカフェをオープンする予定です。コンセプトとして挙げているのは、『レトロ化』です」



「カフェには、かつての兜町の風景写真をはめ込んだステンドグラスや写真を展示し、昔の街の様子がわかる空間を作ります。本館ドアの装飾を手がけていただいた日本橋榛原様の御一族でステンドグラス作家の中村愛子さんとコラボし、ステンドグラス製作も行っていただくことになっています」


*上記が予定している下絵


「私がこの会社に入社したのは2007年ですが、その頃にはいわゆる場立ちさんもいなくなった後で、兜町はかなり閑散としていました。正直、寂しい街だなという印象は否めなかったですね。しかし、近年は平和不動産さん主導で街を盛り上げていただき、土日も若い人たちで賑わう空間になったと思います。私は兜町町会という町の組織でも仕事をしており、さまざまなイベントを開催していますが、コロナ禍が明けた影響もあってか最近は特に急激に人が増えてきた印象があり、非常に嬉しいです」


「今の若い人たちは働く環境や街で職場を選ぶことも多いですし、飲食だけでなく就職目的で兜町に来てくれる方も大勢出てくるのだろうと思っています。またこれから第2・第3の開発も行われていくのでしょうし、私たちとしても大いに期待したいところです」


撮影:諸河 久(公益社団法人・日本写真家協会会員)


「一方で、古くから長くご商売をされたお店が少しずつ閉店していく姿も目にするようになりました。私たちよりも上の世代の方々から、自分たちが使っていたお店がどんどん無くなってしまう寂しさをお聞きすることも増えてきました。街がどんどん変わる中で、失われる風景も多くなってきたわけです」


(提供・中央区立京橋図書館)


「現代的な最新のカフェは平和不動産さんが素晴らしくやっていらっしゃいますから、私たちは逆に『古さ』を活かした表現をしようと考えました。そこで、昔の町並みの写真を展示したレトロなカフェを開くことにしたんです」


「新しい商業施設やオフィスビルができることによって若い人が増えるのは、大いに嬉しいことです。その一方で、昔の兜町の伝統文化も後世に継承する必要があり、何らかの形で表現しないといけない。その一つのやり方が、我々が今考えているものだと思っていますね」


過去をただ懐かしむのではなく、現代のニーズに合わせて進化させる、まさに「温故知新」の実践。どのようなカフェになるのか、今からとても楽しみです。兜LIVE!でも続報をお届けする予定なので、ぜひチェックしていてくださいね。


◆まとめ


金融の街として栄えた過去を持ちながら、一時はその輝きを失った兜町が、近年再び活気を取り戻しつつあります。


今回の取材を通じて、遠山偕成株式会社は不動産事業を通じて兜町の発展に貢献すると共に、この街の歴史と未来をつなぐ重要な役割を担っていると感じました。過去の記録や記憶を大切にしながら、アートの力を借りて新たな魅力を創出する取り組みは、実業と芸術の両面で才能を発揮してきた遠山家の精神を受け継ぐものといえるでしょう。


後編では、遠山元一氏の邸宅を元に作られた「遠山記念館」にある金庫をご紹介します。遠山家のさまざま収蔵品を守っていた金庫とは、一体どのようなものなのでしょうか?お楽しみに!


遠山偕成株式会社


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