2020.06.10
2020年5月末、これまでの兜町にはなかった新しいスタイルのビストロ「Neki」がオープンしました。シェフの西恭平さんは、これまでビブグルマン獲得の有名店で活躍し、メディアに登場した実績も。これは、兜町に新たな風が吹く予感……!開店準備中の店舗を視察し、お話をうかがいました。
――西さんはじめまして。とってもオシャレなお店ですね!
そう言っていただけて嬉しいです。
――早速ですが、西さんが料理人を目指された背景を教えていただけますか?
父がホテルの総料理長だったので、その影響は大きかったと思います。父の職場に家族で食事に行くことも多く、“レストランで食事をする”という体験は幼少のころから身近でしたね。
中学・高校時代は、よくいるサッカーやバンドが好きな少年で(笑)。音楽の専門学校に進みたいと思っていたんですが、現実的に仕事として考えたときに音楽って難しいですし、自分の中のどこかで「料理人になるのもアリかな」という思いはあったんです。そこで父に相談したところ、「本気でやるなら応援するよ」と言ってくれたので、料理の道に進むことにしました。
父が「実際に料理の世界に入ると、お菓子のことを勉強する時間なんてない。まずは製菓学校に行っておくのが良いと思う」とアドバイスをくれたことから、製菓専門学校を選択しました。卒業後は、京都のホテル、レストラン、ビストロで6年間経験を積みました。
――その後、フランスに渡られたそうですね。
レストランで修行する中で、「もっと良いものが知りたい、本場フランスで勉強したい!」という思いが募っていきました。そこで、知人に現地の方を紹介していただいて、ワーキングホリデーとして渡仏したんです。場所は、アルザス地方のオーベルジュ。「フランスに行くなら地方料理が勉強したい」と思っていましたし、当時からビストロやカフェレストランのようなカジュアルダウンしたお店に憧れがあったので、私にぴったりの職場でした。
現地の空気は、かなり独特でした。日本のホテルやレストランは年齢に応じた階級制ですが、フランスは完全実力主義。やればやるほど認められて、優秀な人は若くても料理長になり、できる人だけが残っていく。そんな実力社会を目の当たりにしました。
そんな環境でも、辛いことや挫折は無く、楽しい日々でしたね。店の裏にはブドウ畑が広がっていて、その風景を眺めながら仕込みをしたり。ワインも安くておいしいものが多いですしね。当時の楽しかった経験や、あのとき飲んだワインの味は、今の料理に反映されていると思います。
実は、私の店と同時期に目と鼻の先に開店するパティスリー「ease」の大山恵介(※)は、当時フランスで一緒に働いていた仲間なんです。住み込みだったので、店の裏の寮で一緒に暮らしていたんですよ。
(※パティシエ・大山恵介さんのインタビュー記事もあわせて公開中!URLは末尾にて)
――それはビックリです!当時のお仲間が近所で開店するなんて、感慨深いですね!
――直近は、渋谷の人気店「ビストロロジウラ」にお勤めでしたね。
「ビストロロジウラ」は、自然派ワインと手づくりの料理を提供するカジュアルスタイルのビストロで、幅広い層の方に楽しんでいただける料理をお出ししています。当時のオーナーは、まさに私の好みを体現している人で、料理はもちろん、内装、BGM、飾っているアートのすべてが理想的でした。そういうものを間近で見ることができて、勉強させてもらいましたね。
――「ビストロロジウラ」での経験は、「Neki」のルーツとも言えますね。料理人として大事にしていることはありますか?
そんなにたいそうなことは考えていませんが(笑)、美味しいものをつくれる人で在りたいですね。食材は、色んなものを柔軟に取り入れてみて、そこから“自分の料理に合う・合わない”を振り分けるようにしています。スタッフとは上下関係なく、カジュアルな関係です。「みんな、ありがとう!」という感じですね(笑)
――今回の独立を決められたきっかけは何でしたか?
自分の店を持ちたいという思いはずっとありました。ロジウラの経験も5年になり、ある程度やりたいこともできたので、そろそろ次のステージに行きたいと思っていたんですね。
それで、自分でも出店場所を渋谷あたりで探していたんですが、あの辺はすでに素敵なお店がありすぎるので、「渋谷で始めるのはチャレンジングではないな」とくすぶっていたんです。
そんな中、フランス時代の同僚の恵介(※「ease」のパティシエ・大山恵介さん)が「一緒に出しませんか?」と、この物件と兜町の再開発の話を持ってきてくれて。兜町は、今はそこまで飲食店が多いわけではないですが、散策してみると素敵な建物もたくさんあるし、この街に出店できたらすごく良いんじゃないかと、イメージがパッと見えたんです。それが決め手になりましたね。
――タイミングとご縁がつながったんですね!「Neki」という店舗名は、外国語ですか?
実は「ネキ」って、関西地方で使われる方言で、“そば・かたわら”という意味なんです。
(※漢字で「根際」と書く)私は使ったことはないのですが、祖父や祖母が使っていた言葉です。この店は、色んな方から身近な存在に感じてもらえる“ネイバーフッド”的な立ち位置にしたいので、店名を考えているときにその言葉をふと思い出して。試しに「Neki」と英字で書いてみたら「ソレっぽいな!」と(笑)。
「Neki」のコンセプトは、“見た目やしつらえはカジュアルだけど、料理やドリンクは本当に美味しいものを提供している店”です。そういう店って、パリとかNYにはたくさんあるのに、まだまだ日本には少ないので、私が根付かせて行きたいと思っています。
――ステキですね!デートで連れてきてもらったら、グッときちゃいそうです!
うん、きっとクラッときちゃいますよ(笑)。
――内装も外装も洗練されています。店舗デザインは、どのようなテーマでオーダーしたのですか?
実は、コレというテーマはなくて。「料理はちゃんとやりたい、レコードを置きたい」など、やりたいことを設計者にどんどん投げて、はめ込んでいった感じです。北欧テイストとかNYテイストとかではなく、色んな要素をミックスして、近隣にも馴染むデザインに仕上げました。でも、オープンキッチンはマストでしたね。お客さんとのコミュニケーションは楽しいですし、カウンターでの接客は絶対必要だと思っているんです。
料理は、皿の上に乗っているものだけでなく、空間全体で楽しむものと考えています。この店に来ること自体を楽しんでもらいたいんですよね。BGMは、ジャズやヒップホップなど、私がセレクトした心地よい音楽をレコードでかけています。
――空間全体を楽しむ……。西さんの哲学ですね。メニューはどのようなものですか?
実は、メニューはまだ決めきれていないんです。固定のメニューも用意しつつ、旬の食材を取り入れた日替わりも用意しようと、色々構想中です。フレンチがベースではありますが、“フレンチビストロ”とは謳わずに、あえてジャンルをカテゴライズしないでいこうと思っています。
ドリンクのメインは自然派ワイン、ビールはクラフトビールを瓶で。日本酒は勉強中なので、スポットで入れて行きたいですね。ゆくゆくはオリジナルカクテルもつくれたらと思っています。
――どんなお客さんに来ていただきたいですか?
近辺にお住まいの方はもちろん、幅広い方々にお越しいただけたら嬉しいですね。30代後半以上で、ひととおり美味しいものを食べてきた人たちに、「近くにこういうお店があるんだ~良いね!」と思ってもらえたら嬉しいです。この店にジャンルが異なる人々が集まって、でも皆が同じ食事を楽しんでいる……そんな景色って良いと思いませんか?お客さん同士の交流や、新たな出会いがあるかもしれませんしね(笑)。
――最後に、これからの目標をおしえてください。
まずは、この店を大事に大事に育てていきたいです。お客さんにも育ててもらえるような、愛されるお店にしたいですね。私自身の目標は、このお店もやりつつ、ゆくゆくは商品のプロデュース、他のシェフや食品メーカーとのコラボレーションなどもやって、料理人としての幅を広げて行くことです。
このエリアは、うちだけでなく、K5やパティスリーなどこれからオープンするお店が控えています。個性があるお店がどんどん増えて、この街を楽しむために色んな人が来てくれたら、すごく良い街になるんじゃないかな。もともと私も、それができそうな気がして「兜町でやってみたい!」と思ったので。私ひとりでは無理だけど、色んな人の力が合わさればできると思っています。
「Neki」のシェフ、西さんにお話をうかがいました。いかがでしたか?西さんの表情と言葉からはとてもポジティブなオーラが出ていて、出店とこの街にワクワクしていることが伝わってきました。皆さんもぜひ、店名の由来のとおり“ご近所感覚”で訪ねてみてくださいね。西さん、開店前のお忙しい時期にありがとうございました!
西恭平(Kyohei Nishi)
1983年、京都生まれ。京都のホテル・レストラン・ビストロで約6年間修業後に渡仏し、
アルザス地方のオーベルジュで研修をする。帰国後、「キュイジーヌ[s]ミッシェル・トロワグロ」を経て、2014年に『ミシュランガイド東京』で4年連続ビブグルマンを獲得している名店「ビストロロジウラ」へ。2016年にシェフ就任、2020年2月に退任。2020年5月末、日本橋兜町に「Neki」をオープン。趣味は音楽で、休日はレコード屋に通う。
Neki(5月末オープン)
住所:東京都中央区日本橋兜町8-1 1F
TEL:03‐6231‐1988
営業時間:11:00~15:00/18:00~23:00
※新型コロナウィルスの影響で、5月末から当面は変則的になります。自粛期間は、店内飲食は完全予約制、テイクアウトメニューも実施予定。最新情報や詳細はSNSでチェックしてください。
席数:28席
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西さんのご友人、パティスリー「ease」大山恵介さんのインタビューはこちら
(ライター:安藤小百合 )
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