2022.12.23

ジャズから生まれるイノベーションとは?「Jazz EMP@Tokyo Financial Street 2022」が開催されました

こんにちは!

兜LIVE!編集部です。


2022年12月4日、兜町にある東京証券取引所「東証Arrows」にて、「Jazz EMP@Tokyo Financial Street 2022」が開催されました。昨年に続き、今回もオンラインでの開催となりましたが、トークセッションもライブも熱く盛り上がりました。そんな熱気に包まれた会場の様子をレポートします。


Jazz EMP@Tokyo Financial Street 2022チラシ


◆「Jazz EMP@ Tokyo Financial Street」とは?

今回の開催で5回目を迎えた「Jazz EMP」は、日本経済の中心都市である兜町で行われるジャズライブイベント。EMPというのは「Emerging Musicians Program」の頭文字からとった言葉で、世界で活躍できる実力を持ちながらも十分には認知されていない若手ジャズミュージシャンを、多くの人に知ってもらうことを大きな目的としています。例年12月の開催で、5年間に渡って続けられており、少しずつその知名度を上げていっているイベントです。



なお、演奏が行われているのは、東京の金融のランドマークといえる東京証券取引所。金融業界に興味がある方はもちろん、ニュース等でほとんどの方が目にしたことがあることでしょう。もし名前だけではピンとこないとしても、円形の電光掲示板は見覚えがあるのではないでしょうか。普段は個別銘柄の株価等が表示されますが、この日は特別仕様となり、ミュージシャンの名前がここに表示されるのです。これには出演された方々からも喜びの声が上がっていました。



そもそも金融とジャズがどう結びつくのか、という疑問を持つ方も多いことでしょう。このイベントが企画されたきっかけは、実行委員⻑を務めている有友圭一さんの海外での経験に基づくもの。それが「活気のある金融都市は、芸術活動が盛んであり、音楽が街に満ち溢れている」という気づきでした。


東京の中心的金融街である兜町・茅場町は、近年賑やかさを取り戻しつつあり、今後は音楽や芸術活動もより盛り上がっていく場所となるのでは……?今回はそんなことも感じさせるイベントとなりました。


◆トークセッション1「音楽教育から考える日本の未来〜『音大崩壊』に込めたメッセージ〜」


最初に行われたのは、「音楽教育から考える日本の未来」をテーマとしたトークセッションです。イベントの総合司会を務める鈴木ともみキャスターの紹介が入り、スタジオでの対談が始まりました。今回対談を行ってくれたのは、みずほ銀行支店⻑などを歴任後に名古屋芸術大学教授として活躍している大内孝夫さんと、「(一社)国際資産運用センター推進機構 (JIAM) 事務局」を務める東海林美咲さん。



東海林さんは、2018年よりJazz EMP実行委員会に参画し、 企画や運営にも携わっています。大内さんは『「音大卒」は武器になる』(ヤマハMM)や、『「ピアノ習ってます」は武器になる』(音楽之友社)など、音楽に関する多数の著書を出版されており、今回のトークセッションは『音大崩壊』 などの著書の内容を中心とした対談となりました。



最初に紹介されたのは、金融業界から教育の現場に転職をされた大内さんならではの視点から綴られた、音大卒の方が社会で活躍していくためのアドバイスが詰まっている『「音大卒」は武器になる』や『「音大卒」の戦い方』という書籍に込めた思いについて。

大学で進路相談を受けている中で大内さんが気づいたのは、音大生とはいっても自由に就職について間口を広く考えてもいいということ。次のように語ってくれました。


「音大では、音楽で生きていかなければいけない、音楽関連の仕事に就くことが当たり前、といった考え方が少なからずあります。そういった意識は学生の中にあるだけでなく、大学側がそう思っていることも少なくないのが現状です。ですが、音大に入ったから音楽をやらなくちゃいけない、なんてことはありません。音楽を必死でがんばっても、もしダメだったら違う道もあるんです。堂々と就職していい。そういうことを伝えたいと思って書いたのがこの書籍となります。また、将来的に直接音楽の仕事をしなかったとしても、現在がんばっていることは素晴らしいことだ。そんな想いを伝えたくて書籍を出すことにしたんです」

実際に大内さんの周りには、一般企業に入って活躍している音大卒の方々も多いとのこと。銀行に就職して着々と昇進している方、商社マンとしてガーナで活躍している方、などなど、生活の充実っぷりを聞く機会も少なくないそうです。



そして、話は今年出版された大内さんの著書『音大崩壊』の内容へ。

「音大生はとてもがんばっているのに、音大は学生の期待に応えられていないのではないか?という問題意識がずっとありました。カリキュラムを見ても、演奏自体を教えることはできていますが、音大での学びをどう将来的に役立てるのか、といったことについてはほぼ触れられません。例えば、音楽教室の先生になる時に必要な指導方法はカリキュラムには入っていない、といったことも問題のひとつです」


他にも、クラシックしか音楽として認めない、といった先生がいることなど、音大の持つ問題について言及されました。では、音大が今後やるべきこととは?と話題が次に進み、大内さんが考える音大の今後の課題を教えてくれました。


「まずは連携することが大事ですね。音大同士が争っている構図がよく見られますが、その状況では、どんどん音大生の数が減ってきているんですよね。音楽業界全体のことを考えれば、音大同士が連携して音楽に興味を持つ人を増やす施策をしていかなければと思っています。また、大学によっては楽器店との関係がよくないこともあります。大学側が買ってやってるといった思考では、やはり良い連携を築くのは難しいでしょう」


東海林さんからは、「音大は不要といった話もありますが、音大は本当に必要なのでしょうか?」という厳しい質問も出ました。それに対しても、大内さんの答えは明確です。




「音大や音楽教育こそ、これからの日本に必要だと思います。この表を見てもらうとわかりますが、2050年には日本のGDPは世界各国と比較して、伸び悩むことが予想されています。その中で大事なのが、音楽を始めとする芸術活動などの文化面の充実です。実は、大人にアンケートをとると、3人に1人は楽器をやってみたいと答えているんですよね。その指導を行える人材の供給源としても音大は必要ですし、なくしてはいけないというのが私の考えです。3人に1人と考えると、単純計算しても市場規模はとても大きく、音楽業界というのは、とてつもない可能性を秘めていると言えます。


とはいえ、音楽の魅力を一般の方々にしっかり発信できているかというと、そうではありません。例えば、運動は体にいいというのはすでに一般常識となりつつあり、町中にスポーツジムがありますが、昔はそうではありませんでした。同じように音楽も、吹奏楽器は呼吸器の活性化につながりますし、ピアノを弾くことは脳に良いとも言われています。そういったところから音楽の魅力を発信していかなければと思っています」



最後には、音楽のイノベーションについての話も出てきました。音楽ほどさまざまな科目と結びついている科目はなく、音楽を学ぶことはイノベーションを生み出すきっかけになるとのこと。

「今の日本の教育は画一的で、それぞれの個性や強みを伸ばすのが難しい社会になっています。すでにお伝えしたように、今後は日本が経済大国ではなくなるという前提で考えなければいけませんが、その中では音楽を始めとする文化面の教育はより重要になってくるでしょう。音楽教育を起点とした文化国家としての再構築や、次世代を担う個性を発揮できる人材育成という面からも、音楽を含めた教育改革が今後の日本が抱える大きな課題だと考えています」
と締めくくってくれました。


◆いよいよライブが開幕!小池都知事からのメッセージも届けられました


トークセッションが終了し、いよいよライブの始まりです。開会の挨拶が実行委員会副委員長の東海林正賢さんより行われましたが、その前に小池百合子東京都知事からの言葉も届けられました。

「国際金融ハブの地位を確立するには、文化芸術面でのアピールが欠かせません。才能溢れるアーティストを育て、東京文化の多様性を高めていきましょう。素敵なジャズをお楽しみください」



さらに、東海林さんの熱い挨拶が続きます。

「イノベーションにはジャズが必要だ!という私たちの考えにもご賛同をいただけるようになってきていて、SNSでの反響もいただいています。今まさにイノベーションが求められている日本。兜町でジャズが流れることで新しいイノベーションが生み出される、そして成功モデルケースとなり、いずれは日本中でジャズが流れて日本がイノベーションを生み出す国になっていけばと本気で思っています」


◆トップバッターは熱風をもたらす「mawsim」


トップバッターとして登場したのは「mawsim(マウシム)」の4名。緩やかで静かなピアノ・ベース・ドラムのコンビネーションから始まり、そこにサックスの伸びやかで力強い音が加わります。一気に金融の街に音楽が降ってきたような感覚で、その世界観に引き込まれました。バンドのリーダーを務めるサックス奏者の加納奈実さんを、3名がどっしりと支えているようにも見えます。2・3・4曲目と会場の熱がどんどん上がっていくような構成で、最後まで力強い演奏が続きました。



バンド名の「mawsim」というのは、モンスーン(季節風)の語源となった言葉で「風を吹かせるバンド」といった意味合いで付けられたそう。その名前通り、トップバッターとしてこのイベントを熱風で暖めてくれました。演奏後には、「2022年は私たちにとって再スタートの年となりました。来年はツアーや音源作りで熱い音を届けていきたいです」と締めくくってくれました。


◆「壷阪健登トリオ」の掛け合いは見応え抜群


2組目は「壷阪健登(つぼさかけんと)トリオ」の3名が登場。演奏開始直後から、軽快な旋律が鳴り響き、3名が踊り出したような始まりでした。その後も笑顔やアイコンタクトの多さが目立ち、全員が自由に演奏を楽しんでいることが強く伝わってきました。1曲目を終えた後にはバンドや演奏曲の説明を少ししてくださいましたが、その中で驚きだったのは「このバンドでは、楽譜は1枚だけでやることが多い」と言われていたこと。つまり、ほとんどアドリブでの演奏ということです。



2曲目以降も同じようなスタイルで、時に激しく、時に暗く重い雰囲気で、音を使っての3名の掛け合いは見応え抜群でした。また、場面転換を感じる箇所も多く、曲を聴き終えた後は一つの小説を読み終わったような不思議な感覚がありました。


◆トークセッション2「ジャズのグローバリゼーション」


ここで2つ目のトークセッションとなります。「ジャズのグローバリゼーション」をトークテーマに、国際ジャズフェスティバル「東京JAZZ」を手がけた八島敦子さんから、自身が世界で活躍するサックスプレーヤーであり、「 (株)JAZZ SUMMIT TOKYO」の代表取締役も務める中山拓海さんがオペレーターとして話を聞く形で進められました。

なお、「東京JAZZ」はアジア最大級のジャズイベントで、「国境を越えて、世代を超えて」をテーマに企画の立案、出演交渉とキュレーションを行う立場で活躍されたのが八島さん。中山さんも、プレーヤーとして聞きたい話がたくさんある、というところからセッションがスタートしました。



イベントを始めた当初こそ、世界的ジャズピアニストであるハービー・ハンコックさんを総合プロデューサーとして企画を進めていた「東京JAZZ」でしたが、5年目からは八島さんが引き継ぐ形となりました。その中で、アメリカ・キューバなどのジャズがメジャーな国だけでなく、オーストラリアやイスラエルなど、世界各国に素晴らしいジャズ文化があることを知ったそうです。


そのため、今回のトークテーマは「ジャズのグローバリゼーション」ではあるものの、「ジャズはそもそもグローバルだし、ダイバーシティの中にある音楽」というのが八島さんの考えだそう。

「ジャズが生まれた19世紀のニューオーリンズのことを書いた文献などを読んで、当時のことを想像すると本当に楽しい気分になるんです。そこには、ありとあらゆる人種の人がそれぞれの民族衣装をまとって暮らしている。貿易港だからフルーツなどの世界中のものも集まっている。そんな、まさにグローバルな土地のダイバーシティの中でジャズは誕生して世界に広がっていったんです。なので、元からジャズはグローバルな音楽なんですよね。


これからは、そんなジャズという音楽が世界に広がった後にそれぞれの国の文化と融合した"その国のジャズ文化"を再発信していくタイミングだと思っています。日本でも戦時中は敵国の音楽と呼ばれたり、戦後にはジャズ喫茶が人気になったりして発展してきた"日本のジャズ文化"と呼べるものがあります。そんな日本のジャズ文化を発信していく際には、中山さんのような若い世代の活躍が重要になってきます。ぜひ今後も世界の舞台で活躍してほしいと思っています」



それに対し、中山さんも「まずは自分の音楽を磨いていかなければと感じました。がんばります!」と答えられていました。

セッションの最後には、八島さんの究極の目標は「音楽を通じた世界平和」といったお話も。「日本と世界を音楽と文化を通じて結ぶ」ことを長年の夢としながら世界中を駆け巡る八島さんの熱い想いを感じられたトークとなりました。


◆Jazz EMP初の女性だけのトリオ「みたり」


トークセッション後には、ライブも後半戦に突入です。まず登場したのは、同世代の女性3名で2021年に結成された「みたり」。個性的な演奏が光った「壷阪健登トリオ」のパフォーマンスとは打って変わって、3名のハーモニーが美しく、一緒に共通の世界観を見せてくれているといった印象を受けました。


名前の「みたり」というのは、「3人」を意味しているとのことで、その理由が曲を聞くだけですんなり理解できるような、そんなパフォーマンスでした。また、楽器に加えて歌声や言葉も「みたり」の大きな魅力のひとつ。3名で創りだす柔らかな世界観を、優しくこちらに触れさせてくれるような、そんな居心地の良さを感じる時間でした。


◆「治田七海カルテット」は4人でひとつの音楽を届けます


次に登場したのが「治田七海(はるたななみ)カルテット」。ピアノ・ベース・ドラムの3名は、ピアノトリオとしての活動もしていて、そこにトロンボーン奏者の治田さんが加わったカルテットです。2020年に結成したため、コロナ禍の感染防止対策によって演奏ができないことも多々ありましたが、定期的な活動を続けており、現在も新宿のライブハウスや渋谷のジャズバーで活躍しています。


その継続的な活動で培われた4人の音楽は落ち着きをまとっていて、聴いているだけで心が穏やかになるように思えました。個性を尊重しつつも、4人でひとつの音楽を届けるという意識を持っていることが演奏を通して伝わってきました。


◆「池田篤 quartet with 原朋直」のフィナーレでジャズの真骨頂を堪能


フィナーレの舞台には「池田篤 quartet」が登場。今回は、国内外のジャズシーンで活躍を続ける原朋直さんも参加し、特別なクインテット構成での演奏となりました。開始後に、一瞬で会場全体を巻き込むような安定感のある演奏は、さすがは経験豊富なバンドと思わず見とれてしまいました。



さらに驚いたのは、1曲目の始めから見慣れない楽器を演奏に組み込んでいること。珍しい音が聞こえるなと思ったら、いくつもの楽器が見事に使いこなされ、音のショーを楽しむ時間に。



最終曲では、トークセッションでオペレーターを務めてくれた中山さんと、これまでに出演した4組のミュージシャンもステージに登場!代わる代わる演奏者が入れ替わっていくスタイルで、その瞬間にしかないコラボレーションを見ることができました。これこそジャズの真骨頂である、即興の魅力。「音を楽しむ」と書いて「音楽」。その意味を再認識させられるような最高の盛り上がりとなり、熱気を帯びたままイベントは幕を閉じました。


◆まとめ


金融とジャズという、一見無関係と思えるような組み合わせですが、すでに「Jazz EMP」も5回目を迎え、知名度が上がってきています。会場にて生ライブを見せてもらった身としては、この場所でジャズイベントを行う意味を、多少なりとも理解できたと思っています。


小難しい話は無しにしても、聴く人が、そして演奏しているミュージシャンたちが楽しんでいた当イベント。今後は気軽にジャズを耳にする場所として兜町・茅場町が進化していく未来がぼんやりと見え、ワクワクが止まらない一日となりました。


イベントの映像はYouTubeで観ることができるので、ぜひチェックしてみてくださいね。

ストックボイス JAZZ EMP@Tokyo Financial Street 2022 見逃し視聴


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